ベネデッタ
鬼才ポール・ヴァーホーベン。
「トータル・リコール」や「スターシップトゥルーパーズ」、「ロボコップ」などのSF映画を作る傍ら、「氷の微笑」、「ブラックブック」、「ショーガール」、そして「ELLE エル」などエロスとバイオレンスを描写しながら、強い女性像を描き続ける監督です。
僕はたくさん見てるわけではないんですが、それこそロボコップでもなかなかエグい暴力描写がありましたし、前作「ELLE」でも過激な性描写があったりと、毎度毎度彼の作家性に驚かされてばかりです。
今回鑑賞する映画は、17世紀に存在したとされる修道女の物語。
え?暴力と性描写を描いてばかりの監督が、聖女を描くんですか?
はて、どうしたもんか…。
ただ、どうやら映画祭でかなりの物議をかもしたそうで、やっぱりただの修道女の話じゃねえぞと。
いろいろ妄想を膨らませてますが、かなりの劇薬の予感。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
鬼才ポール・ヴァーホーベン監督がカンヌ国際映画祭を騒然とさせた問題作。
歴史上初のレズビアン裁判記録「ルネサンス修道女物語~聖と性のミクロストリア」を原作に、修道院長に就任しながらも、同性愛の罪で裁判にかけられた実在の修道女の姿を、ヴァーホーベンが現代性のある物語へと脚色させた。
17世紀のイタリアの街を舞台に、実在したレズビアンの修道女が、なぜ男性優位社会の中で権力を手にしたのか、のちにかけられた宗教裁判で語られたものは真実か否かを、ヴァーホーベン節ともいえる暴力描写や性描写をふんだんに盛り込み、教会の欺瞞を挑発的に描く。
主演には「ELLE エル」にも出演したヴィルジニー・エフィラが、実在した修道女ベネデッタを熱演。
純粋なまでにキリストを信じつつも同性愛に目覚めていく姿を、時に妖艶に時に凶暴性や知性を秘めながら演じた。
他にも大女優シャーロット・ランブリングがベネデッタを激しく追い込む修道女長を演じ、脇を固める。
男性が支配する時代に権力を手にした彼女がおこした奇蹟は、本物か?はたまた狂⾔か...?
ベネデッタの数奇な運命が、今明かされる。
あらすじ
17世紀イタリア。
幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)は6歳で修道院に入る。
純粋無垢なまま成人したベネデッタは、ある日修道院に逃げ込んできた若い女性を助ける。
様々な心情が絡み合い2人は秘密の関係を深めるが、同時期にベネデッタが聖痕を受け、イエスに娶られたとみなされ新しい修道院長に就任したことで周囲に波紋が広がる。
民衆には聖女と崇められ権力を手にしたベネデッタだったが、彼女に疑惑と嫉妬の目を向けた修道女の身に耐えがたい悲劇が起こる。
そして、ペスト流行にベネデッタを糾弾する教皇大使の来訪が重なり、町全体に更なる混乱と騒動が降りかかろうとしていた…。(HPより抜粋)
感想
#ベネデッタ 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2023年2月18日
彼女は本当にキリストの嫁か、それともただの嘘つきか。
もう言ったもん勝ち。でも周囲は彼女を信じ、彼女自身も神を信じる。
邪魔者は…。
やっぱおじいちゃん監督は迫力が違うつーか、肝が座ってるっつーか。 pic.twitter.com/d2EnD5xCna
ベネデッタに逆らってはいけない。
逆らえば冒涜者となり天罰が下る。
なぜ彼女は神に背く行為をしておきながら免れたのか。
それがまさかハッタリだとは…。
以下、ネタバレします。
信じる者は救われる?
