ファースト・ラヴ
公認心理師。
保険医療や福祉、教育その他分野において心理学に関する専門的知識や技術を使って、心理に関する支援を要するものに対し、観察、分析、支援、助言や情報の提供をするお仕事だそう。
実は、2015年に公認心理師法というのが成立、2017年に施行されたことで生まれた「国家資格」とのこと。
国家資格にすることで、専門資格の質の向上や、活動領域を広くできるメリット、雇用の安定などが見込まれるんだとか。
じゃあ、似たような職業の臨床心理士とどう違うの?っていうと、臨床心理士は観察や分析、援助をしたうえで、自身の研究に活かせる職業だそうで、公認心理師は研究ではなく、情報の提供及び発信が求められた職業とのこと。
今回鑑賞する映画は、この公認心理師が職業の女性が主人公のお話。
父を殺した娘の動機を探るために取材する主人公が、自身の隠された記憶と向き合っていく、予測不能のヒューマンサスペンス。
え?犯人と向きあうことで、自分の初恋相手の思い出がよみがえるの?
どういうこと?
もう見ないとさっぱりわかりません!!
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
第159回直木賞を受賞した島本理生のベストセラー小説を、「TRICK」や「SPEC」など奇抜なアイディアで組み立てられた作品から、「人魚の眠る家」、「望み」などの本格的なサスペンスドラマと幅広いジャンルで観衆を魅了する堤幸彦の手によって映画化。
「動機はそちらで見つけてください」
アナウンサー志望の女子大生が父親を刺殺するという衝撃的な事件を、公認心理師の主人公が取材しながら真相に迫るが、徐々に自身の過去に向き合っていく。
今回監督と初のタッグを組む女優を筆頭に、演技は俳優陣が集結。
彼らの迫真の演技が、物語をよりリアルにエモーショナルに加速させていく。
なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか。
タイトルの意味とは?
あなたの「愛された記憶」を刺激する禁断のサスペンスミステリー。
あらすじ
川沿いを血まみれで歩く女子大生が逮捕された。
殺されたのは彼女の父親。
「動機はそちらで見つけてください」
容疑者・聖山環菜(芳根京子)の挑発的な言葉が世間を騒がせていた。
事件を取材する公認心理師・真壁由紀(北川景子)は、夫・我聞(窪塚洋介)の弟で弁護士の庵野迦葉(中村倫也)とともに、彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねる。
二転三転する供述に翻弄され、真実が歪められる中で、由紀は環菜にどこか過去の自分と似た「何か」を感じ始めていた。
そして自分の過去を知る迦葉の存在と、環菜の過去に振れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになるのだが・・・。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、堤幸彦。
近年はTVドラマよりも映画製作の方に力を入れている印象が見受けられます。
ここ数年で「十二人の死にたい子どもたち」、「人魚の眠る家」、「望み」など、婚スントに製作を続けてますよね。
もはや伝説となった「ケイゾク」や「トリック」、そして「SPEC」のようなTVドラマをまた作ってほしいなと思いますが、きっとアイディアを練っていると期待して待とうと思います。
堤監督の特徴のひとつに、膨大なカット割りというのがありますが、今回はあるシーンを長回しワンカットで撮影したそう。
自分が思い描いていたカットワークでは通用しないシーンだということをリハーサルで判断し、変更したとのこと。
恐らくそれだけ熱量が注がれた、本作の象徴にもなり得るシーンなのでしょう。
楽しみです。
監督に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
公認心理師の主人公、真壁由紀を演じるのは北川景子。
ショートカットになったことがネットニュースでも話題になりましたが、どうやら本作に出演するための役作りで髪を切られたみたいですね。
相変わらず「美」がダダ漏れです。
今回初の「堤組」に出演、しかも主演ということで、かなりの気合と覚悟が入ってる様子。
親を殺した容疑者から取材をしなければならない、または向き合わなければならない役柄の為に、相当な覚悟を持って臨んだそう。
公認心理師という職業から学び、実際の方から話を聞くなど役を作る上で欠かせないリサーチをする一方で、最初に台本を読んだ時のファーストインプレッションを大事にしたいという意識ももっているそう。
頭ではたくさんインプットしながらも、気持ちは柔軟な姿勢で臨むということでしょうか。
髪を切ってまで臨んだ久々の主演。楽しみです。
