シング・ストリート 未来へのうた
昨年は音楽にまつわる映画が良作だっただけに今年は音楽映画は目立った傾向にありませんが、そんな中傑作の予感がする超期待の映画がようやく公開でございます。
なぜそこまで言い切れるのか?それは今音楽映画撮らせたらハズレなしのジョン・カーニー監督だからだよ!!
とにかく公開日まで毎日予告編と主題歌と劇中歌を聴いてきたので、気持ち、出来てます。整ってます。はい。
せっかくなのでこの公開のあとしばらく休館してしまうシネクイントで早速見てきました。
あらすじ
1985年、大不況のダブリン。人生14年、どん底を迎えるコナー(フェルディア・ウォルシュ・ピーロ)。
父親の失業のせいで公立の荒れた学校に転校させられ、家では両親のけんかで家庭崩壊寸前。音楽狂いの兄(ジャック・レイナー)と一緒に、隣国ロンドンのMVをテレビで見ている時だけがハッピーだ。
ある日、街で見かけたラフィナ(ルーシー・ボイントン)の大人びた美しさにひと目で心を撃ち抜かれたコナーは、「僕のバンドのPVに出ない?」と口走る。
慌ててバンドを組んだコナーは、無謀にもロンドンの音楽シーンを驚愕させるPVを撮ると決意、猛練習&曲作りの日々が始まった――。(HPより抜粋)
監督・キャスト
監督は、これまで音楽を基にした映画を撮り続けるジョン・カーニー。
ええ、大大大好きな作品を世に送り出している監督さんであります。
なぜこんなに音楽のツボというか、ネタというか、何たるかを知り尽くしているのかというと、地元アイルランドのダブリンで「The frames」というバンドで2年間ベースを弾いていたんですねぇ。その傍らバンドのPVやライブ映像を撮っていたこともあり映像活動に専念する運びとなったようです。
今作では彼の少年時代の話をベースにした物語となっているので、今まで以上に細かい演出がちりばめられていると思います。
ちなみにこのバンドは現在でも活動していて、ボーカルのグレン・ハンサードは監督の映画「ONCE ダブリンの街角で」で主演しています。
そんな、音楽に身をささげた監督がどんな作品を手がけてきたというと、残念ながら日本未公開のものが多く、今作が日本公開では3作目という少なさ。
とはいえ彼の作品が日本でも公開されるほど世界的にも話題となった作品が、監督の地元ダブリンのストリートミュージシャンとチェコの移民女性との出会いが奇跡のメロディとハーモニーを紡ぎだすラブストーリー「ONCE ダブリンの街角で」。
この映画がインディペンデント・スピリット賞で外国語映画賞を受賞したのを機に、アカデミー賞歌曲賞受賞、果てはサントラがグラミー賞にノミネートするほど作品も音楽も高い評価を得ています。
そしてついに、ハリウッドで大物スターを迎え作り出した音楽映画で、落ち目の音楽プロデューサーと失意の女性シンガーソングライターが共に音楽を作り再起を図ろうとする中で、音楽の素晴らしさを改めて知っていく「はじまりのうた」では飽和状態と化した音楽業界に一石を投じ、人生においても音楽においても原点からはじめて行く2人を描いています。
つい最近、監督が雑誌のインタビューで、この映画でのキーラ・ナイトレイのことを「キーラの取り巻きがどこにでもついてきて仕事をするのが難しかった」「キーラはミュージシャンではなく、音楽をリアルに見せるのが難しかった」「二度とスーパーモデルとは映画を作らない」などと批判的なコメントを語っていたことに対し、直接本人に謝罪した後、関係者にも謝りたいということでTwitterで謝罪文を載せたことが話題となりました。
かなり反省しているとはいえ、ハリウッド映画のやり方に疑問とやり辛さを感じたのか「シング・ストリート」では無名の新人俳優など多用し地元で撮影したりと監督も原点に返っての映画作りに意欲を燃やしているみたいですね。
