ドリームプラン
ウチの親父は雪国育ちなだけあって、アルペンスキーの国体で賞を取るほどの腕前だったらしい。
実際親父が滑ってる姿を見たことは一度もないが、実家に飾ってあるトロフィーの数と当時の写真から凄かったことだけはわかる。
運動神経も抜群で、俺が小学校高学年の時には既に40手前だったにもかかわらず、庭でバック転を見せてくれた光景は今でも鮮明に覚えている。
とはいえ、別に親父はかつての夢を息子に託すようなことはしなかったし、運動神経はしっかり受け継いだものの球技はからっきしダメだった俺は、親父から何か特別な指導を受けた記憶はない。
今回鑑賞する映画は、テニスの世界チャンピオンの姉妹を育て上げたお父さんの話。
一見、子供に一方的に押し付けてる気もしなくはないですが、親父から何か押しつけのような教育を受けたことのない僕にとっては羨ましい限り。
映画だってさ、俺が子供の頃ダーティハリーやらクロコダイル・ダンディーばっか見てたのに、大人になったら映画の話全然してくれねえんだもんw
早速観賞してまいりました!!
作品情報
世界最強のテニスプレイヤービーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンにまで育てた実の父親リチャードの「計画書=ドリームプラン」にまつわる驚きの実話を、アカデミー賞主演男優賞に2度もノミネートし、人気、実力ともにハリウッドNo.1の称号をもつ俳優を主演に映画化。
ひょんなことをきっかけに、娘を最高のテニスプレイヤーにすることを決意した父リチャードが、お金もコネもない劣悪な環境下、苦難の連続や周囲からの批判をあぶる中、独学で研究し作り上げた「78ページに及ぶ計画書」を基に、揺るがぬ信念と娘たちの才能と可能性を信じて自身の人生全てを捧げていく。
第94回アカデミー賞において、作品賞はじめ6部門にノミネートした本作は、アメリカンドリームを実現するために必要なことや、自分を信じることの強さを余すことなく伝えてくれる、まぎれもない「ドリーマー」のための映画だ。
それを具現化すべく優秀なスタッフ陣の手によって、90年代のロサンゼルス・コンプトンを見事に再現。
さらには本人からのアドバイスも実り、リアルな試合模様を再現。
ビヨンセが歌う主題歌も手伝って、胸を熱くするパワフルな作品へと仕上がった。
究極のアメリカンドリーム映画であり、究極の家族映画でもあると評される本作。
信じることの大切さを、この映画から改めて教わろう。
あらすじ
2人の娘を世界最強のテニスプレイヤーに育てる夢を持つ破天荒な父親リチャード(ウィル・スミス)。
テニス未経験の彼は、娘たちが生まれる前から「常識破りの計画=ドリームプラン」を独学で作成。
その無謀なプランと娘たちの可能性を信じ続けた父は、どうやって2人の世界チャンピオンを誕生させたのか?(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、レイナルド・マーカス・グリーン。
え~すいません、初めて知る方です。
2018年のサンダンス映画祭で「Monsters and Men」を出品し、審査員特別賞を受賞初作品賞を受賞。これが初の長編映画だそうです。
後にマーク・ウォールバーグを主演に迎え、ゲイであるために学校でいじめを受けた息子を守るため、そして世の中を変えるためにアメリカ横断を試みた父の物語「ジョー・ベル~心の旅~」を手掛けています。
監督は本作をオファーされた際、リチャード一家が自分と似た境遇を持っていることにシンパシーを感じたとのこと。
父親から野球選手になるための特訓を受け、メジャーりーがになるためにトライアウトを受けたことや、治安の悪い地域で育ったためにコソコソ隠れて練習していたことを語っています。
劇中でもそんなリチャードと姉妹の姿が描かれてるそうです。
さらに実在する人間リチャードというキャラクターを忠実に描くことにこだわったとのこと。
彼が書いた本や周りの人たちからの情報を基に、ウィルスミスを通して作り上げたそうです。
一体どんな物語に仕上がってるのでしょうか。
キャスト
娘をプロテニスプレーヤーにする夢を抱く父・リチャードを演じるのは、ウィル・スミス。
ウィル・スミスといえば「アイ・アム・レジェンド」や「インディペンデンス・デイ」、「バッドボーイズ」や「スーサイド・スクワッド」、「アラジン」などアクションやSFのビッグバジェットに主演する印象が強いです。
ノリノリのキャラでありながら締める所は締める、そんな熱いキャラにみんなホレてると思います。
しかし「幸せのちから」や「アリ/ALI」といったドラマでも存在感を発揮する人です。
そもそも人間味あふれる演技を得意とする方ですから、ノリなんか無くても素晴らしい俳優なんですよ。
実際この2つの作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされてます。
本作は破天荒でありながら、自分と家族を信じ続ける男。
きっとノリノリもあり、不屈の精神を見せるタフさも見せる、最高のお父さんを見せてくれることでしょう。
彼の作品はこちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
リチャードの妻オラシーン役に、「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」、「ビール・ストリートの恋人たち」のアーンジャニュー・エリス。
リチャードの娘ビーナス役に、「フェンス」、「ドリーム」のサナイヤ・シドニー。
リチャードの娘セリーナ役に、ブロードウェイミュージカル「ライオン・キング」や「スクール・オブ・ロック」に出演したデミ・シングルトン。
ポール・コーエン役に、「ゴースト/ニューヨークの幻」、「ラスト・サムライ」のトニー・ゴールドウィン。
リック・メイシー役に、「フォードvsフェラーリ」、「モンタナの目撃者」のジョン・バーンサルなどが出演します。
スポ根モノでもあり、親子愛を描くヒューマンドラマでもありそうな本作。
一体どのようにしてチャンピオンを育てたのでしょうか!
