- 公開 2012年8月11日
- 第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞
- 監督 吉田大八
- キャスト神木隆之介、橋本愛、東出昌大、山本美月、松岡茉優、浅香航大、落合モトキ、清水くるみ、前野朋哉、太賀、大後寿々花
今になってキャストを見返してみるとすげえメンツ。この映画がどれだけ現在に影響しているかわかるはず。
・あらすじ
田舎町の高校の映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、コンクールで賞を獲っても、クラスの中では目立つことのない地味な存在。そんな彼をよそに、バレーボール部のキャプテン桐島が部活を辞めたことがクラスや各部の人間関係が徐々に歪み始め前田たち含む生徒たちのヒエラルキー(階級)が崩壊していく。
・個人的な思い出
2012年の夏は当時、アメイジングスパイダーマン、ダークナイトライジング、アベンジャーズと洋画界はアメコミの三つ巴でした。そこに、海猿やおおかみこどもの雨と雪、ヘルタースケルター、るろうに剣心などの強力邦画にくわえ、プロメテウス、トータルリコール、そして、口コミで広がり蓋を開ければミニシアター最高興行収入を叩き出した最強のふたりと今年の夏映画興行の盛り上がりを思わせるラインナップでした。
そんな中、静かに幕を開けた今作ですが、やはり公開前から気になっていて完成披露試写会に当選しワクワクしていたのですが、まさかまさかの満席に。
結局その日は見れずじまいになったという悔しい思い出でした。
そして、公開日当日鑑賞後、映画館を出る周りの冷めた反応とは逆に、なんて心を鷲掴みにされたような気持ちと脳内リピートがとまらない1日だったことを覚えてます。それだけインパクトの強い作品でした。
後日、ブルーレイを購入し、家で今でもたまに鑑賞するくらい好きな作品です。
・映画「ナッシュビル」との関係性
この物語には、当の桐島本人は出てきません。はあっ?と思う人もいると思いますが、出てきたら話の意味がないのです。あくまでヒエラルキー崩壊の話なので彼が出てくるとラストが成立しません。そういう映画です。
町山智浩のWOWOW映画塾での受け売りですが、この映画のコンセプトは今は亡きロバート・アルトマン監督のナッシュビルという作品と非常に似ています。
この話聞いてレンタルしようと思ったら案外どこも置いてなくて師匠に借りて見てから彼のファンになりました。
この映画は、アメリカ南部の田舎町ナッシュビルという町を舞台にしたお話で、ウォーカー議員のキャンペーンの一環でコンサートを開くまでの数日間を描いていて、登場人物は25人もいます。
で、何が似てるかと言うとこのウォーカー議員は出てこないのです。あくまでそれを取り巻く環境を描いた群像劇で、ラストのコンサートに向けてみんなが集まって事件が起きるんですが、正にこれがアメリカ人だwwと皮肉った内容になってます。
これ見ても、おそらく桐島以上になんだこれ?となると思いますが、当時ベトナム戦争に敗れ混沌としていたアメリカ社会の混乱と浮かれっぷりを体現した作品です。3時間もあって長いですが個人的にはスルメみたいに味わい深い映画だと思います。
・繰り返される金曜日
そんな桐島を取り巻く環境で起こる群像劇なのですが、いくつかのグループの人物を焦点に同じ時間が繰り返して物語は進んでいきます。
映画部の前田と武文(前野朋哉)は、いわゆる映画オタクでヒエラルキー的には最下層の立場。
桐島と仲のいい帰宅部の菊池(東出昌大)←(実は野球部)、寺島(落合モトキ)、友弘(浅香航大)は、いわゆるイケてる中心グループ。
桐島の彼女の梨沙(山本美月)、菊池の彼女の沙奈(松岡茉優)、前田と中学の同級生のかすみ(橋本愛)、かすみと同じバドミントン部の実果(清水くるみ)は、いわゆるイケてる女子グループ。
桐島と同じバレーボール部の久保と風助(太賀)の部活動グループ。
そして、菊池にほのかな思いを寄せる亜矢(大後寿々花)の地味な文系の吹奏楽部グループ。
この登場人物の金曜日が繰り返される流れになってます。
・桐島がいなくなることでどうなるか
まず、辞めた桐島の穴を埋めるべくレギュラーになった風助ですが、実力の差から桐島の穴を埋めることが出来ず、久保から責められ、これが俺の実力なんだよ!!と逆ギレ。
