モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「子供はわかってあげない」感想ネタバレあり解説 高校2年生、真夏の大冒険!

子供はわかってあげない

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あらすじ

 

高校2年、水泳部女子の美波(上白石萌歌)はある日、書道部男子のもじくん(細田佳央太)との運命の出会いをきっかけに幼い頃に別れた父親の居所を探しあてる。

 

何やら怪しげな父(豊川悦司)にとまどいながらも、海辺の町で夏休みをいっしょに過ごすが。。。

 

心地よい海風、爽やかに鳴る風鈴。…超能力!?

そして、初めての恋に発狂しそう!

 

お気楽だけど、けっこう怒濤の展開。
誰にとっても、宝箱のような夏休み。はじまりはじまり~。

 

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感想

オフビートなユーモアを散りばめた真夏の大冒険!

物語もいいけど、工夫された撮影と演出がお見事でした!

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

沖田監督はやっぱり良い。

ひょんなことから出会った同級生の男の子殿、若干ぎこちない感じがありながらも距離感を縮めていく流れから、新興宗教の教祖である実の父親捜しに至るまで、高校2年生の夏休みに起きた素敵な出来事の模様を、監督特有の凝った長回しや奥行きをしっかり意識したカメラワーク、そしてセリフのセンスや「間」を活かすことで心地よいテンポを生む技術が冴えわたった本作。

 

近年の監督作品と言えば、「モリのいる場所」や「おらおらでひとりいぐも」のように、年配を主人公にした作品を手掛けてきました。

どちらも可笑しみのあるおじいちゃんやおばあちゃんだけど、年を取っているからって卑屈にならない姿が凄く印象的な作品だったように思えます。

 

今後もお年寄りを主体にした作品を作り続けていくのかなと思ったら、コミックの実写化で、しかも青春モノ。

恐らく監督が手掛けた映画の中で画は一番若い層を主人公にした作品なんじゃないでしょうか。

 

ふたを開けてみれば、いつもの監督作品(褒めてますよ!)。

冒頭から「あれ?オレ映画間違えた?」と疑ってしまうかのようなアニメーションから始まるんです。

どんなアニメかって「魔法左官少女バッファローKOTEKO」ってなんじゃそりゃw

 

セメント伯爵が置き去りにしたであろう子供たち(モルタルとコンクリってw)を引き合わせたKOTEKOの姿を、画面に食い入るように見つめ涙を流す主人公美波。

後ろでは手巻きずしのシャリをうちわで覚ますお母さんに、ヒロから出てパンツ一丁ではしゃぐ小さい弟、そして帰宅しては美波と一緒にKOTEKOを眺め、娘と一緒にエンディングテーマを歌い踊るお父さん。

 

なんて素敵な家族やねん。

 

この冒頭のシーンが非常によくできてます。

最たる理由は「長回し」。

時折父と娘を収めたカットに変わりはするものの、恐らくそのまま撮影している感じがします。

何が良いって、リビングからキッチン、風呂場までの導線をカメラに収め、家族全員がただずっと立ってるだけじゃなく、あちこち動き回るから、そのままカメラが回っていても飽きない工夫をしてるんですよね。

 

弟は「何コレ最終回!?ねえ最終回!?」とパンツ一丁ではしゃぎながら、お母さんの手伝いをし、お母さんは涙を流す美波にお父さん経由でティッシュを渡したり、弟にシャリを覚ます手伝いを申し出るなど、後ろに立っていながらちゃんとお芝居している。

美波とと父はKOTEKOを見つめながら感極まって踊り出し、父はアニメが終わった後に「ただいま」と告げることでアニメに没頭している娘をさりげなく気遣っている。

さらにお父さんはこの後お風呂に入りに行くんだけど、シャンプーハットがない事をお母さんに告げるんですね。

ぶっちゃけお父さんカメラに映ってないんだけど、しっかり「シャンプーハットがない」っていう、大人なのにシャンプーハットってwwって笑いを生み出しており、そこから「のりまきちんちん」なる弟へのいたずらを仕掛ける娘を中心に家族全員が和気あいあいとしている風景を、ひたすら長回しで見せるわけです。

 

なんて楽しい家族なんだ、そしてその姿を飽きさせないように動きからセリフから計算して見せている。

冒頭から「なんだこの尊さと巧さは!」と感極まってしまいました。

 