彼女に関してはこちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
父親殺害容疑で逮捕された娘、聖山環菜役に、「累~かさね~」、「今日も嫌がらせ弁当」の芳根京子。
由紀の義理の弟で弁護士の庵野迦葉役に、「サイレントトーキョー」、「騙し絵の牙」の中村倫也。
由紀の夫・我聞役に、「沈黙~サイレンス~」、「溺れる魚」の窪塚洋介。
娘に殺された父親、聖山那雄人役に、「ナインソウルズ」、「決算!忠臣蔵」の板尾創路。
環菜の母、聖山昭菜役に、「ドクター・デスの遺産」、「告白」の木村佳乃。
由紀の母、早苗役に、「モンスター」、「雪の華」の高岡早紀。
環菜の元恋人、賀川洋一役に、「HiGH&LOW THE MOVIE2」、「PRINCE OF LEGEND」の清原翔などが出演します。
モンキー的には由紀の夫我聞を演じる窪塚洋介に期待したいところです。
いまだにタイトルの意味から結末が想像できないんですが・・・。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
きっと由紀や環菜のようなトラウマを抱えた女性はたくさんいるだろう。
切なくも痛い「初恋」が事件をつなげていくお話だけど、どうも構成が・・・。
以下、ネタバレします。
先の読めない展開、ではなかったか。
父親を殺した女性に公認心理師として携わる由紀と、どこか訳あり感のある義理の弟で弁護士、妻の仕事を優先し写真館を営む由紀の夫、そして父親を殺した被告人・環菜の4人を中心に描く事件の行方を、取材を追うごとに明らかになるメインストーリーと、記憶の奥に鍵を閉めたまま生きてきた由紀が少しづつ過去に向き合おうとするサイドストーリーの二つで構成し、タイトルの奥に潜んだ真実を見せていく物語。
女性たちの「目」の奥に潜む脅えや、男性たちが見つめる「目」が特徴的な本作は、「動機はそちらで見つけてください」という謳い文句を引き合いに、少女たちのSOSを誰も読み取ってくれない大人に対する警鐘でもあり、未だ蔓延る女性軽視や蔑視、性の搾取をし続ける男性への「罪の意識の無さ」への警告にも繋がる、現代的な作品でもありました。
大人の男性から受けた仕打ちは、物心つかない年齢では善悪の区別もつかず、親に縋るしかない。
その親がSOSを受け取れない環境が、子供に「我慢して笑う」ことでしか対応できない辛さを生み、大人になっても消えない痛みとして残ってしまう。
いつだって女性は、通りすがった男性の視線を気にせず歩くこともできず、電車の中でも施設の中でも、その場にいる男性の視線を浴びながら生活するしかない、息苦しい環境の中で生きている。
男性側からすれば自意識過剰と片づけてしまいがちなことかもしれないが、我々男性が女性側の立場になっての生活を心がければ少しずつ変化していくことだってあるわけで、何もしなくても加害者になり得る意識が必要であることを本作は思い知らせてくれる。
また、一生記憶に残るであろう「初恋」におけるエピソードが、後の悲劇になってしまう辛さからも、性の搾取と思しき描写になっているのが印象的な作品でもありました。
真相にたどり着いたとしても、どこか口当たりの悪さがかすかに残る一方で、彼女たちの痛みが緩和された結末から、一抹の希望が見えた瞬間もあった作品だったのではないでしょうか。
しかし「なぜ事件が起こってしまったのか?」と真相を辿っていくうちに、主人公のトラウマ描写へスライドしていく構成や、そのトラウマに対する衝撃度、主人公の父親の所在、主人公の母に対する疑問、優秀なはずの弁護士の手腕描写もとい無能さ、女性の被害や痛みだけを取り上げ涙を誘うも、「罪の意識のない」男性たちへの制裁に繋がるような爽快感のなさが結局搾取だけになっているようにも見え、監督の演出面による弱さ、脚本の粗、現代的でありながら表面だけをなぞったようなテーマ性含め、正直映画としては満足いかない出来栄えでした。
話の流れに違和感
はい、というわけで「ファーストラヴ」、たまたま事件の取材を行った被告人のトラウマと自分が塞ぎ込んでいたトラウマが一致。
あなたの痛みは私の痛みでもあると共感することで、ようやく事件の真相が動き出してくというお話でございましたが、なんともややこしいお話でした。
担当する弁護士が義理の弟で、しかも初恋の相手。
もうこの時点でなんとなく主人公のトラウマが薄く見えてくる。
要は、旦那に隠し事があるからっていう後ろめたさがあるんじゃないの?と。
じゃあ旦那はどんなんかなぁ?と思ったらいたって平常心で、妻の帰りを待ちながらポトフやら肉じゃがやら、冬定番の煮込み料理を丹精込めて作ってらっしゃる。
すいませんお邪魔してもいいですか?と思わせてくれる料理の映像はたまりません。
というか、親から受け継いだであろう写真館を切り盛りしているダンナですが、キッチンやリビングはやけにおしゃれでした。
リフォームでもしたか?
