トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
おそらくこの人が何をした人で、何に成功し、何に苦しんだのかほとんどの方は知らないでしょう。
知るわけもない。だってこそこそ隠れて仕事してたんだから。だから知りませんでした。ついこの前まで。
そんなわけで久々の日比谷シャンテにて見てまいりました。
あらすじ
第二次世界大戦後、赤狩りが猛威を振るうアメリカ。
その理不尽な弾圧はハリウッドにも及び、売れっ子脚本家トランボ(ブライアン・クランストン)は議会での証言を拒んだという理由で投獄されてしまう。
やがて出所し、最愛の家族のもとに戻るトランボだったが、すでにハリウッドでのキャリアを絶たれた彼に仕事がなかった。
しかし、友人にこっそり脚本を託した「ローマの休日」に続き、偽名で書いた別の作品でもアカデミー賞に輝いたトランボは、再起への道を力強く歩みだすのだった・・・。(HPより抜粋)
監督・キャスト
監督はジェイ・ローチ。
ごめんなさい、存じ上げない・・・。ケン・ローチならわかるんだけど。
おー、なんと「オースティン・パワーズ」「ミート・ザ・ペアレンツ」シリーズの監督さんなんですね!ゴメン!どっちも見てないっ!!ということはコメディ映画の監督なんでしょうか。くそ、どっちか見て作風知ってからみるべきだったな。
最近は政治色のある題材の作品を中心に作っているようですが残念ながらDVDスルーでの作品ばかり。すでに昔の人なのか。
監督はさっさと紹介して、主演のトランボを演じるのがブライアン・クランストン。
こちらも~初めて見る方だと思い調べてみたら、あ~この人か!!と。顔が違ってわからなかったです、はい。
ショービジネス一家に育ったブライアン自身も舞台から役者人生をはじめ、主にTVドラマ中心に活動してきた後TVドラマ「ブレイキング・バッド」でついにブレイク。エミー賞はじめ数々の賞を受賞したことで最近は映画での出演が目立ちます。
2012年のモンキー的映画ベスト1位にも輝いたww昼はカースタントマン、夜は強盗の逃がし屋という2つの顔を持つ男と隣人の人妻の短い恋模様と街を牛耳るギャングへの復讐を描いたバイオレンスアクションロマンス「ドライヴ」で主人公の雇い主として出演、
他にも79年のイラン革命の流れで反米デモにあったアメリカ大使館員を救うべく架空のSF映画をでっち上げるという大胆な計画を打ち出したCIA諜報員の救出劇「アルゴ」では主演のベン・アフレックの上司役として出演、
最近ではあの「GODZILLA」でアーロン・テイラー・ジョンソン演じる軍人の主人公の父であり核物理学者の役を演じています。
どれも調べて気づき、そういえばこの人いたな!!全然トランボの顔じゃないじゃん!!わかるか!?というレベル。これで覚えました。
そのトランボの妻クレオを演じるのがダイアン・レイン。
歳をとってもおキレイでございます。
とはいっても彼女の作品をあまり見てない私にとってはクラーク・ケントの母ちゃんくらいでしかすぐ思いつかず・・・。もっと昔の名作を見なくては!!
