ブラック・クランズマン
「白人至上主義の団体に黒人が潜入」って中々の自殺行為なんじゃないの!?
それって女子更衣室に男子が潜入してってのと同じパターンなんじゃないの!?
半殺しにされちゃうぞ、それじゃあ。
と、ご心配の方々、ご安心あれ。
実際潜入するのは白人で、電話であれこれやり取りするのが主人公の黒人。
そう、僕たち二人で一人!ってやつですね。
相当な口裏あわせが必要になってくるだろうし、緻密な計画を練らないとばれちゃう。
また潜入捜査は向こうの人たちを信用させないといけませんからね、こりゃあ相当ドキドキワクワクな映画になりそうだ!
また人種差別問題を監督がどうユニーク且つぶった切るのかも見ものです。
ゲルショッカー首領みたいな格好したやつらを一斉検挙できるのか?
いざ、感想です
作品情報
1979年のコロラドスプリングスを舞台に、街で唯一採用された黒人刑事が、白人至上主義団体〈KKK〉に潜入し悪事を暴くという、ロン・ストールワースが2014年に発表した同名小説を、ブラックムービーの礎を築いてきた監督によって映画化。
カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得し、アカデミー賞作品賞他6部門にノミネートし、見事脚色賞を受賞した。
人種差別問題が色濃くあったアメリカを背景に、KKKに潜入捜査する二人の警官を軸にコミカルに軽快なタッチで描きながらも、実話ならではの緊張感と強烈なメッセージを与えるリアルクライムエンタテインメントが誕生した。
今再び分断や差別が過熱しているアメリカに対し、過去に起きた事件を題材にしたこの映画が訴えるものとは一体何なのか。
果たして二人の刑事は、史上最も不可能な潜入捜査を無事遂行できるのか!?
あらすじ
1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。
署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK<クー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけた。
自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。
KKKに黒人がどうやって会うんだ?
そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。
電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。
任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。
果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!? (HPより抜粋)
監督
今作を手がけるのはスパイク・リー監督。
2019年のアカデミー賞受賞式で脚色賞のプレゼンターを務めたのが、「キャプテンマーベル」の二人、ブリー・ラーソンとサミュエル・L・ジャクソンでした。
サミュエルは興奮しながら名前を呼んで監督の名を挙げ、監督はサミュエルに飛びつきながら抱き合うという、歓喜に満ち、ちょっぴり茶目っ気のある姿を拝ませてもらいました。
しかし「グリーンブック」が作品賞を獲った瞬間、どうやら監督はかなり憤慨したそうで一時退出したんだとか。
「グリーンブック」がホワイトスプレイニング(白人がえらそうに説教すること)する映画だと批判があがっている問題が起きてしまっていることもあり、黒人からすると相当な不満だったのでしょう。
監督はこれに加え、90年に製作し高い評価を得た作品がアカデミー賞にノミネートされず、そのとき獲ったのが黒人運転手が白人女性を乗せる「ドライビングmissデイジー」だったという、同じような現象が起きてしまったことにもご立腹だった様子。
そんな人種差別問題を強く描いた作品を作り続ける監督の作品をサクッとご紹介。
86年に商業映画「シーズン・ガッタ・ハヴ・イット」で注目された監督。
