1917 命をかけた伝令
第92回アカデミー賞、撮影賞、録音賞、視覚効果賞受賞!!
最近師匠からお借りしたヒッチコックのBOXをちょこちょこ見てるんです。
これまで「サイコ」と「鳥」と「北北西~」しか見てなかったので(お恥ずかしい・・・)。
さすがサスペンスの神様だけあって、話がのらりくらりしながらも画期的な演出で緊張をもたらすし、金髪美人大好きだし、ちゃっかり自分出てるし、と物語はもちろんのこと、楽しさを発見しながら鑑賞してます。
ただですね…一つ気づいたことがあって。
ヒッチコック立て続けに見ると、パターンというか流れが何となく同じに見えてしまって、ちょっと飽きてしまうなぁと。
そんな中でも僕が面白かったなぁってのが「ロープ」って映画で。
パーティー前に友人殺して、死体を隠したままパーティーを行うことで犯人らが、ドキドキしながらも悦に浸るって中で、一人だけ違和感を得て、ことの真相を暴く、って話なんですけど。
何も事前情報入れずに見たもんだから、最初はふぅ~ん、みたいな感じで見てたんですけど、あれ?これカットないな…ん?んん~!!?みたいな感じでのめりこみまして。
気づけば外の景色も日が落ちてたりとかして、あれ?いつの間に!?みたいな。
お気づきの方もいると思いますが、この映画「ワンカット」で撮影してたんですね。
正確に言えば、人物の背後にカメラを入れて暗くすることでカットをいれてるので(当時は15分くらいしかフィルム回せなかった)、「疑似ワンカット」になります。
これはすごい実験的な映画だなぁ、と。
でも当時はあまり評判が良くなかったらしいですw(僕は好きです)
そんな、ヒッチコックから始まったであろう「ワンカット映画」は、彼に触発されていろんな映画監督が長回しに挑戦し、近年ではエマニュエル・ルベツキが撮影した「バードマン」や「レヴェナント」、「トゥモローワールド」といった作品が技術の進化と共に、よりリアルに、よりワンカットに近づいたわけで、この先「真の」ワンカット映画もそこまで来ているのかもしれません。
今回鑑賞する映画は、そんな「ワンカット」撮影の限界に挑戦した「戦争映画」。
どうやら戦争を「体験」できる凄まじい映像だとか。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
1914年から約4年もかけて行われた人類最初の世界戦争、「第一次世界大戦」。
ドイツ・オーストリアを中心とした同盟国と、イギリス・フランス・ロシアを中心とした協商国の二陣営に分かれて行われたこの戦争は、国の勢力図や歴史を大きく変えた出来事だった。
その真っただ中、西部戦線にて「アルベリッヒ作戦」なるドイツの戦略を阻止するべく、二人の若き兵士が張り巡らされた罠をかいくぐりながらも、決死の任務を遂行していく姿を、全編ワンカット風で撮影を敢行し、観る者に今までにない臨場感と緊張感を与え、彼らの壮絶なミッションをすぐそばで見届けることとなる。
「アメリカン・ビューティー」でアカデミー賞を勝ち取った監督が、再び賞レースを席巻、これからを担う若手俳優とイギリスが誇る名優たちが共演した話題作です。
戦争を知らずに育った僕らは、今作でリアルな戦争を知ることになるであろう。
あらすじ
最大の敵は、時間。
第一次世界大戦真っ只中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)にひとつの重要な任務が命じられる。
それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。
進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄も配属されていたのだ。
戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる―
刻々とタイムリミットが迫る中、2人の危険かつ困難なミッションが始まる・・・。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、サム・メンデス。
「ジャーヘッド」以外は全作鑑賞している監督作品。
今の世代はやっぱり「007 スカイフォール」や「007 スペクター」を真っ先に挙げえると思いますし、僕もスカイフォールは2010年代ベストにも入れたほど大好きです。
でも、それ以上に好きなのは「アメリカン・ビューティー」。
アメリカ中流家庭を皮肉った内容を、サスペンスに比重しないような組み立てで綴ったお話なんですが、これが監督デビュー作でいきなりアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞しちゃうんだからすごい。