というわけでこの大女優の功績を調べると・・・
はいはい見てたのありました。私は映画の何を見てたのか・・・。
少年少女の純粋向くな恋心を描いた「リトル・ロマンス」で華々しくデビューし一躍人気に。
少年グループの対立を軸に、血気盛んな若者たちの苦悩や喜怒哀楽を描き、スティービーワンダーの名曲「Stay Gold」がいつまでも余韻を残してくれる青春映画の傑作「アウトサイダー」では中立的な立場の少女を演じ、
帰郷した男がロック歌手の元恋人を不良たちから助け出すアクション?なのか?ラブアクション?とにかくあ~これも時代だなぁと感じてしまう「ストリート・オブ・ファイヤー」で元恋人でロック歌手を好演したのが印象的でした。
ただ、興行的にはヒットせず人気は低迷期に。
月日は流れようやく評価されたのが2002年の作品で、退屈な毎日に刺激を求めるあまり年下の男と情事を重ねた人妻を描いた「運命の女」でアカデミー賞主演女優賞ノミネートをはじめ様々な賞を受賞し再び人気女優に返り咲く。
近年は、DCコミックのヒーロー達を実写化したジャスティスリーグの主軸となるスーパーマンを描いた「マン・オブ・スティール」や「バットマンvsスーパーマン」でスーパーマンことクラーク・ケントの母マーサを演じています。
他にも、トランボ一家の長女ニコラ役を「SUPER8」から一段と大人の会談を上ったエル・ファニングが、トランボに脚本依頼する映画会社のプロデューサー・フランク役を「10クローバーフィールドレーン」での怪演が記憶に新しいジョン・グッドマンが、トランボたちを共産主義だと弾圧し糾弾するコラムニスト・ヘッダ・ホッパー役をエリザベス女王を描いた「クイーン」で女優として確固たる地位を築いたヘレン・ミレンが演じています。
ヘイル・シーザー!とのつながり
TBSラジオ「たまむすび」で町山さんがヘイル、シーザー!の紹介とともにトランボもあわせて紹介していました。
どちらも同じ第二次世界大戦後の1950年代におけるハリウッド映画の光と闇を描いており、登場人物がダブッっているのがわかります。
ネタバレになってしまうのですが、ジョージクルーニー演じる大スターのウィットロックを誘拐するのは、ソ連が掲げた共産主義に賛同していた映画関係者たちでした。実はこの中に名前は伏せているものの、トランボそっくりの格好をした人物が映っています。
彼らは共産主義者たちを追放する動き、いわゆる赤狩りに対し、議会での証言を拒否したことで有罪となり業界から干されてしまった者たちで、ハリウッドテンと呼ばれていたそうです。
このハリウッドテンは今作にも大いに関わってくるし、彼らがどんな思想をもっているのかが明らかになるので、まだやっている映画館があればおさらいを、もしくは調べて予習しておくと面白いと思います。
あとは、ヘイル、シーザー!でジョシュブローリン演じる主人公マニックスの周りを嗅ぎ回るティルダ・スウィントン演じるゴシップ記者のモデルが、今作でヘレン・ミレン演じるヘッダ・ホッパーだそうです。
これも比較して見ると面白いかもしれませんね。
人物以外でも出来事や時代背景など重なってくるはずなので見逃さないようにしたいですね。
というわけで、彼がどのように名作を生んだのか、そして窮地にたっても書き続けた原動力は何だったのか。
それでは、鑑賞後の感想です!!!
映画史を知らなくてもこの男の信念に胸が熱くなるぜ!!
以下、核心に触れずネタバレします。
当時を知らなくても肩入れしたくなる男のドラマ
恥ずかしながらトランボ作品、ローマの休日しか見ておりません!映画好きにもかかわらず今回改めて50年代60年代の映画をもっと見なければ、と胸に刻んだひと時でした。
なんでって隣に座ってた年配の方がゲラってゲラって。
往年のスターや監督や当時のことをわかっているからこそ楽しめたんだろうなぁと本編を見ながら隣の人を羨んでました。
だからと言ってそんな映画史や彼の作品を知らずとも、
幾度の困難が押し寄せても決して屈せず信念をもって続けてきたことがやがて周りを動かし再び這い上がる男のドラマだったことに違いはなく、
彼がそこまで頑張れたのは家族や周りの仲間があってこそ成し遂げることのできたことだったんだな、と感じました。
最初こそギャラの高い脚本家として裕福にもかかわらず、低賃金を訴える役者やスタッフと共にデモを仕切る姿に疑問を抱き、
がっぽり金をもらってる映画監督との口論でデモに参加する理由に、モロに共産主義だなぁと感じながらも、
「アメリカの理想を守る映画連盟」により共産主義者はソ連のスパイだと弾圧され、仲間を大切にするために口を閉ざしたにもかかわらず、信頼していたものに裏切られ、仕事を干されやがてそのせいで仲間を亡くしたりと失意の連続に陥るも、
家族に支えられ奮闘する彼に心を動かされます。
非常にテンポのいい流れ
正直寝不足だったので寝落ちしたらどうしようと思っていましたが、冒頭から流れるハイテンポなジャズとタイプライターの音、非米活動委員会で言及されるまでさらっと流れるように魅せる演出の中で、トランボがどういう思想を持っていてどういう人柄でどういう性格なのかを端的にまとめており、映画の世界にすんなり入り込める作りになっていたことで食い入るように見てしまい、眠気などとうに忘れてしまうほど見入ってしまいました。
そして刑務所から出所、新天地での小さな仕事にあくせくする毎日、家族との心のズレといった厳しい生活の中でも、仲間や家族に優しい言葉をかけたり手を差し伸べたりするトランボの愛ある人間性が散りばめられており、
終盤でのテレビ放送のシーンでの勝利への確信は心の中でガッツポーズしたくなるほどいいシーンでした。
このシーンはエンドロール中に本人がインタビューを受けている映像が流れるので必見です。
キャスティングが素晴らしい!
