Cloud クラウド
転売ヤーは果たして善か悪か。
個人的には悪と捉えます。
メーカーが設定した金額にプレ値をつけて高騰させるということは、端から見ればそれが適正価格なのかもしれないけど、メーカー側からしたらとんでもない迷惑。
商売が巧いのかもしれないけど、その素質があるならちゃんと企業としてやればええやんと。
目利きを磨いて、売れると思った商品を買い付けて、正規のルートで販売する。
要は人の褌で相撲を取るなっつう話で(意味合ってるか?w)。
コンサートのチケットも対策取ってたりしてますけど、ホントスニーカーとかゲーム機とかフィギュアとかなんとかしてほしいですよ。
買いたいのに手が届かないんですよ、奴らのせいで。
今回観賞する映画は、そんな転売ヤーが主人公のお話。
どうも、転売ヤー稼業は僕が思ってたよりもつらい現状が描かれてるそうなんですが、彼の仕事を発端に、いやぁ~な雰囲気が漂ってるらしく。
黒沢清監督ならではの、不気味で陰湿で問題提起も孕んだ内容になってるようなので楽しみです。
とはいえ、彼の映画、あまり苦手なんですが・・。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「CURE」や「回路」、「トウキョウソナタ」などがカンヌ国際映画祭で受賞し、「スパイの妻」ではヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞するなど、ヨーロッパで絶大な人気を誇る黒沢清監督が手掛ける、「見えない悪意と隣り合わせの恐怖」を描いた指すペンス。
転売ヤーとして真面目に働く主人公が、不特定多数の集団から「標的」にされることによって日常が破壊されていく姿を、監督独自のライティングや無機質な空間や舞台、核心を突くセリフなどで埋め尽くし、サスペンスからアクションへとジャンルを横断していく、「集団狂気」をテーマにしたスリラー映画。
何年も前から泥臭いアクション映画を撮りたいと構想を練っていたという監督。
そこに「日常で暴力と無関係な人間たちの争い」を軸に、「現代資本主義のある種の象徴」とも言うべき転売ヤーを主人公に、ネットを通じて増幅する「悪意」から脅える恐怖を描くという物語を、「インターネット上で知り合った者同士が、標的となる人物を殺害した」という実際に起きた事件をヒントに構想したとのこと。
キャストには黒沢監督作品初主演の菅田将暉。
「花束みたいな恋をした」や「「ミステリという勿れ」などヒット作の主役を担う彼が、今回黒沢作品で「生きるか死ぬかの局面に立った時にどうするか」を意識しながら役作りし挑んだ。
他にも、「偶然と想像」の古川琴音、「MOTHER」、「ヴィレッジ」の奥平大兼、「キングダム」シリーズ、「笑いのカイブツ」の岡山天音、「首」の荒川良々、「ある男」、「スイートマイホーム」の窪田正孝、「地獄の警備員」など黒沢作品に出演経験の多い松重豊などが出演する。
誰かの無意識な行為や行動が、強い悪意を呼び寄せ増幅していくインターネットやSNS.
その連鎖がやがて狂気へと変換していく怖さを、監督はどのように表現し、何を伝えようとしているのか。
あなたの日常にも「見えない闇や悪意」がすぐそばに潜んでいる。
あらすじ
吉井良介(菅田将暉)は、町工場に勤めながら“ラーテル”というハンドルネームを使い転売で日銭を稼いでいた。
医療機器、バッグにフィギュア……売れるものなら何でもいい。
安く仕入れて、高く売る、ただそれだけのこと。
転売の仕事を教わった高専の先輩・村岡(窪田正孝)からの“デカい”儲け話にも耳を傾けず、真面目にコツコツと悪事を働いていく。
吉井にとって、増えていく預金残高だけが信じられる存在だった。
そんな折、勤務先の社長・滝本(荒川良々)から管理職への昇進を打診された吉井は、「3年も働いたんだ。もう十分だろう」と固辞し、その足で辞職。
郊外の湖畔に事務所兼自宅を借り、恋人・秋子(古川琴音)との新しい生活をスタートする。
地元の若者・佐野(奥平大兼)を雇い、転売業が軌道に乗ってきた矢先、吉井の周りで不審な出来事が重なり始める。
徘徊する怪しげな車、割られた窓ガラス、付きまとう影、インターネット上の悪意。
負のスパイラルによって増長された憎悪はやがて実体を獲得し、狂気を宿した不特定多数の集団へと変貌。
