グラスホッパー
11月はど頭に見たいのが重なり忙しい週末に。東宝配給かと思ったら角川だったのね。
誰が好きとかではなく、伊坂幸太郎原作映画ってだけで見に行ってまいりました。
あらすじ
ハロウィンの夜、渋谷スクランブル交差点でおきたある事件をきっかけに、気弱で心優しい草食男が彼らの標的となった。巻き込まれたのは元中学校教師の鈴木(生田斗真)。彼が場違いな黒社会に身を置くきっかけとなったのは、無差別で凄惨なあの事件によって殺された婚約者百合子(波留)の復讐のためだった。
百合子が息絶えた事件現場で「本当の犯人は別にいる」というメッセージが書かれたメモを拾った鈴木は、そこに書かれたフロイラインという会社に潜入する。
一方では、人を絶望させる不思議な力を持ち“自殺屋”と呼ばれる自殺専門の殺し屋、鯨(浅野忠信)。彼を消すことを依頼された裏社会の交渉人、岩西(村上淳)と、その相棒にして驚異的な身体能力を持つナイフ使いの若き殺し屋、蝉(山田涼介)が蠢めいていた。
そして出会うはずのなかった殺し屋たちと鈴木が交わる時、意外な真実が明らかに。果たして、鈴木は目的を果たし、この世界から抜け出すことができるのか?《HPより引用》
監督・キャスト
ほとんどの伊坂幸太郎原作映画は中村義洋監督なんですが、今作は瀧本智行監督。
著明な監督たちの元で、助監督を経験した後、ヒューマンものや社会派ものを得意とする監督とのこと。
イキガミ、犯人に告ぐ、星守る犬、そして、主演の生田斗真とタッグを組んだ脳男などがあります。
高い知能と人間離れした身体能力だけど、感情のない脳男を生田斗真が熱演してました。
どちらかというと、彼よりも狂いまくった二階堂ふみの方がインパクトありすぎて喰われた感がありましたが、
終始エグいシーンが続くのと、終盤の車に轢かれまくる生田斗真の迫真の演技はなかなかのものがありました。
そんな監督と2度目のタッグを組んだ主演の生田斗真。
虫も殺せないくらい優しい心の持ち主が婚約者を殺されたことで裏社会へ潜入する元教師・鈴木という役どころ。
ジャニーズでは珍しい俳優業のみで活躍するという仕事ならではのストイックな役作りや幅の広い演技が持ち味の方だなぁと。
実は海へ仲間と一泊旅行にいったところテレビドラマの撮影と重なって同じ宿に泊まっていたという奇跡の巡り合わせがあり、ちょうどブレイクしたころの彼を生でお見かけしたことがあります。
一緒にいた女友達が写真を撮ってもらいたく近づこうとしましたが、あまりのオーラに私も彼女も近づけず立ち尽くしたままという思い出があります。
他の有名な若手俳優さん達もいましたが、放っていたものが違いました。
あの時ほどジャニーズってすげえなっ!!と思った日はありませんww
どちらかと言うとテレビドラマの彼の方が見てる頻度は高く、主演の映画は脳男とこれくらい。
クドカン脚本、三池崇史監督という組み合わせでしたが、消化不良気味でした。世界のミイケとしてはハズレだったなぁと。
それでも一生懸命がむしゃらな菊川玲二を熱演していた彼は印象的でしたね。
自殺屋、鯨役に浅野忠信。
人の心を狂わせ自殺に追い込むという、キレイに仕事をする殺し屋という役どころ。
あまり好みの俳優さんではないのですが、世界を股にかける俳優とあって評価は高いんでしょうね。
マイティソーのようにアクションもこなすし、母べえのようなヒューマン、ヴィヨンの妻のような恋愛、サスペンス、ルパン三世の銭形のとっつぁんのようなマンガ原作などなど巧みに配役に寄せてくるのは、経験値の高さとひたむきさあってのことなんでしょう。
どうも浅野忠信となると、かつての石井克人監督との作品が思い浮かぶ。
