3月のライオン 後編
はじめに
前編では、人気原作コミックの世界観を大友啓史監督がどのように映像として構築していくのか非常に楽しみでありました。
が、しかし、過去の監督作品に比べ、余計なセリフの排除の徹底や役者陣の迫力ある演技に拍手を送りつつも、原作の上辺だけをなぞったような流れに加え、一貫したシリアス路線。
非常に時間が長く感じたし、エピソードを詰めすぎて人物描写に深みが感じられない。
川本家と零の件はもっとなくちゃあいけないなと思ったし、一番の要因は原作ではかかせないユーモアの欠如。
おやつ対決くらいしか笑える描写がなく、これに関しては非常に残念だった。
ただ、これはあくまで「原作との相違」に対して文句を言うというよくある批判。
原作未読の方のほうがもしかしたらもっときちんと評価を下してるのかもしれない。
そんなことをダラダラ書いた前編の感想です。
とりあえず前編のおさらいです。
前編のおさらい
春のある日、東京の将棋会館で、17歳のプロ棋士・桐山零(神木隆之介)は、義理の父で師匠の幸田柾近(豊川悦司)との対局に勝利する。9歳の時に交通事故で両親と妹を失った零を内弟子として引き取ったのが、父の友人の幸田だった。
零は幸田家を出て、下町のアパートで一人暮らしを始めていた。1年遅れで再編入した高校では、会話を交わすのは担任の林田先生(高橋一生)だけだ。中学生でプロ棋士としてデビューした零は、史上5人目の天才ともてはやされているが、家も家族も友達もなかった。
ある時、具合が悪くなって道に倒れていた見ず知らずの零を、近隣の町に住む川本あかり(倉科カナ)が自宅へ連れて帰り介抱してくれる。その日から、長女のあかり、次女のひなた(清原果耶)、末っ子のモモ(新津ちせ)の3姉妹、すぐ側で和菓子屋〈三日月堂〉を営む祖父の相米二(前田吟)と零との温かな交流が始まる。
冬を迎えたある夜、零の部屋の前で義姉の香子(有村架純)が待っていた。妻のいるプロ棋士の後藤正宗(伊藤英明)と微妙な関係を続けている香子は、かつて弟の歩と共にプロ棋士を目指していた。二人が零に勝てなくなった時、幸田は自分の子供たちにプロへの道を諦めさせる。荒れる香子を見て零は家を出たのだが、香子も父親を避けて家をあけるようになっていた。
新年を川本家で迎える零。楽しいお正月は、皆で初もうでに出かけた神社で、後藤と香子に出くわしたことで一変する。零は香子から、もし自分が獅子王戦トーナメントで後藤に勝ったら、家に戻るという約束を強引に取り付ける。
獅子王戦─それは、将棋界の最高峰を決めるビッグタイトルの一つ。タイトル保持者の宗谷冬司(加瀬亮)と闘う挑戦者をトーナメントで決めるのだ。零が後藤に当たるには、島田開(佐々木蔵之介)を倒さなければならない。さらに幼い頃からのライバル、二海堂晴信(染谷将太)が「新人王になる」と宣戦布告した、新人戦トーナメントも待ち受けていた──。
(HPより抜粋)
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前編では、原作コミックス1巻~6巻あたりまでのエピソードを映画用にまとめた作りになっていました。
基本的なエピソードとしては、棋士としての獅子王戦と新人戦、その他リーグ戦を描き、零としての部分は、川本家での暖かな家庭味溢れるシーン、それとは反対に一人暮らしでの暗く孤独に浸るシーン、学校生活での林田先生との微笑ましいボケとツッコミ、そして幸田家にいた頃の回想シーンなどで構成されていました。
回想シーンでは、零が幸田家で育っていくところから始まり、当時の零の心境、また香子がグレていくきっかけなどを要所要所で回想シーンとして描くことで、零が将棋でしか生きていけなかったこと、その存在によって父親から将棋人生を絶たされる香子のつらさなども映し出しています。
また、学校生活でも林田先生との絡みがちょくちょく挟まれたり、二階堂との友情、さまざまな事情を抱えた棋士たちとの試合、といった小さなエピソードを描くことで零が人とつながっていくことの大切さを感じ、成長が伺える内容となってました。
そういった零個人の視点から描かれた(主人公なんで当たり前ですが)前編でした。
果たして後編はどのような展開になっていくのでしょうか。
そんなわけで、後編のあらすじ。
後編 あらすじ
「もう1年になる? 桐山君が初めてこの家に来てから」とあかりに言われ、「お世話になってます」と頭を下げる零。今では川本家の家族の一員のように、3姉妹と自然に食卓を囲んでいる。
今年も獅子王戦トーナメントの季節が始まるが、零の周りの棋士たちに様々な試練が降りかかる。まずは幸田が、頭のケガで緊急入院して不戦敗となる。引きこもってゲームばかりしている歩を叱ったら、反対に突き飛ばされてしまったのだ。香子も派遣もバイトも続かず、後藤への想いを持て余し、幸田家は崩壊へと向かっていた。
一方、後藤は入院中の妻の容体に心を痛め、実は難病を抱えている二海堂はそれでも闘いたいと願っていた。初タイトルを目指す島田は故郷の山形の人々の期待に押し潰されそうになり、将棋の神の子と恐れられる宗谷でさえも、ある重大な秘密を抱えていた。
そんな中、川本家にも次々と事件が襲いかかる。ひなたのクラスでいじめが始まり、さらに3姉妹を捨てた父親が現れ、耳を疑う要求を押しつけたのだ。大切な人たちを守るため強くなるしかない。新たな決意のもとトーナメントに挑む零。愛することを知った零の闘いの行方は──?