ここから観賞後の感想です!!
感想
#ドリームプラン 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年2月23日
「選手」としても「人間」としても一流に育てるって考えには同意だなぁ。
人種云々でなく。
しかしリチャードになりきっているウィルスミスの視線が、話が進む毎に狂気じみて見えたのは俺だけだろうか… pic.twitter.com/WwARzip6pO
原題「キング・リチャード」。
アメリカンドリーム映画としてすごいんだけど、狂気じみたものを感じるんだよなぁ…。
キングって皮肉にも捉えられる・・・。
以下、ネタバレします。
王者たる者、謙虚であれ。
治安の悪い町コンプトンでテニスの世界チャンピオンを生んだ父の、破天荒でありながらも計算しつくしたかのようなプロセスや秘訣を、チャンピオンとなった娘たちでなくキングであるリチャードの視点で描く本作は、やや独裁的な教育方針に見えがちなリチャードの確固たる信念と、夫と同時に娘を世界一にしたいと願う妻、そして3人の娘たちの協力なくしては成し得ることのできなかった家族という名の「チーム」の物語でございました。
夢を語るのは誰だってできる。
しかしその目標までに何をすべきかを解っているのはほんの一握りなのだ。
「いつか俺は東京ドームでライブするんだ」とイキっていた10代の俺に、リチャードの爪の垢を煎じて飲ませたい、そんな気分にさせられた。
劇中ではイントロダクションで挙げられていた「78ページに及ぶ計画書」に関する項目は具体的且つ明確に明かされてはいない。
あくまでリチャードの脳内、もしくは優秀なテニスコーチに無償で提供したパンフレットの中に書いてあるのかもしれない。
しかし、ふとしたシーンで金言かのように語られる格言には、何度もハッとさせられた。
例えばシンデレラ。
コーチのアドバイスによりジュニア大会に参加し、優勝をかっさらいまくるようになったビーナスと、彼女を応援する姉妹たちは有頂天になっていた。
大会の帰り道、トロフィーを回しっこしながら今回のハイライトを自慢げに話し出す彼女たちに、リチャードは不満そうな顔をし始め、「大会が終わったらテニスの話はしないこと」と忠告する。
それでも自慢話をやめない娘たちに業を煮やしたリチャードは、彼女たちに飲み物を買わせようと車から降ろす。
そしてすぐさま車を走らせるのだ。
突然の奇行に妻オラシーンは激怒。
娘を置きざりにするなんて許せない。
しかしリチャードは、歩いて帰ったという自慢話をすればいいと言い返す。
オラシーンの説得によりその場は何とか収まったが、帰宅後に今回自分が何を伝えたかったのかを、「シンデレラ」のアニメを見せて説教をし始める。
リチャードは「この物語でなぜシンデレラはハッピーエンドを迎えることができたのか」を娘たちに聞く。
茶化す者もいれば直接的に捉える者もいる中、リチャードは「謙虚であれ」と諭す。
彼女が幸せになれたのは「どんなに辛い目に遭っても謙虚な姿勢」だったからだと。
その志を持っていれば、例え試合に勝ったとしても敗者を讃える慎ましさを持てる。
高慢さや不遜な態度は、いつか身を亡ぼすと言っているのだ。
ただ単純に「うちの子は天才」と浮かれる親バカなのではない。
テニスの練習以外でもしっかり教育を施しているのだ。
しかも勉強だけではなく道徳心もだ。
一流の選手になるためには、激しい練習だけではなく何ヶ国語も話せる勉強も必要だし、王者であり続けるための精神や、夢を掴んだことで慢心しない「謙虚」さも必要であることを、リチャードはちゃんと見通しているのだ。
これらをしっかり植え付けなければプロ大会に出場はさせないという、少々独りよがりな考えも飛び出し、リックやオラシーン、当事者であるビーナスも困惑させる一幕が見られる。
しかしビーナスがリック・メイシ―のスクールで出会った世界チャンピオンであるジェニファー・カプリアティが、大会を休みがちにしていたと思ったら薬物所持で逮捕という報道が流れるのだ。