飄々というか、地に足ついてないような感じの朴訥なイメージの演技がこの頃多かったような。
そして、永瀬正敏とばかり共演してたイメージ。
作品自体は非常にスタイリッシュでシュールな笑いと個性溢れるキャラが勢揃いでした。タランティーノやガイリッチーテイストな作りに当時はただカッコイイなぁとしか記憶がないww
もっかい見ようかな。
孤独な殺し屋、蝉を演じるのは、山田涼介。
驚異的な身体能力とナイフを使い殺める孤独な殺し屋という役どころ。
Hey!Say!JUMPの中では役者としての露出は高い方だと思いますが、
すいません、あまり観てませんw
世代的にこの辺は興味がないのでσ(^_^;)
映画としては、暗殺教室が初主演なんすね。どうりで見かけないわけだ。
彼の演技は初めてお目にかかるので非常に楽しみです。
他にも、謎の主婦、すみれ役に麻生久美子、
鈴木の婚約者で事件に巻き込まれ命を落とす百合子役に波留、
鈴木が潜入する会社フロイラインの女性社員、比与子役に菜々緒、
鯨の死んだ父役に宇崎竜童、
裏社会のやり手交渉人、岩西役に村上淳、
見た目とは裏腹に押し屋と呼ばれる殺し屋、槿役に吉岡秀隆、
裏社会のドン寺原会長役に石橋蓮司といった一癖も二癖もある役者が勢揃い。
伊坂幸太郎について
私はほぼ本を読みません。だから、脈絡のない駄文をみなさんに恥ずかしくもなく披露してしまってるわけですがw
そんな中、唯一読んだことのあるのが、この伊坂幸太郎さんであります。
数々の友人から読みやすいと言われ、薦められたのですが、手を伸ばす決め手がなく読まずじまいでした。
そんな私を読ませようとしてくれたのが原作を実写化した映画でした。
ゴールデンスランバー、アヒルと鴨のコインロッカー、フィッシュストーリー、重力ピエロ、陽気なギャングが地球を回すなどなどたくさんの作品を鑑賞しては魅了されました。
なかでも、1番好きなのはゴールデンスランバー。
何者かに総理大臣の暗殺者に仕立て上げられた宅配ドライバーの逃亡と反撃を
当時の大学の仲間や、同僚、アイドル、裏稼業の男、切り裂き魔といったちょっと変わった人たちに支えられ奮闘する話。
この作品が大好きで出演した俳優もぴったりだったり、ラストの拍子ぬけだけどこんな終わり方ステキやん!で、ちょっとほのぼのな危機感のない感じを醸し出す役者陣。
こういうサスペンスも面白いなぁと。
伊坂幸太郎作品の登場人物って、細かい設定がされてるし、やばい奴でも憎めないというか、愛くるしく思える部分があったり。
そして、散らばった点がラストに一気に線で結ばれるあのカタルシスが心地よかったり。
私は変わっていて、元の作品を知らない場合、映画見てから原作を読むパターンでして。
正にグラスホッパーは読んでいないんですが、きっとこんな流れになるんだろうな、感情移入しやすい登場人物なんだろうなぁと期待していました。
原作では、この続編としてマリアビートルという小説もあるので、これが当たれば続編として製作されるかもしれないですね。
長々と紹介してしまいましたが、
そんな人気小説家の最高傑作と謳われた作品を実写化した予測不能のエンタメストーリーの感想は、
難しい顔して見てたけど、ラストにほろり。
以下、核心に触れずネタバレします。
暗く静かに3人の物語が進む。
鈴木、鯨、蝉の3人が複雑に絡んでいく話を丁寧な人物像と説明を加えた内容だったと思います。
虫も殺せないくらい弱い鈴木を表情から運動神経に至るまでのヘタレっぷりを見事に演じた生田斗真は、同じ監督で脳男をホントにやったのか?と思うほど別人で、