ブルックリンの黒人街を舞台に様々な人種たちの問題点を浮き彫りにしながらもユニークに描いた「ドゥ・ザ・ライト・シング」でアカデミー賞脚本賞にノミネートされます。
その後もアフリカ系アメリカ人とイタリア系アメリカ人の人種を超えた恋愛の現実を描いた「ジャングル・フィーバー」、キング牧師と並ぶ黒人開放運動のリーダーの生涯を描いた伝記映画「マルコムX」、バスケットボールを通じて親子の絆を深めていく「ラストゲーム」、25時間後に収監される男の心の旅路を描いた「25時」など、コンスタンスに手がけています。
キャスト
主人公ロン・ストールワースを演じるのはジョン・デヴィッド・ワシントン。
黒人で苗字がワシントン。
そうです、なんと彼デンゼル・ワシントンの息子さんなんですねぇ。
監督とお父さんは何作もタッグを組んでいるし、幼少期に「マルコムX」にも出演していたこともあっての今回抜擢だったんでしょうね。
本作での熱演をきっかけに、様々な作品にも出演しています。
他のキャストはこんな感じ。
ユダヤ系の白人刑事、フリップ・ジマーマン役に、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」のアダム・ドライバー。
KKK最高幹部デビッド・デューク役に、「スパイダーマン3」、「アンダー・ザ・シルバーレイク」のトファー・グレイス。
アメリカ差別撤廃指導者クワメ・トゥーレ役に、「ストレイト・アウタ・コンプトン」、「キングコング/髑髏島の巨神」のコーリー・ホーキンス。
ウォルター・ブリーチウェイ役にTVシリーズ「ブラックリスト」のライアン・エッゴールド。
パトリス・デュマス役に、「スパイダーマン:ホームカミング」でリズを演じた、ローラ・ハリアーなどが出演します。
グリーンブックよりもしっかり人種差別を描いた、とされる今作。
僕としてはグリーンブック大好きなんだけど、そっちよりも笑っちゃったり考えたりしちゃったらどうしよう。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
中々の切れ味の鋭さに、思わず顔を伏せてしまうラスト。
KKKとブラックパンサーという白と黒の対比を描く巧さと、潜入捜査の緊張感がうまく融合した社会派エンタメ映画でした!!
以下、核心に触れずネタバレします。
これがスパイク・リーか。
70年代の人種差別が激しかった時代を舞台に、黒人刑事とユダヤ人刑事がタッグを組んで白人至上主義団体KKKへの潜入捜査をしていく物語を、監督の語気強めなメッセージ性をふんだんに詰め込み、白の超偏見な言い分と黒の分別ある主張の対比をシニカルに描いていくと共に、潜入捜査特有の10分に一度の緊張感という合わせ技で、一級品の社会派エンタメ映画に仕上がっておりました。
映画というモノは、観衆の感性や知性、価値観に多大な影響を与えると思います。
そこで描かれていることを真に受け感化され、家に持ち帰り一人でじっくり吟味し咀嚼し、そしてそれが知識として血や肉となり、自分の考えを形成していく。
もちろん見て合う合わないはあると思いますが。
だから監督は映画のすごさも知っているし恐ろしさも知っている。
自分の主張を柔らかく描くのではなく、あえて強く鋭く描写することで世界を変えよう、変えたい、いや変わらなければいけないと訴える作品を世に送り出している人なのかな。
初めて監督作品を見てそんな気持ちを抱きました。
僕はアカデミー賞作品賞を受賞した「グリーンブック」が満足度としては高く、好きな映画の一つになった映画だったんですが、正直言うと黒人差別の描写があまりに弱く、色々とうまくいきすぎだろってのは感じていたんですね。
その点こちらは、白人警官が職権を行使して職務質問をし、黒人女性をいやらしい目で見たりする光景や、ロンの前で平気で黒人をカエルと呼んだりする場面、KKKの面々が黒人もユダヤ人も排除するべきだって連呼する件や、射撃のシーンで黒人の立て看板を的に撃ちまくるシーンなどなど、どれも白人警官やKKKらが深い理由もなく見た目だけで差別的行いをする場面の連続でありまして。
どちらも近い年代なのに、黒人が受けている屈辱的な日常がまるで違うじゃねえかと。
