ムーンライト
アカデミー賞作品賞を受賞し、世界を艶やかなブルーで染め魅了させたヒューマンドラマが、配給会社と映画館の素晴らしい配慮によって、まさかの1か月以上公開前倒し!!!
これはほんとにいいことです。
アカデミー賞授賞式で賞を獲らないと劇場公開すらされないこの日本で、こういうことがもっと柔軟に事が運ばれていったらいいなぁ、なんて願ってます。
もっと言うならば、授賞式前に公開してくれたら尚よろし。
というわけで、早速鑑賞してまいりました。
作品情報
タレル・アルヴィン・マクレイニーによる戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue(月の光の下で、美しいブルーに輝く)」を原案に、彼と同じマイアミ出身の監督の共同執筆により生まれた、ある男の3つの時代を通じて語られる、自分探しの果てに本当の自分を見つけることで他者を愛していく、感動の物語です。
本作で、ゴールデングローブ賞はじめ世界の名だたる賞で絶賛され、第89回アカデミー賞で作品賞する快挙を成し遂げました。
LGBTをテーマにしたラブストーリーが選ばれるのは史上初ということで、映画史に名を刻む作品となりました。
あらすじ
シャロン(アレックス・ヒバート)は、学校では“リトル”というあだ名でいじめられている内気な性格の男の子。
ある日、いつものようにいじめっ子たちに追いかけられ廃墟まで追い詰められると、それを見ていたフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられる。フアンは、何も話をしてくれないシャロンを恋人のテレサ(ジャネール・モネイ)の元に連れて帰る。その後も何かとシャロンを気にかけるようになり、シャロンもフアンに心を開いていく。
ある日、海で泳ぎ方を教えてもらいながら、フアンから「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」と生き方を教わり、彼を父親代わりのように感じはじめる。家に帰っても行き場のないシャロンにとって、フアンと、男友達ケヴィンだけが、心許せる唯一の“友達”だった。
高校生になったシャロンは相変わらず学校でもいじめられている。母親のポーラは麻薬におぼれ酩酊状態の日も多くなっていた。
自分の家で居場所を失ったシャロンは、フアンとテレサの家へ向かう。テレサは「うちのルールは愛と自信を持つこと」と、昔と変わらない絶対的な愛情でシャロンを迎えてくれる。
とある日、同級生に罵られひどいショックを受けたシャロンは、夜の浜辺に向かうと、偶然ケヴィンも浜辺にやってくる。
密かにケヴィンに惹かれているシャロン。月明かりが輝く夜、二人は初めてお互いの心に触れることに… しかし、その翌日、学校ではある事件が起きてしまう。(HPより引用)
監督
監督は今作が長編映画2作目となるバリー・ジェンキンス。
やべえ!!まさかの俺と誕生日一緒!!
何か運命めいたものを感じますwきっとこの作品を見て何かが変わりそうな予感。
そして今後の彼の作品に妙な期待をしちゃうんだろうなぁ。
今回が2作目ということですが、1本目は2008年に「Medicine For Merancholy」という作品を手掛け、高評価を得たそうですが、企画段階で潰れてしまい、大工をしながら稼ぎ広告会社を共同設立したとのこと。そういった下積み生活が彼の今を支えているのでしょう。
監督の作品はこちらもどうぞ。
キャスト
一応今作で一番有名な順で公式では並んでいるので、その順で。
主人公シャロンの母親ポーラを演じるのはナオミ・ハリス。
今作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートした彼女。
3つの時代に出演していたわけですが、なんとその時の撮影期間はたったの3日間!
3日で3つの時代を演じたというとんでもねー役者魂!