監督の少年時代がモデルとなった主人公コナーを演じるのはフェルディア・ウォルシュ・ピーロ。
14歳の時に今回のオーディションに応募し、見事主役の座を勝ち取った男の子です。
彼は母の影響で歌のレッスンを受けており、ボーイソプラノとしてオペラの国内ツアーなんかにも参加した経歴の持ち主なんだとか。本編でも経験値の高い歌声を惜しみなく披露してくれています。
今作のヒロイン、ラフィナを演じるのはルーシー・ボイントン。
既に10年キャリアのある彼女は、ピーターラビットなどのキャラクターを世に送り出したピアトリクス・ポターの伝記映画「ミス・ポター」でポターの幼少時代を演じデビューを果たします。
その後もエマ・ワトソン主演で描いた「バレエ・シューズ」やTVドラマなどで活躍中です。待機作としてニコラス・ホルト主演で、「ライ麦畑でつかまえて」で有名なJ.D.サリンジャーの人生を描いた映画に出演してます。
こちらもどうぞ。
そしてコナーの兄ブレンダンを演じるのがジャック・レイナー。
マイケル・ベイ監督の代表作「トランスフォーマー・ロストエイジ」に主人公の娘の恋人役に抜擢され、最近ではマイケル・ファズベンダー主演の「マクベス」に出演しています。今後も話題作の出演が控えている若手有望株です。
こちらにも出てます。
というわけで個人的にも超期待の、思春期真っ只中の少年が恋してカッコつけてバンドやっての、夢に向かって走りまくっていくその先に何が待っているのか。
それでは、鑑賞後の感想です!!!
青春映画のマスターピース!!言いたいことはただ一つ、ゴーナウ‼︎‼︎
以下、核心に触れずネタバレします。
青春はダサい。でもカッコいい。
始めに言っておくと、これから書く感想は、かつて音楽でメシを食う夢を追いかけ、それを諦めた男があまりにも主人公と自分を重ねた故、入りに入り込みすぎてまわりが見えないくらい没頭してしまっでる状態で書いたので支離滅裂になってるのをご了承くださいww(いつもそうなんだけどね)
台湾の青春映画の傑作、「あの頃、君を追いかけた」のキャッチコピー「青春は、後悔と恥でできている」という言葉に当時的を得てるなぁと思い、映画館で鑑賞し痛く感動したのですが、
今作は恥も恥と思わず後悔などしない男が、音楽を武器にクソダメでも前に進む物語でした。
主人公の過酷な環境でも自分の世界を確立し未来派と言い切り、好きな女の子のために好きな音楽のために悩みながらも困難を乗り越える姿に大感動し、しばし放心状態でした。
とにかくウブで純粋でひねりのない真っ直ぐ過ぎる感情が、ダサく、それでいて眩しすぎるくらいカッコよくて。
ハマったミュージシャンの格好が似合ってなくて、キスの仕方もタイミングも下手くそで。そんな複雑な男心は悲しみの喜びの中でやがて女心が複雑だということを知る歌を作り、観衆を魅了させる。
こんなクソガキでもステージの上で立派なミュージシャンになっていることが最高で。最高で。
で、もっと最高なのは主人公コナーの兄貴で引きこもりのブレンダン。
ブレンダンは自分の人生を明らかに見極めたのだ。そして、なりたいものになれなかった思いを弟に託すためにロックとは何たるかをコナーに叩き込み、オンナとは何たるかを説く。殻を破ろうともがく弟を茶化しながらも真剣に答える兄貴。
今作のキャッチコピー「君の夢は僕の夢になる」は、コナーのことではなく、ブレンダンのことに聞こえる。
引きこもりの理由も長男ならではの悩みにコナーは涙を流す。彼は知らなかった、兄貴が背負ってたものを。
そして、前に進む弟に感化され変化していくブレンダン。ラストの表情と見ている人たちは同じ気持ちになることだろう。
そんな兄弟に過去の自分と今の自分を重ね、ほんの僅かかもしれないけどあの頃の勇気と元気とクソッタレ根性を思い出させてくれる映画だったと思います。いや、そうに違いない。