・・・話が脱線しましたねw
とまぁ、夫婦でありながら妻は昔の初恋相手と事件を追う羽目になる構図がまず飛び込んでくるわけです。
全国的に報道されてしまっている聖山環菜が起こした事件の概要ですが、父が務めている大学のトイレ内で環菜が包丁で父親の胸部を刺し、凶器を持ったまま帰宅。
母親と軽い会話をした後で再び外へ飛び出し御用というのが、世間に伝えられている報道でした。
父親から反対されていたアナウンサー試験に落ちたことへの腹いせが動機か?という報道に対し、「動機はそちらで見つけてください」と煽る環菜。
供述をコロコロ変える彼女に弁護士の迦葉もお手上げ状態。
サイコパスなんじゃないかとまで言われる始末。
そこで公認心理師として本まで出版する活躍を見せる由紀がしゃしゃり出るわけです。
彼女の内面を探ることで事件の役に立ちたい、加えて彼女を救済したいと。
面会室でやたら環菜と由紀の顔を重ねていく演出が目に留まるんですが、ぶっちゃけやり過ぎでしたね。是枝監督の三度目の殺人を参考にでもしたのでしょうか。
一度どっちを撮ってるのかわからないくらい重ね過ぎた場面がありましたが、それをやるときは二人がようやく心の闇を打ち明けた瞬間に見せるのがベストだったんじゃない?なんて勝手に思いながら鑑賞してましたw
迦葉と由紀、色々複雑な事情がありつつも共に行動する場面へと展開されていくんですが、どう見ても警察が調べててもかしくない新事実がどんどんでてくるんですね。
特に環菜の自傷癖に関しては、収監される際に見つかる傷のはずだし、弁護士と公認心理師が被告人と面会する以前に資料として提出されるレベルの部分だと思うんです。
しかも母親が検事側の証人として立つなんて、一体警察は事件の取り調べでどんな話を聞いていたのでしょうか。
要は、由紀自体はまだしも、優秀な弁護士であるにもかかわらず、情報を全然知らないのが不自然で仕方ありません。
どうやら被告人には少女時代に何かあったところまで掴んだ二人は、情報収集のために富山へ出向くわけですが、有力な情報を掴んだ夜に男女の臭いがプンプン。
ここから由紀の回想シーンへと話はスライドしていきます。
大学時代に二人は出会い互いに惹かれあっていくも、枕を交わす際に二人は互いの本性を知ってしまうわけです。
母親からの愛を知らずに育った迦葉は、急に歴代彼女の人数自慢から由紀にセックス依存症と診断され首を絞めてしまうし、由紀は由紀で初めての夜だったわけで。
え?これが由紀のトラウマなのか?と一瞬疑いましたが、そうではなかったので一安心。
とはいえ、中盤で結構長めの回想をぶち込んでくる構成は、話の集中力を損なうかなぁ、なんでもっと後半に入れなかったかなぁ、その方がミステリー性があったあのに、などアレコレ雑念が生まれてしまった部分でありました。
とまぁ、由紀の初恋相手が迦葉で、旦那に黙って富山へ行ってしまうドキドキの情報収集目当ての旅行は、今後本編にどう絡んでくるのかワクワク。
帰宅後の旦那がこれまた平常心なので、後が怖いなぁなんて考えて構えてました。
今度は環菜の初恋相手を見つかる急展開。
コンビニでバイトしていた青年に恋心を抱いていた当時小学生の環菜、という設定からめちゃんこ怪しい匂いがしましたが、予感は的中。
男子大学生を集めて催された父親のデッサン会のモデルに嫌気がさした環菜は、このコンビニでバイトをしていた男性に拾われ、彼の家に何度も行く仲に発展します。
しかし男性は、最初こそ彼女を保護する立場にいたものの、隣に眠る美少女にムクムクしちゃうわけで。
しかも環菜も環菜で、笑顔を見せて受け入れる始末。
なんだ、互いで合意か、ではなく明らかにアウトな案件。
良心を装って性の搾取をしたこのクソ男に憤慨したかったであろう由紀でしたが、ここはぐっとこらえて証言台に立ってくれ、罪の意識があるなら今こそ彼女を救う時だとお願いしますが、残念ながら断られてしまうわけです。