リチャードは、自分の娘がただテニスが強いだけだと、遅かれ早かれ心が未熟なジェニファーのようになることを予見しているのだ。
このように、リチャードの教えは「プランにしくじるのは、しくじるプランだから」や「謙虚な姿勢であれ」といった格言が多々登場する。
他にも彼の幼少期の境遇から、自分が子供たちを守る義務があること、白人と渡り歩くには強情なまでの交渉が不可欠だということや、テニスばかりではなく子供としての日常も大切だということ、「無料のモノには手を出すな、絶対裏がある」など目白押し。
父親の目線で見ると、こんな風に親身になって教えれば、立派な子に育つんだろうなぁとまで思える作品でした。
でも気味の悪さも感じる。
ただ一方で、リチャードに対する気味の悪さも感じた。
本作はとにかくウィル・スミスが神がかっている。
終始猫背で車を運転し、若干上目遣いで世界を見渡し、何か説教する際には極度の激高はせず、なるべく温厚に語る。
常に優位に立ちたい本能を宿しているであろう白人富裕層には、ちょっとの隙も逃さず言葉を拾い、敵対心を見せる。
容姿に至っても、赤い短パンに赤い上着を着こなし、ビーナスやセリーナにテニスのコーチ。
本編の最後に映る本人と家族たちの姿を見れば、いかにウィル・スミスが役に徹したかが理解できると思う。
このように演技や芝居に関しては文句はないのだが、リチャードという男がウィル・スミスを通して、どこか歪んでいるとも感じる。
一番の要因は、何でもかんでも自分で決断し行動してしまう点。
ビーナスとセリーナをテニスの世界チャンピオンにしたい気持ちは、家族みんな一緒。
だから妻は「チーム」だと語る。
しかし、リチャードはビーナスがいつプロに転身するかや、一切大会に出さないこと、最初のコーチとのレッスン解約、ジュニア大会優勝後に自慢げに語ることに腹を立て置き去りにすることなどなど、とにかくだれにも相談せずに自分で決めてしまうのだ。
反論する者がいれば「計画書どおり」の一点張り。
ジョン・マッケンローを指導するコーチも、ジョンよりもやりづらいと言わしめる始末だし、妻とも何度も衝突する。
常に情熱的にアプローチし、興奮しがちのリックに至っては、なるべく譲歩する姿勢を見せるも、歯がゆさを隠せない態度を見せる。
確かにビーナスとセリーナはまだ未熟な子供。
親が実権を握っていてもおかしくない。
しかし、本人がどうしたいのかやどう在りたいのかに関しては、相談したり事前に報告するのが普通だと思う。
それすらもせず、何でもかんでも勝手に決断してしまうのはいかがなものかと、観ていて居心地の悪さを感じた。
もっと気味が悪いのは、基本的に家族がみなリチャードに逆らわない点だ。
先ほども書いたように、ビーナスもセリーナもリチャードにたてを突かない。
コーチを解任しても、ジュニア大会に出ないことになっても。
エージェントとの契約の際に無料で食べ放題の食事を取り上げられても、道で置き去りにされても、土砂降りの中で練習をしてもとにかく逆らわない。
親の教育のたまものだという見方もあるが、あまりにもイエスマン過ぎてしまい一般的な「子供らしさ」を感じないのだ。
親父は正しいと植え付けられているのだ。
世界チャンプになるからにはメンタル面も謙虚であることも大事だと教えてくれる本作だが、家族の姿として見ていくと、昔気質な「家父長制」のようなものを感じてしまった。
原題は「キング・リチャード」である。
アメリカンドリームを実現させ、世界を注目させ、尊敬されるスポーツ選手並びにブラックアイコンを作り上げた功績は確かに素晴らしく、「王」の称号を与えるに等しいとも思う。
ビーナスとセリーナを間違った道に進ませずに長年チャンプとして君臨させることで、貧困層の黒人たちに夢を与えたわけだから当然だ。
ただ彼は「王様」だということだ。
何度か妻による軌道修正はあったものの、基本的には家族の中で彼の言うことは絶対なのだ。
劇中では何度か「エホバ」の言葉が登場する。
エホバとは「エホバの証人」の意味で、キリスト系の宗教。