とにかく、トランボ演じるブライアンクランストンがユーモアで雄弁に語る仕草が絶妙に良いです。
連盟にビラを配りに行くシーンでジョンウェイン相手に論破する場面や、委員会での質問の返答をうまくかわす口調。
あなた政治家に向いてますww
仲間が武士は食わねど高楊枝のような態度で口論になっても決して意志を曲げない主張と、俺についてこい的な姿勢がカッコよく、
家族と心が離れていってしまい、改心していく所もしゃがれ声にもかかわらず、湿り気のあるなめらかなしゃべり口で自分の弱さを打ち明けるシーンに目が潤み、クライマックスのスピーチのシーンは涙腺決壊でした。
妻を演じたダイアンレインも仕事に没頭する夫とそれに反発する子供達の間で笑顔を絶やさない良妻賢母ぶりを見せてました。カメラで写真撮ったりジャグリングしてるシーンが印象的でしたね。
他にもB級映画会社のプロデューサー役を演じたジョングッドマンもちょいワルな空気で楽しませたり、カークダグラス役の人も本人ソックリだったし、エルファニングに至ってはカワイイの一言に尽きます!クライマックスの授賞式での大人びたメイクとパーティードレスにうっとりです。
そして極め付けはヘッダホッパー役のヘレンミランがまあ憎たらしい!改め憎たらしくて巧い!あらゆるネタと何千万の読者で相手をゆすり、有無を言わさない剛腕ぷりと計算された嫌味っぷり!90年代テレビドラマでの野際陽子のような執念深い姑と互角なくらいイヤな女を熱演してました。
五、六十代なら当たり前なトリビア
この映画には数々のハリウッドスターが出てきます。
わかりやすいとこでいうと、トランボに救いの手を差し伸べたカークダグラスはマイケルダグラスのお父さんだったり、非米活動委員会で質疑応答を受ける俳優として、当時ハリウッドスターであり、アメリカの理想を守る映画連盟に入っていた元アメリカ大統領のロナルドレーガンが写っていたり。
西部劇や戦争映画で大活躍したジョンウェインとの口論で戦争を持ち出してきたジョンに対し、トランボが黙らせるやりとりがありましたが、
ジョンウェインはさんざん戦争映画で主演を張っていたにもかかわらず、戦争には行ってないという逸話があります。
このことを持ち出されることを嫌がるジョンは黙ってしまいトランボに論破されてしまうんですねー。
そんな彼が主演した「赤い河」を使ったジョークもありました。
オットープレミンジャーも当時閉塞的なハリウッド映画の風潮に風穴を開けるべく問題視されるような題材を扱った作品を多く手がけており、トランボを脚本に起用したのもその一環のようです。
人相も悪人面だったせいか舞台で役者をやっていた頃はそんな役ばかりさせられたんだとか。
そんなコワモテっぷりと強引なオファーを見事にこの映画の中で描いています。
とまあ、大した小ネタではないですが知っておくと映画がより一層楽しめるのではないでしょうか。
思想のために自由を奪われてしまうという風潮はこの時ほど表立ってはいないものの、こんな動きが透けて見える現代だからこそ彼の信念は立派なものだったし、そんな彼でも家族や仲間の支えがないと成しえなかったこと。
尚且つ、あんな逆境の中でローマの休日や黒い牡牛、スパルタカスといった名作などを量産した彼の天才っぷりに脱帽でした。
とにかく彼の作品は今年中に見ます!です!
というわけで以上!あざっした!!