ユーロ・ビジョン歌合戦~ファイア・サーガ物語~
いきなりですが、僕の大好きなアーティストMr.childrenは、日本の年末の風物詩「NHK紅白歌合戦」に1度出場していますが、それまでオファーがあっても断り続けていまいした。
その理由は「歌で白黒つけたくない」から。
オリコンの順位で1位は獲りたいくせにすげえ矛盾してるなぁ、と幼き頃の僕は感じていましたが、確かに歌でどちらが優れているかなんてナンセンスで、より多くの人に共感してもらえればいいことなのです。
ちなみにミスチルが1度だけ出場した理由は、NHK北京オリンピック番組の主題歌を任せられたのと、亡くなった桜井さんのお父様のたっての願いだったから、とのこと。
なぜこんなことを冒頭で語ったのかというと、今回鑑賞したNetflix映画は「歌合戦」で優勝することを夢見る2人のアーティストのお話だからです。
へぇ~外国にも歌合戦なんてあるんだね、ってのが、最初の印象。
オーディション番組こそ今や当たり前のように存在し、世界中のドリーマーたちが出演して話題になってますけど、歌合戦は聞いたことがない。
何とヨーロッパで70年にわたる歴史をもった番組があるんだそう。
その名も「ユーロ・ビジョン・ソング・コンテスト」
欧州放送連合の加盟放送局によって開催される毎年恒例のコンテストなんだとか。
各国の代表が圧倒的な歌唱力とド派手なパフォーマンスでオーディエンスを魅了し、優勝を競うそうで、優勝国は翌年の開催地になるほど各国の放送局が力を入れている、長寿番組だそう。
しかもここからABBAやセリーヌ・ディオンなんて世界的に有名なアーティストが輩出されてるくらい。
長年愛されているだけあって、ヨーロッパの人たちは家族そろってこの番組をみるらしい。
また採点方式は放送局の代表が、自国以外の代表にポイントを入れて決勝戦に進出する代表を選ぶ形式の模様。
こりゃ本格的ですね。
一体このユーロビジョンをどうやって映画にするのよ?って話なんですが。
監督は「シャンハイ・ナイト」や「ジャッジ 裁かれる判事」のデヴィッド・ドプキン。
主演は何とウィル・フェレルと、俺のレイチェル・マクアダムス。
そう、なんで俺がこの映画を観ようと思ったって、俺のレイチェルが出演するからってのが理由。
「ドクター・ストレンジ」以降全然お目にかかれてなくて、それこそ「ゲーム・ナイト」とか「ロニートとエスティ」なんて宗教上の理由でレズビアンであることに苦しむ二人のお話ってすごく真面目な映画にも出演していて、あ~観たいけど、なんか無理!ってんで避けてた事情がございまして。
俺としてはもうオバさんの域に達してるけど、キュートでおバカでプリティなレイチェルが大好きなのよ。
だから今回はちゃんと見ようって決めてたってわけ。
で、レイチェルのお相手がアメリカが生んだコメディ俳優、毛むくじゃらで野太い声だけど、どこかセクシーなウィル・フェレルってことで、これまた期待。
半分程度しか彼の作品見てないけど、「俺たち」シリーズはどれも面白いしくだらないし、大好きなんですよ。
ウィルは今回脚本に参加してるし、製作総指揮には彼の盟友アダム・マッケイまで参加してるではありませんか。
この2人で一体どんな映画になったのよ!?ってことで、まずは、ざっくりあらすじ。
アイスランドの小さな町に住むラースとシグリットは、幼い頃に観た「ユーロビジョン」でのABBAの輝きぶりに魅了され、その頃から歌手としてユーロビジョンの舞台に立つことを夢見て育つ。
しかし大人になってもその夢を捨てきれないラースは、父親からも町の人たちからも笑われてしまう。
そんな彼を支えるのがパートナーであり共に歌を歌うシグリット。
一方アイスランドの放送局は優勝候補とされるカティアナを代表に選考したいと考えてるが、もし彼女が優勝すれば翌年はアイスランドが開催地となり、来場されるであろう50万人ものオーディエンスを迎える態勢が整えない、しかも国として財政難であることから予算もないということで、銀行の頭取は頭を悩ませていた。
そんなこんなでアイスランドの予選にデモテープを送ったラースとシグリットのユニット「ファイア・サーガ」は、予選で大恥をかく大失態を犯すも、予選後の船上パーティーの船が爆発し出場者は全員死亡するハプニングが生じ、まさかの繰り上げ当選することに。
いざ本選の舞台スコットランドのエジンバラに向かう。
本選に出られるということで、これまで以上に気合を入れたラースは、衣装も楽曲のアレンジもステージパフォーマンスもグレードアップ。
反対にシグリットは気合を入れ過ぎていることで初心を忘れかけているラースに不安を覚えていく。
果たして二人は念願のステージに立ち優勝することができるのか。
って感じ。
で、感想入ります!!
