美しい星
日本映画だとSF映画って予算の都合上難しいんですけど、なにも宇宙でドンパチやったり、宇宙人が出てきたり、超能力バトルばかりがSFではなくて。
まぁこれもどちらかといえばヒューマンドラマの域だとは思いますが、ある日宇宙人に覚醒した家族って時点でSFですからね。
しかも地球を救う使命を授かるわけですから一体どんな話になるのか、もしかしたらすげー難しい話なのか。
いや、笑う要素のほうが大きいだろww
というわけで、早速見てまいりました。
作品情報
昭和を代表する作家、三島由紀夫が記した異色のSF小説を、近年の作品が軒並み賞レースにノミネートするほどになった監督が、時代背景を現代にアップデートし、ある家族を通じて、現代を生きる人間を鮮やかに活写する。
果たしてどんな人間賛歌が描かれているのか。
あらすじ
その手で、美しい星・地球を救えると信じた、とある平凡な“宇宙人一家”の悲喜劇。
“当たらない”お天気キャスターの父・重一郎(リリー・フランキー)、野心溢れるフリーターの息子・一雄(亀梨和也)、美人過ぎて周囲から浮いている女子大生の娘・暁子(橋本愛)、心の空虚を持て余す主婦の母・伊世子(中嶋朋子)。
そんな大杉一家が、ある日突然、火星人、水星人、金星人、地球人として覚醒。
“美しい星・地球”を救う使命を託される。
ひとたび目覚めた彼らは生き生きと奮闘を重ねるが、やがて世間を巻き込む騒動を引き起こし、それぞれに傷ついていく。
なぜ、彼らは目覚めたのか。本当に、目覚めたのか――。
そんな一家の前にひとりの男が現れ、地球を救う価値などあるのかと問いかける。(HPヨリ抜粋)
監督
監督は吉田大八。
はい、みんな大好き「桐島、部活やめるってよ」の監督さんですね。
他にも、宮沢りえの「紙の月」なんかも作ってます。
特に桐島はブルーレイも購入するほど大好きな作品なので、その分監督の作品て新作出るたび期待しちゃうんですけど。
でもですね、彼のデビュー作「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」のブラックユーモア満載の作品も好きなんで、ああいうテイストの作品そろそろ復活してくんないかなぁと。
そう、だから、近年の作品て彼のコメディ色をあまり感じなかったんです。
今作は予告こそシリアスな話のように感じるのですが、果たしてその中身は。
ほとんど彼の作品挙げてますが、改めて彼の代表作を。
都会に上京するも売れなかった、我侭で自意識過剰で自己愛の強い姉が巻き起こすブラックコメディ「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で監督デビューします。
その後も、付け鼻をつけてアメリカ人大佐と偽り、何人もの女性を騙した、実在した結婚詐欺師を描いたコメディ「クヒオ大佐」や、海辺の田舎町に離婚して戻った主人公の恋や友情をコミカルに描いた「パーマネント野ばら」などを手掛けていきます。
そして、学校の中心人物が突如いなくなったことで、生徒達の人間関係が徐々にこじれ、結果振り回されていく青春映画の傑作「桐島、部活やめるってよ」で、日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞をはじめ、その年の賞レースを席巻し話題となりました。
桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2013/02/15
- メディア: Blu-ray
- 購入: 6人 クリック: 326回
- この商品を含むブログ (109件) を見る
こちらもどうぞ。
キャスト
宇宙人一家の長、お天気キャスターの火星人、大杉重一郎を演じるのはリリー・フランキー。
昨今の日本映画で、ちょっとおかしい、狂ってる、詳細不明な叔父さんという登場人物を誰にキャスティングするか。
そんなキャスティングの順番を決めるマニュアルがあるとするならば、間違いなくこの人の名前が1番に挙がっていることは間違いないでしょう。
おそらくそれを決定付けたのは「凶悪」でのケタケタ笑いながら人をいたぶるクズっぷりがホントにヤバいやつに見えて仕方なかったから。
そもそもこのリリーさん、役者畑のひとではございません。物書きであり、絵描きであり、写真も撮り、作詞作曲もこなし、バラエティでも存在感を放つ。
そんでもって俳優もこなしちゃう。なんでもできちゃう超マルチタレントさんであります。
なんなんだあんたは。
今作も突如火星人として覚醒したお父さんをどんな風に演じるのか。楽しみであります。きっとおかしく演じるんだろうなぁ。
そんなリリーさんの代表作をざっくりと。
