サムライマラソン
今回鑑賞するのは、日本で始めてのマラソンは江戸時代末期だよ~ってことを描いてると思いきや、マラソンの最中に城が危ない!よし急いで戻ろう!!って話。
なんだそらw
って思うでしょ。
でもメンツが豪華。
時代劇でこんなメンツなのに、な~んか日本の時代劇っぽく見えないんだよなぁと思ったら監督が外国人でした。
そうか、みんな彼の作品に出たいから集結したのかぁ。なるほどねぇ。
一体どんな映画なんでしょうかね。
早速鑑賞してまいりました!!!
作品情報
侍の時代が終わりを告げようとしている幕末。
現在の群馬県安中市にあった安中藩主が、武士を鍛えるために始めた日本で最初のマラソン大開催という史実を元に、「超高速!参勤交代」の土橋昌宏がエンタテインメント性を加え書き上げた小説を映画化。
これを「ラストエンペラー」や「戦場のメリークリスマス」、「十三人の刺客」などをプロデュースしたジェレミー・トーマスが中心となり、日本映画界を背負って立つ豪華俳優陣が集結した。
また監督はじめ、音楽衣装などスタッフもアカデミー賞受賞経験者という布陣で製作し、日本の、しかも幕末を舞台にした世界基準のエンタテインメントを誕生させた。
ペリーによって開国を迫られた幕府に不満を抱く安中藩主の計らいで催されたマラソン。
何でも望みを叶えるという副賞目当てで、参加者はそれぞれの思いを胸に走っていくのだが。
武士の心を錆らせてしまった侍たちが、本当の侍へと変貌を遂げていく痛快時代劇です。
あらすじ
260年間、日本は国を守るために鎖国してきた。だが、それもいよいよ終わりを迎えようとしていた。
1855年、幕末。幕府大老の五百鬼祐虎(豊川悦司)は、黒船でアメリカからやってきた海軍提督ぺリー(ダニー・ヒューストン)と面談し、和親条約という名の開国を迫られる。
安中藩主の板倉勝明(長谷川博己)はアメリカは口では和平を唱えているが、日本への侵略が目的だと疑っていた。
「国と藩を守らなければいけない」と腹を決めた勝明は、藩士たちの心と体を鍛錬するために「明日、十五里の遠足を行う」と宣言する。
「優勝者はどんな願いも叶えられる」と聞いて、藩士たちは色めき立つのあった。
そんな中、城内で騒ぎが持ち上がる。勝明の娘の雪姫(小松菜奈)が、城を抜け出したのだ。
芸術的才能に恵まれた雪姫は、江戸へ出て絵画を勉強し、いずれは異国へも渡りたいと願っているのだが、父からは厳しく反対されていた。
重臣の息子で、傲慢な辻村平九郎(森山未來)を婿にとって藩を治めるよう命じられ、強い決意のもと逃げ出したのだ。
城下の人々の間では。早速誰が1着になるかの賭けが始まった。
藩で一番足が速いのは、足軽の上杉広之進(染谷将太)だと誰もが知っていた。上杉は両替商の留吉に茶屋でおごられ、1着にならなければ10両渡すと八百長を持ちかけられる。
1着とお金とどちらをとるか頭を悩ませる。
ところが、その夜、江戸城では、安中藩の人々にとって、絶体絶命の司令が下されていた。
以前から勝明を「何をするかわからん」ものだと警戒していた五百鬼が、安中藩の遠足を“謀反の動き”と見て、アメリカの最新式の拳銃を携えた刺客を放ったのだ。
翌朝、五百鬼の企みに気づいた男がいた。
彼の名は唐沢甚内(佐藤健)、安中藩に仕える勘定方は仮の姿で、実は代々幕府の隠密として、不穏な動きを察知したら直ちに報告する役目を負っていた。
藩の上司の植木義邦(青木崇高)にはもちろん、妻にさえ打ち明けてはならない秘密だった。
だが、何かを感じた妻の結衣(門脇麦)は、密かに忍びの武器を着物に仕込んだ夫に、「どうかご無事に」と声をかけるのだった。
それぞれの思いを抱えた参加者たちが、出発地点に集まってくる。
どうしても娶りたい雪姫は消えたが、虚栄心から不正をしてでも1着をとろうと気合を入れる辻村。だが、その背後には、遠足に乗じて江戸まで行こうと計画し、男装身を隠した雪姫がいた。
守護番を解雇された栗田又衛門(竹中直人)は、最後にひと花咲かそうと、亡き親友のまだ幼い息子と出場する。
太鼓の音が響き、開始の掛け声で、一斉に元気よく飛び出す藩士たち。
だが、ほどなく刺客たちも到着し、まずは関所が襲撃される。幕府か藩か揺れる中、愛する者たちとは、すべてここで出会ったことに気づいた甚内は、仲間たちに危機を告げ、一刻も早く城へ戻ろうと全力で走り始める。
果たして、甚内は大切なものを守れるのか?
