ボブ・マーリー:ONE LOVE
ミュージシャンの伝記映画って思ってる以上にたくさんあるんですよね。
昨今一番に名が挙がるのは「ボヘミアン・ラプソディ」だったり「ロケットマン」、「エルヴィス」、「ストレイト・アウタ・コンプトン」などがありますし、ちょっと変わった形で言えば2023年に配信された「マエストロ その音楽と愛と」なんてのがありますね。
一昔前で言えば「ジャージー・ボーイズ」、「Ray/レイ」、「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」なんてのがありましたし、もっと昔だと「バード」だったり「バディ・ホーリー・ストーリー」、「ドアーズ」と、数々のミュージシャンの半生や生涯を描いた映画が存在します。
そんなミュージシャンの伝記映画の仲間入りを今回果たすのが、ボブ・マーリー。
レゲエの神様の異名を持ち、20世紀を代表するミュージシャンですが、残念ながらモンキー、全く聴いてきておりませんw
どうもレゲエというジャンル、いやリズムが体に合わず…
とはいえ、彼の半生をどう描くのか非常に気になっております。
一応有名な曲は知ってるけど、歴史自体は全く知らないので、本作で色々知れたらいいなと思っております。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
ジャマイカが生んだ伝説のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの波乱万丈な人生を映画化した音楽伝記ドラマを、「ドリームプラン」でアカデミー賞にノミネートされた監督の手によって映画化。
ジャマイカ独立後の1970年代を舞台に、名盤の発表やヨーロッパツアーの成功を経て世界的アーティストとなったボブ・マーリーが、国内の政治闘争に巻き込まれながらも、自分自身の思想を貫く姿勢を、色鮮やかなラスタカラーやレゲエの音楽に乗せて描く。
監督は、世界的テニスプレイヤーを育てた父親の姿を描いた「ドリームプラン」で、アカデミー賞作品賞にノミネートを果たしたレイナルド・マーカス・グリーン。
再び実在の人物を映画化するにあたり、ボブ・マーリーの家族やジャマイカの人たちに「良い映画」だと思ってもらえるようキャスティングや製作に及んだ。
そんな彼がボブ・マーリー役に白羽の矢を立てたのが、本作でボブ・マーリーを演じるキングズリー・ベン=アディルだ。
「あの夜、マイアミで」でマルコムX役を演じたり、「バービー」では数多存在するケンの役、MCUドラマ「シークレット・インベ―ション」ではヴィランを演じるなど目覚ましい活躍を続けるアディルは、本作への出演に向けて、ただ模倣するのではなく人間としての内面を見せていく作業を続けていくことで、映画の中のボブ・マーリーを見せていくことに成功した。
他にも「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のラシャーナ・リンチ、「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」のジェームズ・ノートン、「ティル」のトシン・コール、「ボーはおそれている」のマイケル・ガンドルフィーニなどが出演する。
「Get Up,Stand Up」や「No Woman No Cry」、表題にもなっている「One Love」など、彼を代表する曲が多数披露される中、ボブ・マーリーはどんな波乱万丈な人生を送ったのか。
その真実が明かされる。
あらすじ
1976年、対立する二大政党により国が分断されていたジャマイカ。
国民的アーティストとなっていたボブ・マーリー(キングズリー・ベン=アディル)は国内の政治闘争に巻き込まれ、銃撃されてしまう。
だがその僅か2日後、ボブは怪我をおして「スマイル・ジャマイカ・コンサート」のステージに立ち、8万人の聴衆の前でライブを披露。
その後身の危険を感じロンドンへ逃れたボブは「20世紀最高のアルバム」(タイム誌)と呼ばれる名盤『エクソダス』の制作に勤しむ。