役者としてブレイクした作品はおそらく「ぐるりのこと。」での出演でしょう。
優柔不断だけど優しさ溢れる性格の夫を好演していました。
その後も「オレって正確でしょ?」という名ゼリフを生み出した「モテキ」、子供を取り違えられた大所帯夫婦の主として出演した「そして父になる」、戦争下で飢餓状態の敗残兵が狂気に満ちていく「野火」、高校生漫画家コンビを叱咤激励する編集長を熱演した「バクマン。」、スキャンダルを追いかけるカメラマンに情報を流すも、終盤凶変し観衆をぞっとさせた「SCOOP!」などなど、彼の出演遍歴を振り返ると、いいお父さんか狂気に満ちた役どっちかっすねw
大根仁監督作品は皆勤賞ですww
こちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
重一郎の息子で、メッセンジャーのフリーターである水星人・一雄役に、地元じゃ負け知らずなジャニーズの野球バカ、最近は山Pと公私べったりの亀梨和也。
重一郎の娘で、大学生の美女の金星人・暁子を演じるのは、「桐島、部活やめるってよ」や「寄生獣」、最近は「PARKS パークス」が話題の、昔にに比べてだいぶ太っちゃったけどやっぱりかわいい橋本愛。
重一郎の妻で、専業主婦の地球人・伊余子役に、「北の国から」の蛍から云十年、最近は山田洋次監督の「東京家族」、「家族はつらいよ」と立て続けに出演、ガリガリすぎて養命酒のCMがハマりすぎてこわい中嶋朋子(元オセロじゃないよ)。
一雄が師事する参議院議員の秘書・黒木克己役に、「超高速!参勤交代」や今年は「3月のライオン」での胃痛持ちな苦労人・島田八段がめっちゃぴったりだった、独身俳優最後の砦のラクダ顔、佐々木蔵之介が演じます。
公式HPの監督のコメントに、この原作を古典にしないために現代風に更新したことは最大限の敬意だと語っています。
そして最後、かなり笑えます。と添えてます。
そうか、笑えるのか。
これは予想に反して面白そう。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
何だ観終わった後のふわふわした感じ。
あれこれギリギリの線で描かれた、地球と家族の話でした!
以下、核心に触れずネタバレします。
なかなか難しい話。
突如宇宙人に覚醒した家族たちが、互いを思いやり絆を深めていくミクロな部分と、今後の地球の未来に関わる環境破壊問題、地球温暖化などのマクロな部分をうまく融合させたSFヒューマンドラマでした。
最初こそバラバラな家族が覚醒し、みんな自分勝手に明後日の方向に向かっていくけど、結局家族をまとめるのが地球人であるお母さんで、みんなを受け入れて家族として成立させていく流れが、宇宙人に目覚めようとも人間の家族なんだからって言ってるような気がして良かったですね。
しかしながら、地球人抜きで地球の話をするなどの、なんともクソまじめなのかふざけてるのか判断できないギリギリのラインで展開していく物語に、個人としては楽しさ半分つまらなさ半分といった複雑な気持ちで見終えた、というのが感想です。
原作未読なので、何をどう変えたのかのかとかはさっぱりなのですが、そもそもこの話、現代に置き換える必要があったのか?というのが大きな疑問として残りました。
というのも、結局人間が素晴らしい、家族って素晴らしいというような終わり方で幕が下りるし、地球はこれからどうするべきかという物語の核となる部分に明確な答えは出ないまま終わってしまう。
ならいっそのこと原作をそのままの時代設定でやった方が、当時の状況や問題、歴史などを振り返りながら鑑賞でき、映画を楽しめたんじゃないだろうか。
なんてことを考えてしまったわけです。
まぁ、原作をそのまま映画にしたやつも見てみたい、っていう単純なことです。
笑うとこなのか、まじめなとこなのか。
覚醒した後のリリーフランキーと橋本愛の、世間とずれてる感覚で演じてる様も非常に滑稽でした。
人間としての重一郎は、息子とも険悪で、仕事にやる気もなく、アシスタントのお天気お姉さんと不倫している、いかにも一家の主とは呼べない人。
そんな人があるとき光を浴びてから、宇宙人に興味を持ち、自分はアブダクションされたのか疑問に思い始める。
ニュース番組での自分の出番の直前、火星に水が流れていたことが分かったというNASA発表のニュースで映った火星に、なぜか涙を流し始める重一郎www
いいですね~wここは笑えるところだったんじゃないでしょうか。
それからお天気コーナーの時間、適当に明日の天気を説明した後、フリップをもって、世界各地の湖が干ばつしている、日本もこのままだとそうなるぞ!太陽系連合からのメッセージです!この動きを止めるのは我々地球人の使命です!!
はい、決めポーズ!!!
