最後の追跡/Hell or High Water
「ローリングストーン」誌が発表した2016年のベスト映画20の中に気になった作品がありまして。
で、タイミングよくこんなツイートがTLに流れてきまして。
Netflixオリジナル『最後の追跡』、2016年のナショナル・ボード・オブ・レビュー優秀作10本に入るのも納得。不況真っ只中で抜け出せない貧困の連鎖を断ち切るため犯罪をおかす兄弟と、定年間際の口の悪いテキサスレンジャー。追いつ追われつの背景にあるテキサスこそ、本作の影の主役。
— 中井 圭 (@nakaikei) 2016年12月5日
あれマジッすか中井さん。面白いんすか。
じゃあ見ようってことで久々にネトフリオリジナル映画を鑑賞しました。
てなわけでいつも通り作品紹介からどうぞ。
作品紹介
貧困にあえぐテキサスの町で、計画的に銀行を襲う兄弟と定年間際のテキサスレンジャーとの攻防を、独特の緊張感で描き、アメリカの闇から歴史、宗教などを巧みに会話に取り入れた現代西部劇です。
あらすじ
理性的に行動する弟・トビー(クリス・パイン)と、ある理由から父を射殺し、刑務所から出所したばかりの兄ターナー(ベン・フォスター)は、亡くなった母が遺した家を銀行から守るため、銀行強盗を計画する。
開店前の銀行を狙い、次々と襲う兄弟。
一方その頃、相棒をからかいながら仕事を楽しむテキサスレンジャー・マーカス(ジェフ・ブリッジス)は数週間後の定年退職が迫っていた。そこへ入る銀行強盗の一報に、長年の勘が冴えわたり犯人を少しづつ追い詰めていく。
トビーは、離婚した妻と息子たちへの養育費を払えないでいた。ゆくゆくは家を息子たちへ託すつもりでいた。
その話を聞いたターナーは予定にない行動をしたことで、少しづつ計画がずれていく。果たして彼らの計画はうまくいくのか、それともマーカスの御用となってしまうのか。
監督
今回監督を務めたのは、デヴィッド・マッケンジー。
イギリス出身の監督さん。
初めて知るお方です。
やはりその通りでこの人の作品1本も見てなかった。
こういう渋い作品ばかり撮る人なのかなぁ、と思ってたんですけどどうやら違うみたいです。
今まだどんな作品を手掛けてきたかというと、夫が務める精神病院で患者と惹かれあう婦人の悲しき顛末を描いたラブサスペンス「アライサム/閉鎖病棟」や、感染すると次第に五感を失うという感染症に脅かされながらも愛を育んでいく二人の男女を、ユアン・マクレガーとエヴァグリーンの2大キャストで描いた「パーフェクト・センス」、英国の刑務所を舞台に、不良少年が塀の中で繰り広げるサバイバルと心の成長を描いた「名もなき塀の中の王」などを手掛けています。
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キャスト
銀行強盗を企てる弟トビーを演じるのはクリス・パイン。
こんな人気俳優の作品が劇場で上映されないなんて!
あ~もっちゃいない!
「スタートレック」のジェームズ・タイベリアス・カーク艦長で一躍スターダム街道に乗ったクリス様。
やんちゃなカークを演じているぶんこういう哀愁漂う顔は新鮮であります。
さて彼がどんな作品に出ていたかというと、
未知なる宇宙の探索を続けるエンタープライズ号とそのクルーたちの冒険を描いた宇宙大河ドラマ「スタートレック」で主役を射止めて以降数多くの出演作に恵まれ、貨物列車のの暴走事故を防ぐべく、ベテラン機関士と新米車掌が命を懸ける姿を描いたサスペンスアクション「アンストッパブル」、「レッド・オクトーバーを追え!」などで知られる人気キャラで、分析官からエージェントに抜擢され戸惑いながらも任務を遂行していくジャック・ライアンを演じ、次回作が待たれる「エージェント・ライアン」などがあります。
他にもDCコミック映画の最新作「ワンダーウーマン」で主人公ダイアナとパートナーを組むスティーブントレバー大佐を演じてます。
スタトレの熱い思いを書き記したのでよろしければどうぞ。
トビーの兄、ターナーを演じるのはベン・フォスター。
もうこの構えと形相を見ると、「ローンサバイバー」の時の勇姿を思い出します。
主演作は少ないですが、今年で言えば「インフェルノ」でのゾブリスト役が記憶に新しいところです。
そんな彼の出演作はというと、ミュータントと人類の全面戦争を引き起こさないため、ミュータント同士の戦いを繰り広げる「X-MEN ファイナルディシジョン」で重要なカギを握るミュータント・エンジェル役を演じていたのが印象的です。
最近では、4人のネイビーシールズがアフガンでの指導者暗殺作戦中に起きた悲劇を、リアルに映し出した衝撃の戦争アクション「ローン・サバイバー」や、ツールドフランスで偉業を達成した男の栄光からの転落を描いた「疑惑のチャンピオン」では主演のランス・アームストロングを演じています。
ラングドン教授シリーズの最新作「インフェルノ」でも、その気迫ある演技を堪能できます。
そして、テキサスレンジャー・マーカス役を演じるのはジェフ・ブリッジス。
保安官姿めっちゃ似合います!