正直ウィルフェレル主演映画にしては笑いの度数はあまり高くないものの、急に飛び出すフェレル節がツボにはいるし、コメディエンヌとしても抜群の才能を持つレイチェルがちゃんとついてくるのが、まず面白い。
序盤、二人とも白い衣装に白い化粧で断崖絶壁の上に立ち、シンセサイザーを対面で並べて、「ほ ほ ほ」とトーキングモジュレーターで奏でるイントロ。
一体何が始まるのかと思ったら「ボルケーノ・マン」という二人の共作を、PVチックに歌い出すではありませんかw
ヴァイキングを装ったラースがどうみても米米CLUBのジェームス小野田にしか見えない風貌にまず大爆笑だし、ヨーロッパ特有のユーロビートから派生した様なリズムとアレンジで、これをクソまじめに二人が演じてるのがもう最高なんですよ。
しかもレイチェルが中々のディーバで、サラ・ブライトマンとかセリーヌ・ディオンとかの系譜を踏んだ細い声とファルセットで高音域を軽やかに歌うではありませんか。
あ~こんなのずっと続くのかよw
腹よじれるよwwなんて、いい出だし。
またね、Netflixが出資してるだけあって、ユーロビジョンの模様はかなり規模のデカいスケールになっていて、これがとにかくすごい。
出場するアーティストのパフォーマンスも楽曲も本気だし、ファイアサーガ自体もかなり気合の入った楽曲に仕上がっていて、これだけで音楽好きとしては満足できる。
劇中では既存の曲もアレンジして歌ってて、ラースとシグリットが町のライブハウスで歌うのがファレル・ウィリアムスの「Happy」だし、本選前のパーティーで「ソングアロング」ってのをやるんだけど(誰かが急に歌い出してどんどん勝手には持って参加するような感じの遊び)、ここでシェールの「Billieve」からABBAの「恋のウォータールー」に繋がって、ブラック・アイド・ピーズの「I gotta feeling」ってメドレーで終わるかと思ったら、まさかこれらの楽曲をマッシュアップしてみんなが盛大に歌うっていう圧倒的パフォーマンス。
そもそもユーロビジョンの人たちが奏でる音楽が多種多様なんだけど、やっぱりアメリカの音楽とは明らかに違う独特のメロディとビートなんですよね。
やっぱりABBAが生んだポップス音楽が、ユーロディスコ、ユーロビートを生み、ハウス、ジャングル、トランスへと流れていった歴史を感じさせる音楽ばかり。
言葉で表現するのは難しいんだけど、懐かしいところで言うと、アクアとかペットショップボーイズのような電子サウンドを基盤に、今風のEDMにしてるんだけど、メロディがちょこちょこマイナーな音階挟んでくることで、逆に癒しに聞こえる欧州ならではのメロディラインが心地いいんですわ。
こういうクソまじめにコメディやる感じが凄く肌にあうのか、音楽はクソカッケーのにどこか笑ってしまうのがさすがウィルフェレル作品だなぁと。
物語も、ストーリーラインの腰を折るかのようにどうでもいい会話始めるわけですよ。
シグリットと口論になって落ち込むラースが、噴水の水面に映る自分と語り始めたかと思えば旅行中のアメリカ人にケンカふっかけるかのようにキレだすし、リハーサルでもさっさとやればいいのにシグリットとやり取り多いし、舞台袖でも何かと会話始めるし、急に幽霊出るし、アイスランドの人たちが信じるエルフにひとりで話しかけるシーンだけかと思ったら、まさかのエルフが姿出さずにあんなことして、これ見よがしに家のドア締めることろだけ映す件とか、急にクジラがシンクロナイスドスイミングばりの美しい回転を見せるとことか、叫んだら氷の崖が崩れ落ちるとか、船から飛び出して陸まで泳ぐラースとか、再びラースとシグリットがケンカしてラースが会場飛び出すんだけど怒りに任せてゴミ箱倒すと同時に簡易トイレまで倒して、中で用を足してる人が実はいてごめん!って言いながら泣いて走るラースとか。
基本的には話を止めてまで笑いを作ろうとする映画って好きじゃないんですけど、ウィルフェレルだけは許せるんですよね、なんでだろw
せっかくのカッコイイパフォーマンスもウィルにかかればとんでもない失態になるわけで、宙づりしたのに片方外れて宙ぶらりんになったり、ハムスターの如く走る車輪に乗りながら歌うんだけど、シグリットの長いスカーフ(長すぎる時点でフラグ立ってたなw)が絡みついて客席を襲ってしまう始末になったりと、ただ歌って終わりにさせないとこがもう面白くってね。