時折変わる婚約者との微笑ましい場面を入れることで全てが悲観に感じることなく彼に感情移入できたと思います。
復讐もしたいんだけど、組織に追われるくせに他人の心配をしてしまう優しさが彼の強さだったりして共感を持てました。
鯨も冷酷な殺し屋なんがではなく、父の亡霊や過去に殺めた人たちに取り憑かれ我を見失い、仕事に支障をきたすまでなってしまったことへの苛立ちや、
それを払拭しようと静かにもがく様は、サイボーグのような殺し屋ではなく血の通った人間として見る側にちゃんと隙を作ってくれているのでただの悪みたいな人ではないんだな、と思わせてくれました。
ただでさえ悪い顔の浅野忠信だからこその安定感というか、顔から滲み出た苦悩っぷりも経験値が故の演技だなぁ、と。
蝉も同様、唯一の幸せがシジミの砂抜きを見る、という不可解な趣味にも意味があり、
味噌汁の具にしか使い物にならない貝でもこうやって呼吸して生きてるのがわかる、
人間もこうして呼吸してるのがわかりゃいいのに、
とぼやくように彼の葛藤というか、嘆きというか、そんな複雑な心境を描いてることで、
見ている人への彼を理解する道標みたいなのを作っているのは原作を忠実に再現している証拠なのかな、と。
岩西との友情も色濃くドラマになっていたし。
山田涼介に至ってはまだ伸びしろがたくさん感じるところがあり、未熟だな、と思えるセリフ回しや荒さなど所々思ったりもしましたが、
キレのあるアクションと狂気に満ちた表情は発展途上とはいえ見事だと思いました。
基本、伊坂幸太郎作品てどの人物にもそんな愛着が湧く工夫が施されてるなぁ、と。それを映像にするときも忠実に描いてくれてるのを毎回感じます。
ラストにほんと救われた
最初から最後までスリル感があり、3人の静かに切なく悲哀が詰まった話に加え
そして、飛び散る血の連発、冒頭の暴走事故の描写と黒く変色したグロいバッタ。
生々しかった。
2日間に及ぶこの物語をずっとしかめっ面してみてた気がします。
だから、このまま終わるのか、これはちとつらいなぁと思っていたら、
最後の最後での観覧車のシーン、伏線の回収で思わずホロっときてしまいました。
うまくは書けませんが、鈴木がこれで前へ向いて歩んでいけるエピソードが入るんです。
率直によかったぁ、と胸をなでおろす感じでしょうか。
主人公が報われないのはやっぱりイヤですから。
にしても期待値が高すぎた。
なんとかアイドル映画にはならなかったものの、
いつも通りのあの伊坂マジックでお目にかかれるカタルシスは少なく、3人が深く絡むこともなく。
終盤のおいしいところは3人以外の人物がもっていったり。
鈴木と押し屋の絡みはもっと欲しかったなぁ。
といった感じ。
全体的に3人の話を交互に入れ替えての時系列に対して、テンポは悪かったからなのか緩急がなかったのか。
もっと鈴木と婚約者の微笑ましい場面を細かく入れてくれたらよかったのかなぁ。緊張と緩和の比率の問題?
よく言えばじっくり見る、ように心構えしないといけなかったのかな。
巻き込まれエンタメなんて謳うからだよ、きっと。
トノサマバッタ=グラスホッパーは密集された場所にいると黒く変色し、凶暴になる習性がある、と押し屋は鈴木にかたります。
冒頭の事故でも、なんの迷いもなく死体の写真を撮る野次馬たちのケータイからバッタが現れ飛び回るシーンで始まるわけですが、
情報が密集された社会において我々もモラルや倫理観などを逸脱して凶暴と化す1人に過ぎない、と押し屋は語ります。
1番言いたかったのってこの部分なのかな。なんて、見終わったあと、ふと感じました。
是非、続編の製作もしていただき、反省点を踏まえて作り上げて欲しいですね。