やっぱりこの人は構図とかカットとかにこだわって、そこに「美」を追求してる人なのかなと思ってます。
なんてったってクリス・クーパーですよ、ええ。
と、僕のことは置いといて。
今作について監督は、おじいちゃんの体験談が大まかな基になっているそう。
伝令を運ぶ一人の男について聞かせられたそうで、そこから入念なリサーチや史実を漁り、1917年のドイツのヒンデンブルグ線撤退の事実を知ったことで、ようやく一人の男の壮大な旅、という物語を作れたんだそう。
また今作で脚本も手掛けており、グーグルマップで道筋を決めたり、前作「007」シリーズでの経験が彼を勇気づけたとも語っています。
そして撮影に関してですが、今回ロジャー・ディーキンスが起用されたことで、監督が掲げる「人生はワンカットで体験するもの」を映像化させることに成功した模様。
あくまで今作は疑似ワンカットになりますが、どこまでワンカットに見えるのか、物語以上に撮影技法にも注目したいですね。
キャスト
今作の主人公、ウィリアム・スコフィールドを演じるのは、ジョージ・マッケイ。
僕が彼の作品で見てるのは「サンシャイン/歌声が響く街」と「パレードへようこそ」くらいですかね。
イメージとしてはミュージカル映画によく出る人なのかと持ってましたが、「はじまりへの旅」や最近では、「マローボーン家の掟」などに出演されてるよう。
世界的にそこまでの知名度はないと思いますが、だからこそごく普通の兵士という役割を果たせるのかなと思いますし、何より今回の「ワンカット映像」、NGを出せないわけですから、相当なリハと必死の本番をやりぬいたのかなと。
小さいころから演技してきた実績が今作でどう活かされるのか、彼を通じて「体感」したいと思います。
他のキャストはこんな感じ。
スコフィールドと共に伝令を命じられる若き兵士ブレイク役に、「ブレス しあわせの呼吸」、「トレイン・ミッション」のディーン=チャールズ・チャップマン。
スミス大尉役に、「キングスマン」、「キック・アス」のマーク・ストロング。
レスリー中尉役に、TVシリーズ「シャーロック」、「007 スペクター」のアンドリュー・スコット。
ブレイクの兄、ジョセフ中尉役に、TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」、「ロケットマン」のリチャード・マッデン。
エリンモア将軍役に、「英国王のスピーチ」、「マンマミーア!」のコリン・ファース。
マッケンジー大佐役に、「ドクター・ストレンジ」、「エジソンズ・ゲーム」が公開予定のベネディクト・カンバーバッチなど、豪華イギリス人俳優が勢ぞろいします。
2人で過酷な戦線を進んでいくわけですが、ちょっとしたロードムービーにもなってそうで、バディものとしても楽しめそうな予感。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
え~!!
一体どうやって撮影したの!?
・・・ってことしか頭に浮かばない時点で没入感はないよね・・・。
以下、ネタバレします。
確かに革新的映像。
将軍からの命を受け、難攻不落の戦線をさまよいながら伝令を伝える二人の上等兵の勇姿と、行く様々で出くわすアクシデントや命の危機、それによって魂を削がれていく表情に目を奪われると同時に、一体どうやって撮ったのかまるで理解できない撮影アプローチ、果てしない草原の中や廃墟と化した街で繰り広げられる大掛かりなセットや美術、風景、それらをワンカット風撮影にすることで生まれるリアリティに没頭してしまうことうけあいな、戦争体験映画でございました。
配給の公式は「ワンカット撮影」という触れ込みで大々的に宣伝していましたが、正確に言えば、あくまでワンカット風の撮影。
本編では大きく3つカットがありましたが、それ以外にも壁をすり抜ける所や一瞬暗くなる辺りで恐らくカットしたに違いないでしょう。
しかしそれがどうした、と思うくらいどうやって撮影したのか理解に苦しむ凄さ。
狭い壕の中でひしめき合う兵士たちを擦り剥けて歩く姿や、張り巡らされた有刺鉄線を潜り抜けるシーン、破壊され渡れなくなった橋を手すりを伝って渡ろうとするシーン、仕掛け線に触れてしまったせいで崩落してしまう敵のアジトのシーンなど、常にブレイクとスコフフィールドを捉えながら、明らかに道もなければ足場もない場所をいとも簡単に通り抜けて二人を追いかける。