理由は明らかで、白人が描いた前者に対し黒人が描いた今回の映画だからってことで、これは問題になるはずだというのが今回鑑賞して感じたことの一つであります。
一体どちらの映画が現実的なのか、劇中でのKKKたちの言葉を聞けば理解できるかなと。
潜入捜査での緊張と緩和。
とはいえ物語の表面上はあくまで潜入捜査。
黒人のロンが電話で交渉し、実際会うのは見た目白人だけど実はユダヤ人のフリップ。
ロンは一応白人英語と黒人英語を使い分けられる器用な舌の持ち主で、その巧みな話術でまんまとKKKの会員たちを信用させるんですね。
でもちょっと待て。
ロンの声はどちらかというと高い声で、フリップは低くこもったしゃべり方。
さすがの俺でもこれ実際あったら別人だってわかるレベル。
2人で1人の潜入捜査、大丈夫か?ってのが見る前からありました。
でも、全く心配いらない。
なぜならば、このKKKの人たちが明らかにおバカだからw
一応最初は疑われます。電話で話した人物と落ち合う約束が、やってきたのは別人のフェリックス。
こいつがまぁ過激すぎる奴でして、クスリでもやってんじゃねえか?ってくらいの差別主義者で、ロン=フリップをなめるように見まわし、口が開けば「黒人ムカつくよなぁ~」みたいなことをペラペラ語る男。
彼の審査にパスしたフリップは、ようやくバーで電話で話した男=ウォルターと面会します。
まずは彼を信用させるのがセオリー。
なんてたってKKKコロラドスプリングス支部の支部長ですから。
ロンとの会話や設定を忠実に守り柔軟に対応していくフリップでしたが、ここでフェリックスの嗅覚が反応し、フリップユダヤ人疑惑が持ち上がります。
この男の潜在的な識別反応によって、物語は緊迫感を高めていくって運びなんですね。
どうしても自分の勘を信じたいフェリックスは、フリップを地下室に読んでお前がウソをついてないかこのウソ発見器で試してやるからそこに手を置け!って銃を持ちながら脅し口調でフリップに責め立てるのです。
終いにはお前割礼してんだろ?ズボン脱げよとまで言う始末。
ここは中盤での一番のドキドキだったと思います。
フェリックスの家で張っていたロンは機転を利かせたことで危機を回避できたわけですが、フリップはさすがにビビってしまうんですね。
こんなことで命を失うなんて確かに嫌ですもんね。
しかもフリップ曰く、ユダヤ人らしい生活を送ってこなかったとはいえ、今ユダヤ人だって認識が高まっているっていう心情もあり、複雑な気持ちを抱えている印象を受けました。
でも二人で一人の潜入捜査、どちらかが降りれば捜査は続行不可能。
ロンは彼を奮い立たせていきます。
こういうシリアスな部分もあればですね、なかなか滑稽だなぁと思える場面もありまして。
特にフェリックスの奥さんの差別的感覚が凄くて。
会合と称して集まったKKKの面々にお茶菓子やお茶を振る舞うんですが、ここぞとばかりにみんなの前でブラックパンサー党が講演を行った記事を持ってきて、こんなの早くつぶしましょう!ってアピールするんですね。
フェリックスはそんな奥さんを煙たがってテキトーに愛してるといってあしらうとこも笑えるんですが、きっと私のような人材が役に立つ日が来るんだから!って言って去っていく奥さんがまた笑える。
これが伏線となって奥さんに任務が与えられるってのも映画的にはお上手でしたね。
そしてどこかで見たことある顔。
KKKコロラドスプリングス支部の面々に中で常に酔っ払ってるような感じのおでぶさんが。目が座っていて明らかに頭の悪そうな男。
役名こそ忘れてしまいましたが、こいつ「アイ、トーニャ」でセバスチャン・スタン演じるトーニャの彼氏の連れで、襲撃事件の引き金を起こしたあのバカデブじゃねえかw
もうこいつがしゃべる度にどうしてもコメディ色を強く感じるし、こいつこそいかにも頭の悪いKKKの象徴だなぁと感じざるを得ない人物だったなぁと。
これまとめて言うとですよ、KKKの面々が結構差別的な発言を繰り返したり観てられない行動をするんですけど、これがあきらかに頭まで筋肉で出てるんじゃねえかってくらい何も考えないで行動発言してるなぁってのがこの映画の笑ってほしい部分で。
