モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男」感想ネタバレあり解説 あなたが目にしたモノは本当に「真実」ですか?

でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男

昨今フェイクニュースやら偏向報道やら目立つようになりましたが、発信する側はどんな気持ちでやってるんでしょうね。

それらを鵜呑みにして認知バイアスにかかる人もきっと多いはず。

 

収益欲しさにインプレゾンビを貸す輩もどんどん増えてきており、現在のSNSを見る限り、数年前より一層「真実を見極める判断力」が必要になってきていると思います。

 

今回鑑賞する映画は、一方的な「でっちあげ」が全国区へと発展し、「殺人教師」のレッテルを張られてしまったある男性の物語。

 

実話を映画化したものですから事件の真相は調べればわかるし、そもそもタイトルが「でっち上げ」ですから結末は見えてます。

しかし、見せ方は正直読めません。

もしかしたら本当に殺人教師のように見せて居心地の悪い内容になってるかもしれません。

要は見る側に「真実を見極める力」をつけようと仕向けてる内容、なのかもしれません。

とりあえず早速鑑賞してまいりました!!

 

 

作品情報

20年前、日本で初めて教師による児童への虐めが認定された体罰事件を、福田ますみがルポルタージュした著書『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を映画化。

これを「クローズZERO」や「藁の楯」、「怪物の木こり」の三池崇史監督が実写映画化。

 

保護者から「児童への体罰」で告発された小学校教師が、大々的に報じられたことで世間からのバッシングを受けるも、法廷で「事実無根のでっちあげ」と完全否定したことから、壮絶な争いへと発展していく様を通じて、「真実とは何か」「何を疑うべきか」を問う。

 

是枝裕和監督の「怪物」を彷彿とさせる本作。

これまでサイコパス教師を描いた「悪の教典」や、性根の腐った犯人護送劇「藁の楯」など、常軌を逸した狂ったキャラクターばかりを題材にして「バイオレンスの巨匠」の異名を持つ三池崇史は、「メディアの情報を無防備に浴び続け、鵜呑みにした受け手が自分を正義側に持っていって心地よさを感じている。その状況自体が、とても暴力的だ」と語る。

いつ自分がそうした歪んだ正義によって、加害者や被害者になるかもわからない現状を、本作を通じて目に見えない「暴力」で描いてることだろう。

 

主人公の小学校教師には「クローズZEROⅡ」以来の三池組参加となった綾野剛

あれからさらに演技に磨きをかけた彼が、本作では集中攻撃を浴び疲弊し苦しみながらも真実を伝えるために粉骨砕身するすがたを熱演した。

 

他にも、教師を告発する保護者役を、「着信アリ」、「蛇の道」の柴咲コウ、週刊誌の記者役を、「怪物の木こり」の亀梨和也、教師の妻役を、「ザ・ファブル」シリーズ、「LOVE LIFE」の木村文乃、保護者の弁護士役を、「沈黙のパレード」、「室町無頼」の北村一輝が、そして教師の弁護士役を、「首ーKUBIー」の小林薫が務めた。

 

片方が見た景色は、もう片方が見た景色とは違う見え方になる。

互いの主張をどのように描き観る者を惑わすのか。

これまで描いたことのないジャンルと語る監督の新たなエンターテインメントがここに。

 

 

 

 

あらすじ

 

2003年。

小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)は、保護者・氷室律子(柴咲コウ)に
児童・氷室拓翔への体罰で告発された。

体罰とはものの言いようで、その内容は聞くに耐えない虐めだった。

 

これを嗅ぎつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)が"実名報道"に踏み切る。
過激な言葉で飾られた記事は、瞬く間に世の中を震撼させ、薮下はマスコミの標的となった。

誹謗中傷、裏切り、停職、壊れていく日常。

次から次へと底なしの絶望が薮下をすり潰していく。

 

一方、律子を擁護する声は多く、"550人もの大弁護団"が結成され、前代未聞の民事訴訟へと発展。

誰もが律子側の勝利を切望し、確信していたのだが、法廷で薮下の口から語られたのは「すべて事実無根の"でっちあげ"」だという完全否認だった。(HPより抜粋)

youtu.be

 

登場人物紹介

  • 薮下誠一( 綾野剛)…小学校教諭。教え子の氷室拓翔に執拗かつ凄惨な虐めを行ったとして、拓翔の母親の律子に告発される。
  • 氷室律子( 柴咲コウ)…拓翔の母親。息子の拓翔が薮下に虐められていることに気づき、メディアと世論を味方につけて薮下を訴える。
  • 鳴海三千彦(亀梨和也)…週刊春報の記者。薮下の事件を実名報道し、世論に大きな影響を与える。

