雨の中の慾情
片山慎三がすげぇ!!
って話は「岬の兄妹」公開辺りから聞こえてきたんです。
でも、俺「後乗り」みたいなのが凄く嫌で。
せっかく乗るなら、みんなが盛り上がる前かみんなが盛り上がってる時でないと、なぜか躊躇してしまうんです。
別に映画だけでなくて、ありとあらゆる「トレンド」にはそういう傾向がある。
だから「岬の兄妹」を見ていなかったんですよ。
で、「さがす」も評判良かった。
もちろんスルーしました。
でもさすがに、観るモノが思い浮かばなくて、仕方なく「ネタ」的に見てみたんですけど、ちゃんと面白かったんです。
その流れで今度はディズニー+で「ガンニバル」ってドラマがヤバいと。
あ~これはまだ「後乗り」になってないから見ちゃうか、なんて自分に甘々なジャッジで見てみたら、これがまぁ~凄かった。
というわけで、どんどんハマっていってる片山慎三作品の新たな映画が公開ということで、これは「後乗り」はいかん、と俺のトレンドアンテナが作動したわけで、早速観賞してまいりました!!
作品情報
アジア映画で史上初の米アカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト半地下の家族」のポン・ジュノ監督の助監督として彫りを積み重ね、長編映画デビュー作「岬の兄妹」で日本映画界に衝撃を与えた片山慎三監督。
「さがす」や、国内はおろかアジア圏で高く評価された「ガンニバル」など、センセーショナルな作品を一歩と世に送り出してきた奇才の次なる作品は、デビュー70周年を迎える「ねじ式」「無能者」等で知られる伝説の漫画家・つげ義春による短編の映画化。
「雨の中の慾情」は絵コンテのまま発表されたつげ義春ならではのシュルレアリスム作品で、2024年に欧州最大規模の漫画祭であるフランス・アングレーム国際漫画祭で歴史に残るべき作品に授与されるプリデュPATRIMOINE(遺産賞)にノミネートされた。
本作は、そんな奇才と奇才のコラボを、昭和初期の日本を感じさせるレトロな町並みが多い台湾中部の嘉義市にてオールロケを敢行し、「ドライブ・マイ・カー」でも知られ、「ガン二バル」でも組んだ大江崇允が脚本協力で参加。
つげ義春の原作を起点に、さらに映画的ラブを軸に、スリラー、ホラー、コメディ、アクション、ヒューマンドラマと、一本の映画でありながら ジャンルを超越、全く先の読めない規格外のストーリーテリングで、限界な現実に背を向けるほどに性愛に翻弄されてしまう瞬間と悲哀を先に描き切る。
知っていた時々、出所がわからず、なのに狂おしいほど切実な感情に支配されている……。
キャストには、「スマホを落としただけなのに」での怪演が評判を呼んだ成田凌、「愛の渦」の中村映里子、「ヒメアノ~ル」、「白鍵と黒鍵の間に」の森田剛、「十一人の賊軍」の松浦祐也、「もしも総理大臣が徳川家康だったら」の竹中直人などが出演する。
物書きと漫画家希望の男2人と離婚したばかりの女1人。
そんな3人による奇妙な共同生活。
どのように愛が渦巻くのか。
(公式より抜粋)
あらすじ
貧しい北町に住む売れない漫画家・義男(成田凌)。
アパート経営の他に怪しい商売をしているらしい大家の尾弥次(竹中直人)から自称小説家の伊守(森田剛)とともに引っ越しの手伝いに駆り出され、離婚したばかりの福子(中村映里子)と出会う。
艶めかしい魅力をたたえた福子に心奪われた義男だが、どうやら福子にはすでに付き合っている人がいるらしい。
伊守は自作の小説を掲載するため、怪しげな出版社員とともに富める南町で流行っているPR誌を真似て北町のPR誌を企画する。
その広告営業を手伝わされる義男。
ほどなく、福子と伊守が義男の家に転がり込んできて、義男は福子への潰えぬ想いを抱えたたま、三人の奇妙な共同生活が始まる……。(公式より抜粋)
感想
#雨の中の慾情 観賞。鈴木清順的アバンギャルドなエロスから突如塚本晋也的阿鼻叫喚な描写にキュアロン的カメラワークも加わったバニラスカイ。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) November 3, 2024