そして、ゴールのその先に待つ日本の未来とは?(HPより抜粋)
監督
今作を手がけるのはバーナード・ローズ。
「アカデミー賞スタッフが贈る!」って宣伝文句、あれ日本人でアカデミー賞取った人って思うじゃないですか。実際そうなんだけども。
だから監督も日本人て思うよね、時代劇だし。
そしたら監督、外国人でしたよw
これにはびっくりでした。
日本での映画が初とは。
これもいいきっかけってことで、サクッと代表作をご紹介。
「マネー・ウォーズ」という映画でデビューした監督は、都市伝説を研究していた女子大生に起こる恐怖を描いたホラー映画「キャンディマン」がカルト的人気を誇り脚光を浴びます。
その後偉大な音楽家の知られざる苦悩と秘めた思いを弟子の視点で進んでいく軌跡を描いた「ベートーヴェン/不滅の恋」、世界の文豪トルストイの名作「アンナ・カレーニナ」、19世紀に活躍した異端の天才ヴァイオリニストの愛と狂気の人生を描いた「バガニーニ/愛と狂気のヴァイオリニスト」など、ホラーから音楽家のドラマなど幅広く手がけております。
キャスト
主人公の隠密・唐沢甚内を演じるのは佐藤健。
もうこのブログでは散々彼について書いているので、特に何もありませんが、一応撮影監督が「るろうに剣心」の方だそうで。
隠密ってこともあり、それなりにアクションを見せてくれるんじゃないかと期待しております。
彼に関してはこちらをどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
雪姫役に、「恋は雨上がりのように」、「来る」の小松菜奈。
辻村平九郎役に、「モテキ」、「怒り」の森山未來。
上杉広之進役に、「きみの鳥はうたえる」、「KU-KAIー美しき王妃の謎」の染谷将太。
植木義邦役に、「来る」、「モリのいる場所」の青木崇高。
栗田又衛門役に、「くちづけ」、「マンハント」の竹中直人。
五百鬼祐虎役に、「ラプラスの魔女」、「後妻業の女」の豊川悦司。
板倉勝明役に、「シン・ゴジラ」、「半世界」の長谷川博己などが出演します。
イギリス人監督が時代劇を撮るとどんな化学反応が生まれるのでしょうか。
よくハリウッドでは日本を変な風に描くことがありますが、予告の段階ではそれらしき部分は見当たらず、カットの構図も邦画っぽくない気もします。
そういう意味では新鮮味を感じ期待が持てますが、お話はいかがなものか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
いや、これ中々の珍作!
外国人監督が時代劇を撮るとここまで質が変わるんか!
マラソン侍たちが泥臭く血なまぐさい姿が美しい!
以下、核心に触れずネタバレします。
時代劇も開国すべきだ。
1855年、黒船ペリー来航により和親条約を結ぶかどうかという瀬戸際の時代を舞台に、藩士の強化を図るために遠足(とおあし)を催す安中藩に起きてしまう不測の事態を、これまでの時代劇の常識を一切取っ払うかのようなカメラアングルや劇伴、鮮明な映像によって泥臭く血生臭い藩士たちの姿を捉えながら、アクションやユーモア描写も忘れないエンタメ要素も含んだ、中々の珍作でございました!!!
僕は豪華キャストに外国人監督の時代劇という点で今回興味を持ち鑑賞したんですが、どうしても外国人が時代劇?いやぁ~大丈夫?設定とか情緒とか時代設定とか、などなど世界が見る日本の侍を屈折して見ていないかな?という不安がありましたが、全然問題ありませんでした!!