 

  • 都築敏明(大倉孝二)…薮下の勤める⼩学校の教頭。校長の段田に従順な態度を取る。
  • 前村義文(小澤征悦)…大学病院の精神科教授。拓翔の診断を担当する。
  • 堂前(髙嶋政宏)…週刊春報の編集長。鳴海の上司で、薮下の実名報道を許諾する。
  • 氷室拓馬(迫田孝也)…律子の夫で、拓翔の父親。薮下を「暴力教師」と激しく非難する。
  • 山添夏美(安藤玉恵)…拓翔のクラスメイト・山添純也の母親。
  • 箱崎祥子(美村里江)…精神科医。前村とともに拓翔の診断を担当する。
  • 藤野公代(峯村リエ)…教育委員会の教育長。
  • 戸川(東野絢香)…薮下の同僚。都築からの指示で薮下を監視する。
  • 橋本(飯田基祐)…裁判長。
  • 氷室拓翔(三浦綺羅)…律子と拓馬の息子。薮下が体罰を行ったとされる児童。

 

  • 薮下希美(木村文乃)…薮下の妻。彼を懸命に支える。
  • 段田重春(光石研)…薮下の勤める⼩学校の校⻑。自らの保⾝に⾛る。
  • 大和紀夫(北村一輝)…律⼦側の弁護⼠。550人もの⼤弁護団を率いて裁判に臨む。
  • 湯上谷年雄(小林薫)…薮下の弁護人。

(以上Wikipediaより抜粋)

 

 

 

 

原作では第1審まで描かれてるようですが、裁判はそこで終わってないそうです。

本作はどこまで描くのかも気になります。

ここから鑑賞後の感想です!!

 

 

感想

捻じ曲げられた真実に苦しみながら闘い抜いた小学生教師の10年間。

今や政治でさえ「嘘」が「真実」になることだってあり得る社会。

いつ自分が藪下先生のようになるかわからない。

明日は我が身だ。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

ざっくりあらすじ。

物語は、原告である律子の視点から描かれる。

家庭訪問が午後21時に行われるという、普通ではありえない時間設定の中、不愛想な藪下先生が「戦争のせいで外国人が日本に来てしまった」ことや「血が穢れている」などという教師以前に人間として在り得ない発言が連発。

 

やがて藪下の行動は児童である息子・拓翔に矛先が向けられ、帰宅の準備ができない拓翔に対し「うさぎかピノキオか」などといい、鼻を思いっきり引っ張って流血させる。

帰宅途中の拓翔を見つけた母・律子は、その姿を見て唖然とし、夫を連れて学校へ乗り込むのだった。

 

藪下先生の授業には監視がつくが、帰宅途中の拓翔を待ち伏せした藪下先生は、今度チクったらお仕置きだぞ、死に方教えてやろうかなどと脅迫、あまりの恐怖に拓翔は自殺未遂まで起こす事態へと発展していく。

 

 

一方藪下先生の視点に切り替わると、律子の証言は全くのでたらめであることが窺える。

拓翔は同級生に暴力を振るう姿が度々映る。

 

家庭訪問を終え帰宅した藪下の自宅に、律子から「家庭訪問」の催促の電話が鳴る。

律子の都合で2日後に設定したはずだが、そんなことはないと反論された藪下先生のは、降りしきる雨の中21時に自宅を訪問。

 

「私は祖父がアメリカ人で…」、「なるほど、血が混じってるんですね。だから拓翔君は髪が赤いのか」や、「日本人はなぜPTAに積極的でないのか」という律子の発言に対し、藪下先生は「戦争の時から日本人は控えめなのかもしれません」などと、律子の証言とはまるで違う会話を23時まで付き合わされていく。

 

3週間後、律子と夫が学校に謝罪を要求してきたと校長から聞かされた藪下先生。

拓翔が体罰を受けている、自殺を強要されたなどまるで身に覚えのない言い分に、すかさず否定をし続ける藪下先生だったが、かつて同級生をいじめる拓翔に指導の一環として手の甲で軽く触れる程度の暴力をしたことを語ったことで、校長から「体罰を認め謝罪しろ」と強要されてしまう。

 

やがて律子と夫の前で謝罪したものの、またもや身に覚えのないことを言われた藪下先生はすかさず否定。

その態度に激昂した夫を鎮めるため、その場は校長と教頭によって丸く収まったかに見えた。

 