(HPより抜粋)
後編では、零以外にもさまざまな試練が訪れるようです。そこで零はどう行動するのか、また肝心の将棋は勝ち進んでいくのか。原作連載中の中、どう結末を迎えるのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
なんとか上手く完結させたものの、ちと駆け足すぎやしないかい?
以下、核心に触れずネタバレします。
免疫ついた
原作6巻から12巻までをベースに、新人王戦優勝後の記念タイトルである、宗谷との対決、ひなたに降りかかる問題、川本家に現れた父、そしてオリジナル脚本を組み込み、さらに葛藤を重ねる零がまた一回り大きく成長していく青春群集劇でした。
個人としては、前編に対して原作の時系列バラバラだ!とか、顔アップ多過ぎ!とか、ああだこうだ文句を言ってましたが、後編に関して言えば、前編を観たことで大友マジックに免疫がついており、ある程度フラットな感覚で鑑賞できたと思います。
後編は、原作の時系列バラバラなどの改変はなく、順を追ってエピソードが繋がっており、ここでそうくるの⁉︎といった驚きもないまま先読みできるけど、そう決着するかぁ、とある意味納得しながら目くじらたてず観させてもらいました。
前後編で連載中であるこの物語をどう終わらせるか、製作するにあたってかなり試行錯誤したんだと思います。
なぜならば、後編にあたる6巻から12巻まで登場人物はだいぶ絞られており、香子と後藤のその後も無ければ、後藤の奥さんの容態もない。
二階堂も島田もほとんど顔を出さないし、師匠の幸田も歩も出てこない。
出てくるのは、映画の登場人物で言えば、川本家と宗谷がメインなのでこのままの流れでは、前編で語られた原作に登場しないキャラの決着がないまま終わってしまう。
だから、原作にはない獅子王戦の決勝の相手が後藤だったり、宗谷戦の零のアフターケアに島田や二階堂が出てきたり、幸田家のゴタゴタなど全てカタをつけてまとめたのは良かったのかな、と。
細かい点を言えば、前編であまり絡まなかった川本家が中心に描かれていたこと、その中の小さな部分が原作通りだったことは嬉しかったです。
次女ひなたが学校でいじめられてる友達を庇ったことで、標的が自分になり学校生活の中で厳しい立場に遭っていること。
辛くて悔しくて涙し、家を飛び出したひなたを零が守ると誓う場面。
そこでフラッシュバックする零のいじめられていた頃の記憶。
そして、勝手によそで子供を作って出ていった父が戻ってきたことで、不安な川本家を零が守ろうと突っ走るエピソード。
原作では一番盛り上がるエピソードなので、ここ省かれたら後編どこが面白いんだよ?と思っていた所なので嬉しかったですね。
ひなたが学校でいじめられてることを知ったあかり達が、彼女を励ましたりする中での食卓に、原作通りひなたの好きな唐揚げやマカロニサラダが並んでいたり、ちゃっかりネコが3匹になっていたり。
お祭りで三日月堂が出店して祭りを盛り上げるシーンもありましたし、ちゃんとひなた考案の新作お菓子も出てくる。
そうそう、この新作お菓子を川本3姉妹があれこれ考えてるシーンでの、ワクワク感!これがあったのも良かった!