時代劇なんだけど日本臭さが全くなく、いわゆるヨーロッパ調のアート性が垣間見えた作品とでも言いましょうか。
何というかお決まりの展開、というのがどこにも用意されてないんですよ。
例えば途中チャンバラ的展開があるとするじゃないですか。そういう時はアクション多めでゴリゴリの音楽が流れて、でもって拮抗しながらもぎりぎりで勝負あり!みたいなシーンてどの時代劇にもあると思うんです。
でもこの映画にはそういうチャンバラ的展開はない。
ならず者が急襲した時は、斬り合いなどせずとりあえず畑に逃げて体を隠し、一瞬のスキをついて仕留める。しかもあえてスローモーションで描く。
佐藤健VS青木崇高という「るろうに剣心」の剣心VS佐之助って夢のマッチも、低いカメラアングルから被写体の周りを縦横無尽に追いかけ、青木演じる植木が佐藤演じる唐沢を追い込んだ際に、唐沢が一瞬のスキをついてとどめを刺す。
他にも帰りの戦の中で森山未來演じる辻村が,息も絶え絶えな中で刀を振り回す姿をスローモーションで描くことで、彼の呼吸をまじまじと感じるし、溜めた力で振りかざす渾身の一撃がめちゃめちゃカッコイイ。
このように結構要所要所でスローモーションを多用することで、彼らの息遣いをものすごく感じられるんです。
そしてひとつひとつのカメラの構図も時代劇チックではないのが新鮮。
例えば、冒頭。
姫と殿のファーストカットは二人が対面している姿を横から撮ってます。
日本の時代劇ではあまりこの構図見ません。どちらかが背を向けて会話するのが多いかな。で、この横で映す構図がペリーと五百鬼とが浦賀でのシーンでも使われている。
この二つを続けて映すことで、互いの主張が巧く通らない、そんな風に感じさせるのを強調していたかに思えます。
他にも、又衛門がきのこ売りの子供の家を訪ねた際、子供の母親の美しさに見惚れる又衛門をいちいちカメラで抜かずそのまま回しっぱなしで映す。
居間での又衛門と母とのやり取りの際、後ろの戸を開けて置くことで奥行きが生まれ、その後ろで子供が木をまとめ、ゆっくりとズームインしていく最中に、外からおなかをすかせた雪姫が入ってくる。ここまでの流れをカットなしで描いている演出が見ていてうまいなぁと。
他にもならず者との戦いの中で、弓矢によって命を落とした藩士の顔を超クローズアップして撮っているんですが、雨が降りしきる中血まみれの状態で死んでおり、その顔をカマキリが這っているんですね。
これがねぇ儚さを堪能できるショットだなと。美しいんですよとにかく。
この画だけでも僕は観てよかったと思ってます。
基本的に最近の日本映画は寄りが多すぎます。
表情をアップで映すことで、さも見ているこちら側の人間が入り込みやすくするための手法だと思うんですが、逆を言うと背景を撮ることができない人なんですよ。
もっと言うと後ろで動いているエキストラや役者に芝居をつけることができない。
さらに言えば背景に重きを置いていない。
しかし諸外国のクリエイターは背景も後ろに映る役者陣にも気を配って撮影しています。
この日本映画におけるワンパターンな構図をこの映画では一切やっていません。
ちゃんと自然を美しく撮り、そこに映る被写体をいきいきと捉えています。
例えば役者がマラソンしている姿を寄りで撮りません。
何人かが競い合っている姿を気持ち引きで撮るんですね。他にも帰りの道で急いで城に戻る際は森の中を走るんですが、ちゃんと手前に木々を挟みんで被写体を映しているからちょっとしたスピード感があります。
ならず者との一触即発のシーンも揺れる稲穂を掻き分ける藩士を引きで撮ることで自然とマッチした画になっていて、時代劇ではあまり見ない画に徐々に引き込まれることでしょう。
そして忘れていけないのが結構グロテスクなシーンが多いということ。
この辺容赦ねえな!と。
最近古い時代劇を立て続けに見ていた自分としては、昭和の時代劇では当たり前のように映されていた生首の生々しさに慣れていたので、この映画で驚くことはなかったのですが、結構生々しいです。
例えば行方をくらました雪姫を探すために馬で走る辻村が、雪姫の着物を持っていた乞食を見つけた途端首チョンパするんですね。ここしっかり映してます。
しかもまたニクイことに、首チョンパして飛び散った血が稲穂にキレイにしみついてるところまで映すんですね。こういう細かいところが抜け目ないなぁと。いやらしいなぁと。
これが伏線となったのか、自分の側近である岡島が実は隠密だったことを知った辻村は、彼を馬で追いかけ見つけた途端これまた首チョンパするわけです。