しかし、保護者会の前で「体罰を認め謝罪」をする羽目になり、地方新聞の一面にその模様が掲載され、さらには律子の計らいにより週刊誌に一方的な内容の記事が掲載されてしまう。

事態が大きくなってしまった学校は対応に追われ、藪下先生は担任を外されるだけでなく、教育委員会から聞き取りをされ、「停職6か月」という非常に思い処分を言い渡される。

 

その後自宅には週刊誌の記者だけでなく数多くのマスコミが押し寄せ、家には「死ね」や「殺人教師」の誹謗中傷の張り紙が張られるなど、とても穏やかに暮らせる状況ではなくなっていく。

 

途方に暮れる藪下先生は、教育委員会から課せられた研修センターへ行かず、古から外で酒を飲み暴れる姿をマスコミに撮られたことを機に、妻に離婚を言い渡す。

妻は「事実ではないことを事実にされて悔しい」と嘆く。

 

やがて律子から訴状が届き、民事裁判へと発展。

弁護士のいない藪下先生は、最初の口頭弁論で「全て事実無根のでっちあげ」と反論。

 

いわゆるマチベンの弁護士に弁護を依頼することで、長きにわたる裁判の幕が切って落とされる。

 

・・・というのが中盤までのあらすじです。

 

一体誰が悪いのか。

観賞前に一体どんなことが起きたのかをザックリ把握したこともあり、結末をどこに設定するのか、どんな演出で描かれていくのかに着目しながら観賞しようとここ見たわけですが、藪下先生のあまりの理不尽さに「捻じ曲げられた真実によって人生をここまで狂わされてしまうのか」と愕然としました。

 

一応映画というフィクションが混ざった部分はある事を前提に語ると、藪下先生は決して体罰をするような感情的な態度で児童に接するような教師ではなく、どの児童にも平等に優しく振る舞う「良い先生」でした。

 

とある児童の家庭訪問の様子からもうかがえ、4軒回って出された今川焼を全て食べてしまうほど「断れない性格」が見えてくるほど。

 

そんな先生が、虚言癖にも思えるほど全く身に覚えのない言いがかりをつけられ、さらに校長や教頭から「とにかく謝れ」と言われれば、断れるわけがない。

校長から言い寄られた際もはっきり反論すればよかったわけだが、事の重大さを理解できていなかった点や、優しい性格ゆえに言われるがままにしてしまう優柔不断さが、その後の悲劇を起こしてしまう原因にもなっている。

 

事態は徐々にエスカレートし裁判にまで発展してしまうが、それでも藪下先生は優しさやピュアな面を忘れていないのが印象的。

 

あることないこと言われるたびに反応してしまい、動揺を隠せない姿もあれば、証言の最中に激昂して反論してしまう姿を見るに、第3者の視点から見て、どうしてこんな人が体罰なんかしたんだろうと思えて仕方がない。

 

拓翔がいじめた同級生の母親に証言をお願いするシーンでも、週刊誌の記者の前で感情的になりながら「どうしてみんな一方的な情報ばかり信じ、被告の意見には耳を貸してもらえないのか」と嘆く姿、その会話を全て録音して再び歪曲された記事を書かれてしまう藪下先生を、とても見てられなかった。

 

 

これを演じた綾野剛の演技は、それまで見たことがないほど追い込まれた演技になっていて、素晴らしかったですね。

律子の証言再現シーンでは、ホント不愛想で差別主義者的な発言を繰り返しながら横柄な態度をとり、拓翔に容赦ない暴力を振るう姿が映るが、それはかつて綾野剛が演じた「悪い奴」そのもので、暴力を振るうことに何の迷いもない心が冷え切った芝居を見せていた。

 

しかし藪下先生の証言に映るとそれまでの姿とは全く違い、とても優しくピュアな姿しかなく、さらには追い詰められてどんどん疲弊していく姿は、まるでスピードワゴン小沢とうり二つになるほど顔がむくんでおり、こうした二面的な演技をいとも簡単いにゃってのけてしまう彼に改めて役者の凄さを感じました。

 

恐らく本作を見た方誰もが、綾野剛演じる藪下先生に肩入れするのと思うんですが、そうさせる演技を見せられるってことは、万が一彼の証言が違ったとしてもそう思わせる時点でそりゃもう一流じゃないかと。

 

逆に律子演じる柴咲コウはもう不気味一色。

冒頭の自分の証言再現シーンでは、いかにも中流家庭の良き妻のような振る舞いを見せながら、藪下先生に脅えていく良心的な面を見せているけど、蓋を開けてみれば一切瞬きなどせず、息子をいじめた教師を敵視し、一切聞く耳を持たず報復していく姿がとにかく怖い。