その隣で練習しているバドミントン部の実果はそんな風助に自身を重ね気にかけながらも、同じ部のかすみとの実力の差にコンプレックスを抱く。
そして、仲良しグループの沙奈の言動に苛立ちを隠せなくなる。
そんな沙奈も桐島から連絡のない梨沙の冷たい態度に苛立ち、
本心を隠しグループの仲を取り持つかすみ。
一方で、放課後バスケに勤しむイケてるグループは桐島がこなくなることでバスケやる意味がないと言い出す菊池。
それに寂しがる友弘と寺島。
その光景を屋上から見守りながら個人練習に励む亜矢。
その屋上で撮影したいが、どいてくれない亜矢に躊躇してしまう前田たちイケてないグループ。
と、こんなふうに徐々に桐島がいなくなることで少しずつ彼らの生活の歯車が狂っていきます。
・桐島=神
桐島は、勉強もスポーツもできて、おまけにいちばん美人の彼女がいるという、いわば誰もがそうなりたい憧れの存在です。
極論でいえば、神さまみたいなもんです。
彼を崇めていた、頼りにしていた、憧れていたピラミッドの頂点にいる神さまがいなくなることで崩れていく様がラストに向けて見て取れます。
組織も階級も上がしっかりしてないとダメってことですね。
・主役は誰か。
この物語のジャケは前田が写っていて、ラストの屋上でこの崩壊にとどめをさすのが彼なんですが、
本当の主役は菊池です。見てわかる人もいると思いますが、彼の成長記にもなってます。
冒頭、進路希望の紙になにを書いたらいいかわからないところから始まっていき、
特に練習をしなくても野球部でレギュラーで、バスケをやっても簡単にシュートが入る運動神経。
おまけに、自分を好いてくれる彼女がいて、おそらくですが勉強しなくても成績はいい。
だから、セックスに憧れる童貞の友弘の気持ちもわからないし、野球部のキャプテンが3年で引退しなきゃいけないのにドラフトかかるかもしれないからと練習してる気持ちもわからない、要するに何が楽しいのかわからない。そんな彼が桐島がいなくなることで余計不安にかられていきます。
そして、ラスト屋上で学校生活で交わることのない前田と交わることで彼の中で何かが芽生え、彼の見つめる先にあるものが何かわかるところでこの映画は終了する流れになってます。
・青春てなんだろね。
自分はこの映画を見てどこに当てはまるかなぁと思い返してみてましたが、外側はイケてる部類に入りたいと努力してイキがってましたが、内側は前田みたいなタイプでしたww案外1番ダサいタイプかもw
普通青春てもっとキラキラしたイメージで、甘酸っぱい恋だとか部活頑張って勝った負けただとか、持つべきものは友だよなー、とかステイゴールドなもんだと思うんだけど、
この映画は、もっと陰湿で実際お前らが過ごしてた学校生活なんてこんなもんだぜ!と突きつけられてる映画だと思います。
イメージってのは、あくまで主観的なものであって、それをを高い頭上から見てみたら、逆に、顕微鏡で細かく見てみたら明と暗が入り乱れた腹ん中ドス黒くて、
そんなものを見せられてるように感じました。
もうこのころから順位が決まってて、覆るようなことなんかなくて、省かれないようにまわりに取り繕って本音も言えなくて、こんなことがこの先の人生にも続くのか、不安で仕方ない!
と、陰気な言葉になってしまいましたが、
最後の前田の言葉がそんな部分を救ってくれた気がしました。
「それでも俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから。」
それでも現実と向き合い、結果が出なかったとしても何かを見出せなかったとしても、それでも生きていくのだから、だったら戦うしかないんだ、
そんなことを教えてくれる映画だと思いました。
真っ只中にいるやつが青春だと普通思わないから、真っ只中にいる10代がこれを見てもやっぱりわからないんだろなぁ。
当時映画館を出た10代は、やはり何が面白いんだこれ、と嘆いてたのはやはり彼がまだ青春真っ只中にいたからなんだろう、と勝手に解釈してます。
10年経ってあの頃を思い返した時が青春時代なんすよね。
なんか変なまとめ。
読んでいただきありがとうございました。
ヘタクソな長文ですいませんm(_ _)m
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