グッバイ・クルエル・ワールド
銀行強盗をテーマにした邦画ならいくつか存在しますが、ヤクザや組織から強盗を企てる邦画って、実はそんなにないんですよね。
一応90年代には「GONIN」なんて名作がありますが、ここ10年くらいで見ていくと「ヒートアイランド」っていうがっつりエイベックスが絡んだ作品くらいで、嫌いじゃないんですが、いかにもポップ過ぎるというか若者ウケ狙いすぎるというか。
もっと大人向けで、ハードボイルドで、カッコイイクライム映画を日本で作れないものか。
そんな僕のリクエストにこたえてくれたかのような作品が、今回鑑賞する映画。
なんでも一夜限りの強盗団を結成して大成功をおさめるけど、その後が大変だったっていう、クズ同士の潰し合いを描くお話とのこと。
予告を見る限りめちゃめちゃ洋画のB級クライム映画を意識したかのような、オシャレなフォントに音楽に容姿に空気感ではございませんか。
あと「アメリカン・アニマルズ」のようなあらすじにも感じますね。
てことは、やっぱりタランティーノ意識なのかな?
というわけで早速観賞してまいりました!!
作品情報
「さよなら渓谷」、「MOTHER/マザー」で知られる大森立嗣監督と、同じく「さよなら渓谷」や「そこのみにて光輝く」の脚本家・高田亮がタッグを組み、金に群がるクズ同士の醜い争いを描くオリジナル作品。
素性の知らない年齢の違う男女5人組による一夜限りの強盗団が、ヤクザの資金洗浄現場を襲い強奪に成功するも、予想だにしない事態に巻き込まれていく姿を、社会性を秘めつつバイオレンスたっぷりに描く。
出演には「ドライブ・マイ・カー」で世界的に名を知らしめた西島秀俊や、彼と共に出演した「シン・ウルトラマン」が代表作となった斎藤工、蜷川実花作品御用達の玉城ティナに、NHK朝ドラでも大活躍の宮沢氷魚といった若手俳優、そして三浦友和や監督の兄弟でもある大森南朋といった豪華布陣。
日常が一変してしまった彼らによる生々しいまでの人間描写をリアルに演じる。
音楽にはソウルやファンクを使用し、描写も80~90年代のクライム洋画を意識したかのような、クールでカッコよくハードボイルドでポップな世界観を構築。
洋画の懐かしさと日本特有の裏社会がミックスされたカリフォルニアロールのような映画が誕生した。
チューニングの合わない者同士によるエキサイティングな物語。
果たして裏切者は誰なのか。
あらすじ
夜の街へとすべり出す、水色のフォード・サンダーバード。
カーステレオから流れるソウルナンバーをBGMに交わされるのは、「お前、びびって逃げんじゃねーぞ」と物騒な会話。
互いに素性を知らない一夜限り結成された強盗団が向かうのは、さびれたラブホテル。
片手にピストル、頭に目出し帽、ハートにバイオレンスで、ヤクザ組織の資金洗浄現場を“たたく”のだ。
仕事は大成功、大金を手にそれぞれの人生へと戻っていく。──はずだった。
ヤクザ組織、警察、強盗団、家族、政治家、金の匂いに群がるクセ者たち。
もはや作戦なんて通用しない。
クズ同士の潰し合いが始まる。
最後に笑うのは誰だ!(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、大森立嗣。
こういうクライム映画を作り続けてるわけではありませんが、「MOTHER/マザー」や「さよなら渓谷」、「タロウのバカ」のような社会にはみ出された者が犯罪を犯してしまうかのような視点をテーマにした作品は作ってるんですよね。
そこに「まほろ駅前」シリーズのような、いかにも男の子が好きそうな空気感を挟んできた、そんなイメージができる作品なのではないかと期待しております。
端々からクエンティン・タランティーノ監督やガイ・リッチー監督作品のようなレトロで泥臭くてクールな匂いが立ち込めてますが、本人曰く「タランティーノ監督を意識しない」よう心がけて製作したとのこと。