 

実際、律子の証言は全て虚言であったことが明かされるけど、アメリカ人の血を引いていなかったことが明かされた時の否定発言の表情は、本作の中で一番不気味でした。

 

本作では、なぜ律子がそんな調べればバレてしまうような嘘をついたのかを、幼少期の回想シーンから読み取るしかできないわけですが、それにしたってなぜあんなにも教師をつるし上げるまで追い込むのかまるで理解できない。

トリミングされた過去を見ただけでは全く理解できない分、とにかく律子が不気味なのが本作では印象的です。

 

こうなってくると、その後の律子の夫の態度や、原告側の弁護を担当した北村一輝演じる大和がどういう変化を起こしたのか気になります。

果たして律子の虚言を擁護したのか、それとも「俺に恥かかせやがって!」と夫婦げんかにでもなったのか。

それは想像するしかない分、本当に怖かったですね。

 

 

結局のところ、この事件は体罰を認定した教育委員会や教師の言い分を全く聴こうとしない校長に責任があるように思えます。

校長は定年を控えた身から保身に走ったとみるのが一般的な見方だと思いますが、それ以上におかしいのは市の教育委員会ですよ。

 

一応原作のその後まで描かれて幕を閉じるので、ハッピーエンドにはなってますが、何故教育委員会は体罰を認定したのか意味が分かりません。

映画では藪下先生があれだけ必死に弁解をしてるのに、聴く耳をもたずに結論付けてしまう対応をしてますが、本当にあんな簡単に終わらせてしまったんでしょうか。

 

 

自分の話になりますが、僕の妹も教師をしており、いわゆるモンスターペアレントのせいで厄介なことになったと聞いてます。

しっかり上の先生を挟んで対応できたようで大事にはならなかったようですが、この手のケースは大概児童が親に嘘をつき、親がそれを鵜呑みにして乗り込んでくるのが一般的なんだとか。

 

確かに親は子を守りたい一心なのはわかりますが、子供は平気で嘘をつくことを把握しておかなくてはいけないと思います。

自分も子供の頃に親に嘘をついたことはあります。

それは何の悪気もなく、ただ単純に「親に怒られたくない」一心だっただけ。

 

嘘をついたことでどういう事態が起きてしまうのかを想定できないのは大人以上なわけで、まず大人は事態をしっかり把握するために子供からヒアリングをしないといけないのかな、そんなことを本作を見て感じました。

 

 

最後に

冒頭でも書いた通り、今やSNSでは特にこれといった根拠もなく一方的に攻撃や批判をする旨の言葉を見かけます。

そんな内容を、いわゆるインフルエンサーといった多数から支持されている人が書くと、あたかも「それが真実」だと誤って受け止めてしまう節があるように思えます。

 

昨今世間を騒がせている某アイドルの件もそうですが、なぜ全容が公に明かされていないのに、誰かが発信した内容を鵜呑みにしてしまうのか、またはそれを受け売りに反対意見や渦中の人物とされる人を攻撃してしまうのか。

僕自身全く理解できません。

 

そう考えると、あくまで本作は事実に基づいた作品ですが、全容を隅から隅まで把握できたわけではないので、自分でちゃんと確かめない限りは下手なことは言ってはいけないのかもしれません。

 

怪物然り羅生門然り、最後の決闘裁判然り、真実は他方から見ればまるで違うように見えてしまうわけですから、普段の生活でも気にかけなくてはいけないよねと。

また、根も葉もないことを誰かから指摘され、それが拡散されれば、自分も藪下先生のように「人生を台無し」にされる可能性もあるわけです。

 

今や誰かをつるし上げ崖に突き落とすなんて簡単なんです。

多数を味方にしちゃえば、それが真実になってしまうんです。

物理的な暴力でなく、言葉の暴力が何よりも鋭いことを理解しながら、上手にSNSや情報を受け止めなくてはいけないわけです。

 

 

今回の三池監督、非常におとなしい演出でした。

特にカメラワークは、ゆっくり被写体にフォーカスしながらピントを合わせていき、背景のみを遠ざけるような、人物をしっかり捉える撮影だったように思えますし、劇伴も大袈裟に抑揚をつけるようなモノで無かったことから、彼なりにこの事実に基づいた物語を丁寧に抽出したかったのかなと感じました。

 

 

映画を堪能しつつ、色々学びにも繋がった作品でした。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10