ただ役者を立たせて会話してる姿を、固定カメラで撮影してるだけの監督はマジで見習ってほしいと切に願うシーンでもありました。

 

 

監督の巧さはこれだけじゃないです。

特に屋上で門司くんと出会ってから1階の廊下で別れるまでのシーンも長回し。

KOTEKOが好きという共通の趣味ができたことで、ひたすらKOTEKOトークをしてるんですけど、ここもゴールまでの時間配分を計算しながら、お互いがセリフでやり取りするわけです。

ここも見事だし、何よりKOTEKOってそんなに面白いアニメなの?と思わせる2人の夢中な会話に観衆は集中するので、長回しであることが全然気にならない。

 

他にもGOPROを使って撮影したであろう水泳部での部活のシーン。

美波の視点で背泳ぎしてるんですが、彼女泳いでる時つい笑ってしまうそうで、そのための伏線になるような視点になってるという細かい仕事ぶり。

 

まだまだあります。

奥行きにも凝った演出をしてるんですが、特に気になるのがエキストラの配置。

門司くんちからバス停まで歩いてく道中に、色んな人が外で何かしてるんですよ。

会話自体は「1年前に送られた謎のお札」が実の父親の所在に繋がる重要な中身なんですが、映像的には後ろで子供たちが校庭の外の道で何やらしゃがんで遊んでたり、自転車でどこかへ向かうお母さんたち、集会所の外で机を出して何かしているおじいちゃんおばあちゃんたちと、とにかく主人公2人の奥で無関係の人たちがしっかり「生活」をしてる姿を見せてるんですね。

そうすることで主要人物たちが実際に生活している風景としてカメラに収まっており、フィクションだと思い込ませない工夫になってるのではないかと。

 

何よりキャラに血が通ってるような作品になってたと思うんです。

 

 

セリフの面白さもたくさんあるんですよね。

夏休みの間だけ書道教室の講師をしている門司くんのもとを訪ねた美波。

習字をみてもらいながら、実の父親のもとへ向かう報告をする美波と門司くんの会話。

「暗殺気を付けて」、「うん、暗殺気を付ける」ってぶっちゃけ同じこと言ってるんですけど、ここに本気で心配する門司くんと習字に集中し過ぎるあまり「暗殺」と書いてしまうギャップ感の表れと、新興宗教の教祖って一見怪しい臭いがするのに「実の父親だから大丈夫っしょ」的な安心感しか抱いてない美波。

 

トヨエツ演じる実の父親がなぜ新興宗教の教祖になったのかを明かすシーンでは、「人の頭の中が覗けるんだ」という能力を若干小バカにしてる思いを、同級生への電話で「なんかヤバそうだよね~でも面白そうじゃ~ん、とりあえず泊まっていく~」と軽く語るあたりも、美波という人物の性格を現す感じになってると思うんですよ。

 

他にも、真面目な話を聞いてしまうとつい笑いが止まらなくなってしまう美波は、部活の顧問が真面目に話してる時に、つい吹き出してしまうんですが、これも終盤への伏線になってるし、顧問の先生の「な!」ってクセね!

こういう先生いるいる!ってなるし、監督らしさがにじみ出たキャラづくりになってましたよね。

 

あとは何だろな、それこそ「のりまきちんちん」なんてパワーワードだったり、お母さんが頻りに「OK牧場」やら「藪からス、スティックに?」といった一昔前のギャグを使ったり、「新しいバンテリンカバンに入れといたから」なんてごく自然な会話なんだけど脳内では「バンテリンww」となってしまう可笑しさだったり、門司くんのおじいちゃんに「門司くんいますか?」といったら「門司くんです」と返すおじいちゃんのナイスボケだったり、「オナクラ」って一瞬どういう意味?ってのも、さらっと相手が「同じクラス」という正しい言い方を自然に会話に入れることでわからない人でも理解できる会話になってたし、とにかくすっげ~細かいとことなんだけど、これが積み重なっていくことで確かなユーモア描写になっていく辺りが、面白さを生み出してるんですよね。

 

もちろん「笑い」に関しては人によっては合う合わないがあるんでんすが、沖田監督作品を見てる人なら、この小さな笑いの量が伝わるのかなと。

 

 