そして人物についても中途半端な奴らが「居場所を見つけらない」姿をテーマに描いたそうで、そこに監督らしい社会的視点を入れてる予感です。
個人的には監督にあまりエンタメ色が感じられないイメージがあるのですが、どんな作品になってるか楽しみです。
キャラクター紹介
- 安西幹也(西島秀俊)・・・今は家族との平穏な暮らしを望む元ヤクザ。妻子への愛の陰に、凶暴な過去を隠している。
- 萩原(斎藤工)・・・裏稼業でのしあがるヤミ金業者。悪だけが恋人。
- 矢野(宮沢氷魚)・・・事件に大きく巻き込まれていくラブホテルの従業員。強盗団に真っ先に締め上げられる。
- 美流(玉城ティナ)・・・強盗現場となったホテルに出入りしていた風俗嬢。ヤミ金業者からの借金の取立てに追い詰められている。すさんだ暮らしの中で、自由を買い占める大金が欲しい。強盗団の一員として大金強奪に成功するが、求めていた日常が訪れることはなかった。ラブホテル従業員・矢野とコンビを組み、裏切り者たちへ復讐をはじめる。
- 武藤(宮川大輔)・・・美流の彼氏。美流を全力で擁護する。チンピラ感あふれる、どこか愛しいキャラクター。
- 蜂谷一夫(大森南朋)・・・強盗団を追い詰めるヤクザ組織と蜜月関係にある刑事。正義と悪の間に揺れる。
- 浜田(三浦友和)・・・すべての登場人物の運命を翻弄する強盗団のボス。政治家や上流層へ反旗を翻し、裏仕事を仕切る。
- ヤクザの組長(奥田瑛二)・・・強盗団に大金を奪われたヤクザ組織の組⻑。危険な香りを漂わせる。
- 組員(鶴見慎吾)・・・組の組員。大金が盗まれたラブホテル現場にかけつけ、刑事・蜂谷と暗躍し強盗団を追う。
- 組員(奥野瑛太)・・・安⻄がヤクザ組⻑だったころの組員。家族との平穏な暮らしを望む安⻄のもとに突然現れ、脅しをかけて安⻄家に転がり込んでいく。
- 安西の妻(片岡礼子)・・・夫が元ヤクザ組⻑という過去に引きずられながらも懸命に一人娘を愛情いっぱいに育てるが、夫の周囲の不穏な動きを感じていく。
- 県知事(螢雪次朗)・・・県知事選挙で4選を狙っている県知事。浜田との確執を持つ。
- 裏仕事の仕入れ屋(モロ師岡)・・・優しい顔で近づきヤミ金業者らに裏仕事を与えていく。
(以上、FassionPressより)
クルエルとは残酷という意味だそうですが、「狂えるワールド」とも解釈できるとのこと。
強盗団の話とはいえ、あくまでそれぞれが「理由」を抱えて盗みを働くわけで、それぞれの思惑や背景を読み取りながら楽しいみたいですね。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#グッバイ・クルエル・ワールド 🔫観賞
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年9月9日
コステロのアルバムと同名の本作は、吸い取られてきたクズたちGONINによる反骨の狼煙と、それでも変えられない世界を描く。
監督らしく社会性を含み、要所をアメリカンケイパー風味で「狂えるワールド」にするが、それが振り切れてないように見えてしまう。 pic.twitter.com/NIF5Uj67j6
日本映画でこの手の犯罪映画をやってくれたことは称賛したいが、正直中途半端な出来。
やるならもっと「モノマネじゃん」と言われても遊んでほしい。
とはいえ監督らしい社会風刺も挟んでいたので見ごたえはありました。
以下、ネタバレします。
確かにタランティーノっぽいよね。
地方都市を舞台にクズ同士による一夜限りの強盗団が、見後tに成功を収めるも裏切りの連続により散っていく姿を、タランティーノやジョン・ウー映画よろしくスローモーションとバイオレンス演出によって90年代アメリカ映画の匂いを放出するも、内側は「搾取された者たちがどんなに足掻いても世界を変えることができない」痛みや辛さを孕んだ物語であり、狂乱の世界を豪快に描くことよりも彼らの儚さを描く方を選択した作品でございました。
