モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

【ネタバレ】映画「海よりもまだ深く」感想と解説 みんなどこかで壊れた人生を送ってる。

海よりもまだ深く 

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是枝監督の作品は決まって家族のお話ですね。むしろそれが見たいんですけど。

タイトルから予想するに、海より深い愛情をテーマにしたお話なのでしょうか?

 今回はビシっとカンヌ国際映画祭に公開日をあわせてきましたね。しかも、今回はコンペディション作品でなくある視点部門での出品。星取表チェックしなくては。

こういう日本映画こそ話題になってほしいなぁ。

というわけで、早速見てきました。

 

 

 

 

 

あらすじ

笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多(阿部寛)15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、今は探偵事務所に勤めているが、周囲にも自分にも 「小説のための取材」だと言い訳している。

元妻の響子(真木よう子)には愛想をつかされ、息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。

そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子(樹木希林)だ。ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。

こうして、偶然取り戻した、一夜限りの家族の時間が始まるが・・・。(HPより抜粋)


映画『海よりもまだ深く』予告編

 

 

 

 

 

 

 

 

監督・キャスト

監督は、世界の名だたる映画祭で高い評価を受けまくっており、まさに日本を代表するお方、是枝裕和

 

今日本の監督で人物と風景を最大限に描写する監督ってこの人以外いないんじゃないか、そう断言してもいいくらい貴重な存在だと思います。

 

番組制作会社に入りドキュメンタリー番組の演出などを経て、95年に一人の女性の「生と死」「喪失と再生」を描いた「幻の光」で監督デビュー。

その後、母が失踪し置き去りにされた子供たちを描いた「誰も知らない」では若干14歳にして主演の柳楽優弥カンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞する快挙で話題を呼び、

一昨年は福山雅治を主演に迎え、ある日突然、6年間育てた息子が病院で取り違えられた他人の子であると知らされた2組の対照的な家族の、葛藤と決断の中で大切なものに気づかされていくヒューマンドラマ「そして父になる」でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。

そして去年、父の愛人の子と暮らすことになった4人姉妹の成長と絆を四季を通して描いた「海街diary」では日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀作品賞を受賞し去年の日本映画界を象徴する作品となりました。

 

 

受賞後のスピーチでは、。「この会場に呼んでもらえるようになってまだ2年。ずっと他人事だと思って、テレビで観ながら言いたい放題に悪口を言っていました」と開口一番に毒のある発言をしたり、日本アカデミー賞をもっとオープンにして改革するべきだと訴えるなど、誰もが言えなかったことを口にしたことでも大きな話題になりました。

いや、まさにそうです。配給会社の持ち回りと言われてしまっている、ん?実際にそうに違いない内輪ノリの賞なんかじゃなく、もっと権威ある賞になってほしいものです。

 

 

 

 

 

 

 

主演のダメな中年男・良多を演じるのは阿部寛。

 

是枝監督作品ではもう常連だな、と思いながらも、気づけばローマ人になって風呂作ったり、エベレスト登ったり、テレビじゃバルブバルブ!!ヘルプ!!とロケットの部品に命賭けたり。相変わらず年齢を増すごとに情熱あるセリフと演技が円熟していくアベちゃんであります。

 そんな是枝組常連の阿部ちゃんの役名が今回と、「歩いても歩いても」とTVドラマ「ゴーイング マイ ホーム」と同じ「良多」という名前なんだとか。何か意味でもあるのでしょうか。

 

 

下町ロケット -ディレクターズカット版- DVD-BOX

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 映画で彼を見るのがテルマエロマエ以来なので、そっちよりも薦めるならこっちだろ、と。

半沢直樹の大ヒット以降、池井戸潤原作ってだけでみんな食いついちゃう世の中ではありますが、それだけじゃなくて、このTBSのスタッフが演出する「一点の曇りもないクソ真面目な演技で魅せる大逆転劇」を日曜の夜に見るから意味があるんだと思って楽しく見ていました。

相変わらず銀行を絡めた話の中で弱者が強者に勝つという図式に、航平率いる工場の人間たちの足掻いてもがいて苦しんでそして困難に打ち勝つ姿がなんとも頼もしく。

阿部ちゃんがほおばる大福があまりにも美味そうで、大福食べる癖がついちゃいました。

 

 

 

 

元妻・響子を演じるのは真木よう子。

 