お餅の中に何入れる?では、モモちゃんがちゃんと「ガム!」と言ってくれたww(できればしたり顔ドアップで欲しかったw)。
こういった原作での小さな細かい設定やエピソード、どうでもいい部分あっての3月のライオンだと思っている自分としては、前編よりも組み込まれていて非常に微笑ましい場面でした。
それでも駆け足だった後編
そんな細かい設定やエピソードに喜んでいたもの束の間。
せっかく川本家のゴタゴタに零が大活躍する流れにもかかわらず、ここからオリジナルの展開に運ばれていくのは、いささか原作無視し過ぎやしないかい、と。
まず、いじめられてるひなたがどのように解決されていくか。
こんなことで学校生活から逃げたら、いじめのリーダー高城の思うツボ、私のやったことは決して間違ってない!後悔しない!と決意表明するひなた。
もちろんこの後教室で啖呵をきって手をあげなかったり、担任の先生がぶっ壊れて学校側が本腰をあげる、までは原作通り。
ここで原作なら学年主任が出てきて高城やクラスの生徒にグサグサ的を得たことを言うところが個人的には痛快だったのですが、実際は本腰をあげた学校側が一人一人面談をして高城を追求するところでこのエピソードは終わり。
う~ん・・・もうちょっと時間割いてほしかったですねぇ。
特にこの学年主任がバッシバシ物言う場面がホント痛快で。
原作だったら、3年の夏休みに担任が代わってしまうことにぶーぶー文句言う生徒たちに、「お前らがほったらかしにしてきた代償なんだから、それくらいのことは覚悟しとけよ」みたいなことを言って黙らせるんですね。
他にも、一向に反省しない高城を何度も呼び出して、心の弱点を突こうと試行錯誤するシーンとかあったりして。
正直、この時点でひなたはいじめは解決してるので必要ないっちゃあ必要ないんですけどね。
そして、問題の川本家の父、通称妻子捨男と零の直接対決です。
原作では、満面の笑みで自分勝手なことを平然と言う捨男に対し、よそ者にもかかわらずとことん情報収集し、弱点をついて真っ向勝負する零。
極めつけはひなたと結婚する宣言w
もう完全に勝つことだけに執着した零の新たな一面が見られる面白くもあり、捨男の軽薄でめんどくさい、なるようになる、それは誰かの犠牲の上で成り立ってることを気づかせる、これまた痛快なエピソード。のはずなんですが。
本編では、結婚宣言するものの、その後倒れたひなたが礼をいって零くんとなら・・とまんざらでもない様子を浮かべる表情もなければ、モモを幼稚園から勝手に連れて帰る捨男に憤りを感じた零があらゆる法的手段を使っててでもあなたと川本家を切り離すと、男らしい部分を見せつけるシーンからオリジナルな展開になってしまう。
よくよく考えてみれば、他人なのでそこまででしゃばるのはどうかしてるし、3姉妹できちんと話し合って今後どうするかってのはごくごく普通の流れなので原作の方がとんでもない展開なんだけども。
しかも、そのような運びになることで、一度家庭を壊してしまったと思い込んでる零が、お世話になってる家を守るためにとった行動を否定されたことで、再び居場所を無くしてしまい、自暴自棄のまま師子王戦決勝を迎えるって流れは悪くないんですが!
ここもファンとしては、原作通り零の面白おかしいしかもカッコイイ部分を見せてほしかっただけに、流れが悪くない分、認めたいけど認めたくないジレンマが生じた部分でありました。
何が悔しいって、この盛り上がるエピソードが本編では案外あっさりカタがついちゃうことなんですよね。
確かに将棋がメインで零がメインなんで、彼が将棋も人間も成長するのが一番大事なんですが。
ここで端折った分、後藤の奥さんの様態が悪化し結果亡くなってしまうこと、その時の試合中の後藤の葛藤、そこから師子王戦決勝に向けて香子と縁を切り将棋に集中すること。
香子は荒れて幸田に八つ当たりするところ。幸田は歩と格闘しケガして入院してしまうこと、などのエピソードを加えることで、それぞれの登場人物に問題が生じ解決していくオリジナルの流れに時間を使っていて。
ここも実はあっさり解決しちゃう。
結局香子と後藤はそのままだし、幸田が香子に説得するシーンも、そんな昔の事今更言って解決するんならもっと前に言えたでしょパパ!!と。
ここも実は零が解決するのが筋だったりしないか?と。
で、師子王戦決勝で後藤と対決するんだから、前編であれだけ敵意むき出しで勝ったら香子を取り戻すって話はどこ行った?と。
両者とも忘れてませんか?香子の事。
てか、零と香子が一緒にいるシーン1つしかなかったよ?
前編であれだけ絡んでたのに。
せっかく時間使ってオリジナルのエピソード入れてるんだから、もっと素敵な展開にしてほしかったですね。
まとめ
原作好きが故に、それと映像作品との違いにあれこれそうじゃない!っていうのは見方が違うとわかっているし、逆に未読の状態でこの作品をもう一度見たい気持ちがあるわけですが、先入観は消すことはできないわけで。
きっとほかの見方ができたと思うんです。
しかしながら、もうこれはこれで一つの見方として自分が思ったことを書かせていただきました。
結果前編よりも後編の方が、いろんな登場人物のフォーカスが当たっているし、零以外の登場人物にもハッピーエンドが描かれてる点においては、これで完結と謳っていることもあり良かったことだと思います。
欲を言えば、島田や二階堂にももっと出番をあげてほしかったですね。
もう欲張りで我儘な感想ですよww
あそこいらない、これ原作通りやれ、もっとあいつの出番増やせ。
そんなことやったらただでさえ後編155分もあるのにもっと長くなるわww
あぁ俺監督向いてないなきっとww
とにかく!
将棋しかない状態になった零と後藤がタイトル戦を席をめぐって争う試合にもっていく流れはクライマックスとしては申し分ない展開でした。
勝敗は結果、愛なんていらねえよ、か、愛をもっとちょうだい、のどちらかが勝敗の別れ目だったってことで。
ちなみにエンディングテーマで流れる藤原さくらの「春の歌」はナシです。
あいつ歌うまいと思ったことがない。
そのままスピッツでよかった。
しょうがない、事務所ごり押しの抜擢ですから。
アミューズ強いなぁ。
失言失礼しました。
というわけで以上!あざっした!!
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満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10