現実を反映させた夢の連鎖によって我々誰もみたことのない愛の物語へと誘う。本当の別れとは記憶から消えることならば、いつまでも夢の中に居たい。 pic.twitter.com/IxwZzhdKsH
夢と現実が交差しながら愛しい人への思いを馳せていくラブストーリー。
あまりに境目がないので戸惑いながら鑑賞するも、大胆すぎる性行為から戦争描写に至るまで一つ一つのシーンは脳裏に残る。
しかし、個人的には不得意な映画だったな…。
以下、ネタバレします。
あらすじはすべて夢。
漫画家であること、友人が小説家希望であること、そして恋に落ちた未亡人は、すべて主人公・義男が見出した夢であり希望であり、妄想であることがわかるまで、なかなか読めない展開だった本作。
冒頭から土砂降りの雨の中で鳴り響く雷鳴、女性に「金具つけてると雷落ちるよ」と忠告しながら、互いにどんどん服を脱いでいくシーンは破天荒でエロチシズムなシーンであり、あまりに唐突に始まる行為に思わず吹き出してしまいました。
ぬかるんだ田んぼに倒れた義男が起き上がると、異常に土がへこんでいるのが見て取れ、ずぶ濡れの女性に対し発情してるのがうかがえる瞬間でしたが、まさか冒頭でタイトルを直接的に描写した「雨の中の慾情」を見せてくるとは。
この先いったいどういう物語になるのか、全く予想がつかないまま、それは夢だったことが明かされるわけです。
冒頭で見たものが「夢」だということは、この先「夢オチ」的な展開も選択肢として入れておこうと構えつつ、気が付けば物語に没頭。
というのも、この「昭和レトロ」な雰囲気の中で、年上の女性に惹かれる成田凌、常に飄々として何を企んでるかわからない森田剛、そして何といっても忘れ難い、窓から差し込む光によって汗ばんだ白い柔肌が神々しさを放ち横たわる中村映里子たちの三角関係が魅力的だから。
話は単純明快。
未亡人の引っ越しを手伝った義男は一目ぼれ、彼女のことが頭から離れないが、実は友人の伊守とすでに付き合っていたという関係。
とある騒動に巻き込まれ、二人の匿うことになった義男は、部屋でおっぱじめてしまう二人の姿を見て興奮、夜も眠れず外にいると、物語冒頭の夢で出てきた女性が目の前を通り過ぎたことで、無意識に尾行してしまう。
すると目の前で彼女はひき逃げに遭い、田んぼまで吹っ飛ばされた彼女を救助しようと駆けつけるが、なぜか股間を触ってしまう…という、これまた現実か夢かわからない状態の展開に。
しかも面倒に巻き込まれたくない伊守は彼女を捨てて「南」に行ってしまう。
どうも伊守には既婚者がおり、しかも南で一番裕福な家庭に婿養子として嫁いでおり、付き合っていたはずの福子は「遊び」だったことが発覚。
福子の気持ちを察しながらも、管理人の手伝いで「南」に向かうことになった義男は、伊守の家を訪ねた時の彼女の伊守に対する強い思いを見て、動揺を隠せない。
車で慰めようとする管理人を嫌がる福子に、義男は怒りをあらわにし管理人に注意。
その姿を見て、福子は義男の顔をまじまじと見て口づけを交わす…ってところで、全く別の世界が開くっていうのが、序盤の展開です。
正直描かれてる世界がどこなのか、さっぱりわかりません。
台湾なのか、日本なのか。
北は貧しくて南は裕福な世界っていったいどこなのか。
そうした疑問はすべて「義男が見ていた夢」で解決するんです。
では、なぜ義男はそんな夢を見たのか…ってのが、この先の物語で少しずつ明かされていくんですね。
夢は現実が反映するものなのか。
現実の義男は戦時中のケガにより入院していました。
しかも左腕を切断するほどの大ケガ。
なぜこんな大けがを負ったのかという記憶も失われていました。
彼が意識を取り戻したときには、伊守がそばにいます。
いったい何があったのかを彼から聞く義男。
義男の周りには、全く同じ役柄ではないが、義男が夢の世界で見た人たちが現れます。
伊守は義男と同じ部隊に所属する兵士、管理人は野戦病院の医師として、夢の世界で結託して荒稼ぎした出版社や営業担当も知り合いという。