この人がどうやって女優としての地位を確立することができたのか。それは良い脱ぎっぷりとカッコいい女を、持ち前のナイスバディとロートーンすぎる声で堂々と演じてきたからだと思います。でも、セリフの言い回しは上手いと思ったことはないなぁ。

たぶんこの方、セリフがたくさんある作品よりも動きやしぐさの方が多い作品の方が好きなのかな、と。

 

 

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他にも。母・淑子役には是枝作品にはこれで5作連続となる樹木希林、良多の姉・千奈津役に今作で是枝作品初参加(意外!)の小林聡美、良多の部下・町田健斗役に池松壮亮、良多の勤務先の所長・山辺康一郎役にリリー・フランキー、淑子の音楽の先生・仁井田満役に橋爪功とおなじみのメンツから意外な初参加組が混ざったキャストが脇を固めています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、なりたいものになれなかった大人たちがどんな一夜を過ごすのか。

これより鑑賞後の感想でっす!

 

 

 

 

 

 

 

ほのかな笑いと静かな涙を誘う、ゆっくりと心を掴む作品

以下、核心に触れずネタバレします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ものすごく狭い世界の話

なりたい大人に、なれなかった人たちへ
こんなキャッチコピーを寄せて我々に届いた監督からの贈り物。
箱の中身は、漠然としたものではないけど私たちの誰もが当てはまる部分が詰まっており、人生の教訓ともいえる言葉がちりばめられていました。
 
今作は、家族をテーマに掲げる監督作の中で一番身近に感じることができる作品だったと思います。
なんせ私自身が阿部寛演じる良多にひどく重なる部分が多く、その情けなさに、ろくでなしっぶりに目を伏せたくなるほど。
そんなボンクラ息子を優しく包む母の愛情に心を完全に持ってかれました。
 
そんな息子と母を中心に、どこの町にもいる家族のごくありふれた物語をものすごく自然にものすごく緩やかに描かれていました。
 
普段の生活にドラマチックなど存在しないし1日で大きく変わるわけでもない。だけど、そんな日常をきちんと起承転結で書き上げた脚本と、
他の映画では、ん?と感じることがあるのにすごく自然体で演じた役者陣、特に阿部ちゃんはホントしみったれたろくでなしを見事にこなし、真木よう子は表情ひとつひとつが冷ややかでうまく、樹木希林の会話のやりとりやセリフ回し、うっすら浮かべる涙が神がかっていて、
それを演出し、まとめ作り上げた監督が、「海街diary」の撮影の合間に撮影して作ったというのにも驚きだし、これだけのものを完成させたのがホントすごいなぁと。
 
 
 

なりたいものになれなかった大人たちの心情

小説家になる夢を未だ捨てきれず、本職の探偵業を小説のネタだと豪語する良多。
その見栄っ張りな性格は母親の前でもお小遣いを渡すというシーンや、
息子の慎悟に三流メーカーでなく、一流メーカーのミズノのスパイクを買ってあげたり、
昼食をマックでなくモスバーガーでとったりと随所に見られます。
 
そんな人前で見栄を張る傍らで、実家で金目のものを探したり、後輩や姉に金をせびるという情けない部分も。
これも、良き父親でいたい、良き息子でいたいという表れなのか、
うだつの上がらない主人公の性格が行動や些細なセリフでうまく描写されています。
 
実はなりたい大人になれなかった良多は、同時になりたくない大人になってしまったという意味も込められており、
人から金を借りまくり見栄っ張りだった父親のようになるまいと小さい頃から思っていたにもかかわらず、そんな大人になってしまっているのが面白い構図で。
やはり血は争えないのかなと感じました。
息子の慎悟も同様に父のようになりたくないと思っているのもまた面白いなぁと。
 
 
良多の姉も腹黒な部分が感じ取られました。
実家に遊びに来ては母親に翌日の子供達のお弁当のおかずにと煮物を作らせたり、年金を娘のフィギュアスケートの受講料にあてさせたりと母親をうまく丸め込めているのが見られます。
弟の良多は、きっと姉のしたたかな性格をわかっていたのでしょう。そんなやりとりがまた家族の一部分を切り取ってみているようで非常に面白かったです。
 