17世紀に存在したレズビアン修道女が起こした数々の奇跡と称した行いの全てを描いた本作は、ヴァーホーベンらしいエロスとバイオレンスをしっかり見せつけながら、信仰心や宗教上の理由と称して罰を与えたり立場の保身に走る構造に問題提起しながらも、それでも男性社会で自身を貫いた敬虔なクリスチャン・ベネデッタの強さを強烈に映し出したと共に、現代でもよく見かける「ハッタリかまして信者から絶大な支持を受ける」影響力の強い人間とダブるナンスプロイテーション映画でございました。
いやぁもうベネちゃん、やることなすことムチャすぎやしないかい?というほど危なっかしい橋を渡り続ける「奇跡」と称したハッタリの数々。
いや俺からしたらハッタリにしか見えないんだけど、というかそう仕向けた構成や演出だったんだけど、神を信じる者からすれば、彼女が見せた行動や言動は「神からのお告げ」と聞こえてしまうんですね。
信仰心て恐ろしやw
冒頭からマリア像を見つけては祈り、歌を歌うなどとにかくキリストを信じる純粋な少女だったわけで。
しかも輩に襲われて母ちゃんのネックレスを強奪した罰を与えてやる!っていった瞬間、木の木陰から鳩が飛んできてフンを落とすという、正に「あ、もしかして彼女って…」と思わせるオープニング。
そこからというもの、夜中にマリア像の前で祈ってたら像が倒れてきて、あわや大怪我に!?と思ったらかすり傷ひとつついてないという強運。
演劇で聖母マリアを演じている最中、椅子に座るキリスト役を見た瞬間幻視(ビジョン)発動!
羊の群れの中からモノホンのキリストが現れ、「おお私の花嫁!」と叫ぶではありませんかww
死んでる状態の役なのに、余りの嬉しさに足をバタバタしちゃうもんだから、周囲の人に「足バタバタしてる!」って注意されちゃう始末。
彼女からしてみれば奇跡の前兆です。
その後も歌の時間にもかかわらず、再びキリストに呼ばれ、痛みを受けよと言われ、気が付いたら輪の中心で「キリスト様ぁ~~~」と手を伸ばし乞うてるではありませんか。
これ端から見たらただのヤバい奴ですよ。
おいあいつ大丈夫かと。
でもここでは「キリストと会いました」って言えばセーフときたもんだから彼女はズルいw
そしてついにやってきました彼女と恋仲になっていく女性バルトロメア。
なんでも親父から暴行を受け逃げてきた矢先に修道院に駆け込み、その場にいたベネデッタの親に寄付金払ってもらって難を逃れるというこちらもラッキーな女性。
色々修道院でのしきたりなどの面倒を見ることになったベネちゃんは、彼女をトイレに案内。
ワンピースをめくったら腿に大きなあざを発見。
ベネちゃんはバルトロメアに問い詰めると、母親が死んせいで親父が「母親の代わり」と称して自分をレイプした、しかも兄たちからも受けたと。
昔の時代ってホント男はクソだなぁと。
鏡を見たことのないというバルトロメアにベネちゃんは「あなたきれいよ」と一言。
するとどうでしょう、2人の間に微かな愛が芽生えるではありませんか。
別れ際にキッスされることでベネちゃんの赤い実がはじけたわけですね~。
ここからベネちゃんの奇怪な行動が加速。
キリストから痛みを受けろと言われたことや、病気を患ってるシスターに影響され、再び悪夢を見ます。
輩に襲われそうになると、白馬に乗ったキリストが助けにやってくるんですが、その姿はロンゲに髭のお顔ではなく、坊主で片目に傷が入った、どっちかと言われれば輩にしか見えない風貌に。
助けてもらったものの痛みを与えられたベネちゃんは、夜な夜な叫び出します。
これまで何度か発作を起こしていたことで、ベネちゃんの面倒をバルトロメアが隣で見ていたんですが、彼女もびっくり。
何と手と足に聖痕がついてるではありませんか。
もうこうなってくるとわけがわからん。
幾ら神のお告げとはいえ、こんな物理的に受けたとしか見えない傷を見て「正に聖痕!」とか俺からしたら信じられない。
でもここ修道院なのよねと。
皆信じちゃってるんだけど、ちょっと待ってよと修道院長。
聖痕て確か冠の傷もないとダメじゃない?と。
するとベネちゃん、一人で部屋に戻りますといったん離れた隙に、きゃああ~~おでこに傷がああ~~と。
もうグッドタイミングもいいとこですw
これでみんな「本当に聖痕だ~!!」とか言っちゃうわけですよw
でも、修道院長の娘だけは疑いの目を向け、神父様に告解するわけです。
私見ました!あの娘、嘘をついてます!と。