テーマとしては、どんなに大人になっても笑われても夢を諦めることがどんなによくない事かを謳った内容で、また夢見て都会へ飛び出して現になっても故郷こそあなたの居場所、みたいなことでしょうか。
足元しっかり見ろよ、目の前にいる人をしっかり見ろよ的な。
一応ねシグリットは幼少の頃話すことができなかったけど、ラースに救われた恩がやがて恋に発展し今に至るって感じの設定で、ラースなんか相手にしなければいい男幾らでも寄ってくるのにってくらい優しくて賢くて美しい存在なわけですよ。
それに気づいているくせにビジネスのパートナーとは恋愛しちゃいけない、ABBAやフリートウッド・マック、そしてサイモン&ガーファンクルwwみたいないじりを入れつつ、シグリットの気持ちを拒否するんですよね。
やがてロシア代表のレムトフと二人っきりになったり、ラースはラースでギリシャ代表の女性と一夜を共にしたりって誤解が重なって、二人には音楽についても恋愛についても至難が訪れるわけです。
これをどう乗り越えていくか。
ラースは歌うことの意味にようやく気付き、、シグリットはラースにそのことを気付かせるための歌を作り、その気持ちを込めた歌をラストで歌うんですよ。
これがなかなか壮大な曲で、この歌詞こそが今回言いたかったことだろうと。
ザックリ言えば、笑いの頻度よりも音楽的要素が大きかったので、物足りなさと感動度が反比例しちゃってるんですが、面白かったと言えば面白かったですね。
ただ一つだけ不満を言うのであれば、レイチェル・マクアダムスが歌ってない事でしょうか。
当初、あれ?レイチェルってこんな歌上手いのか、でも当てぶりでしか歌ってないな…なんか変だな、しかもこんな高音域だせるのか?と。
で鑑賞後サントラ調べたら彼女の名前ねえじゃねえか!ウィルはちゃんと歌ってるのに!ぷんぷん!と。
僕は映画の中で音楽を表現する際、ついていい嘘とついてはいけない嘘があると思ってて、せめて当てぶりでもいいから嘘だと思われないようなパフォーマンスをしてほしいと。
そこで疑問や不安を持たせないで話に集中させてほしいって気持ちがありまして。
レイチェルは堂々と歌ってるように見えましたが、肝心の歌が自分じゃないてのには非常に残念でした。
補足として、なぜラースが尋常じゃないくらいアメリカ人を毛嫌いするのか、なんですが、これアイスランドの経済事情が絡んでるのだと思います。
サブプライムローンによるリーマンショックが、世界的に大きな経済危機を生んでしまいましたが、実はアイスランドでもとんでもない財政破綻を起こしてしまったそうで。
そもそもアイスランドは小さい国にも拘らずGDP(国内総生産)は世界トップレベルだったのに、為替市場で通貨が大幅下落、非常事態宣言して銀行を国有化するなど、とにかくアメリカの証券会社のせいでめちゃくちゃにされてしまった過去があります。
危機の後、観光事業や輸出業が盛んになったことで奇跡的に回復したようですが、ラースにとってはその時のことを今でも根に持ってるってギャグなんですかね。
ギャグで言えば、実際のユーロビジョンではアイスランドは一度も優勝してないし、主要人物に誰もアイスランド人がいないってのが既にギャグ。
エンディングで役者名の隣に国旗を付けてるんですけど、ウィルはアメリカ、レイチェルはカナダ、ラースのお父さん役ピアース・ブロスナンはアイルランド、ロシア代表のレムトフはイギリスと、わざわざ出身地を示してるんですよね。
これもですね、ユーロビジョンが音楽よりも政治優先になっていることへの批判とも取れるし、いわゆるホワイトウォッシュへの風刺にも見えるんですよね。
本来の意図は僕のような凡人にはどういうことかわかりませんが、あえてこういう表記にしてる、キャスティングにしてるってのには深い意味があるはずです。
え~今回目次も見出しもつけないスタイルで書いてしまいましたが、意外と面白いですし、音楽は本気です。
いや映画自体も本気なんですけどw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10