さらにヨーロッパ主要都市を周るライブツアーを敢行し、世界的スターの階段を駆け上がっていく。
一方母国ジャマイカの政治情勢はさらに不安定化し、内戦の危機がすぐそこに迫っていた。
深く傷ついたジャマイカを癒し内戦を止められるのはもはや政治家ではなく、アーティストであり国民的英雄であるこの男だけだった———(HPより抜粋)
感想
#ボブマーリーワンラヴ 観賞。レゲエもマーリーも通ってないけど、ちゃんと音楽やってるしエクソダスかっこいいなって思ったし、ノーウーマンノークライの使い方良いなって。でも1番良いのはマーリー演じたキングズリー・ベン=アディルの色気。実物よりイイ男で惚れた、、、 pic.twitter.com/ZexWORDIex
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) May 17, 2024
ラスタファリの思想を貫き、最後まで「結束」を求めた男。
ゆらりとしたリズムと陽気な音楽が映画鑑賞に心地よい居心地を与える一方で、作品の構成や内容は少々淡泊。
圧倒的に尺が短いと思ってしまった、勿体ない作品でした。
以下、ネタバレします。
正直物足りなさが強い。
音楽映画や伝記映画を作るにあたっていくつかパターンがあると個人的には思ってます。
あまりに落とせないポイントが多いせいで、生涯全部を描かなくては伝わらないパターンと、一番歴史が濃い部分だけを描くというパターン。
冒頭でも挙げた「ボヘミアンラプソディ」や、アカデミー賞にもノミネートされた「エルヴィス」は前者にあたると思います。
本作は後者にあたるパターンで、1976年から79年までの3年間にフォーカスをあてて作られた作品でした。
冒頭で幼少期を数秒描いたり、劇中リタと出会った馴れ初めや思想との出会い、そしてレコーディングを勝ち取った時などの過去のシーンを回想で挿入してはいるものの、基本的には「既にジャマイカで国民的歌手になっている」所から物語は描かれていきます。
政治闘争に利用され銃撃に遭うも、2日後にはコンサートに出演するエピソード、その後国外へ逃亡する形でロンドンへ向かい、新たな形の音楽とメッセージを求めニューアルバムの製作にかかるエピソード、ヨーロッパを回って成功を確信する一方で、暴動が激しくなっていく故郷へ目を向けていくエピソード、そして自身の病にどう向き合うかという、大きく4つのエピソードでボブ・マーリーの音楽と思想を描くという内容でした。
正直英断だと思う選択だった一方で、全く知らないアーティストの伝記映画として見ていくと、物足りなさが強く残った作品に思えました。
特に一番残念だったのは、クライマックスでのライブシーンが非常に短かったこと。
結局僕がミュージシャンの伝記映画で一番求めているのは「ライブの表現」です。
それはボヘミアンラプソディでもロケットマンでもエルヴィスでもちゃんと用意されていたシーンで、色んな背景が乗っかったことで、YouTubeなどでしか見たことのないライブ映像が「映画」として機能する瞬間に、どれだけ高揚できるかってのがミュージシャンの伝記映画の醍醐味だと思うんです。
先に挙げた映画は圧巻のパフォーマンスで、仮に知らない巨億だとしても自然と体がリズムを刻むような、まるでライブを見てるような、でもこれ映画だよな、それでもすごいぞこれ!という感動を与えてくれたんですよね。
本作にはそれがほぼ感じられなかったのが非常に勿体ないと感じました。
エクソダスのシーンは素晴らしかった。
とはいうものの、マーリーを演じたキングズリー・ベン=アディルの歌唱パフォーマンスやアコギを弾く姿、ライブでのステージングもしっかり研究と練習を重ねたであろう「ホンモノ」の演技で、ちゃんと音楽をやってる感じ(実際は別の人がやってるけど嘘に見えないって意味)はものすごく伝わりました。
中でも「エクソダス」という曲が生まれたきっかけのシーンから、メンバーとジャムセッションをしながら曲を作り上げていくシーンはめちゃめちゃ良かった。
僕自身音楽やってたもんですから、こういう著名なアーティストの名曲がどのようにして生まれたのかっていうのを映画で見せてくれるシーンてめちゃめちゃ好きなんです。