すると彼女はみんなの前でそれを話す機会をもらい、ベネちゃんのこれまでの奇怪な行動全部嘘だと話し始めます。
修道院長の娘であるクリスティーナは、母親である修道院長から「彼女からは見たとはいわれてない、疑念しかきかれてない」と、自分の立場を優先し、娘を庇うことせず正直に話したことで、クリスティーナは自らむち打ちする罰を与えられてしまいます。
この結果、ベネちゃんは修道院長の座を手に入れ、しかも長ですから固執まで用意され、ずっと待ち焦がれていたバルトロメアとのイチャイチャに励むのであります。
全て後手後手の行動
いよいよ修道院を束ねる立場になったベネちゃん。
最初こそ奇怪な行動は本物だったかもしれないと思いましたが、バルトロメアがやってきてからは、彼女と交わりたいがための行動としか思えない計画的な犯行ですよ。
修道女の立場だとカーテンの身で仕切られた相部屋しかなく、バルトロメアと関係を持ちたいけどみんなにバレてしまうと。
だったら、強い信仰心とこれまで発言してきた「キリストを見た」という行動を使って、修道院長に上り詰めるしかないと。
結果見事にみんなを信じさせポストをゲット。
マリア像を削って木の棒を作ってバルトロメアとの快楽に励むわけです(これはやりすぎw)。
ここからベネちゃんに数々の試練がやってくるのです。
誰も自分を信じてもらえず飛び降り自殺をしてしまったクリスティーナの敵討ちをするために、元修道院長のフェリシタは教皇大使の元へ出発。
その前夜、あらかじめ作っておいたのぞき穴からベネちゃんとバルトロメアとの夜の営みを見てしまったことで疑惑は確信となってたんですね。
これを知ったベネちゃんは、ペスト菌が流行していることを危惧し、誰も街から出入りさせないよう警告するんですね。
これ、一見すると町のみんなを守るために聞こえますけど、どう考えてもこの後教皇大使を連れてやってくるフェリシタを町に戻さないためですよ。
ただ教皇大使の権力は絶大で、結局それを防ぐことはできず、町に戻ってきてしまう。
果たしてベネちゃんは裁判でギルティとなってしまうのかって話なんですが、さすがのベネちゃん、ちゃんと色々策は練ってあるっていう。
前作「エル」でもそうでしたけど、主人公の視点で都合よく描かれてるのが本作でも見て感じます。
一応記録に基づいて描かれたフィクションですから、事実かどうかはわからない、でもベネデッタから見た真実はこうだよと。
それを信じるか信じないかはあなた次第じゃないですけど、とにかく色んなビジョンを見たり、強い信仰心を持っていながらも自分が授かった愛は背きたくない、男性優位社会の中で自分の正当性を主張し生き抜くためには、ハッタリだとしてもそれを正しいと思い込ませなくてはいけないという苦しい時代だったと。
ただなんていうんでしょう、人間とは卑しい生き物で、最初はバルトロメアが欲しいだけだったわけですが、立場が変わっていくと保身に走るような行動も見せてしまうのがベネちゃんあかんでと。
一応同性愛も描いた作品てことで、最後は気持ちがすれ違ってしまったようなラブストーリーにも見えて面白かったですね。
最後に
しかしまぁヴァーホーベン、相変わらず過激です。
がっつりエロいシーン連発ですし、バルトロメアに罰を与えるシーンなんか、磔にして「苦悩の梨」なんて器具で拷問するんですけど、バルトロメアの叫び声がまジモン過ぎてさすがに引きましたよ…。
でもまぁジャンヌダルクもこれで告白したとか言ってたように、ああいう拷問は実際あったってことですよね。
しかしまぁベネちゃんとんでもない人物でしたね。
俺は仲良くなれそうにないw
時代が時代で場所が場所で宗教上色々制約がるって中で、どう自分を貫いて生き抜くかって強さは認めますけど、あまりにもぶっとんでてハッタリとか以上にもう病気みたいなようにも見えて。
ただラストシーンのあの清々しいまでに「戻る」と言い切った姿は、やはり信仰心をちゃんと持った女性だったんじゃないかとも見える・・・けど、あのまま外で暮らしても結果は見えてるわけで、戻った方寝る場所も食う物もあるわけでが賢明とも見える。
とにかく生き抜くためには賢くなければいけない、でも賢くなくても普通に生きていける環境を作ることが大事だよなぁとも思った作品でしたかね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10