物語を彩る音楽が最高すぎる。
正直リアルタイムで聞いていた音楽ではない。でもこの時代の音楽はわかる。
パンク全盛期からMTV開局をきっかけにニューウェーブ、ニューロマンティクスと、音楽の流れが変わっていった80年代。
電子音と多用に変調していくメロディが斬新で新鮮で。
当時を代表するアーティストのオンパレードに、欠かさず見ている「トップ・オブ・ザ・ポップス」に、コナーとブレンダンの好みが何となくわかる。
ダブリンにいるんだからそこはU2なんじゃないの?とも思ったけど、性格上そっちは好みじゃなかったのね。
デュランデュランは90年代しか知らないけれど、あんなアイドルチックなことをやっていたのに驚きだったし、
鈴蘭高校を思わせるワイルドサイドの集まり、シングストリート高校の校訓「雄々しくあれ」を象徴するかのようなモーターヘッドやクラッシュ、
新たな船出へ出発した頃のザ・キュアーの男の後悔満載の「in between days」に悲しみの喜びが詰まっていて、
両親の口論を塞ぐかのように部屋で踊り狂うホール&オーツの「マンイーター」、
ネタとしてバグルスの「ラジオスターの悲劇」をマネたり、フィルコリンズをdisったり、
コナーの相棒、エイモンがビバリーヒルズコップのテーマを披露したりと当時聞いていた人にはきっとツボだし、今の若い人でも新鮮に聞こえる楽曲たちが散りばめられたリスペクトソングばかりでした。
負けていないオリジナルソング
劇中バンド、シングストリートがそんな80年代ソングを彷彿とさせた音楽もまた負けず劣らずの素晴らしさを光放っているのも魅力のひとつでした。
歌詞に至っては、全てコナーのラフィーナに対する思い、置かれた環境、溜まったフラストレーションなど、心情を吐露した思い思いの言葉にグッとくるものがあり胸を締め付けたのですが、
そんな言葉よりもミュージシャン魂に火をつけたメロディやアレンジが悔しいほどたまらなかったです。
中でも、お気に入りだったのが「UP」という曲。
https://itunes.apple.com/jp/album/appu/id1126568832?i=1126569825&uo=4&at=1000l7d7
UKロックお決まりのAメロ⇨Bメロ⇨Aメロサビ⇨Aメロ⇨Bメロ⇨Aメロサビ⇨Cメロ⇨Aメロサビとメロのリピートという常套手段に、
コードとコードの感覚を広く取りリフでメロディを自由にさせ、サビでキーボードとギターのアルペジオをオリーブオイルとパスタのようにうまく絡ませ、仕上げはラスサビのコーラスにAメロを持ってくる極上のポップロック!!
そして、この曲の練習風景がまたたまらない。
エイモンと2人、ギターとピアノで雰囲気混じりで骨組みをしながら、カメラを回転させることで他のメンバーが徐々に現れ音を重ねていくこのシーン!
極め付けはエイモンのお母さんお尻フリフリノリノリで登場!
うわあー!メンバーでセッションしながら曲作んの超楽しいんだよ!!
他にもザ・キュアーを意識した「beautiful sea」や、ホール&オーツリスペクトな「drive it like you stole it」、ピアノオンリーで奏でる「to find you」、デヴィッドボウイっぽさと中国のあのメロディを取り入れた「riddle of the model」、ロックとは反骨心だと中指立てた8ビートでエルビスコステロフレイバー満載の「brown shoes」などなど多彩な曲満載でした。
楽曲に関してはプロの方が作ってるので完成度の高いものばかりですが、演奏シーンとか微妙にキメとかハズして録音されてるのがリアルでびっくり。細かい演出が垣間見えました。
そしてエンディングで流れるマルーン5のボーカル、アダム・レヴィーンが歌う「go now」。
これがまたラストシーンでメチャメチャ泣かせるんですわ!