無論僕の場合、しっかり曲と詩を作り上げ、尚且つ楽器隊にはこういう感じで乗っかってほしいみたいな注文をある程度してから曲作りしていたんですよね。
でも洋楽って、一つのリフからどんどんメンバーが色々リズムを乗っけたりベースラインをつけたり、ウワモノのギターでメロディ乗っけたりしながら作ってく作業が一般的なんですよね。
そういう曲作りの発想が僕自身ないもんだから、凄く惹かれる一方で、その才能に嫉妬さえ抱いてしまうんですよ。
そういったシーンを映画で表現または再現してくれる作品はホントに素晴らしいなと思ってしまうんです。
パーカッションがそこから入ってくのか!とか、なんでそのリフだけでそんなギター乗せられるの?なんでたった一言の注文でそんなアレンジできちゃうの!?と、エクソダスが生まれるシーンは非常に興奮した瞬間でしたね。
またライブで披露するこのエクソダスが、その時とはまるで別物な曲として披露されてるもんだから、これまたすごいなと。
セッションの時点でも十分通用するかっけえ曲なのに、あそこからさらにかっこよくなってんじゃん!と。
他にも、リタともめ事をした後にライブで披露する「No Woman No Cry」が凄く機能していて、物語の構成としてめちゃめちゃよかったですね。
随分と上っ面だけの映画に見えてしまう。
こうした褒めたい部分が散見される一方で、ボブ・マーリーの内面みたいなものが良く見えてこなかった、というか共感とか感情移入とか、単純に入っていけなかった要素が多く、音楽パフォーマンスや名曲誕生の瞬間だけしか満足できなかった面が大きい作品でした。
これは僕自身が彼の生涯をほとんど知らないというのが一番の理由が溜めってのが原因だと思うんですけど、妻や家族を愛していながらも、銃撃を喰らってビビって国外へ逃亡し、時にサッカーしてマリファナ吸って楽し気に暮らしてる、あと物足りないのは奥さんだ!!ってことで読んだくせに、自分は普通に浮気して、奥さんの浮気はおかんむりで、ああだこうだで病気悪化して故郷へ帰ってらすたふぁり~!!って言ってるだけに見えてしまって…。
ファンからしたら「お前一体何見てたんだ!!」って怒られそうな感想ですけど、言い方悪く言うと「上っ面しか描けてなくね?」と思っちゃったんですよね。
一応「父への思い」みたいなものがちらついたり、銃撃に遭った瞬間に若干のトラウマを持ってるんだな、という内面が見えてくるんだけど、それをどう克服するのかとか向き合うのかっていう瞬間が薄く思えてしまったんですね。
要は読み取ればいいだけの話なんだけど、ちょっと大げさでも良いから劇的な変化として演出しても良かったんじゃないかなと。
どうも全体的に波が立たないフラットな演出ばっかりが目について、随分まったりだなとも思ってたんで、そういう心境から読み取れなかったのかもしれません。
背景を調べてみた。
どうも彼の故郷であるジャマイカや、ラスタファリズムなど知らないことが多すぎたので、思いっきり別記事読んで咀嚼して見ました。
そもそもジャマイカが独立したのは1970年代と、50年経ったものの最近の話。
独立後保守派と呼ばれるJLPと、社会民主主義を掲げるPNPっていう2大政党が対立してたようで、これらの闘争が暴動と化して混乱を招いていた時期を描いたのが本作だそう。
無料でコンサートを開く告知をしたのちに、総選挙の発表があったと劇中では語られていましたが、国民的歌手となったボブ・マーリーを利用したいという思惑が政党にはあったのでしょう。
やがてマーリーは狙撃されてしまうことになってしまいます。
この背景には、彼が作ったアルバムの内容が2大政党による政治闘争を批判したものだったからってのが理由みたいですね。
だから、コンサートを開く理由が「政治」絡みとして受け入れられてしまい、命を狙われることに繋がっていったのでしょう。
なんて物騒なんだ・・・。
また、映画ではマーリーもリタも浮気していたことが言及されています。
ここ日本では、浮気なんてしたら文春砲喰らって仕事がぶっ飛んでしまうくらいナーバスな問題ですが、当時、いや今でもかもしれませんが、あちらの国では奴隷制度があった国ならではの複雑な背景があったようです。
