20センチュリー・ウーマン
T-REXの名曲「20センチュリーボーイ」では、お前の20世紀は俺だぜ、俺はおまえのおもちゃだ!という内容の歌でしたが、それとかけたようなお話なのでしょうか。
あんたにとっての母親はあたしだけだぜ!!みたいな。
きっとちがうだろうなw。
今回これを見たいと思ったのは、公式ホームページがめちゃオシャレでアートなつくりに惚れてしまったためであり、予告見て云々てわけじゃないんです。
他にも音楽がすごく物語を彩ってそうだったり、15歳って微妙なお年頃の男の子がどんな夏を過ごすのかってのを描くわけですから、こういうのを夏が訪れる前に見るってのがまたいいなぁと。
まぁ、前置きはこのくらいにして、早速鑑賞してまいりました。
作品情報
自身の父親を題材にした映画「人生はビギナーズ」が絶賛され、名を知らしめた監督が、今回は自身の母親を題材に製作。
1970年代後半の南カリフォルニアで、3人の女性と様々な経験をしていくうえで、大人へと成長していく少年を描く。
今作で批評家から絶賛評をもらい、その甲斐もあって今年度アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。
あらすじ
1979年、サンタバーバラ。
シングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)は、思春期を迎える息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)の教育に悩んでいた。
ある日ドロシアは、ルームシェアで暮らすパンクな写真家アビー(グレタ・ガーウィグ)と、近所に住む幼馴染で友達以上恋人未満の関係、ジュリー(エル・ファニング)に「複雑な時代を生きるのは難しい。彼を助けてやって。」とお願いする。
15歳のジェイミーと彼女たちの特別な夏が始まった。
(HPより抜粋)
監督
監督は、マイク・ミルズ。
見よう見ようと思って何年も見ていなかった監督の前作「人生はビギナーズ」。
さすがに新作見る前にどんな作風なのか予習しておこうということで見てみました。
いや良かったよ!!
母の死後、ゲイをカミングアウトした父が、病気になりながらも人生を謳歌していく姿を、そばで見ながら自分自身の人生を見つめなおしていく息子の恋の行方と成長を淡々と物語っていく作品。
ハイ、もうなんといっても犬がクソかわいい!!!
父が飼っている犬を息子が引き継いで飼うんですが、とにかくかわいい。
しゃべる(正確には黙った状態で字幕が出る)。
留守番させると吼える。
そんな犬を放っておけないユアンマクレガーがかわいいw
でもって、戯れるメラニーロランが最高にかわいい。
物語もピアノジャズを主流とした音楽やどこかモダンアートな作風。
やはりグラフィックデザイナーという肩書きも持っているからでしょうか。
はにかんでしまうような小さなユーモアから、幸せそうな光景が続くのに、常に主人公の悲しみが付きまとう。
たとえその瞬間が幸せだったとしても、どこかちらつく寂しさが潜んでいて、なんともいえない空気感。
始めからうまくいかないと思ってる人生を送ってる人に、小さなエールを送った映画です。
今作は監督自身の父を思った作品ですが、劇中の主人公の母親が「20センチュリーウーマン」に通じていそうな雰囲気だったので、それは鑑賞後の感想で言及したいと思います。
キャスト
シングルマザーのドロシアを演じるのは、アニット・ベニング。
私の中で彼女の作品といえば「アメリカン・ビューティー」です。これ超好き!!
アメリカの中流家庭の闇をシニカルに綴った、ミステリー調のお話。
これをイギリス人のサムメンデスが監督してるってのが既に面白い。
劇中に散らばる赤という赤にたくさんのメタファーが織り込まれており、シンメトリーを基調とした構図、あまりにもこぎれいな家屋が不気味さを漂わせ、ザ・アメリカの核家族の見せ掛けの幸せとそこに宿る孤独を、無駄に美しく描いてます。
娘の友達に本気で恋するハゲ親父のケビンスペイシーが、少しずつマッチョになったり、妻のご機嫌取りをやめ、急に俺様気取りになる様は痛快。
そんな夫に、すでにでかいのに豊胸願望の娘が明らかにミスキャストなのがウケるし、妻のアネットベニングも成功したい願望から不倫に走り、隣家の軍人親父と、その親父の前ではいい子ちゃんだけど悪いことし放題の息子。
みんなみんな仮面をつけて過ごし、その仮面がはがれたときの清々しさが面白い。
個人的にはオールタイムベスト級に好きなので、アネットつながりではありますが是非見て欲しい1本です。
ちなみにアネットはこの作品でアカデミー賞主演女優賞にノミネートしています。
ほかの作品はこちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
ルームシェアしている女写真家アビー役には、「フランシス・ハ」(これも超好き)でお馴染みグレタ・ガーウィグ。
ドロシアの息子、ジェイミーの親友以上恋人未満ジュリー役に、「夜に生きる」「ネオンデーモン」のエル・ファニング。
ドロシアとアビーとつながりのある大工ウィリアム役に、「君が生きた証」「ウォッチメン」のビリー・クラタップ。
ドロシアの息子で15歳の高校生ジェイミー役に、今後の活躍が期待されるルーカス・ジェイド・ズマンらが出演します。
監督の作風が、前作で非常に好みだったことがわかり、ちょっと期待値が上がっております!!