手ぶれがあるわけでもないし、レールが敷かれてたにしても凸凹な道や障害ばかり菜はずなのに、なぜカメラは彼らをしっかり捉えながら撮影できたのか。
作品の感想は正直ドラマ性に欠ける部分が大きく、そこまで面白い映画とは言えない結果になった。
とはいえ、この撮影方法に関しての疑問が、上映中頭から離れることができず、違う意味で映画に没頭してしまった、というのが今作における感想です。
ホントねすごいのよ映像が。
今回IMAXレーザーで鑑賞したんですけど、冒頭から鮮明な映像で始まるし、そこからずっと二人を捉えながらも後ろを歩くエキストラたちの自然な行動、狭い道で最初ブレイクが歩いてたのに、気づけばスコフィールドが前を歩いているし、彼らが背中をむけばカメラをぐるっと回って背中を映す。
最初からもうグッと引き込まれるのは確か。
まだ出発してないのにですよ。
作り込みもすごい。
そこら中に死体や死骸の山。
意を決して戦線のど真ん中を歩く2人に待ち構えるのは、無数のハエがたかった馬の死骸、有刺鉄線に刺さったままの死体。
それを潜り抜ければ作戦のために掘ったであろう大きな穴、泥水の中にはまたもや死体の山。被弾されたことでできた大きな傷に群がるネズミ。爆破で驚いたブレイクにぶつかりその傷の中に手を突っ込んでしまうスコフィールド。
これが戦争の最前線なのか、と目を瞑りたくなる映像がどんどん流れてくるんですね。
撤退したての敵のアジトにたどり着いた後も、洞穴の中にできた兵士たちの寝床の作り込みはリアルですし、ぶら下がった食料にくらいついてるネズミが、天上の柱を伝って別の食糧袋に行きつくまでの行動もどうやって撮影したのか。
ネズミに演技指導できるの??いや無理でしょ?なぜに~?と。
そのネズミのせいで起きてしまった爆破も、一旦無傷のブレイクにカメラが動きますけど、すぐスコフィールドに戻せば瓦礫の中で埋もれているわけで、これカットなしでどうやって準備できたのさ?と目を疑いたくなる映像ばかり。
無事渡れたことを合図する信号弾の発砲も、ちゃんと二人の後ろで光って落ちる画を入れるさりげない演出も光っていて、まだ30分くらいしか経ってないのに全く切れることない撮影に驚きしかありません。
この後もツッコんでくる飛行機、その中に乗ってるパイロットを救出する様、水を汲んでる間に起きる事態、瓦礫の山と化した街でのドイツ兵との熾烈な戦い、辛くも脱出し飛び降りた川の中での必死の逃亡、予告でも流れた戦線を必死で全力疾走するスコフィールドの姿など、瞬きしたらいけないくらいどこも見逃せないような見せ方で、それでいて明らかにそれカットなしで撮るの無理だろ!?みたいなところも多すぎて。
途中でも書きましたが、エマニュエル・ルベツキが撮影した「バードマン」や「レヴェナント」でもその長回し撮影に度肝を抜かれましたが、それと同等の美しさと縦横無尽に動き回る映像、自然な流れ、技術が施されていることは間違いありません。
ここ最近の新作映画は「映画体験」をすることが映画鑑賞における最重要項目のように思えます。
その都度、これは自宅でなく映画館で!という使い古された言葉を言いがちなんですが、今作もまたその使い古された言葉に頼ってしまうほど、映画館で見るべき作品案件です。
そして出来れば高スペックな劇場で見てほしい。
映像も素晴らしいですけど、音も凄まじいボリューム。
爆破音や飛行機が墜落する音、銃声や役者の息遣いに至るまで、すぐそばで聞いているような感覚。
見る者を戦争の最前線へ誘う、というコンセプトに納得できる没入感です。
話が薄いのは残念。
ここまで「一体どうやって撮影したの!?」などの映像の凄さを語りましたが、ここからは物語について。
途中でも書きましたが、単刀直入に言えば、映像にこだわるあまり話がイマイチでした。
地図が読める行動派のブレイク、年上で慎重派のスコフィールド、というキャラ設定を最初に見せることで、この先起きるであろう険しい道のりは、二人がぶつかり合いながらもミッションを遂行すべく選択していく苦悩の連続を予感させるシーンだったんですが、これが全く意味を成していないんですよね。
せっかく対照的な行動を取ろうとする2人なのですから、その掛け合いによって命の危険が伴う戦争という舞台で、一つのミスがどれだけ危険かってのを我々に見せることで怖さを伝えられると思うんですよ。
だから有刺鉄線にぶつかった時もケガしないように回り道するとか、いやいやいい削いでこれ届けなきゃいけないんだから真っ直ぐ行くっしょ!ってことで意見がぶつかっていくことで二人の関係性が浮き彫りになったり、その後の伏線にも繋がるパターンもできるわけで、ある種の冒険譚なのだからそういう要素もドラマとして必要だよなぁと。