その標的となった吉井の「日常」は急速に破壊されていく……。(Fassion Pressよりより抜粋)
登場人物紹介
- 吉井良介(菅⽥将暉)・・・普段は町工場に勤めている青年。医療機器、バッグ、フィギュアなどの転売で金を稼ぎ、ささやかな⾦儲けによって少しでも⼈より優位に⽴ちたいと願うごくありふれた人物。ハンドルネームは「ラーテル」。転売の仕事が軌道に乗り出した矢先、周囲で不審な出来事が起こるようになる。不⽤意に周囲の恨みを買ったことから突然“標的”となり、命を賭けた死闘へと引きずり込まれてしまう。
- 秋⼦(古川琴⾳)・・・吉井の謎多き恋⼈。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借り吉井との新生活をスタート。吉井との将来を夢見ていたが、次第に付き合いきれなくなっていく。
- 佐野(奥平⼤兼)・・・吉井に雇われたバイト⻘年。飄々とした性格。
- 三宅(岡⼭天⾳)・・・ネットカフェで⽣活する男。
- 滝本(荒川良々)・・・吉井が働く会社の社⻑。吉井に管理職への昇進を打診するが、固辞するばかりか、その足で辞職してしまう。
- 村岡(窪⽥正孝)・・・吉井を転売業に誘った高等専門学校の先輩。吉井に“デカい”儲け話を持ち掛けるが吉井は耳を傾けず、コツコツを悪事を行う。
- 殿山宗一(赤堀雅秋)・・・今にも倒産しそうな町工場の社長。
- 殿山千鶴(山田真歩)・・・宗一の妻。
- 矢部(吉岡睦雄)・・・三宅が出会う謎の男。
- 井上(三河悠冴)・・・人生を見失った男。
- 北条(矢柴俊博)・・・吉井を不審視する警察官。
- 室田(森下能幸)・・・下町の模型店の店主。フィギュアを吉井に売却する。
(以上Fassion Pressより抜粋)
最近SNSが非常に居心地の悪い場所になってきてますが、本作が映し出すものも「それ」にあたるのかもしれないですね。
ここから観賞後の感想です!!
感想
Cloud観賞。真面目な転売ヤーに訪れる恐怖。カメラワークにライティング、乾いた発砲音や廃工場などキヨシ節は健在。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) September 27, 2024
何も考えずに観れば面白い。
ただ、何か考え出すと途端に面白く無くなる。
動機に説得力ないんだよなぁ。
でもゲームとか言ってる時点でそんなもんか。
#映画クラウド pic.twitter.com/K5y2lB2q8S
キヨシって難解で不気味だから面白かったりするんだけど、わかりやすい展開だとどうも…。
しかしバカってプライド高いよなぁ、バカにされるとあそこまでいっちゃうんだもんなぁ。
以下、ネタバレします。
転売ヤー稼業はつらいよ。
冒頭、工場で定価で40万円もする電子機器を、1台3000円で30台買い締める吉井の姿。
まるで無気力にも見えるその表情からは、経営が厳しそうな工場主の夫婦がどんなに訴えても平然としており、行為自体が決して「悪い」とは思ってない様子に見て取れる。
工場主が言うには、商品が示した定価には様々な投資がされたうえで定めた値段であること、そこまでの買い手にはデザイン費や宣伝コスト、機材費や製作過程における人件費等、色々な工程を経て作られたものだからこそ価値があると説明をする。
それをただ目利きという直感だけで品定めし、買いたたき、それを定価以上の値段でネットで売りさばくという、単純に言えば漁夫の利とも言えるあくどい商売であることが提示されていく。
どちらかと言えば自分の工場主の言うことは正論だと思う。
何の苦労もせず、ただ「売れる!」という確信だけで買い占めて市場価値を狂わせていく行為は、色んな人から恨みを買われてもおかしくないし、天罰が落ちればいいとさえ思ってしまう。
ただ工場主はこの商品が売れずに困っているようだ。
このまま廃品回収に出せば余計にコストがかかり赤字が嵩むだけ。
だったら、吉井に売って少しの利益でも受けた方が安パイだと。
結果9万で30台買い締めた吉井は、ネット1台20万という半額の値段で売りさばくことに成功し、600万という驚異の利益を上げる。
一般企業でもこんな利益は上げられないだろう。