いつもなら、ハイトーンボイスとセクシーなファルセットを巧みに使い分け耳を潤してくれるアダムですが、
この曲に関していえば、キーが低いからなのかすごく苦しそうに声を絞って歌ってるように感じます。
それがものすごく切なく、曲調もスローなテンポから徐々にアップしていく。行くなら今だ、いまが行くときだと、踏みとどまってる者に鼓舞させる歌になっていて、これまたヘビロテ確実な楽曲でした。
監督の演出力
監督のブレイク作「ONCE ダブリンの街角で」では、主役の男女が初めて楽器屋でセッションしていくシーンで奇跡のハーモニーを写し、
メジャー作品「はじまりのうた」では、マークラファロが酔い潰れながらもキーラナイトレイが奏でる曲に自然と浮かんでくるアレンジを可視化させることでキーラの歌手としてのポテンシャルを写したり、
ゲリラレコーディングという街の喧騒さえも音に変え、しかも一発撮りという解放と緊張の中で音を楽しむ表情を写し、
果てはこれ確かに恥部だよな、と思わせるお互いのプレイリストを聞きあうという楽しい音楽のシェアの仕方まで教えてくれる親切さを見事に表現しています。
今回は音楽の楽しさ、素晴らしさ、演奏する喜びを「UP」の練習風景と「drive it like you stole it」のシーンで演出してくれました。
ある有名映画の名シーンをオマージュした演出なんですが、ライブであの頃のキラキラした時間を見事に演出していました。
この有名映画を観た人ならきっとあの一体感に気づいて感動してくれるはず。
愛すべき仲間たち
バンドメンバーたちを忘れちゃいけない。彼らの掛け合いが最高でオーソドックスに笑わせてくれます。
相棒エイモンの思春期ならではの行動や、バンドに箔をつけるためにいれた唯一の黒人ンギグに対してのよそ者扱いから、ンギグ自身が目立ちたがり屋だったり、リズム隊のベースの男の子の捻くれっぷりからのまんざらでもない感。
要所要所で笑わせてくれるのも監督の演出ならではでした。
そして、敵となっていたはずのいじめっ子の男の子にもちゃんと用意されている意外な結末にもグッときます。
んでもって、暴力校長は最後までクソ野郎です。いい悪役です。
バンドやりてえ。
恥ずかしながら自分のことを。
高校の同級生と全員で上京しバンドを6年、ソロで4年と音楽活動を丸10年やってました。
モンキーのロゴは当時のバンドのマークです。
いい思い出もあるけれど後悔の方が大きいです。
寝る前たまに蘇ります。もっとああすればよかった、なぜあそこでくじけてしまったのか、今ならこういうことできるのにな。
歳をとればとるほど鮮明に思い出してしまういい日々と悪い日々。
この映画を観て良くも悪くも何かに夢中になっていたあの頃の自分たちを思い出させてくれました。
好きな子にライブに来てもらうように仕向けたり、がむしゃらにライブをこなしたり、歌を作りになぜか江ノ島を訪れたりww
今思えばダサい曲でダサい格好でダサいことしてました。
でも今の自分よりかっこよかったなぁ、と。姿勢が。思いが。情熱が。
とにかくこの映画はあの頃の夢を、夢を追いかけていた自分を忘れてないか?と問いかけてる気がします。
あいつら今頃なにやってんだろうか。生きてるうちに1回ライブをやりたいですね。あのときのメンバーと。
あーッと!!またまたグダグダ書いてしまいました。感傷に浸っていました。冗談のひとつも書けませんでした。
もうそれくらい我を忘れるほど超傑作だったと思うんです。
思い出補正ってヤツです。映画のなんたるかなんてどこも観てません。コナーを自分だと思ってしか見てません。
それでいいと思ってます。
ラストシーンはどう思うか。きっとあの名画とダブる結末とも考えられます。だからこそあそこで終わって良かったと思います。
その先は考えなくてもいいし、考えたら台無しな気がするし。
是非、劇場で観るべし!
そうそう、提供がカルチュアパブリッシャーズなのでレンタルはTSUTAYA限定です。
近所にTSUTAYAない人は遠征してでもGO NOW‼︎‼︎‼︎