エル/ELLE
アカデミー賞主演女優賞にノミネートしたイザベル・ユペールの作品です。
授賞式でもさほどの興味のなかった作品でしたが、観てみたい!という欲求を一番駆り立てたのは、本作を手掛けたのがポール・ヴァーホーヴェン監督ということ。
え?あの人こういうの作るの???と。
もう恥ずかしながら、彼は一時期の大作SF映画しか作ってない人だとばかり思ってたので・・・勉強不足でしたw
というわけで、早速鑑賞してまいりました。
作品情報
自宅で覆面の男に襲われた女性が、自分の回り全てを疑い始めていくが、やがて彼女の本性があぶりだされていくサスペンス映画。
様々なドラマを生んだ本年度の賞レースで、ひときわ異彩を放ちながら数々の賞を受賞し、フランス映画にしてアカデミー主演女優賞にノミネートも果たした話題作がついに公開。
監督、女優、原作者の刺激的でアブノーマルな才能がぶつかりあった、世界初の気品溢れる変態ムービーにして異色のサスペンス映画が誕生した。
あらすじ
新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェル(イザベル・ユペール)は、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。
その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。
自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。
父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。
だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった──。(HPより抜粋)
監督
監督はポール・ヴァーホーヴェン。
冒頭でも書きましたが、この方といえば「ロボコップ」であり、「トータル・リコール」であり、「スターシップ・トゥルーパーズ」であり、これだけ並べたら、過去にSF映画で一世を風靡した監督って勘違いしちゃうのもわかるっしょ?
でもですね、元々はオランダの方でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したことでハリウッド映画界へ進出したんだそう。
SF作品だけではなく戦争もの、恋愛もの、サスペンスもの、そのどれもがエロティックで変態チックな、いわゆるヴァーホーヴェン節が効いた作品として、いろんなジャンルの作品を手掛けていたんですねぇ。
そんな監督の代表作を簡単にご紹介。
やはり監督を語る上ではずせないのは、殉職した警官がサイボーグとなってよみがえり犯罪地帯に挑むSFアクション「ロボコップ」。リメイクもあわせ全4作作られるほど人気のシリーズですが、監督はこの作品のみ手掛けています。
本編と関係ないニュース映像でのブラックユーモアや暴力描写など、監督のこだわりと変態さが随所に見て取れる、今見返しても面白い作品です。
あと今作を鑑賞した後見比べてみても面白そうなのが、エロティック・スリラーの代表作「氷の微笑」。
殺人事件の容疑者になった女性作家を捜査していくうちに、徐々に彼女に惹かれていく刑事の末路を描いた作品で、まぁあれですよ、主演のシャロン・ストーンのエロさあっての映画です。
だいぶ前に見てはいましたが、まさかヴァーホーヴェン監督だなんて気づきもしませんでした。
他にもたくさんありますが、とりあえずこの2本を是非。
キャスト
主人公ミシェルを演じるのはイザベル・ユペール。
ほんとヨーロッパの俳優さん知らなくて、映画はアメリカだけじゃないんだなと、とりあえずバカみたいなこと言っておきます。
さてさて、知らなかったらどんな女優か調べるのがモンキー的映画のススメ。
イザベルはフランスの至宝とも呼ばれるほど国を代表する女優さんだそうで、フランス版アカデミー賞でるセザール賞に14回もノミネートするほどの評価ぶり。
世界的に評価されたのは、普通ではない性的嗜好を持つ中年女性と、そうとは知らずに近づいてきた青年の一途な恋に戸惑い、すれ違いながらも激しく切なく愛を紡いだ「ピアニスト」。
その後も、フランスを代表する新旧8人の大女優たちが織り成す、絢爛豪華にしてミュージカル仕立てのミステリー「8人の女たち」や、老いと死をテーマに、一組の夫婦の人生の最終章を描いた感動作「愛、アムール」では「ピアニスト」に続き、ミヒャエル・ハネケ監督作品に出演。
近年は、公私ともに充実な日々を送っっているヒロインが、突然訪れた孤独の日々に戸惑いつつも、現実を受け止め生きていく姿を描いた「未来よ こんにちは」など、出る作品出る作品賞レースで評価される、映画史に刻まれる女優さんの一人であります。
他のキャストはこんな感じ。
ミシェルの自宅の近くに住んでいる銀行員パトリック役に、本作でセザール賞助演男優賞にノミネートしたロラン・ラフィット。
ミシェルのビジネスパートナーであり親友のアンナ役に、「潜水服は蝶の夢を見る」のアンヌ・コンシニ。
ミシェルの元夫リシャール役に、フランス映画界に欠かせない存在であり、イザベルと何度も共演経験のあるシャルル・ベルリング。
熱心なカトリック教徒でパトリックの妻レベッカ役に、「おとなの恋の測り方」のヴィルジニー・エフィラ。
ミシェルの息子ヴァンサン役に、リュック・ベッソン監督最新作にも出演しているジョナ・ブロケ。
既婚者にもかかわらず、ミシェルと肉体関係を持つロベール役に、「es」のクリスチャン・ベルケルなどが出演します。
ヴァーホーヴェン作品何ていつぶりだろう・・・しかもフランス映画なんて!!
