モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

Netflix映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」感想ネタバレあり解説 今ここに在る奇跡。

ボクたちはみんな大人になれなかった

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僕にとっての1995年。

小学校高学年から高校卒業という多感な時期の中で、勉強に趣味、友人関係や恋愛事情など、日本や世界全体で起きてることなんかよりも、自分を中心とした半径数メートルが「宇宙」でした。

 

子供の頃から歌を歌うことが好きだった僕は、ミスチルとの出会いを機にバンドに目覚め、いつか東京に出て音楽をやりたい気持ちが芽生えたあの頃。

ガキなりに色気づいて「エアマックス」やら「エアジョーダン」、「データバンク」に「Gショック」、「リーバイス501」や「ゲスパン」と流行ファッションを手あたり次第買いまくっていたあの頃。

 

10代の時の記憶ってなんであんなに覚えてるんでしょうね。

 

今回鑑賞する映画は、コロナ禍の現在46歳の主人公が、ほろ苦い再会を機に、90年代の「あの頃」を回想していく青春映画。

 

年齢設定は僕よりもだいぶ上ですが、当時のポップカルチャーが満載だそうで楽しみです。

何より予告編でウルっと来ちゃったこともあって、久々に原作を読んでの観賞になります。

早速鑑賞してまいりました!!

 

作品情報

様々な世代や著名人の心を掴み絶賛された小説家・燃え殻のデビュー小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」。

WEBでの連載中から「エモい」と評判を受け、書籍化されるやいなや瞬く間にベストセラーとなった本作を、森山未來主演で映画化。

 

社会と折り合いをつけながら惰性で生きている中年の主人公が、誤ってFacebookで当時の彼女に「友達申請」してしまったことをきっかけに、1995年の「あの頃」と向き合っていく物語。

 

ネットや携帯が普及する以前から25年の時を経て、人とのつながりが激変した現在。

移り変わりゆく時代の空気を見事に再現しながら、「ボク」の友情と恋愛を描いていく。

 

また、当時を過ごした世代にとって、懐かしさと共に様々な感情が押し寄せるであろう本作は、当時を知らない人にとっても伝わるであろう物語。

 

誰かと出会い接することで生まれる喜びや、相手を失ったことで生まれる喪失の痛み。

そんな「あの日、あの時、あの感情」を包み隠さず映し出してくれる、今を生きる全ての人に贈る「人間賛歌」です。

 

 

あらすじ

 

あの時も、あの場所も、あの人も、
すべてがいまの自分に繋がっている。
 
1995年、ボク(佐藤誠/森山未來)は彼女(加藤かおり/伊藤沙莉)と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。
 
「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。
初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。
 
1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった――。
 
志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。
 
 
そして2020年。
社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。(HPより抜粋)

youtu.be

 

監督

本作を手掛けるのは、森義仁

 

大学卒業後に阪本順治監督らの助監督として映画を学び、サカナクションの「三日月サンセット」のMVから、MVやCMディレクターとして活躍。

本作で監督デビューされたとのこと。

 

今回原作の構成を大幅に変更。

原作にないキャラも登場するそう。

 

また95年に中学時代を過ごした監督は、主人公よりだいぶ年下ということもあり、当時のカルチャーをくまなく調べて臨んだとのこと。

監督と僕は同世代だと思いますが、ちょっと上の人たちの流行と僕らの世代の流行は微妙に違ったりしますからね。

その辺も研究されたんでしょう。

 

スルメ映画にしたいという監督。

非常に楽しみです。

 

キャスト

主人公のボク、佐藤誠を演じるのは森山未來。

 

セカチュー、モテキ、そして本作。

ピュアな恋愛から、欲にまみれた恋愛、そして過去の恋愛と向き合う中年と、世代ごとの恋愛通過儀礼的な作品でしっかり主演を務めてるってなかなか珍しいと思うんです。

 

オリンピック開会式でのパフォーマンスも見事でしたが、やはり僕は俳優・森山未來が好きだし、どちらかというとヒューマンドラマよりもこういう身近に良そうな男を演じる彼が好きですね。

 

彼の出演作はこちらをどうぞ。

 

www.monkey1119.com

 

 

 