スペインとイギリスに支配されていた当時、男性は「奴隷」として働かされていたことから、「父親」という家庭を守る立場ではなかったらしいですね。
奴隷同士の結婚は認められていたものの、商売道具として面が強いせいで、簡単に別の場所へ運ばれてしまうことが日常的だったとか。
だから子供を持ったとしても母親が育てるだけなので、よその場所へ行っては別の女性と…ってのがよくあったそうな。
そこに奴隷制度の撤廃やキリスト教が土地に根付くなどといった歴史、アフリカから伝わった母系社会、女性が世帯主であることが多いなどの背景から、男は別の女性と関係を持ってもそこまで問題ない、という流れが生まれたそう。
それでもリタの浮気を許さないのは単純にボブがジェラシーを抱いていただけって話なのかなと。
リタは我慢してたみたいですけどね。
そして肝心のラスタファリズムってやつです。
劇中散々ラスタファリ~!!とか、ジャー!!とか叫んでましたけど、あれって結局何なんですかと。
どうやら、アフリカへ帰ろうっていう思想みたいですね。
そこに聖書=キリスト教が混じったことで生まれたのがこの「ラスタファリ運動」なるものだそうで、マーカス・ガーベイさんという指導者が「やがて黒人の指導者が誕生する」って言葉、その予言通りエチオピアでラス・タファリが皇帝として選ばれ、名をハイエ・セラシエ1世と変えたことから、彼の事を「神さま=ジャー」と呼ぶようになったんだとか。
劇中でも彼の名前が出たりしましたし、リタがマーリーに「わたしはわたし」と語ったのは、あなたとわたしではなく、わたしとわたしと捉えることで、違いを思いやる気持ちが生まれ、結束が生まれるという思想こそがラスタファリズムであると言ってるんですね。
それに傾倒したマーリーが、ラブ&ピースを常に訴えてる理由がそういった思想に基づくものだということ、その最たる思いが「ONE LOVE」へと繋がっていくことが窺えます。
最後に
と、歴史背景への一定の理解は示したものの、それと映画がどう密接して面白くなってるのかは別の話で、やっぱり単純に一人の人物を描くのに圧倒的に「尺とパッション」が足らないなぁと思えてしまったんですね~。
よく100分少々で語れたなという思いもありますが、せめてあと30分は欲しい所。
本来なら政治闘争が過熱していく中でマーリーはどんな思いを持っていくのか、それこそラスタファリズムに傾倒していく過程、なんなら父親への憎しみめいたモノなんかもっと肉付けして描いても良かったんじゃないかなと。
しかしロンドンでクラッシュみたいなバンドのライブに足を運んで、歌に込めたメッセージを理解していく姿を通じて、どこの国も何かに怒りを持って歌に込めてるんだなぁと感じますし、「I Shot The Sheriff」ってマーリーの歌だったんですね。
俺はてっきりクラプトンの歌だとばかり思ってましたよw
あとはもう、全然聴いたことないやなんて言ってた彼の歌も、「Three little Birds」とか聴いたことありましたし、「Turn Your Lights Down Low」もサビの部分はフレーズ込みで知ってましたね。
俺の人生の中で意外と触れてたんだなぁと感じた作品でもありましたw
しかし、本物のボブ・マーリーをイケメンだと思ったことは一度もないんですけど、本作のボブ・マーリーはクソイケメンでしたねえ~!!
キングズリー・ベン=アディルって単発姿しか見たことないですけど、ドレッドヘアも似合ってましたし、何よりライブ前の精悍な顔つきはめちゃめちゃカッコよかったですね。
色気がもう半端なかったなぁ。
とにかく今対立が激化している時代の中で、彼の映画が世に放たれること、そして彼の歌に込められたメッセージが発信されていくこと、そういった意味で本作は今の時代に必要であることを受け止められる作品だったのではと感じます。
結束だよ。宗教も人種も国も関係ねえよ。ひとつになろうぜ!!
でも、浮気はいいのか?それこそ対立を生まないのか?w
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10