我々は彼らを分離したいんだとかね、アメリカファーストって掲げたりね、それこそ崇高な入会の儀式とかやってるんだけど、その後「国民の創生」っていうKKKが黒人たちをやっつけるような映画見て血気盛んになってるわけですよ、やれやれ~!!って。
もちろんある視点からすれば怖い部分ですけど、笑うしかないですよアホすぎて。
あ~白人至上主義者の構造ってこんな陳腐で浅はかな知識で低能なんだなぁと。
白と黒の対比
この映画、決してKKKの知られざる内側だけを描いてるだけじゃなくて、黒人たちが集うブラックパンサー党の視点も描いてるんですね。
それはロンの最初の任務から始まるものでした。
黒人初の刑事ってことで、これを使わない手はないってことで近く大学生たちが集って行われるクワメ・トゥーレの演説を聞きに潜入捜査しに行くんですね。
彼を演じたコーリー・ホーキンスの演説が凄くよくて僕も思わず感化されそうになるパワーだったんですが、それと同じようにロンも心を動かされていく姿が。
これ見終わって気づいたんですけど、黒人側の主張ってのはKKKと比べて真に迫った発言だったり主張で、それが何というか彼らの高尚な部分を象徴していたというか、明らかにクレバーなんですよね。
確かに過激ではあると思います。
集まって革命を起こそうといって白人たちを目の敵にして、結局対立を生むようなことしかしてないよなぁと。
でもそれだけ彼らから大きな迫害を受けてきた過去があり今があるわけで、それをKKKのような何も考えないでただただテメェの主張しかしないような輩にやられてたまるかと。
ただ調べてみると彼はキング牧師が掲げた非暴力的思想の持ち主だそうで、実際の武装したり暴動を起こしたブラックパンサー党とは違う人だったんですね。
だから戦おうとはいうものの、暴力で解決しようってことはしてないわけですよ。
特にクライマックスではKKKの入会式と並行して黒人の老人の過去にあった話を聞く学生団体の面々が描かれておりまして、これほんと監督のいやらしさが如実に出てるというか、どっちが正しいですかね~?ってのを現したシーンだったなぁと。
決してKKKだけを描くのではなく、黒人たちの団体を描くことで、いかにKKKが身勝手な考えで行動してるかってのが分かる対比だったのではないでしょうか。
最後に
この映画は最後にフィクションであるこの物語からスライドし現実を突き付けられます。
かつて他の人種はいらないと主張してきた人たちは今再び復活ののろしを上げてきており、まさにKKKか掲げていたアメリカファーストが沸々と湧き上がってきていることを痛烈に描いています。
排除することは正義ではなく悲劇でしかないということを、我々は重い表情で見終えることでしょう。
海の向こうの話とはいえ、決して他人事ではない。
いつかこの国もこういう事態が訪れることを感じたラストでした。
これを入れたということは、本編で描かれたことは現実に繋がっていることを示唆した内容なんだぞと言いたかったんだろうと。
KKKのような奴はどこにでもいて、その考えの間違いに気づいていない、むしろ正しいとしか思っていない。
もしかしたら僕にもそんな部分があるかもしれない。
この映画の感想でロクなこと言えない僕は知識量が足らず世界を知らず世の中を知らないのんきな奴で、そろそろいい加減そういうことに目を向けないとだめだよなぁと改めて気づかされた映画でした。
とはいえ、この映画こういうメッセージ性の奥に監督の顔が見えてきちゃって、裏方の人間の顔が透けて見えちゃう映画ってぶっちゃけ映画としてどうなの?ってのはあります。
主張や訴えは高く買いますけど、正直楽しいか?って言われると微妙ではあります。
笑えるけど笑えないシーンでしたし、これを笑えないけど笑えるような描き方だったらよかったなぁと。
あとバディ感が全然描けてないし、あくまでロンが主役になってしまっている。
これ何度も観たいか?ってなるとね、正直グリーンブックの方に手を出します。
やはり僕は現実を直視したくない現実逃避思考で楽天主義なんだなぁ。
まぁ僕の感想なんで大目に見てください。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10