商売人としては天才だとさえ思う。
この件に関して言えば、工場主が半額で売れば御の字だったのになぁとは思うし、工場主はその点で言えば商売のイロハがわかってないのでは?というところに落ち着く。
定価に拘ると売るタイミングを逃すということだし、何より客はあの電子機器に40万円という価値を見いだせていない以上、落ち度は売る側にあっただろうと。
これに関しては無気力でありながらしっかり目利きして買い付け、定価よりも安く売ることで客が望む適正価格だったことが判明したわけだから吉井に分があると思う。
この吉井という主人公、一体全体どうしてこれが売れると思ったのだろうか。
あの機器が売れると感じた理由が全く描かれてないので、いわゆる転売ヤーがどういうリサーチをして、どういう情報を手に入れ、どういう経緯で買い付けようと思ったのか、そういった実態はまるで描かれていなかった。
とはいえ、そんなお仕事映画ではないわけだからそこにとやかくツッコむ必要はない。
問題はその後の「どこのブランドかもわからないバッグ」を売る部分。
1万円で仕入れた商品を、10万円で売るという非常にばかげた値段設定。
吉井曰く、一見偽物に見えてもおかしくない商品をタイミングを見越して出品すれば客は食いつくという。
ネットショッピングで商品を漁る人たちは、どこのブランドの商品化も分からないけどブランド品のように見える商品を、いとも簡単に買うなんてありえるのだろうか。
そんな疑問はさておき、そのどこのブランドかもわからないバッグは、少しずつではあるが売れていく。
なんてちょろい商売なんだろう。
この後家に自動車部品を窓ガラスめがけて投げつけたイタズラ野郎によって、吉井は警察に駆け込んでいくが、バッグを配送した業者からのタレコミによって「偽物を売りつけていないか?」と警察から目をつけられていることが発覚。
それにより、吉井は焦って安値で売りたたき在庫一斉処分を行う。
偽物でないと証言する吉井は、何故焦ったのだろうか。
虚偽の宣伝で売っていたのだろうか。
確かにブランド品ですと宣伝して売ったのなら詐欺だし、ただ写真と値段だけで売ったのであれば、堂々としていればいいはず。
なぜあのシーンで焦ったのか、自分にはよくわからなかった。
何かまずかったのだろうか。
他にも、限定台数のフィギュアを定価以上で買い占め、フィギュアを手に入れるのを今か今かと待ち望んで行列を成す客に怒りを買うシーンが挿入される。
これに関してはさすがに良くないとは思った。
吉井に売る店主も良くないが、適当な言葉を並べて口説き落とし、市場価値が吊り上がるタイミングを待って売る吉井の行動は、僕が良く知る転売ヤーのやり口そのものであり、これは行列に並んで待ち望んでいた客の気持ちに非常に共感した。
電子機器やバッグに関しては目を瞑るにしても、商品を独占して値段を釣り上げて高値で売る行為は、冒頭でも書いた通り「悪」でしかないと個人的には思う。
それこそが製品を丹精込めて、待ち望んでいた客に売りたいと願うメーカーの行為を踏みにじる行為であると共に、それを欲しいと願う客に対しても踏みにじる行為だと思う。
こう文章を書いていると、いかにも吉井の行い全てが悪のように思うが、映画は決してそのようには描いてない。
転売ヤーという一見楽して稼いでいる彼らが、どれだけそれに対して一喜一憂してるかにも触れている。
例えば、吉井の先輩である村岡は、何年もこの稼業を続けているベテランであるが故に、目利きをしながら商品を仕入れ、それを高く売り梱包して送りと届けるという一連の作業に疲弊している表情をしている。
年齢を重ねれば、新商品の発売日に何時間も店頭に並んでたくさん買うという体力面できついだろうし、全てが全て百発百中で当たっているわけではない苦労ぶりが窺える。
本来楽して稼ぎたいと思って始めた転売ヤーでも、そういう現実に直面することで、引き返したいと思っても引き返せないというのっぴきならない事情があるようなことを、吉井に語り出していく。
きっと始めた当初は、すぐに大金が手に入って何の苦労もせず悠々自適に暮らせると思ったに違いない。
しかし現実はそう甘くはないと、彼の表情が教えてくれるのだ。