でも結局はピンチの時は相手が助けたり、もう帰る!って言い出しても優しく制止するような生ぬるいやり取りしかないんですよね。
死と隣り合わせの状態なんだからもっと激昂したり発狂してもいいと思うんですよね。
実際ドイツは撤退したとか言いながら残党がいたりとピンチが起きるわけで、そういう時に二人がぶつかるような掛け合いがあった方が、生々しいよなぁと。
しかも途中でブレイクがフェードアウトしてしまうという流れ。
予告観てた時も薄々思ってたんですよ。
なぜこの見せ場のようなところにブレイクは映っていないんだろうと。
あ、きっと死ぬんだなって。
酪農をやってそうな家に突っ込んできた飛行機のパイロットを救出し、スコフィールドが井戸から水を汲んで来ようとした途端ブレイクは刺されて死んでしまうんですね。
ここからスコフィールドは、前線にいるマッケンジー大佐に命令を伝えることと、そこで戦っているであろうブレイクの兄に、弟の死を伝えなければならないという2つの「命をかけた伝令」を受けるんですよ。
この時点でもう最初の「行動派、「慎重派」の設定が消えちゃうんですよね。
そんなこと言ってらんないみたいな。
行く先々で見知らぬ兵士や上官、女性などに助けられ、痛みと悲しみを抱えながらも命を全うする姿を見せてくれるんですけど、もうこれなら最初っから一人で良くね?って。
ブレイク途中で消すなら、それを手伝う誰かと出会って、再びそいつが死ぬとかの方が、スコフィールドの必死さが増すんじゃないかなぁって。
いくつもの命を犠牲にしてしまった以上、絶対この指令は届けなくてはいけないという使命感が増えるみたいな。
だから色々もったいないなぁと。
とはいえですよ、しっかり2人の過去とかそれを予期させる演出とか効いてたと思うんですよね。
ブレイクは勲章を欲しがってたけど、スコフィールドはそんなものただのブリキだと。
しかも家に帰りたくない、帰っても何も残らないなどを二人でやり取りするんですよ。
そんなスコフィールドが最後にブレイクの兄に伝えた後、帰る場所があること、そして待っている人がいることの尊さを感じるわけですよ。
こういうのを最後に持ってくるあたりは、特にこれ見よがしなセリフを放り投げることなく、スコフィールドの仕草や表情で伝える方法はこの映画に合ってるなぁと思います。
他にも途中桜の木々を伐採されてるのを見て、ブレイクが嘆くわけです。
そこから淡々と桜の種類とか語り出すわけですよ。母ちゃんが詳しいからとか言って。
もうそのサクラがブレイクの象徴になるんですよね。
で、その後一人になって川に飛び込んで逃げるんですけど、流木に捕まるんですけど体力が尽きてきて溺れそうになるんですよ。
でもそこに桜の花びらが流れてくることで、ブレイクの事を思い出す。
ここで力尽きちゃいけない、彼の死が無駄になる、そして彼の事を兄に伝えなくてはと。
ワンカット風撮影ですからいちいち回想など入れてられないですし、とにかくスコフィールドの表情から読み取らなくちゃいけないわけです。
車の後ろでゆられながら黄昏るスコフィールドのシーンもそうですし、溝にハマってしまって他の兵士がかったるそうに車を押してる中、一人必死で押す彼の表情。
なるべくセリフに頼らずに描くことで、一体今スコフィールドはどんな心境なのだろう、ってのを我々が読み取る面白さが、この映画の醍醐味の一つでもあると思うんです。
実際アカデミー賞では脚本賞を獲れませんでしたが、それもそうだよなぁと。映像で見せてるわけですから。
色々もったいない部分がありながらも、一人になったことで心情を感じ取れる内容にシフトしたのはさすがだと思います。
最後に
没入感のある映画ではありますが、僕としては撮影の裏側を知りたすぎて話どころじゃなかったってのが今回の評価です。
アカデミー賞作品賞最有力でしたが、結果は「パラサイト」が取ったってのも納得ではあります。
とはいえ技術的にはもんのすごく手の込んだことやってるのは見ていてわかるかと思いますし、臨場感も抜群ですから是非映画館で見てほしい1作かなと。
それにしてもちょいちょい良い俳優が出てきては消えるやり口、きたねえなぁw
最初にコリンファース出てきて、途中でマークストロング出てきて、最後にカンバーバッチ。
人生史上最悪な伝令マラソンのスタート地点と休憩ポイントとゴール地点で待ち受ける英国を代表する俳優を見て、僕もこんな俳優になりたい!とジョージ・マッケイは思ったのか思わないのか。
思うわけねえかw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10