他のキャストはこんな感じ。

加藤かおり役に、「劇場」、「タイトル、拒絶」の伊藤沙莉。

三好英明役に、「ひらいて」、「きみの鳥はうたえる」の萩原聖人

石田恵役に、「ロマンス」、「生きちゃった」の大島優子

関口賢太役に、「草の響き」、「BLUE/ブルー」の東出昌大

スー役に、「リバーズ・エッジ」、「裏アカ」のSUMIRE

七瀬俊彦役に、「恋人たち」、「彼女の人生は間違いじゃない」の篠原篤

佐内慶一郎役に、「関ヶ原」、「G.I.ジョー/漆黒のスネークアイズ」の平岳大

いわい彩花役に、「万引き家族」、「ばるぼら」の片山萌美

恩田隆行役に、「犬鳴村」、「仮面病棟」の高嶋政伸

大黒光夫役に、ラサール石井などが出演します。

 

 

 

 

 

 

 

まだ10代だった90年代を描く本作。

ボクは一体どんな思い出を呼び起こすのだろうか。

ここから鑑賞後の感想です!!

 

感想

普通になりたくないと誰もが思った若かりし「あの頃」。

後ろを振り返ると今の自分が案外「普通」で、「誰か」によって今の暮らしがあることに気付く。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

いやぁすっぱかった。

TVに携わる仕事をしつつも「これでいいのか」と途方に暮れる主人公が、初めてできた「自分よりも好きな存在」とSNSで出会うことをきっかけに、少しづつ過去を振り返っていく姿を描いた本作は、90年代ポップカルチャーを記号的に出すことでノスタルジックに感じさせる演出や、各時代を同じ役者が演じることで「振り返る」ことに対する説得力を生み、原作とは違う構成にすることで、より「振り返る」ことの意味を強調することでラストに押し寄せる余韻を増大させた、今喪失感を抱えたモノすべてに送る人間賛歌でございました。

 

「時間なんていくらでもある」と呑気にやりたい事ばかりやってきたあの頃。

気付けば年だけを取り、将来への可能性はどんどん道を狭めていく。

仕方なく歩んだ選択肢は、決まった時間に決まった仕事をし決まった時間に帰るだけの「ただただ社会と折り合いをつけるための単純作業」。

 

子供の頃僕らはどんな大人になりたかったのだろう。

そう今の自分に問えば、100%に近い確率で「NO」と言うだろう。

 

しかしこれまで歩んできた道の途中で、決定的な出会いと別れと刻まれた言葉と音楽と景色を辿ってきたことを知った時、今の自分が存在するのは、今の暮らしがあるのは、今付き合っている仲間は「奇跡」なんじゃないだろうか。

 

確かにあの時「あんな大人にはなりたくない」と肩で風を切ってすかしていたけど実際「あんな大人」の仲間入りをしてるんですよ僕らは。

社会とか秩序とかどうでもいい、今が楽しけりゃそれでいい、普通なんてかっこ悪い、とか言ってたけど、そのカッコ悪い大人になってるんですよ。

例え今の自分を否定したくても、今の自分を嘆いてても。

 

そういうことなんですよ。

 

 

・・・とまぁいきなり説教臭い感想になりましたが、非常に良かったですこの映画。

原作では、フェイスブックの「友達ですか」の欄に、かおりの名前が出てきて、謝って友達申請してしまうことから回想が始まり、ボクの説明を挟みながら95年から語られていくんですね。

 

ですが、本作は「2015年」➡「2011年」➡「2000年」➡「1999年」と少しづつ遡っていく構成になってました。

正直原作を読んでしまっていることに対する先入観によって、本作の構成を拒否しがちな自分がいたんです。

 

だからなんでしょうね、ちょっとずつ「あのエピソードがない」とか「あの人のあのセリフがない!」とか、「いやいやこんな奴出てこなかったろうが!」とか不満が少しずつ膨らんでいって、これは映画化失敗じゃない?なんて思ってたんです。

 

ですが。

冒頭新宿で再会した七瀬とのシーンがすごく重要な場面で、佐藤がタクシーで聞いたとある曲が流れた瞬間「!!!!」と。

 

