ヘイル、シーザー!
今日はコーエン兄弟監督の新作を見てまいりました。
あらすじ
1950年代、ハリウッドが“夢”を作り、世界に送り届けていた時代。スタジオの命運を賭けた超大型映画「ヘイル、シーザー!」の撮影中に、主演俳優であり世界的大スターのウィットロック(ジョージ・クルーニー)誘拐事件が発生!
撮影スタジオは大混乱に陥る中、事件解決への白羽の矢を立てられたのは貧乏くじばかり引いているスタジオの“何でも屋”(ジョシュ・ブローリン)。
お色気たっぷりの若手女優(スカーレット・ヨハンソン)や、みんなの憧れのミュージカルスター(チャニング・テイタム)、演技がどヘタなアクション俳優(アルデン・エーデンライク)など、撮影中の個性あふれるスターたちを巻き込んで、世界が大注目する難事件に挑む!(HPより抜粋)
映画『ヘイル、シーザー!』予告編
監督・キャスト
監督はジョエル・コーエンとイーサン・コーエン。
映画見始めた頃は難しそうで避けていた監督の一人でしたが、私の大好きな作品である「インサイド・ルーゥイン・ディヴィス」を見てからハマり、それからというもの好きな監督の一人になっています。
スランプ状態に陥った脚本家が、貧相で薄暗く蒸し暑いホテルの一室で殺人事件に巻き込まれた「バートン・フィンク」がカンヌ国際映画祭で作品賞、監督賞を受賞したことで世界的に注目を浴び、その後も、
アメリカの田舎町で起きた狂言誘拐が思いもよらぬ惨劇へとなり、その人物たちの奇妙な姿をユニークに描いたサスペンス「ファーゴ」でアカデミー賞脚本賞を受賞、
アメリカの片田舎で床屋を営む無口な男が、妻の浮気相手を恐喝したことから徐々に人生の歯車が狂い始めていく悲喜劇「バーバー」でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞、
メキシコ国境沿いのテキサスを舞台に、麻薬取引がらみの大金を持ち逃げした男の容赦ない宿命と、彼を追う殺し屋、その事件を追う警官をバイオレンス且つ神話的に描いた「ノーカントリー」でアカデミー賞作品賞はじめ多くの賞を総ナメにし、数々の名作を世に送っています。
今作が誘拐ってこととテレビドラマもやってるのでこちらをご紹介。
借金返済のために妻を誘拐し、会社のオーナである義父から身代金をいただく計画をたくらんでいた夫。紹介された2人組に依頼し実行に移すも誤って警官と目撃者を射殺してしまう。女性警官が捜査していくが、その間に誘拐計画は悪い方向へと進んでいく。
あらすじ読む限りでは普通のサスペンスですが、冒頭、事実に基づく話と表示されているけど実はこれがウソ。んでもって、妊婦の警官、凸凹コンビの2人組、哀れで情けなく、誘拐を企てた夫などキャラが個性的。
サスペンスだ!と真正面で見るのでなく少し違った角度で見るというのがこの映画の楽しみ方であり、そうすることでキャラやセリフや演出が非常にユーモアで溢れていることに気づくと思います。監督の持ち味が詰まった良作です。
主演の何でも屋エディ・マニックスを演じるのがジョシュ・ブローリン。
この人は大体おっかない刑事役のイメージが強いですね。先月見たボーダーラインでも胡散臭いCIA捜査官を演じたり、
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インヒアレント・ヴァイスでは銭形のとっつぁんばりに声のでかい刑事役だったし、LAギャングストーリーでも終盤マフィアと殴り合ってたし。まぁ、そんな役が多いお方です。
1970年代アメリカでセクシャルマイノリティのために戦った政治家の8年間を描いた「ミルク」で好演、その後も監督と2度目のタッグを組んだ「トゥルー・グリッド」では主人公の父を殺したことで追われる身となった元使用人という悪役を演じています。
個人的にはアベンジャーズ最強の敵サノスを演じているので、インフィニティ・ウォーではどんな活躍をしてくれるか楽しみです。
最近では中々作られない西部劇。ジョシュとコーエン兄弟監督が2度目のタッグを組んだ作品です。