いつもとは違った感覚で楽しめそうな作品です。いったいミシェルの本性はどんなものなのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
女って強いし怖い。変態キャラが多数登場の、予想できないサスペンス映画!!
以下、核心に触れずネタバレします。
イザベルユペール、脱ぐ!
閑静な住宅街に住むゲーム会社の女社長。突然自宅で暴行されてしまうが、警察の厄介にはならないと毅然とした態度で振る舞い、自力で犯人を見つけ出そうと画策していく。
彼女を襲った犯人は誰か、そして彼女はなぜ警察に頼らないのか。
何が彼女を変えていくのか。
非常にブラック要素の高いサスペンス映画だったと思います。
レイプされても屈しないどころか、どんどん性に対して欲求を高めていく主人公。
そんな彼女の復讐劇と、そこに至るまでの言動や行動が、なぜか不謹慎と分かっていながら笑ってしまうエピソードの数々。
最初は暴行されて気が狂ってるのかなぁなんて思ってはいましたが、そうではなく、世間体を気にしつつも奔放に生きていただけなのかなと。
恐らく70歳を過ぎた母親が自分よりも相当若い男性と再婚するといえば、高笑いして勘弁してよと言い放ったリ、息子の恋人が子供をを産んでもあなたの子じゃないと言ったり、平気で親友の恋人と浮気をしたり、隣人をパーティーに呼んでテーブルの下で足を股間にあてたり、あることがバレてしまった社員にペニスを見せればクビにしないと脅迫したり、やることなすこと病的かと思うようなものばかり。
他にも、暴行されたのにケロッと割れた食器を片づけたり、過去の事件での嫌がらせを受けても、平然としたり、常にニュートラルな状態というか、なんか心が死んでるような感覚を覚えました。
そんな彼女を演じたイザベルユペールの体を張った演技が素晴らしいです。
もう60を超えているのに、脱いでも全然見ていられる美しさ。
というか、違和感がない。
劇中では、隣人を覗きながら自慰行為にふけたり、無表情でセックスしたり、もちろん身ぐるみはがされて裸体を露わにされたり殴られたり、手で扱いてあげたり(これはカメラ外れてたので実際してないと思いますけど)と、かなり過激で刺激的な演技の数々を難なくやってのけしまう。
やはりフランス人だからなのでしょうか。タフだなぁと。
ざっくり詳細。
オープニングはミシェルが暴行されている姿を、飼っている猫が見ているという場面から始まる。
その後何事もなかったかのように部屋を片付け、普段通りの生活をしていく。
ミシェルには彼女の生活を一変させてしまうような出来事があり、そのせいで警察に行くことを拒んでいた。
ミシェルは、ゲーム会社の社長として親友のアンナと切り盛りしている。
ただ、ゲームの試作段階でプレイヤー目線の注文をせず、芸術的なビジュアル面の追求をするあまり、社員からはあまり好かれていない。
彼女には息子のヴァンサンがいる。
晴れてファーストフード店の社員として働くことで、恋人ジョジーと新居を借りることになる。
が、ミシェルは恋人に対しあまりいい思いを抱いていない。
妊娠してるが本当に息子の子なのかさえ疑っている。
新居を見せてもらう代わりに家賃3か月分を出すことで見せてもらうが、恋人もミシェルもどこか高圧的な態度。
互いが一歩も引かない態度に、ヴァンサンは頭を悩ます。
母親は、自分よりも一回り以上年下の恋人を同棲していた。
自分名義で借りているアパートだし、合鍵も持っているということで、チャイムを鳴らさずに入ると、母親たちはコトを済ませた後のような雰囲気を出していた。