一見部屋は広そうでそれなりの賃料を払ってそうなイメージだが、缶コーヒーや酒の空き缶、コンビニの弁当のゴミが散乱していることから、如何に彼の心がすさんでいるかが見て取れるのだ。
吉井の部屋はまだそうなっていない時点で、まだ現実を知らないのだろう。
しかし物語は、村岡とは違う疲弊が描かれていく。
後半から急にガンアクションへ。
吉井が行ってきた転売は、彼の知らぬ間に憎悪をばら撒いていたことになっており、物語は彼に対し「復讐」を望む輩が集うことで、非現実的な展開へと発展していく。
偽物をつかまされた、自分より転売が成功している、堅実に働かずに金稼ぎをしている、ただ鬱憤を晴らしたい、そんな憎悪が吉井に襲い掛かっていくシーンは、廃工場と乾いた発砲音、影をしっかり意識したライティングによって、キヨシワールドへと加速していく。
勝手にしやがれや蛇の道のような彼の初期の作品を彷彿とさせる舞台は、彼の作品を追いかけてきた人ならゾクゾクするシーンだったに違いない。
個人的には前半で描かれた、突如入り込む不穏な空気やカットに痺れたのでこっちの方がいつものキヨシで好きだなぁと思ったが、後半は特に何も考えずに観れば楽しい。
勝手にパソコンをいじったことで契約解除を言いつけられたアシスタントの佐野は、実は東京で殺し屋稼業をしていた経歴があることが明かされ、吉井を助けにやってくることから、吉井が一方的に暴力を受けるような展開にならずに反撃を仕掛けていくイーブンな戦いになっていく様は面白い。
でも、個人的には吉井にはそれなりの報いを物理的に受けてほしいという邪な気持ちもあった。
だからこそ佐野が助けにやってくるようなことは願ってはいなかったし、出来る事なら吉井にはあの局面から自力で何とか脱出してほしかった。
そもそも吉井を痛めつけたいと思って集まった連中は、個人的には皆バカだと思う。
そもそも吉井がどんな転売をしてきて、どんな評判になったのかが描かれておらず、なぜ彼に憎悪が向けられていくのかが不可解。
一応工場主に関しては理由はあるにせよ、結局のところ、自分を出し抜いて成功している吉井への妬みがほとんど。
何ともバカバカしい。
確かにSNSで攻撃するような連中は大したフォロワー数もおらず、素性も良くわからないやつらばかりで、とにかく現実で受けた屈辱のはけ口をそこにぶつけているだけってのが現状。
とにかく「まぬけ」だったり「成功者」が憎くて仕方ないだけだったりする。
匿名性を利用して何のダメージも受けず、ただただネットリンチをして憂さ晴らしをしたいだけの連中だったりする。
物語に出てくる連中はそれを可視化した様な奴らで、ホント見ていてアホだなと思った。
出来る事なら、そうした理不尽な理由で吉井を追い込むのなら、もっと理不尽で固めた恐怖を展開してほしかったが、結局助っ人参上で反撃開始、しかも拳銃出てきて銃撃戦勃発!!みたいなザ・フィクションで片づけてほしくなかったなぁと思う。
最後に
極め付けには、彼女だった秋子が拳銃を持って現れ、吉井にクレジットカードをよこせと近づいてくる。
秋子は結局、吉井ではなく金が欲しかったというオチ。
劇中で、吉井に色々なピンチが訪れても変なことを言うなぁと思っていたが、別に吉井に対して心配なんてしてなかったということが判る。
それにしても、なぜ彼が「金持ち」になると思っていたんだろう。
電子機器をいくらで売りつけいくら儲けたのか知っていたんだろうか。
大成する見込みがあったんだろうか。
結局仕事に夢中で自分に構ってくれないめんどくさい女だっただけ。
欲しいものを手に入れても使いこなせない、目の前で色気を出しても振り向かない若造にも相手にされず、ただ「本当に欲しいものが手に入らない」女という設定は、この物語に果たして必要だったのだろうか。
楽な金儲けはないし、それに成功した人を妬んで攻撃しても人生は豊かになるわけではなく、それをしたところで「地獄の入り口」でしかないことを描いたと思う本作。
自分は自分、人は人。
そう割り切って、物差しを計らないことが賢明だよなぁと思わされた作品でした。
しかし、もっと不穏さ欲しかったなぁ。わけわかんない方が、好みではないけどキヨシっぽいんだよなぁ。
あ、ドアが出てこなかったな!今回!!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10