父を雇い人に殺された14歳の少女は、父の敵を討つことを心に誓い、腕利きの保安官と屋と任を別の容疑で追っていたテキサスレンジャーと共に彼を追跡する。少女にっとて過酷な旅が始まる。
非常に地味な作品だなとは思いましたが、最初こそ無謀な追いかけっこだといいつつも、少女の執念に負け共に追跡する保安官が、終盤訪れる危機に必死に馬を走らせる思い、ラストの少女が保安官に抱いていた思い。深い絆を感じると共に静かな感動が押し寄せる1本でした。
誘拐されてしまう主演俳優ベアード・ウィットロックを演じるのがジョージ・クルーニー。
コーエン兄弟とは「オー!ブラザー!」「バーン・アフター・リーディング」以来のお仕事でしょうか。コメディ色の強い作品ばかり呼ばれてるみたいですねww
他にも、演技がどヘタなアクション俳優ホビードイルにアルデン・エーデンライク、キレたら超危険な映画監督ローレンス・ローレンツにレイフ・ファインズ、バカ真面目な公証人ジョー・シルヴァーマンにジョナ・ヒル、お色気で勝負の若手女優ディアナ・モランにスカーレット・ヨハンソン、正体不明のベテラン編集者C.C.カルフーンにフランシス・マクドーマンド、ネタを探すしつこい双子の記者ソーラ・サッカーとセサリー・サッカーにティルダ・スウィントン、
そして、みんなの憧れミュージカルスター、バート・ガーニーをチャニング・テイタムが演じます。
といった豪華キャストで送るコーエン兄弟お得意の誘拐劇ははたしてどんな意味があり、そしてどんな皮肉が隠されているのでしょうか!?
それでは、観賞後の感想です!!
当時の歴史を知らないとおいてけぼりにされるぞ!
以下、核心に触れずネタバレします。
1950年代のハリウッド映画界
まずこの作品は、当時のハリウッド映画に対しての敬愛と皮肉をパロディにした映画だと言うこと、
そして、その時代背景を頭に入れておかないとち〜っともわからないぞ!という、
非常に難解な作品でした。
私も50年代のハリウッド映画など見たこともなければ、知識もない。でも、コーエン兄弟の新作とあらば予習はしとかんといかん!
というわけで、色んな解説を見てから鑑賞したおかげで、それなりに楽しめたわけで。
1950年代のハリウッド映画界は、終戦後TVの普及により映画全体の興行収入が激減したことで大作ものばかりが乱立していたことと、
新規参入させないため全て自社で製作し、撮影所を構え、キャストやスタッフや映画館まで専用のものを用意したスタジオシステムを構築していたものの、
独占禁止法で裁判沙汰になるなどして映画業界は窮地に立たされていたそうです。
それに加え、ソ連が掲げる共産主義に賛同していた業界人たちを弾圧する赤狩りがハリウッド映画界にも広がっていたこともあり、50年代のアメリカ映画は混乱に陥っていたようです。
ざっくりと解説しましたが、そんな時代背景があったということを頭に入れておくだけでだいぶ見方が変わるのではないでしょうか。
因みに会場を後にした時に前を歩いていた5、60代の夫婦ですら「意味がわかんねー!」とボヤいて帰って行ったので、これは若者にはかなり難易度の高いコメディ映画なのかもしれないですね。
とにかくオマージュが満載
じゃあ全く面白くないのか?といったらそんなことはなく、話の本筋は誘拐事件であり、当時のスターや作品を現代の豪華キャストがユーモアに演じているので楽しむところは十分ありました。
何でも屋のマニックスは、映画会社のプロデューサーという肩書きではあるものの、お仕事の内容はキャストやスタッフの尻拭いだったり、根回しだったりを昼夜問わず駆けずり回る苦労っぷり。
多忙を極める仕事内容と業界の衰退にマニックスは見限ろうと、転職まで考えてしまいます。
そんな彼を中心に物語は進み、ハリウッドスターであるベアードの誘拐事件の勃発を皮切りに、ひっきりなしにトラブルが発生していきます。
そのベアードが主演として劇中で作られていく「ヘイル、シーザー!」は、チャールストンヘストン主演の「ベン・ハー」のパロディになっていて、ローマ軍のシーザーが、キリストと出会うというお話になっています。