真夏の大冒険

物語に関しては、育ての親によってすくすく成長し多感な時期を迎えた少女が、実の父親に会いに行くという、一見重たそうな内容なわけです。

 

でも産みの親のあっての美波で、育ての親がしっかり育てたからこそ、ラストの美波の涙が凄く美しく思える物語だったんじゃないかなと。

 

普通さ、まだ物心もついてない時に産みの親と別れたわけだから、高校生って難しい年頃の子が、いざ10数年ぶりに本当の親に会ったら、例え数日過ごしたとしてもぎこちなかったりすると思うんですよ。

でも育てた親があれだけ優しいわけですから、彼女もいい子に育ってるわけですよ。

 

確かに初日はどこかよそよそしい感じがするんだけど、食事を摂る度に距離を縮めていくわけですよ。

もちろんお父さんの努力の賜物の部分もあるんだけど思春期の少女ですから、絶対構えるはずなんです。

 

昼寝してる時に起こされるや否や海パン一丁で「俺にも泳ぎ教えてくれよ」とかヤバいじゃないですか。

実の父親とはいえ。

きゃああ~~って言って逃げるけど、普通に楽しんでるし。

 

たった数日で空白の時間を埋めていく美波は、「わかってあげない」ことで再び実の父親に会いに行く理由を作っている、そんなタイトルに感じます。

それを気付かせてくれるのはお母さんの言葉なんだろうな。

美波の部屋でお母さんに合宿と偽って何をしたのか問い詰められるんですが、お母さんは怒りません。

美波も正直に話し、嘘をついたことへの罪悪感とお母さんが許してくれたこと、さらには「また会いにってあげて」と告げられることで、濃密な夏の間に成長を遂げるのであります。

 

また父親との数日の間にスマホを水没させてしま多ことで連絡が取れない美波を心配した門司くんが、彼女に会いたいあまりについ「会いたくて来ました」といった一言が、彼女の心の中で秘めていた思いを確かなものにさせます。

海中から出てきたのに、それを言われたことでもう一度潜るって行動が、もう甘酸っぱいんですわ。

 

実の父親に会いに行った出来事によって、好きな人までできてしまうほどの大きな大きな出来事。

何か劇的なことが起こるわけでもないし、ドラマチックにさせる葛藤も急転直下の展開が待っているわけでもない。

少女と少年、少女と実の父親とが、ぎこちない会話から一気に距離を縮め、確かな関係性を築いていくだけの話。

そこに至るまでの過程がとにかく優しくて可笑しい。

それだけで映画になってしまう監督とスタッフ、キャストの力量。

夏に見てほしい1作でした。

 

 

最後に

今回のトヨエツは素晴らしかったですね~。

目が鋭いから「新興宗教の教祖」って設定に説得力が出るんですよね~。

でもふたを開けてみたらしっかり中年太りした優しいお父さんで。

このギャップによって初対面時の気まずさみたいなものが生まれるし、距離を縮めることで父親本来の姿がしっかり見えてくる。

小さい時にお父さんをできなかったから、結構カッコつけるのがまた泣けますよね・・・。

美波にもその姿を見せるし、門司くんと酒を飲み交わすシーンも「お前が娘をさらっていくからだ」って大袈裟かと思うけど、この先娘と暮らす未来はないわけで、そう考えた時に婿が娘を貰いに来るなんてないわけですよ。

今やらないでいつやるのと。

 

他にも黙ってテレビ買って来たり、スーパーの後ろで耳トントンして水を出す癖も娘と同じだったり、KOTEKOも揃えてたり、美波が帰った後に見てたり、好きな食べ物を聞いてから夕食を振る舞ったり、とにかく久々の再会によって「お父さん」をしていくトヨエツのさりげない演技が際立った作品でもありました。

 

あとはそうだな、カルメン序曲を栗コーダーカルテットっぽくアレンジした劇伴もクスっとさせましたよね。

あの間の抜けた感じがハマってましたw

あとあれよ、小田和正の「ラブストーリーは突然に」をパクったかのような曲は何よw

あれは笑ったw

どこで流れるかはご自身でお確かめください。

すぐ気づくと思いますw

 

物語以上に監督の技巧が優れた映画だなぁというのが今回一番印象に残った作品でしたね。

もちろんお話も素晴らしいです。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10