おそらく姉はフィギュアスケーターになりたかったけどなれなかったのだと思います。その理由として、セリフで弟がバイオリン教室に通っていたことを口にして、何も残らなかったことを愚痴っていましたが、
弟にはそんなモノになるかわからない習い事をしてた癖に、自分はやりたい習い事に通わせてもらえなかったのではないでしょうか。きっと姉であるが故に我慢をさせられていたからなんだろうな、と。
それで娘にはやりたいことをさせてあげたいと母親の年金をあてにしたのかな、と。
すごく勝手な推測ですけどね。
 
 
 
良多の元妻の響子もなりたい大人になれなかった1人です。
きっと良多と慎悟と3人で幸せな家庭を築きたかったのでしょう。
だがそれは叶わず、離婚し別の男性と交際し、その彼と新しい家庭を築こうと考えているのが見られます。
こんなはずじゃなかった
このセリフが彼女のすべてを物語ってます。
 
 
 
そして、樹木希林演じる母親もなりたい大人になれなかった、けど彼女はそれを乗り越えて今を生きているように感じました。
団地という狭い集合住宅からすぐ近くに構えている分譲マンションに憧れていたり、元のさやに戻って欲しい息子夫婦の仲を取り持ったりと、想いが随所に現れていますが、
幸せは、何かを諦めなければつかめない
と放つセリフからとれるように、諦めた先の幸せを感じながら生きているんだろうなぁと感じました。
 
 
息子の慎悟も野球でホームランでなくフォアボールを狙っている部分で、大きく一発当てるようなホームランを狙っている人生を未だに送っている父親を反面教師にし、どんな形でも着々と一歩前へと進むフォアボールのような人生を選択しようとしている様が見て感じ取れます。
しかも、夢が野球選手でなく公務員というのもその表れになってます。
正直堅実すぎてかわいくないですけど!w
 
 

グサッと刺さる人生の教訓のようなセリフ

ごくありふれた日常と描いてるからといってダラダラした映画では決してなく、なんでもない会話の一部に、人生の教訓とも感じられるセリフが多々ありました。
 
 
  • 男はフラれた女の未来に嫉妬する
良多は、ストーカーの如く元妻の1日を尾行しています。新しい彼氏をひどく妬んでおり、挙げ句の果てには元妻に寝たのかどうか聞くというアホな一面を見せるほどww
 
  • 愛ってのは無くしてから気付くものなのよ
家庭を顧みなかった良多は、息子を使って復縁を企んでは元妻に父親ごっこはもうやめろと罵られ、なんでもっと父親らしいことを別れる前に出来なかったの?と問われます。
そんな良多に母親が放つ一言なんですが、
良多は、いや、男はきっと失ってみないと気づかない生き物なんだと思います。
ホント男はバカな生き物ですw
 
 
  • 水彩画か油絵かで言えば、女は油絵。次の人ができたら、上から重ねてどんどん下は薄くなっていく。でも、データの上書きじゃない。ちゃんとここに残ってる。
中村ゆりが演じる良多の同僚女性が放つ一言。
元妻の心変わりの早さに、女って新しい人ができると簡単に忘れちゃうんだよな、と嘆くと言い返すわけですが、
確かに男は、別れた女に対して諦めが悪く次のステップになかなか踏み込めない後悔ばかりな生き物で、
女はこういう時に切り替えの早い、次のステップにさっさと踏み込んでいくイメージを持っていました。
やはりそこはかさぶたが剥がれたら過去の辛い部分が残っていてヒリヒリと痛いんだろうなぁと。
案外このセリフが一番グサッと刺さった気がします。
 
 
  • 花も実もなかなかつかない。でも、青虫がくっついて葉を食べている。こんなミカンの木でも何かの役には立ってる
ベランダで育てているミカンの木。大きくなったはいいもののなかなか花も咲かなければ実もつかない。
大器晩成型だからと言い張る良多に、ミカンの木を例えに励ましの一言なのか、ボソッとつぶやく母親。
これも母親の息子に対する愛情が垣間見れる一言でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
だいぶ書いてしまった気もしますが、、特に壊れものだったり宝くじだったりとメタ的な部分が多々あり見所はたくさんあります。台風の夜に何が彼らを変えたのか。何に気づいたのか。どうかそれを拾って読み取ってみて下さい。
 
これぞ是枝作品と言えるほのぼのとした日常を切り取った、ある家族の小さな小さな一歩が描かれていると思います。
 
劇中で作っていた煮物のようにこの作品も一晩寝かせた方が味が染みて美味しくなる、何年かした後見たらより一層いい作品になってる映画だと思います
 
 

満足度 ☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10