はい、ここも笑うところですww
ここからどんどん彼の行動がエスカレートしていくわけですが、そもそもお天気キャスターの役をリリーフランキーがやるというだけですでに可笑しいww
どんなにきっちりした格好で明日の天気を語っても、信憑性がかんじられないとか、うさん臭さが顔に出てて、実際こんな人テレビで使わないでしょww
こんな感じで笑えたらきっと本編も楽しめることでしょう。
暁子演じる橋本愛もミステリアスな美女だけど、段々わけわかんないこと言い始める感じが面白かったですね。
あまりにもきれいだから、授業の後教授から、私のゼミに参加してよ、春休み私の研究手伝ってよ、なんて下心見え見えの誘いを振り払ったあと、ミスコンに出てよ、君なら準ミス以上は保証する、と広告研究会のロン毛野郎に声をかけられる。
自分の美にコンプレックスを抱いてる彼女だからこそ、そういう見た目から寄ってくる人たちに嫌悪感を抱き、まわりの人を遠ざけてしまってるんですねぇ。
そんな彼女がなぜ?なぜ?サラッとしか聞いてないストリートミュージシャンを気に入り、CDを買い、彼のホームタウンである金沢まで足を運んでしまうほどのめりこんでしまうんだいwww
その歌にシンパシーを感じ、彼と共にUFOを呼びよせ、金星人へと覚醒していく暁子。
彼には実は裏があるんですが、そこは見てからのお楽しみ。
これ知った後、妙に彼女が笑えてくるんです。
何故にそんな奴にシンパシー感じて覚醒してしまうんだww
それは妄想の域なんじゃないか???と。
その姿を大真面目に演じてるんですから、まじまじと見ちゃうと思うんですけど、笑ていいとこなんでこの2人の演技は柔軟に見るといいかもしれません。
他にも、お母さんがどんどんマルチ商法にはまっていくところや、一雄が言われる「いい顔だけど所詮フリーター」とかまされるシーンは必見ですw
クライマックスも好き。
一番好きなシーンは、重一郎が番組内での言動に対し謝罪したあと、息子の一雄、そして秘書の黒木とディベートしてくシーンなんですが。
この3人すごくまじめに地球のことを語ってるんですけど、ニュースを読むスタジオでやってるんですね。
しかも、まわりには司会者とスタッフが大勢いて。
これを誰も止めないっていう構図が既に面白いww
とまぁ、偏った見方もできるんですが、この3人が語ってるどれも間違っていない意見だからグッとくるというか。
重一郎は、環境問題に今から真剣に取り組めば間に合うからみんなで何とかしようという意見。
それに対し息子の一雄は、そうやって大人は好き勝手やってきて次の世代に押しつける、大人たちがしたことは大人たちで解決しろよと投げかける。
でも重一郎は責任は次の世代にも受け継がれていくんだから、お前が何もしなくていいとはならないと反論。
そこへ黒木登場。
彼は、裏で参議院議員を操っており、環境問題よりも限りある資源を使い切ってしまった今の地球人のために、別のエネルギーを推奨しようとしてました。
さらに黒木はもう地球は手遅れだから一度滅ぼして何百万後に生まれ変わればいいという持論を展開します。
自然はお前らのためにあるんじゃないと。
膨大なセリフの量だったのでこんな感じのことを語っていたんだと思います。
これもっと長回しで役者同士がやりあったらもっと面白かったのに!と思うほど。
で、たまたまtwitterから流れてきた監督のインタビュー記事を読んだんですが、このシーン、ある特撮ドラマのシーンを意識して作ったそうです、
それがウルトラセブンの第8話「狙われた街」。
ある街で、次々と豹変し、狂気に駆られた人たちが人々を襲うという事件が多発。
ウルトラ警備隊の隊員たちにも被害が及び深刻な事態に。
原因を追求するダンとアンヌが怪しい人物を追跡すると、それはメトロン星人による地球侵略の罠だった、というお話。
この回で有名なシーンがこれ。
なんと宇宙人がちゃぶ台を挟んで真面目に地球の話をするというもの。
めちゃめちゃシュールですよねw
私もウルトラセブンが大好きなので、このシーンはよく覚えてます。
しかも今作の予習でこの回観てから行きましたから。
今見返すとカットがいちいちカッコよくて、夕日をバックに戦うシーンも素晴らしく、今でも語られるわけだよなぁと改めて感じました。
ラストも皮肉なナレーションで締めるというのもオツなものでしたし。
話はそれましたが、これ地球人と宇宙人の対話じゃないのはわかりますでしょうか。
右はモロに宇宙人ですが、左はウルトラセブン=モロボシ・ダンとい仮の姿なので、どちらも宇宙人が明らかに変な場所で、地球人抜きで真面目に地球の話をしているという、今作と全く同じシチュエーションになっているんです。
ダンは重一郎の立場ですかね、どちらかというと。
この地球はまだ救える!みたいな。
でもって、メトロン星人は、人間が信頼し合っている気持ちを利用し、お互いに不信感を抱かせ破滅させる、そうすれば特に危害を加えることなく我々が侵略できる、というような、無理矢理ではありますが黒木側の意見ですよね。
まさかこのシーンを映画に取り入れるという発想が素晴らしいですよね。
原作の時代もウルトラセブンが放映された1970年代という関連性もあり、うまいなと。
このクライマックスを見た後にウルトラセブンをみると面白いかもしれません。
最後に
決してつまらないわけではないですが、作品の裏にどんなメッセージが発せられているか読み取るのが、私のようなバカにはちょっとハードルが高くて厳しかったです。
しかしながら、宇宙人に覚醒にしなくとも、何かに感化され、目覚めそれに向かって使命を全うしていくことは日常においてもありうること。
もしそれが達成されずとも、受け入れてくれる人がいる、そしてまた立ち上がり
戦おう、僕たちはこの世界で生きていかなければならないのだから!
By桐島、部活やめるってよ
と、強引に監督過去作と結びつけましたが、色々と解釈できる作品だったと思います。
いつも通りうまくまとまりませんが、この辺で、
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10