ポスターからフォント、音楽の選曲に至るまでレザボア・ドッグスやジャッキーブラウンのような作品を拝借した感じが強かったのですが、結局蓋を開けてみればその要素は10分の1程度のモノで、ここぞというシーンでしか発揮されておらず、なんとも中途半端だなぁと少々がっかりした部分が大きかった作品でした。
正直あからさまに「タランティーノっぽさ」を匂わせているのなら、「タランティーノの足元にも及ばねえ!」と酷評されてでも堂々とストレートにやってほしかったですね。
その方が日本でもこういう映画をこんな豪華なメンツで出来るんじゃん!という今後への期待が持てたし、何より製作陣には男の子が大好きな映画をとことんやってほしかった部分があります。
とはいえ大森監督は紹介の部分でも書いた通りそこかしこにリベラルらしい反逆精神が見え隠れしており、弱き者たちにフォーカスを当てることで今の社会にボディブローをかますことを決して忘れないのであります。
そういう意味では本作はタランティーノぽさを拝借しながら、しっかり作家性を見せた意義のある作品だったのではないでしょうか。
さて一体どこがタランティーノっぽかったのっつう話ですけど、もう冒頭からモロにやってくれましたねw
これから強盗だってのにアメ車に乗ってやってきた安西一行が、目出し帽にオレンジのコートを着てヤクザの金を強奪する姿は、カメラワークこそ乏しいセンスではありましたが、見事なまでに「映画で観たことある風景」を見せてくれました。
そもそも一夜限りの強盗団ですから連係プレーも出来てないし、何なら死語だって多い。
タラちゃんならここでこの私語を面白おかしくやってくれるんでしょうが、そこまでやってしまったらそのまんまってことで、とりあえず浜田のボヤキ節に留めた感じ。
ということで冒頭の強奪のシーンはいわゆるタラちゃんの表層的な部分を拝借したことを記すためのシーンでもあったように感じました。
それからタラちゃん風味は鳴りを潜め、地方都市ならではの暗さ静けさと共に「犯人捜し」へと突入。
トゥルーロマンスなのかパルプフィクションのパンプキンとハニー・バニーをやりたかったのか矢野と美流のコンビを作り、強盗団たちを追い詰めていく。
このコンビが自分たちを裏切った萩原をショットガンだか散弾銃だかを持って喫茶店へ乗り込んでいく姿はやっぱりパンプキンとハニー・バニーを意識したのかなぁと。
ジョン・ウーよろしくスローモーションでレインコートをなびかせ颯爽と現れた二人は、速攻で萩原と共にいた仕入れ屋を撃ち殺し、萩原の左手を狙い撃ち。
テーブルの上に立ち、これまたスローモーションで銃を乱射する姿は、いかにもそれっぽ~く見せてくれるではありませんか。
だったら僕としては撃ってる二人だけを映すようなカメラワークよりかは、2人の背後から撃たれていくヤクザたちの姿をスローモーションで映して欲しかったですね。
その方がバイオレンス演出としては美しいのかなと。
逆にそっちの方がそれっぽくなってしまうんですけどもw
ぶっちゃけこの2シーンくらいで、あとはそこまでタラちゃん意識のシーンてなかったように感じるんですけど、ファンならもっと見つけられたんでしょうね。
そもそもそういう映画ではないと頭では理解しつつも、どうしても頭から離れないタラちゃんの顔。
それでもクライマックスはモンキー的にはかっこよかったですよ。
安西と浜田の下っ端若者らが、ガソリンスタンドでコソコソ現職知事の表に出せない政治献金を集めている秘書たちを襲撃。
さぁさっさと帰るぞと思いきや、浜田んとこの若い衆が反逆。
ジジイたちが俺たちにコキばっか使ってんじゃねえよと、慣れない手つきで拳銃を突き付け、ついつい勢いで発砲。
震える手をアップにしかめ面の安西を見せ、彼は一体この状況をどう切り抜けるのか楽しみにしてたら、奥から矢野と美流コンビ扮する「裏切りの復讐コンビ」が発砲!