本作では小沢健二が好きという趣味が佐藤とかおりを惹きつける重要な役割をしてるんですね。

「犬は吠えるがキャラバンは進む」という彼のファーストアルバムの楽曲がふんだんに使われるのでオザケンファンにはたまらないと思うんです。

個人的には95年で「強い気持ち強い愛」が流れてこないことに腹が立ったんですけど、2020年のタクシーの車内で流れる小沢健二のある曲で、それまでの不満が全部吹っ飛びましたw

 

そもそも本作の映画化決定の際にオザケンの曲が使われるって情報を得ていたこともあって、久々に聞いてたんですよ。

で、多分この曲流れたら俺泣いちゃうなぁ~って妄想してたんですよ。

そしたらその曲が流れたっていう。

 

おいモンキー、さっきから何もったいぶってんだ教えろ!って思う方もいると思います。

え~教えませんw

多分ですけど、本作を見ようと思ってる人は結構予想してる人多いと思うんですよ。

だって95年と2020年を描くんですよ?

オザケンでこのワードって言ったらピンときませんか?

 

もちろん見終わった後この曲を聞いて帰りました。

いつもより体が軽く感じました。

足取りも早くて、気持ち笑顔・・・ってキモイかw

とにかく、いつも見ている駅のホームや近所の街灯が違って見えたというか。

 

それくらい本作の評価が劇的に変わる効果的な演出で。

そうか~この曲を掛けたいからこういう構成にしたのね、やられた!と。

 

非常に納得した構成でした。

 

95年は輝いてた

本作は1995年のかおりと出会う時期に時間を割いて描かれていました。

 

焼かれたシュークリームを箱に詰める工場でアルバイトをしながら生計を立てていた佐藤は、劇団に所属していた七瀬と共に、休憩中にミルクシーフードヌードルを食べながら、アルバイト雑誌「an」の後部ページに掲載された「文通相手募集」の欄を見るのが日課でした。

 

聖闘士星矢のキグナス氷河ファンの方お友達になってくださいというコアな募集がある中、「犬キャラ」というニックネームの文通相手募集に目を止めた佐藤は、苑子と文通をするように。

「犬は吠えるがキャラバンは進む」という小沢健二のアルバムが好きな佐藤は、瞬時に共通の趣味があることを察知。

すると彼女から返事が届くようになり、次第に会うことを決心させます。

 

ラフォーレ原宿の前で「WAVE」の袋を目印に会う約束をした佐藤は、自称ブスと言っていたかおりを見て「思ったほどブスではなかった」と別の時代で語っています。

 

MAYAMAXXを見て、感銘を受けたかおりに対し、佐藤は「よくわからなかった」と返します。

それでいいと思う。

わからないことはわからないままのほうが記憶に残るから、いいと思う。

恐らく佐藤は今まで「よくわからない」と声に出して言うことを恥と思ってきたのでしょう。

世間を気にする自分に対し肯定してくれる彼女に佐藤は徐々に惹かれていくのでした。

 

 

このように95年ではラフォーレやタワレコ、WAVEの袋やケイタマルヤマなどといった当時のポップカルチャーで彩られています。

その後もポケベルやPHSなど、時代が進むにつれ「人との繋がりの仕組み」の変化も堪能できます。

 

僕は高校時代にベルと携帯を持ってたんですが、あれから30年、世の中便利になったもんです。

 

時代をさかのぼっていくと、技術の進歩もすごいですが、それに合わせて人間が他の人間と繋がりたい気持ちってのは普遍的なんだなと改めて気づかされます。

それこそ今は簡単に繋がる利便性に長けた時代ですけど、当時を生きた僕からすると「いつ返事が返ってくるのかわからない」あのドキドキ感は今味わうことができない気がします。

今の技術に慣れてしまった世代の方が「レスがない事に苛立つ」傾向にあると聞いたことがありますが、僕の場合むしろ返信が来るまでの間も楽しく過ごせたというか。

「待っている間相手を想っていられる時間」てなかなか贅沢な時間だと思うんですよ。

だからなんだろ、何でも簡略化していいわけじゃないよなぁと、本作を見て改めて思った瞬間でもあったなと。

 