果たしてジェイミーにとってどんな夏になるのか。今作もアートな内容なのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
前作同様アートチックな演出がキレイ!!!
母と息子物語以上に、フェミニズムな話だった!
以下、核心に触れずネタバレします。
画はほんとキレイ。
「人生はビギナーズ」では、父と子の人生観の物語だったのに対し、今作はシングルマザーと息子のお互いを想うあまり、思いのすれ違いを描いた物語でありました。
特に目が行ったのは、お話し云々の前に、サンタバーバラの街並や、登場人物たちのファッション、小物や、音楽などなど、あらゆる所で監督の演出が際立っていたこと。
冒頭から見下ろす海辺の絶景はもちろん、その海沿いを走る車や、スケボーで遊ぶたまり場、浜辺、クラブ、バー、そして彼らが住む住居などを、デジタルな映像にもかかわらず、太陽の木漏れ日をうまく多用した、温もりのある映像や質感でした。
これ見たらサンタバーバラってどこにあるかわからないけど、今度旅行してみたい!!なんて思う女子が急増するんじゃないかってくらいキレイです。
そして前作同様、小物や当時の映像や写真、あらゆる画像をパッパッと映す、いつもの演出も今回登場。
監督このパターン好きっすねw
そんな監督のこだわりはカットにも現れていて、オープニングでドロシアが長年愛用していた車が、スーパーの駐車場で燃えているカットも美しく。
車が走るシーンでは必ず七色のプリズムの残像で加工してたり、ジュリーがセラピーを受けている部屋をドアの外から映すカット(このカットは前作でも結構使われてました)、部屋の壁の配色、物思いにふけるドロシア一つとっても何だかおしゃれに見えてしまう非常にアートでおしゃれな映画だったのではないでしょうか。
音楽も素晴らしい。
その物語の時代背景を非常にうまく演出していたのが音楽だったと思います。
今作では、ジャズとパンクロックが劇中で頻繁に流れていて、ジャズはドロシアがこよなく愛す音楽として、パンクロックはジェイミーやアビーがこよなく愛す音楽として、彼らが登場するたびに流れていました。
ジャズはルイ・アームストロングや、エンディングでの「カサブランカ」のテーマ曲としても有名な「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」などが流れており(序盤、親子二人でカサブランンカ見てるんですよ)、
パンクロックはというと、劇中では軟弱派扱いされていたトーキング・ヘッズ、それとは対照的なハードコアバンド、ブラック・フラッグ、デヴィッド・ボウイなどが流れ、物語を彩っていました。
正直この時代の音楽にそこまで詳しくありませんが、パンクロックが現していた心情は、劇中でアビーが語っていたように、技術を情熱が上回ることで観衆に訴えていたとあって、思春期真っただ中のジェイミーや、病気に対して葛藤していたアビーの心情を代弁しているような使われ方をしていたと思います。
それに対しドロシアが聞いていたジャズは、どこか自分の幼い頃の時代を美化したような、ノスタルジックに浸っていたような、逆に今の時代って難しいなぁ、みたいなそんなドロシアの気持ちを代弁していたように思えます。
母と息子
そんな二人の溝を埋めるために、同居人であるアビーと、ジェイミーと親しくしているジュリーに、息子の親代わりになってほしいと頼むドロシア。
そもそもドロシアは、息子に対し寛容な教育をしていたように思えます。
息子が学校をさぼったら、なぜサボっちゃ悪いのか、とか、銀行の口座をまだ子供のジェイミー名義で作らせようとしたりだとか。
夜遊びしても頭ごなしに叱らない。
むしろ今度はご飯作らなくて済むから出かける前に一言言ってとか。
ただジェイミーが何を考えてるかわからなくなる事件が起こることで、ドロシアは考えてしまうわけです。
55歳のドロシアにとって、15歳の男の子をどう手なずけるか。
ただでさえ難しい年ごろなのに、自分は3倍以上年を取っていることもネックになり、悩むのもしょうがない。