これを聞いて彼女が受賞すると思っていたんですが、惜しくも受賞できませんでした。
そんな彼女がどんな作品に出演していたかというと、新種のウイルスが蔓延したロンドンを舞台に、生き残りをかけた戦いをダニーボイル監督が描いたSFホラー「28日後・・・」で注目を集めます。
その後も、ジョニー・デップの当たり役である海賊ジャックスパロウの海洋アクションアドベンチャー「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」、とその続編「ワールズエンド」でティア・ダルマ役として出演。
サム・メンデス監督によって長きに渡る人気映画シリーズを原点回帰させ再びムーヴメントを巻き起こした「007 スカイフォール」と続編「007 スペクター」でイヴ・マネーペニー役としてレギュラー出演するなどして活躍しています。
ラストにまさかあなたがミス・マネーペニー!?だなんて思いもしなかったですからね。いいサプライズだったなぁ。
シャロンの父親代わりとなる麻薬ディーラー、フアンを演じるのはマハーシャラ・アリ。
彼もまた今作でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、涙をこらえながらの受賞スピーチが印象的でした。
初めて彼と認識したのはNetflixドラマ「ルークケイジ」でのコットンマウス役の時。
その時感じたのは今まで活躍してきた黒人俳優とはどこか漂ってるオーラが違うように感じました。
どこか危なげでそれでいて男前で、インテリジェンスな雰囲気も感じさせる。
勝手なイメージですが、今後彼の演技によって違ったアプローチからの黒人像がのぞけそうな気がします。
彼もどのようにして今作にまで至ったのか調べてみたら、めちゃめちゃ見てる作品に出ておりました。
老体として生まれ年を取るごとに若くなっていく男の数奇な一生を描いた「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」で、置き去りにされた生まれたての彼を育てた黒人夫婦の夫が彼だったんですね~。これはもう一度見ないと思い出せない・・・。
他にも、親たちが起こした事件を、その子供達らが背負和されていく宿命を描いた「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」では主人公ルークの子を産んだかつての恋人の今彼役として出演していました。これも思い出せぬ・・・。
そして今作でようやく花が咲いたというわけであります。
俺ちゃんと見直すからねマハーシャラ!!
ライアンもブラッドリーもかっけえんだわ。
こちらもどうぞ。
他のキャストに、青年期のシャロン役に、今後の作品での活躍が期待されるトレヴァンテ・ローズ。
フアンの恋人テレサ役に、アカデミー賞ノミネート作品「ヒドゥン・フィギュアズ」にも出演していた歌手のジャネール・モネイ。
少年期のシャロン役に、「ストレイト・アウタ・コンプトン」のアシュトン・サンダーズが出演しています。
シャロンはいったいどのような人生を送り、どのように成長し、本当の自分をさらけ出していくのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
その全ては、瞳が、背中が物語っている!マイノリティな環境で生まれた美しいラブストーリー。
以下、核心に触れずネタバレします。
これがオスカー作品か。
貧困でヤク中の片親でゲイでいじめられっ子な男が、唯一の親友に恋心を抱いていく物語を、少年期、青年期、大人の3つの時代の3部構成で展開していくヒューマンドラマでありラブストーリーであった今作。
映画で取り上げたらきっと重くなるであろうテーマを、深く掘り下げるわけでもなく、解決するわけでもない。
無口な主人公であるためにセリフや状況説明はは少なく、派手な描写や演出もない。行間を読まなければ置いてけぼりになるし疑問だらけになってしまう。
そんなとっつきにくいこの映画。
もしかしたら見る人を選ぶような作品なんじゃないかと。
やはり会場内は平日の昼間ということもあってか、年配の方が多く、同年代はあまり鑑賞していなかった。夜になれば客層も変わってくるのかな。
では実際どうだったのか。
個人的にはおおむね良かったというのが率直な感想でした。
こんなにも美しい映像なのに、鮮やかな色使いなのに、それとは反比例したシャロンの置かれた環境。
冒頭から少年シャロンのうつむいた表情やそこから視線を上げた時の、見るもの全てが敵に見えているかのような眼差しに、俺何か悪いことしたか?とまで考えるほど、彼の心は冷たく閉ざされていて。
学校に行けばいじめられ家に帰れば母親に邪魔者扱い。
居場所なんてない。
そんな彼を優しく迎えてくれたフアンとテレサのおかげで、彼は少しづつ心を開いていくわけですが。
演出や音楽
このように出だしから暗そうな話なんですが、映像はというととんでもなく美しい。
生い茂った木々から光る木漏れ日、月仮の下の浜辺、赤く怪しい光を放つ母親の部屋、青黒く光るシャロンの背中。