何で断ったかというと、結婚して妻も子供もいるから僕の過去を知られたくないと。
保身てやつですね。
さすがにはらわた煮えくり返った由紀は、意を決して自分の傷を環菜に見せることで心を開いてもらおうとする作戦に。
由紀の心の闇は、母親からの突然の告白によるものでした。
成人式当日、あなたも大人になるんだから言っておこうと思って、お父さんの事と。
由紀のお父さんはフィリピンへ出張する際、少女を買春していたことを母親から打ち明けられます。
急に吐き気を催した由紀でしたが、その理由は母親からの告白ではなく、これまでずっと父親に対する違和感が確信に変わったからです。
洗面所で着替えてる時の父親の視線、塾の迎えに来た父親が同級生に送る視線など、明らかに性の対象として見ていたこと、そして車の助手席の引き出しの中から飛び出てきた少女の大量の写真。
点と線が結ばれてしまったことで、彼女は大きな心の闇を抱えて育ってしまったのです。
恐らく父親から性的虐待をされたわけではないのでしょう。
とはいえ、父親という絶対的信頼が崩れてしまったこと、自分を保護してくれる立場の人間が恐怖の対象になってしまったこと。
もしかしたら知らぬ間に何かいたずらをされていたかもしれない、ずっといやらしい視線で育てられたのかもしれない、など想像すればするほど恐ろしくなります。
あの美貌で大学三年まで純潔を守っていたのも、もしかしたらこの過去に繋がるのかもしれません。
僕自身一番恐ろしいと思ったのは、この事実を母親が普通にサラッと娘に打ち明けること、さらには夫婦間でこの問題は解決しているからと平然と話す態度。
劇中では由紀の両親が未だ結婚を継続しているか、離婚しているかは明かされてません(聞き逃したかも)。
しかし、こんな大問題を成人式当日の車内で話すことではないのと、娘の精神状態が不安定になるかもしれないという母親の想像力の欠如がとにかく怖かった。
環菜も同様に、男性の裸体をバックにデッサンのモデルをさせられ、しかも真剣にデッサンに取り組む男子大学生の鋭い視線によって、由紀も環菜も「男の人の目が怖い」というトラウマに悩まされて生きてきたという共通点がここで結びつくのであります。
そして、ようやく心を開いた環菜は、これまでの供述を一転し、父親を殺してないと主張し始めることから、事件の真相はさらに混迷を深めていくわけです。
果たして事件の真相やいかに、という話の流れでございます。
最後に
最後に色々真相が描かれていったわけですけども、裁判の判決は妥当かなぁと。
事件にだけ言及するのであれば裁判長の言う通りで、彼女に情状酌量の余地はあれど、事故であることを主張するには対応が雑だし、証言だけを鵜呑みにしてはいけないような不穏な点がいくつか散見しているようにも思えたんですよね。
カッターで傷をつけていたのに、なぜあの日だけ包丁なのかとか、清掃中のトイレに呼び出すというのも不可解。
水浸しなのもあとからどうにだってできるし、なぜ男からの視線を浴びることに苦痛を抱いている女性が、アナウンサーなんて志望するのか。
というか一般企業の面接でも無理な気がするし、大学で色々過ごしたのなら自ずと自分の向き不向きが見えてくるはずなんですけどね。
また元カレとの証言の食い違いも難しいですね。
彼が検事側の証人として立ったら、刑の重さも変わるんじゃないか。
色々疑問が浮かぶミステリーではありましたけど、「ファーストラヴ」というモノが事件と2人の心の闇に繋がる言葉として、また裁判を終えた由紀にとって本当の愛が育っていく希望のラストだとは思います。
また男は本作を見て肝に銘じるべき内容でもある。
別に何もしてない、のではなく、相手に何かしているかもしれないという意識をもって女性を見ないと。
北川景子は頑張った方じゃないですかね。
モンキー的には窪塚洋介の包容力を見せる芝居が素晴らしかったです。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10