母親はミシェルに服役中の父に会ってほしいと頼む。
現在仮釈放を申請していることもあり、今がその時だと母は言うが、ミシェルは頑なに拒む。
やがて、元夫のリシャールとアンナ、アンナの夫であるロベールと4人で食事をする際、ミシェルはレイプされたことを打ち明ける。
他の3人は警察へ言うよう薦めるが、ミシェルは平気と首を縦に振らない。
とは言いながらも、襲われたトラウマを拭うことは容易ではなかった。
物音がすれば窓の外を覗き、不倫相手のロベールから執拗にセックスを迫られるも、遠回しに拒んだり断ったり、防犯対策として催涙スプレーと小さな斧を購入したり、鍵の交換、就寝中にハンマーを抱えて寝たりと彼女なりの対策はしていた。
レイプ犯と思わしき人物からの非通知電話やメールが増えてくるのにあわせて、車内で開発中のゲーム映像に、ミシェルの顔をはめた猥褻な映像が一斉に社員のPCに送られてきた。
益々自分の近くにいる人物が犯人なのではないかと、疑い深くなるミシェル。
いったい誰の仕業なのか。犯人は身近にいた人物だった・・・。
ちょっと話が前後しますが、中盤まではこんな感じで話が進んでいきます。
変態ばかり。
登場人物のほとんどが変態気質な人ばかりで構成された今作。
ミシェルはもちろんのこと、不倫相手のロベールもなかなかの変態野郎。
いつでもしたくてしょうがなくて、何度も電話で今夜どう?とミシェルにお願いしたり、会社でしようぜとせがんだり、しまいには、ミシェルがする気がなくてもうあなたとは友達同士よ、といってるのに、恐らく相当頼み込んだんでしょうね。
ミシェルはマグロ状態で行為をするという、死体プレイを楽しむ始末。
犯人もまたただの変態野郎でした。
誰か言うとネタバレになるんで伏せますが、要は暴行プレイじゃないとセックスできないという変態野郎だったんですね~。
まぁ何が凄いって、それに快楽を覚えてプレイに応じるミシェルもミシェルですがww
母親も母親です。
はっきり言ってババアです。
にもかかわらず若い男性と肉体関係を再婚するんですから。
愛はいくつになっても求め与えていくものだったりもしますが、やっぱり自分の周りでこういうことになるとちょっと・・・。
フランスだから何とか成立しますが、日本じゃそうはいかない。
俺がミシェルなら1000%反対ですw
最後に
ミシェルは周りの人物をあざ笑う反面、本当の自分を偽って生活してたようにも思えました。
そして暴行されることを機に、歪んだ性癖が開花していくのですが、今まで屈折していた自分に気づき、最後は軽蔑していた母の願いを叶えるため、また過去の自分と決別するため父に会う決心をします。
あれだけ毛嫌いしていた息子の奥さんとも仲睦まじい姿も覗けることから、彼女の中で大きな変化があったことがうかがえます。
他にもある人物は、児童の性的虐待を繰り返していたカトリック教徒たちを知りながらも、隠ぺいしていたローマ法王のメタファーともとれる役割を担っていました。
ここにも暴行に対する描写が隠れていたんですよね。
サスペンスとしてみると味気ないようにも見えますが、非常に実験的なつくりであり、一つではくくれないような作品になっていたと思います。
ワンダーウーマンが美しく強い人物として描かれていたように、本作もまた傷ついても逞しく美しいと訴える女性讃歌になっていたのではないでしょうか。
ラストカットも墓場を歩くミシェルとアンナというのが男なんていなくても、みたいなものを象徴していた気がします。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10