もうこの人が出れば画面が締まるし、画になる。
コメディもできる、シリアスな役もできるおまけに歌だって歌える。
長い俳優人生で培った経験値が、あらゆる映画にいい結果をもたらしてくれるまだまだ現役の俳優さんです。
彼の代表作はどんなものがあるかというと、古き良き西部を背景に田舎町で生きる若者たちの青春を描いた「ラスト・ショー」でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことで注目を浴びます。
その後、クリントイーストウッドの相棒役に抜擢され、2ひとの金庫破りと悪党たちの攻防を描いたアクション映画「サンダーボルト」、
不用意な発言で悲惨な事件を引き起こしてしまった毒舌が売りのDJと、ホームレスとの交流を聖杯伝説をモチーフに展開していくテリー・ギリアム監督作「フィッシャー・キング」、
コーエン兄弟のセンスが光ったコメディ映画で、同姓同名の人物に間違われた男が巻き込まれる事件の顛末をユーモアたっぷりな登場人物たちで彩った「ビッグ・リボウスキ」、
マーベルシネマティックユニバース第1作で、ヴィランとしてスタークインダストリーズを裏で牛耳る男オバディアを演じた「アイアンマン」、
酒と女におぼれ自堕落な生活を送っているカントリーミュージシャンの再起を描いた「クレイジー・ハート」で念願のアカデミー賞主演男優賞を受賞。
父を殺した犯人への復讐を決心した少女と2人の男による追跡の旅を描いた西部劇「トゥルー・グリット」でもアカデミー賞にノミネートしています。
そんな著名な俳優陣で送る、生き残りをかけた兄弟と悪を逃さないベテラン保安官の対決を描いた作品。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
なんて渋くてカッコイイんだ!!すたれた町と乾いた大地にカントリーソングと哀愁が漂う良作!
以下、核心に触れずネタバレします。
話は単純だけど奥が深い。
まずは率直な感想を。
派手さは全くないんだけど、犯罪に手を染めてしまうほど貧困にあえぐ兄弟と、引退間近のベテランと先住民の血を引くからかいからかわれのテキサスレンジャー2人を交互に巧みに描くことで、両者の絆の深さが随所に現れ、善悪など区別がつかず、犯罪どうこうよりも、登場人物たちの心情にに引き込まれた熱い人間ドラマでありました。
単純に追跡と逃亡だけを描いてるだけでなく、「イラクに3回も行ったのに支給がない」とか、「借金返済できます!」といった看板や、閑散とした町並み、防犯設備が整っていない銀行、野火に追われる牧場主、それが原因で後継者がいないといった背景から、かつての活気だった頃とは打って変わってすたれてしまった地方都市の現実、それとは対照的に雄大に広がる大自然がまた美しく、心をかき乱します。
そんな彼らの隅で、逞しい市民たちがユーモラスに描かれていることも忘れてはいけない。
注文の際に、いらないものは何だ?この店でこれ以外頼むやつは見たことない!と強気なおばあちゃんウエイトレスや、たっぷりもらったチップを証拠として没収されそうになるも、生活がかかってんだよ!、と保安官に啖呵を切るおかあちゃんウエイトレス、犯人逮捕に協力を仰ぐも、見つけ次第打ち殺してやると荒い鼻息を上げる中年男性、終盤では一般市民の安全など二の次で町中で銃を乱射しまくる自警団たちなど、テキサスという町がいかに銃社会であり、強く生きるプライド高い人たちの集まりだということがうかがえる、重要な役割を果たしていました。
この映画に近い作品でどうしても「ノーカントリー」が頭から離れないのですが、思い返してみれば舞台や追跡と逃亡が同じというだけで、まったく似た話ではなく。
それでも静かな中に潜む狂気だったり、保安官の佇まいといった細か部分や空気感は非常に近いと思いました。
2人の兄弟と2人の保安官
バディを描くときは、対照的でないと作品として成立しないというセオリー通り、主人公の兄弟は性格が対照的でありました。
物静かな弟トビーは、出所した兄に銀行強盗の計画に加わるよう説得し、行動に出たわけですが、まるで素人。
手を汚さず金を奪いたいがために、むやみに人を傷つける兄に説教したり、たまたまいた老人の銃を奪わずに取り上げ、カウンターの隅に置いたまま。
もちろん逃げる際に老人はその銃をすぐさま取り兄弟めがけて撃ちまくる。
実行するときもものすごくビビってる顔が目出し帽からうかがえます。