カラーリストと呼ばれる職人がハリウッド映画業界では最近ブームだそうですが、その代表的な作品と呼ばれているだけに、これは言葉では言い表せないくらい見事な映像だと思います。
他にも手持ちカメラで撮影したであろう、被写体を中心に360度回る撮り方や、ある視点からワンカットで追いかけていく撮り方、スクリーンいっぱいにまで顔に近づけて表情を見せつける手法。
低予算過密スケジュールならではの撮影方法ではあるけれど、監督のこだわりが見て取れるカメラワークだったと思います。
シャロンの心情はどう表現したのか。
今作では音楽が非常に効果的だったと思います。
劇中歌はどれも馴染みのないブラックミュージックやオールディな曲ばかりの構成でしたが、シャロンに何か事あるたびに流れるバイオリンの音色は、シャロンが今何を考えているのか、心の感情はどんな状態なのかを表すバロメーターとしてうまく表現されていたと思います。
緩やかに穏やかに奏でる演奏もあれば、胸を掻き毟るかのような重厚で激しく乱れる演奏。
旋律がシャロンの心拍数ともとれる音楽だったのではないでしょうか。
役者陣の演技
シャロンを演じた3人は、実際撮影時に顔をあえて合わせなかったそうです。
お互いをマネしないように。にもかかわらず、歩き方や肩の揺らし方、相手を見るときの顔、そしてうるんだ瞳。
ポスターは3人の顔を合わせたモンタージュとして映っていますが、正に3人の人間が1つになったかのような演技だった気がします。
感想の冒頭でもこれといった説明がない、といったように今映っている人物はシャロンだという明確な説明はありません。
特に大人になたシャロンは10代のころの細いジーンズなど吐けないほど筋骨隆々でパンプアップしたごつい体なのにも関わらず、瞳の奥は10代のころのシャロンじゃないか!と。
どうしてこんなにも3人が揃って同じ目をするのか。
さすがとしか言いようがありません。
彼ら以外にも、撮影期間3日間で劇的に違う容姿として演じたナオミ・ハリスも見事です。
多少のメイクはあったでしょうが、若い時の怒り狂った顔、徐々にクスリ漬けになり気分悪そうにしている顔、そして最後リハビリ施設での弱々しい老いぼれた顔。
3つの時代でここまで変われるのか、しかも短期間で!
しかも彼女はジャマイカ系のロンドン育ちだそうで、アメリカ南部の英語発音も見事にマスターしていたそうで。
役者ってスゲェなほんと。
後はやはりマハーシャラ・アリ。
彼も短い出演時間だったにもかかわらず、最後までいたかのような存在感を観客に印象付けていた気がします。
フアンは麻薬の売人でした。
登場時売人のリーダーとしての恐々とした顔だったにもかかわらず、シャロンと出会うことで屈託のない笑顔を見せるそのギャップに惚れ惚れとしてしまいます。
海での泳ぎ方を教える時、その後の生き方を教えるときの険しいながらも凛とした表情。ただただカッコイイ。
いやセクシー。
彼の演技はこれだけじゃない。
ある事で彼は悩んでしまうわけですが、その時のどうにもならない顔がまたたまらない。
アカデミー賞受賞時のスピーチで涙をこらえた、あの時の顔がふと浮かんだひと時でした。
最後に
大した感想もなく締めに入ってしまいますが、どんなに日陰で過ごしてたとしても、月の光が必ず照らしてくれる、それはいつか。
自分の心に正直なった時だ。
そうすることで思いは届き報われる。
どんなに見た目を良くしたって金持ちになったって心は決して満たされない。
シャロンは大人になってようやく理解します。
それともうひとつ、「自分の道は自分で決めろ、他人に流されることなく。」
フアンが語ったこの言葉の裏には、置かれた環境で人生を決めるのではなく、こうありたいと願い行動することで人生は変わると言いたかったのではないでしょうか。
大人になって貧困といじめから脱却したのは、この言葉があったから。
クスリの売人になったのは少ない選択肢から選んだものとも取れるけど、フアンへのリスペクトもあったんじゃないかな。
少年時代は水色をベースに、青年時代は黄色をベースに、大人時代は黒をベースに色分けしていましたが、これ全部組み合わせたら、夜と月と海ってことですよね。
ラストカットはそこに立っている少年シャロン。
彼の思いが実を結んだ瞬間があのラストで、この3つの色はそうなることへの布石だったのかなと。
巧く要約できない悪い癖が出てしまいましたが、表向きはシャロンとケヴィンのラブストーリーでしたが、読み取っていくと、自分を信じいていれば必ず報われる、といったメッセージが込められたように見えた作品でした。
いかんせんこのタイプの作品は、嫌いじゃないけど得意ではないのでまとまった考えが出ないままの感想になってしましましたが、映画館で見る価値のある映画だと思います。
補足として、提供がカルチュアパブリッシャーズなので、TSUTAYA限定レンタルになります。
レンタルでいいやなんて考えてる人、家の近くにTSUTAYAがない人は、今すぐ映画館で鑑賞しましょう!!
というわけで以上!!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10