おいおいガソリンスタンドで発砲なんてあんたら正気か!?と疑いましたが、さすがにここでは引火はお預け。
安西以外の人間を全て片付け大金をかっさらう前に、あたしたちを切り捨てるやつら全てを火の海にしてあげようってなかんじで、美流が踊り狂いながらガソリンを辺り一面に放出。
彼女に片思いしている矢野はただただ見惚れてるので、もちろん隙だらけ。
やっぱり生きていた安西が反撃し、美流は瀕死の重傷に。
この時すっていたタバコがあと数センチで引火してしまうっていうドキドキ感を見せてくれないイケズな演出は、安西の逃亡をメインに持っていきます。
スタンドの外でようやく対峙した二組を手前に、燃え盛るガソリンスタンド。
そうかこれを見せたいから銃撃のシーンで引火させなかったのか・・・。
とまぁこんな感じで血みどろな死体から銃の乱射に至るまでバイオレンス風味を出しながら、いかにも男の子が大好きな映画っぽく見せてました。
吸い取る者と吸い取られる者
劇中浜田が徐にキャバ嬢相手に昔話を始めました。
過去にコンビニの店長をしていた浜田は、コンビニチェーン企業のからくりを語るのです。
要約すると「売り上げが上がれば上がるほど上からのロイヤリティは増えていく」というもの。
地方での深夜帯は人気も少なく店を閉めたいと上に訴えたものの、敢え無く却下。
何とか身体を酷使して深夜営業をしたものの、奥さんは過労で倒れてしまったという過去話。
恐らく浜田自身の過去話ではないと思うんですが、実際そんなニュースが数年前にありましたよね。
結局この世は「搾取する者と搾取される者たちで作られている」という資本主義に端を発したかったのか、流れとしては知事という権力を使って蛮行を繰り返す政治家を潰したいという浜田の左翼ぶりが露わになったシーンでもあります。
そして本作は警察からはみ出された者、ヤクザからはみ出された者、そして社会からはみ出された者たちが、居場所を作れない歯がゆさをテーマにした映画だったように思えます。
資本主義に対する警鐘よりも、吸い取られた者たちが報われるような社会になってないことへの問題提起といった方がいいのでしょうか。
あくまで浜田はリベラル派という設定ですが、元秘書という吸い取られる者であり、単に切り捨てられたことに対する反逆という見方の方が正しいのかな。
他にも安西はかつてヤクザの組員としてかなりの切れ者だったそうですが、「静かに暮らしたい」一心で足を洗うも、社会はそう簡単に元ヤクザを受け入れてはくれない現実を突きつけるのであります。
萩原に関してはよく描かれてませんでしたが、彼もまた犯罪ばかりを繰り返し、誰かを巻き込んではコマを使い捨てるクズ野郎でしたね。
彼のやり方があまりにも強欲で他者を使い捨てることから、全然分け前をもらえない美流が彼を殺すという流れはやはり「吸い取る者と吸い取られる者」の構図にハマっていたように思えます。
彼女も恋人である武藤から半ば強引に身体を求められる姿や、萩原から暴行されるという姿から、とことん吸い取られてましたね。
で、本作で一番大事なのは、結局吸い取られた者同士が結託したのに、つい頭が働かないのか考えることをしないのか、吸い取られた者同士で命を奪い合うんですよね。
散々使い捨てにされた経験を持つ仲間なのに、気が付けばそこだけで争ってしまう。
恐らく、というか確実に悪いのは吸い取った者がふんぞり返ってることなのに、しっかり働いた分分け前をもらうべきなのにもらえないことへの怒りのはずなのに、彼らは同志なのに、そこでまた小さな組織を作り、誰かを搾取する構造を作り同じことをしてしまうんですよ。
凄く社会と似てるんですよね。
本来は上に盾突かないといけないのに、下ばかり見て自分より下の者たちを見下すんですよ。
何がクズってそこなんじゃねえのかなと。
だから本作は浜田の下っ端連中や矢野と美流みたいな若者たちが、これといった計画性もなくただただ行動し踊り狂う姿が印象的なんですよね。
今一番苦労してるのは果たして誰なんでしょうと。
最後に
監督の作家性を前面に出しつつ、男の子が大好きな犯罪映画を作り出したわけですが、作家性に関しては文句はないモノの、やはり演出やエンタメ性が中途半端な内容になってしまってた気がします。
そもそも監督作品てそこまでの娯楽性を持った映画が無いので、仕方ないなぁという部分はあるんですが、カメラワークにしろ演出にしろもっと面白くできたよなぁと。
意外と平面的な映像しかないんですよね~。
矢野と美流と刑事が踊るシーンは結構恥ずかしかったですね・・・。
踊りがなってないし、その下手な踊りをカバーするような見せ方をしてないからホント恥ずかしかった…。
お芝居としてはもう奥野瑛太一択でしょう。
相変わらず一辺倒な演技しかしない西島秀俊を完全に食ってましたからねw
居酒屋での酔っ払ったうえでの暴露話のシーンは、正直凄すぎてやり過ぎですw
本物じゃねえかとさえ思ってしまったw
残酷な世界にさよならを告げる儚さとむなしさが、煌びやかな都会ではない地方都市を舞台で描くってのは嫌いじゃないです。
そういえばラストシーン、発砲音がひとつだけでしたが、どっちか助かったのでしょうか・・・。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10