東京で暮らす人なら一度は勧誘されたことがあると思う。
リチャードはその信者なのだ。
宗教は専門外なので詳しいことはわからないが、リチャードの姿を見ていると、忍耐力や勤勉であること、暴力をしない、そして家父長制を敷いていることがうかがえる。
コンプトンで若者に暴力を振るわれても手を出さない姿、娘たちに練習と同様しっかり勉強もさせる姿、目標を達成するために労力を惜しまず励む姿など、宗教の教えに沿って生きている。
家族の長は神の代理だという教えのエホバは、リチャードが目指していたものだったのだろう。
だから劇中で自分が疑問に思ったことや気味の悪さを感じたのは、エホバに心酔した毒親だったからだ。
近隣住民とは敵対関係が見受けられるシーンもエホバの教えだそうで、信者同士の交流以外の近隣住民との接触を制限していたらしい。
向かいの家に住む女性は、子供たちに対するスパルタ教育を心配して苦情をしていたのではなく、単純に近所づきあいやコミュニケーションをリチャードが断ってきたからなのかもしれない。
父親としていかがなものかという視線を向けてきたわけだが、なぜ彼がこうなったのかについても劇中では描かれている。
ビーナスが大会に出たいと初めて自分で主張したシーンで、リチャードは涙ながらに子供時代の自分を語る。
彼が住んでいた町では、白人から物を買うときに手に触れてはいけなかったらしい。
それを徹底していながらも、運悪くお釣りをもらう際に触れてしまったリチャードは、周囲にいた白人も含め袋叩きにされたそうだ。
うずくまりながら体を守っていたリチャードは、周囲の奥で自分の子供を守ることなく逃げていった父親の後ろ姿を見て愕然としたそうだ。
だから、親になった暁には、子供たちには決して後姿をみせたくない、逃げる姿を見せたくない、親は子を守る義務があるからと涙ながらに語る。
また黒人であるが故に虐げられてきた過去から、常に優位に立ちたがる白人と対等に渡り合う賢さも忘れない。
エージェントとの契約の際、つい口走って「信じがたい」という言葉を2度使ったことに激高したリチャード。
相手が白人の場合2度も「信じがたい」という言葉を使わないと責め立て、結果契約をしないことを決めた。
最後に
KKKという白人至上主義によって抑圧されながらも、4人の妹を守ってきた長男リチャードは、エホバの証人の教えによって、品行方正な世界チャンプを生み出すことに成功したわけだが、あくまで彼だから、そして彼に協力した家族だから成し得た奇跡だということを念頭に入れておきたい。
彼の真似をして子供たちに熱心な教育をしても、おそらく成功などしないだろう。
しかしアメリカンドリームは、リチャードのように「キング」として家族に君臨し、周囲から忌み嫌われたり狂ってると言われても、夢のために身を粉にしなければ叶わないのだ。
そんな父親でなければ、ビーナスやセリーナのような姉妹は誕生しないのだ。
・・・なんか断定的な語り口になりましたが、映画的にはブチ上がるような内容ではなく、リチャードの視点で進行するお話でしたね。
もちろんクライマックスの試合での緊張感は素晴らしいです。
・・・つまようじ加えながらじっと立っているリチャードの視線を気味悪がらなければw
とにかくこれは「美談」で、側面で構成された映画です。
製作に彼らが関わっているわけですから、都合の悪い描写はほとんどありません。
でもリチャードの視点で描かれてるのですから、それでいいのです。
もし、気になるようであれば、こちらの記事を参考にしてみてください。
僕が気味が悪いと感じた理由は、これで解決しました。
賛否両論あるかと思うんですが、日本でもこの手の映画製作できると思うんですよ。
横峯さくらの親父とか、亀田三兄弟の親父とか、福原愛のおかあさんとか。
どれも親か子供がスキャンダルに遭ってますけど、本作の彼らもスキャンダルはありましたから。
まぁ見たいかどうかは別ですw
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10