こっちは転げ落ちた首が逆さの状態で口から血を吹き出しながら映っており、マジマジと死に様をカメラでとらえているんですよね。
このようにひとつひとつを嘘くさく感じさせない侍の躍動と死に様に、監督ならではの「美」が多く含まれたシーンがたくさんあったように思えます。
とはいえ話はツッコミが多い。
ひとつひとつのカメラの構図や映像の美しさに惚れ惚れした時代劇でしたが、肝心のお話は色々とっ散らかている印象はあります。
例えば、唐沢が仕事をしている勘定方の上司、植木は隠密だったことが分かります。
一番ケツのグループにいた植木は、疲れて立ち止まって一番ビリになり、一人になったところを見計らって道の端に隠しておいた馬で、ならず者たちの元へ向かいます。
そしてならず者を見つけ合図を送るんですが、このならず者たち、実はまだ安中藩の中に入ってないんですね。
この後彼らは関所の外からやってきて門番を殺しまくるんですけど、その時に、ん?なんで?と感じてしまいまして。
要は植木は関所の外まで馬で向かったことになり、まだ関所にたどり着いてないトップグループの辻村や上之進達よりも早く向かっていることになる。
なんかおかしいんですよ。
他にも雪姫は藩の一般人に扮してマラソンに参加するんですが、関所の人間にはすぐばれちゃうんですよ。
スタート前に通行手形を発行してもらってる際に、それを渡したスタッフは気づいてない様子でしたが、なぜか門番にお達しが来ている。
しかも唐沢や辻村は彼女にあった途端すぐ気づくんですけど、殿の近くで働いていた又衛門は彼女と共に走ったりご飯食べてるのに全く気づかない。
うん、変です。
また辻村の側近の岡島は隠密だったことがわかるんですが、彼はなぜ走っている途中で辻村を裏切ったのか理由がわかりません。
何かしらの伝達事項でマラソンの最中にならず者が城を襲うということを聞いていたと仮定して、なぜ走っている最中に辻村たちをあそこで葬ろうとしたのかイマイチピンときません。
あそこで辻村に感づかれたのならわかるんですが。
というか行きの最中に籠を使ってショートカットする際に殺してしまえばよかったのに。
あとは最後。ならず者のリーダーハヤブサが、殿の元へやってきて銃を構えます。
殿はなぜか強気なんですね。
殿の気持ちとしては今城ががら空きだけど、奴らはすぐ帰ってくると。だからお前に殺されるわけがない的なことを言うんですよね。
いや彼ら60キロ走ってるんですよ、そう簡単に帰ってきませんよ。
しかもハヤブサは、なぜかそこで殿を仕留めず、彼らの帰りを一緒に待ってるんですよね。いや何のためにもったいぶってんだよw。
とまぁ、色々目につく話のおかしい部分でございました。
最後に
あとは色々ユーモアが感じられるシーンもあって、ペリーがやってきた時に通訳の中川大志が、彼の声がどもって何言ってるかわからないので、ゆっくり話してもらうように聞いてみますと五百鬼に言うんです。
で、お願いすると中川大志はオランダ語で話してるわけですよ。
ペリーはこいつ何言ってるかわかんねえよ、と。
他にも又衛門演じる竹中直人が、竹中直人らしいしつこい主張や体を張ったシーンがあって彼によって緩和がもたらせれた瞬間でもありました。
キノコ売りの子供に走り方を教えるシーンは、段々又衛門というより竹中直人じゃんw、とか、走っている最中腰痛が悪化するんですが、それを走りながら背骨をバキボキ鳴らして気合い入れて走る姿が妙に笑えるし、あとちょっとでゴールという時になぜか服を全部脱ぎだしてふんどし一丁で走ったりと、あなたそこまで目立つような役柄でないでしょうとw。
多分これを「超高速!参勤交代」の本木監督とか、「殿、利息でござる!」の中村義洋監督とかが撮るともっとコミカルになるんでしょうけど、藩のために死力を尽くした侍たちの勇姿を描くとなるとシリアスさが足りないのかなと。
僕は外国人監督が時代劇を撮ったことは、これはこれでよかったと感じます。
珍作ではありますが。
物語もそれぞれの思惑がある描写を短時間でしっかり描いているので、全然問題ないです。
姫をもらいたいためにズルをしてでも1位を獲りたい辻村。
遊女を妻にしたい侍の夢、もう一花咲かせたい又衛門。
足の速さが取り柄の足軽が、賄賂を渡されることで目先の金か念願の夢が揺れる広之進。
父親の厳しさ故に自分の夢を叶えられない姫の単独行動、そして自分の見誤りが原因で藩のピンチを招いてしまった唐沢の苦悩。
100分程度の上映時間が非常に濃密でございました。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10