話がそれましたが、当時の時代をかなり細かく表現されてた作品だったんです。

渋谷も原宿も僕にとってはまだ遠い場所で、その分憧れも強かったから今でも良く訪れる場所なんですけど、本作を見た後に訪れたら当時を思い出しながら歩いたりするのかな。

 

 

役者陣について

本作は当時の時代から現在まで同じ役者が演じる構成になっていることで、振り返ることの意味に説得力を増す作品になっていました。

 

森山未來は21歳から46歳までを演じていたんですが、良く演じ分けてたなぁと。

20代の頃の自身の無さが猫背や視線を合わせられない姿で作り上げており、46歳の佐藤を演じてるときは惰性で仕事に向き合いながらふと遠い方に視線を向けるなどして、中年ならではの哀愁と、仕事をそつなくこなす姿を見事に体現されてました。

 

伊藤沙莉は20代を演じるだけでしたが、体を張った演技はもちろん、「普通」を嫌う女性特有の魅力を最大限に放っていた気がします。

自分に自信のない男ってああいう性格の女性に惹かれがちじゃないすか?w

だって「ブエノスアイレスの列車が日本の地下鉄で走ってるような感覚」って表現をしながら古着を自慢するんですよ。

なんでも流行に走らない自分のスタイルを持ってる女性は大好きですね。

 

東出昌大も色気ダダ漏れ。

不眠不休でがむしゃらに働いた男の気だるさが全面に出てたし、若い頃の場面でもいかにも調子いいことばかり言ってその場を乗り切る感じがいかにもって感じでw

篠原敦が演じた七瀬も、登場人物の中で唯一「社会」からはみ出されてしまった人物。

世の中の人すべてがゴミクズで、どうせ自分なんて誰も見てくれないと嘆く40代の男性を、今にも泣きそうな声で漏らしつつ、佐藤との再会をどこかで喜んでるようにも感じて、上手く表現されてたなぁと。

 

大島優子が演じた恵は、原作にはないキャラ。

佐藤と長く付き合い、結婚寸前までいったものの、佐藤の結婚に対する態度に嫌気がさし別れを告げるよ言う役柄なんですが。

前々から思ってたんですけど、大島優子の眉毛を下げる表情って誰にも負けない気がするんでんすよ。

眉毛を下げて落胆したり、眉毛を下げて呆れる態度を取ったり。

とにかくあの眉毛を下げた顔が凄く好きなんですw

恋人にあんな感じで愛想が尽きて別れた経験を持つ友人がいるので、妙な親近感を持ちましたw

 

最後に

誰もが「大人」になろうとしてもがき、誰もが「普通」になるまいと何かに抵抗してた時期があって、気が付けばなんとなく収まってしまっていること、あると思います。

 

色々なことにちゃんと向き合って大人になった人もいれば、なかなか折り合いをつけることができず、痛みを引きずったまま年齢だけが大人になってしまった人もいる。

 

とにかく完璧な人生を送れている人なんて一握の砂程度で、ほとんどの人は「こんな人生でよかったのだろうか」とか「こんな大人になりたかったのか」なんて、どこかで思っている人、いると思います。

 

本作はそんな大人たちが、今ある暮らしや今している仕事、今付き合っている人たちなど、今を過ごす人生を全肯定してくれる素敵な映画だったと思います。

 

あなたの付けた足跡にゃ 綺麗な花が咲くでしょう

みんながよく知るあの歌の1フレーズですが、本作を見終わった後自分の人生を振り返りたくなるし、振り返った後、ほんの少し体が軽くなると思います。

 

そして今。

コロナ禍によって暗い影が押し寄せていますが、小沢健二はそういう時にこそ人生を素晴らしく感じさせる歌を出しています。

地下鉄サリンや阪神大震災が起きた95年には「強い気持ち強い愛」を。

そして2020年には・・・。

 

暗い時代だけど、今ここに在る暮らしは、奇跡のような確率の積み重ねによってあるのです。

あの日、あの時、あの場所で、誰かと出会ったことで、今の自分が在る。

それも奇跡だと。

過去に受けた傷は癒えないこともあるけれど、癒えることならいっそ引き連れていこうぜ!って気持ちで今を生きようじゃないか。

 

全然映画の内容書いてないんですけど、是非見てほしい作品でした。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10