そして肝心の福子はどこか。
彼女は亡くなっていました。
物語はそこからさらに夢と現実を行き来しながら、義男が最愛の人への思いを馳せてく様を映し出していきます。
義男のいる病棟で伊守が話した「本当の別れは記憶から消えた時だ」というセリフから、本作は失った人を夢の中で生き続けせされば永遠に共にいられる意味合いにつながるし、何より彼のいる現実は、かつて日本が行っていたような戦時中の愚行の連続であり、それはまるで雨の中にいるようなものだと。
その中で沸き立つ福子への思いは「欲情」となって姿を変え、直接的な性欲の時もあれば、純粋に彼女が欲しいという思いなど、変化していくのだと感じました。
ただ欲するだけじゃなく、時には面倒にも思えている瞬間も映っており、最愛の人と付き合っていた頃の浮き沈みまでも夢に反映されていくあたりは、絶妙にリアルだなと。
失った人への思いは、そうした全ての日々までも色濃く焼き付いており、それが義男の夢として現れるのだなと。
また面白いのは夢の中では彼は漫画家として登場しますが、現実では「漫画家」である確証はありません。
終盤で描いてはいます(戦前の彼が果たして現実なのかどうかの区別がつかないので、そういう言い回しをしてます)が、あくまで僕の解釈では、彼はあれほど豊かな創造や妄想ができるから漫画家を目指そうとしていたのではと。
夢の中の漫画家である自分は、なりたいという希望ではなく誰よりも豊かなクリエイティビティを持っているという暗喩なのかも?と解釈しました。
もっと現実と夢の境界線が明確であればこんな解釈せずに済んだんですが、あまりに曖昧に描いてるもんで。
下手したら戦時中のほうが妄想だってこともあり得るほど。
だから本作はきっと置いて行かれる人も多いでしょう。
いろいろ義男の気持ちになって悪夢と捉えたり淫夢と捉えたりそれとも生死の狭間のようだとも見えたりと。
様々な見方ができる映画でもあり、仮についていけなかったとしても誰かのレビューを参考にして考えてみてはと。
それこそ僕は「バニラスカイ」とか「エターナルサンシャイン」とか「レミニセンス」とか「バタフライエフェクト」のようなぱいすぅ~映画(酸っぱいって意味)の類でもあると思っていて。
要は引きずってる男の話なんだと。
たらればが増幅して、現実逃避ともとれるドラマを無意識に生み出し、それに囚われていく。
そもそも夢を見る場合、現実と地続きになってるシチュエーションて、結構ありますもんね。
一体その夢が何を意味するのか分からないまま僕らは普段通りの生活を送っているけど、こうして映画にしてみてくと、現実で起こったことってすごくかかわってくるんだなと。
俺の場合空飛んでたり穴に落ちてる夢ばかりですけどw
とにかく、いなくなった愛しい人にどう落とし前をつけていくかっていう物語は、僕のある種大好物なテーマなんで、もう少し自分好みの明確な着地を見せてほしかったけど、嫌いではないですね。
最後に
しかしまぁ急に笑ってしまう部分も多々ありましたね。
冒頭のそれに関しては、もう欲望むき出しというか。
土砂降りの雨の中で二人裸になって泥だらけになってバックですからw
他にも謎の女性とエンディングでの福子がひき逃げに遭うシーンでは、とんでもない飛距離で吹っ飛んで、しかも傷一つない状態で死んでるっていうw
あとは戦時中の義男が、児童を隔離してる施設で働く福子に身に危険を感じて、急いで走っていくシーンも、独特な走り方だしかなり下から撮影してたんですよね。
滑稽に思えましたけど、たぶん意図的に撮ってるよな、というか、合成にも見える。
だだっ広い森の中でベッド置いて激しく抱き合う二人を、どんどん引きで撮影するのも笑ったなぁ・・・。
それ以外はちゃんと真面目というか、幻想的だったりレトロだったりな異空間がありつつ、様々なジャンルが横行したエンタメになっていてよかったんじゃないでしょうか。
あ、森田剛のブカブカの白タキシードも笑えたなw
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10