これをジョージクルーニーが見事に堕落したハリウッドスターをおマヌケに演じています。
何てったって撮影中に誘拐されちゃうもんだから終始ローマ皇帝の格好というのがジワるw
その事件の最中に起きるトラブルが、スカーレットヨハンソン演じるディアナの妊娠。しかも、相手は妻子持ち。
「水着の女王」という作品で有名になったエスター・ウィリアムズがモデルだそうで、その清純なイメージとは裏腹に、わがままで口が悪く、やることやってるってのがまたハリウッドの裏側を皮肉ってていいですね。
このトラブルをマニックスはナイスアイデアで危機を回避していきます。
そして、西部劇では定評のあるホビードイルをシリアスなドラマにコンバートすることになり、いざ演技させてみると訛りが酷く演技が出来ないというトラブル。
監督がタイマンでホビーに演技指導する様は必見です。
そして、ホビーの前では紳士的に振る舞ったものの、マニックスの前では怒り心頭!仲裁役としてこれまた手腕を発揮します。
そんなスターたちのスキャンダルを狙おうとする双子のゴシップ記者もまた、ルエラ・パーソンズとヘッダ・ホッパーというコラムニストがモデルだそうで、彼女たちが書く記事は異常なまでに権力を持っていたそう。
マニックスももみ消しに奔走する姿が劇中で見られます。
そして、一番笑えたのはバート・ガーニーを演じたチャニングテイタムの歌とダンス!
ジーン・ケリーを彷彿とさせる水兵の格好で、
嵐のマッチョマンだって踊れるんだぞ!とばかりに、ガタイのいい兄ちゃんがこれでもかと周りの俳優たちと息のあったハーモニーとキレのあるタップダンスを披露してくれます。
なんだろなぁ、彼がイメージと違うことするだけでツボになってきてます。ヘイトフルエイトの出オチでも笑ってしまったし。
これはだいぶネタバレになるかもしれないのですが、この人たちを知らないとおいてけぼりになる、と町山智浩氏がラジオで語っていたので書いちゃいますが、
10人の脚本家たちが出てきます。
彼らは当時ハリウッドテンと呼ばれる共産主義者たちで、赤狩りをするため議会から証言や召還を拒否したことにより議会侮辱罪で有罪になった人たちがモデルになってるそうです。
その中には、名前こそ出てきませんでしたが、「ローマの休日」の脚本家、ダルトン・トランボ氏の姿も。
彼は、議会から召集されても頑なに口を割らず仲間を守り、その結果業界から干され、それでも書きたい欲望を抑えることが出来ず名前を伏せて名作を作ったそうです。
そんな彼の壮絶な人生を描いた作品「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」が7月に公開予定ということで、こちらも合わせて見るとより楽しめる、と町山さんは語っていました。
物語では、この10人が重要な役割をしているので彼らのことを頭に入れておくといいと思います。
とはいえ、不満も。
時代背景は理解した。オマージュも満載だ。といったところで、すごく楽しめたのか?
否!
やはり、正直言うと想像していた面白さではなかったです。
この豪華キャストのアンサンブルが見られるのかと思いきや、マニックスとのワンエピソードごとの出演でしかなく、彼らが協力して誘拐事件を解決するような話でもなかったことが残念でした。
ウィットに富んだジョークや、ハリウッド大作に対する皮肉も全て理解できたわけではなく、改めてコーエン兄弟の脚本の難解さを痛感したのと、まだまだ映画史に対して勉強不足であることを知りました。
終盤、ベアードに対してゲキを飛ばすマニックスのセリフがこの作品でコーエン兄弟が一番言いたいことだったんだろうなぁ、と感じました。
大作映画に集中しがちな当時と似たような感じになっている現代のハリウッド映画に対しての痛烈なメッセージとも取れるし、
そんな業界を支えている裏方さんたちを敬い、監督の映画に対しての愛情が散りばめられた、そんな映画だったのではないでしょうか。
満足度 ☆☆☆☆★★★★★★4/10