というわけで、2人に彼を託すわけですが、息子は息子でちゃんと成長しているんですよね、親の知らないところで。
逆に息子ジェイミーはジェイミーで意外と自分の事を話さない、介入させてくれない母親に苛立ちを覚えていて。
しかも親代わりを他人に頼んでしまう母親の考えが、さらに分からなくなって余計に腹が立ってしまう。
このすれ違いがなんとも歯がゆい。
タバコは体に毒とか言っておきながら、なぜ自分はスパスパ吸ってるのか(タバコは粋だそうですw)、
父親との離婚後、なぜ新しい相手を探そうとしないのか、そんな人生でいいのかよお母ちゃん、と。
ジェイミーもジェイミーなりに母親の事を心配しているのに、なかなか伝わらないのがもどかしい。
この苛立ちを晴らすために、ジェイミーは外で色々なことに触れていきます。
好きなパンクロックのライブに車でロサンゼルスまで足を運び見に行ったり、アビーに連れられ、クラブでビールをかっくらいながら年上の女性と話してみたり、ジュリーと車で遠出したり。
そんな中でジェイミーは性に対し興味を持ち始めます。
妊娠検査薬というものがあるということ、
オーガズムとはどういうものなのか、
なぜジュリーは誰彼構わずセックスに勤しむのか。
女性に対してのもてなし方や接し方もアビーから教わったりなんかして。
この経験によって、イカセ自慢する男と揉めるって構図がまた面白いし、それを罪悪感なしに、お母さんにケンカの原因を話すってシーンはケタケタ笑ってしまいました。
お前に恥じらいはないのかwwと。
まあこの年頃の男の子なら、この辺は無駄に熱心に勉強しちゃったりするわけで。
でも、彼にとっていいことだったのは、男から教わるんじゃなくて、年上の女性から教わるっていうこと。
この経験は自分にはなかったので、ある意味彼の将来は、女性の視点に立って物事をおわかってあげられる起点にもなったんだろうなぁ、と想像しちゃいましたね。
だけど夢中になるジェイミーを知った母ドロシアは、アビーやジュリーに対し、刺激が強すぎると嫌悪感を抱きます。
ここもまた難しいとこで、「立派な男にしてほしい」というドロシアからの大雑把なお願いを、アビーやジュリーは、性に対してや、カッコイイ男に焦点をあてて教えていたんですよね。
きっとドロシアはそんなことじゃなく、外の世界にいるジェイミーが、道に外れないように正しく成長してくれるとを望んでいたんだと思うんだけど、実際はそっちの方ばかり夢中になっていくジェイミーを見て、いかん!と思ったんでしょう。
物語は、そんなすれ違いの母子が最後に理解し合えるひとときが訪れることで幕を閉じていきます。
決してドラマチックではないけれど、その一瞬は、当時の自分と母を見ているかのような、どこか懐かしくあり、どこか愛おしくある一瞬だと感じました。
最後に
ジェイミーの周りの女性たちや、同居していたウィリアムのこともきちんと描かれています。
子供が生めないかもしれないことに悩むアビー、家庭環境に悩み、男に走ってしまうジュリー、自分から積極的に女性と向き合えないウィリアム。
少ない登場人物たちの生い立ちや、焦点をあてる部分を複雑にせず、シンプルに描くことで丁寧に説明している部分が、非常に好感を持てる作りだったように思えます。
そこから見えるのは、いつまでたっても男は男の子な感じや、女性の逞しさ、素晴らしさといった女性讃歌。
監督は、自身の少年時代を基にこの映画を作ったそうですが、大人になった今、あの時育ててくれた女性たちを讃えたいと思い、作ったんだと思います。
そして世の思春期男子を持つお母さん方、この映画を見て安心してほしい、と思春期などとうに過ぎた私からのアドバイスでございますww
そしてもうひとつ。
一緒に添い寝してくれる男性を求める、いわゆるソフレ男子を求める世の女性たちよ。あれは男をダメにするだけだ!
てか、男ならそんなんで満足するな!
と、この映画を見て思いましたw
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★ 6/10