そんなビビりでも兄がガソリンスタンドで絡まれようものなら勇気を振り絞って相手をボコボコにしたりと、勝手な行動ばかりする目の上のたん瘤な兄貴に苛立ちを見せながらも兄への愛が感じられる部分が見受けられます。
逆に兄は、とにかく嫌いだった父を納屋で撃ち殺した際に逮捕され、刑務所での刑期を終え出たばかり。
背負ってるものがないからなのか、前科1犯だからなのかその行動や計画は衝動的で無鉄砲。
人質は殴るし、勝手な行動、
計画の変更、コマンテ族を小バカにするといった、やんちゃで困ったちゃん。
でも非常に弟思いな部分があり、仮住まいしていたトレーラーハウスには勝手に持ち出した弟の帽子と、少年時代の2人の写真が飾られていたり、養育費を払えない弟を見かねて予定にない銀行強盗を勝手にしだしたり、カジノでトビーのチップ狙いで口説こうとする女を追っ払ったり。
やり方に問題はあれど兄弟の絆が随所に描かれていて心を動かされます。
途中夕闇の中で酔っ払ってじゃれあう二人が微笑ましく、兄弟っていいなぁと感じるシーンでありました。
そんな二人を逮捕すべく追いかけるマーカスと後輩保安官アルベルトもまた表面上はからかいからかわれの典型的な先輩後輩コンビですが、見えない絆で結ばれていました。
アルベルトから変態だと罵られるマーカスは年がら年中アルベルトをイジり倒します。
カトリック信者のアルベルトには神なんかに縋ってんじゃねぇ!と言ったり、先住民の血を引くアルベルトに先住民のことをバカにしたことを言ったり、嫌な仕事は押し付ける、事件の先を読むと俺のペースを乱すな!と言わんばかりに怒ったりと、とにかく邪険に扱うシーンがたくさん。
そんなアルベルトに後半悲劇が訪れるわけですが、彼の行動に絆を感じました。
やはり後輩思いのベテラン保安官でしたね。
最後に事件を死ぬまで追求する決意をしたのはアルベルトのためなんだなと。
そしていじられまくりの後輩保安官アルベルト。
インディアンでカトリック教徒でサッカー好きの彼ですが、どこへ行ってもマーカスにあーだこーだ言われ、早く引退してくんねえかなこのジジイ・・・と考えてるような呆れ顔を一瞬したりもしますが、引退後の彼を気にかけている言動がまた印象的でした。
そして彼がとある町で語ったセリフ「かつて先住民を追いやった白人が、いま銀行から追いやられてようといている」はすごく刺さった言葉でありました。
何がこの事件を起こさせたのかという部分から今のアメリカの現状が感じられるところでもありましたね。
そんな両者がラストで対峙する場面は、互いの背負ってるものを下すことのない余韻の残る終わり方として非常によかったと思います。
役者たちも素晴らしい
一番のベストアクトはクリスパインでしょう。
テキサスに住む青年男性のイメージを見事に表現した姿。鼻の下にがっつり蓄えた髭と、無造作にかきあげオールバックにした髪型。
もうそれだけで十分なのに、終始浮かない顔で画面のこちら側に訴えるその表情や佇まいが、今まで演じてきた彼とは違い、動ではなく静の演技を魅せつけてくれたことで、
今後彼の代表作として語り継がれることでしょう。
兄を演じたベンフォスターも、派手で荒々しいやんちゃな兄ちゃんを見事に体現していたように思えます。
一日中酒を飲んでるせいか、何をしてもフリーダムに見える姿は「インフェルノ」の時とはまた違った彼を覗けたと思います。
銃撃シーンでもライフル銃を担ぐターナーは、上でも書いた通り「ローン・サバイバー」を彷彿とさせる緊張感ある演技だったと思います。
そして重鎮ジェフブリッジスも、こんな保安官いるんだろなぁといった風貌。
そんでもってひたすら毒舌で後輩とかけあう様は、作品にユーモアを与えることで張り詰めた空気を和ませてくれます。
最後に
きちんと背景や人物像を描くことで、追う方にも追われる方にもどちらにも心を持っていかれ、またその町の人々の行動から現在のアメリカ地方都市の置かれた問題などが見て取れる、といった単純で奥が深い1本だったと思います。
そこから読み取れるのはサブプライムからのリーマンショックで、昔以上に貧困で苦しむ人たちがそれを断ち切るべく苦渋の決断での犯罪。
大胆かつ危険極まりない発言でついに次期大統領になったトランプを応援した人たちはここにいたんだな、あの頃のアメリカに戻れと。
ネットフリックスに加入している人はぜひ見ていただきたい1本だったと思います。今やダウンロードして視聴もできますからね、マクドナルドでも視聴を推進する設備になったし。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10