モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「蛇の道(2024)」感想ネタバレあり解説 より復讐色が強くなったセルフリメイク。

蛇の道

セルフリメイクという言葉。

これは監督が過去に製作した作品を、自身がもう一度作り直すということですが、一体なぜ作り直さなくてはならないのかと、疑問に思っております。

 

過去には小津安二郎やヒッチコック、ハネケなんかもやってるそうで、僕自身その作品を見比べてないのでどうにも批評できない身分ではあるんですが、何か「得」のようなものはあるのか?ただの自己満になってやしないのか?と、バカなりに疑問に思うわけです。

 

確かに若い時に作った映画は、経験値も少ないってことで理想の作品を作れなかったという後悔の念からのセルフリメイクってのは受け止めはできるんですけど、じゃあキャリアを積んできたから絶対に良いリメイクができるとは限らないわけじゃないですか。

 

例えば北野武みたいに、毎度違う映画を作りつつも一貫したプロットをこすり続けて良いモノへとブラッシュアップしていくやり方だってあるわけですよ。そのやり方をセルフリメイクと比較することの是非は置いといて。

 

まぁそれでもその企画をオッケーしてお金出してくれる企業があるわけですから、よほどの文化的知名度と集客率のある監督でなければ、成立しない、実現できないパターンなわけで、今日に至るまで溢れんばかりののセルフリメイク作品が存在しない理由はそういうところにあるってことですよね。

 

さて、今回観賞する映画は日本が世界に誇る映画監督・黒沢清が、1998年に製作した作品をフランスでリメイクした映画。

オリジナルはVシネでしたから、どれだけ変わったのか気になるところですね。

早速鑑賞してまいりました!!

 

 

作品情報

第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞に輝いた「岸辺の旅」や、第77回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した「スパイの妻(劇場版)」など、国際的に高い評価を受けている黒沢清がかつて製作した同名作品を、26年の時を経てセルフリメイク。

フランスの映画制作会社「CINEFRANCE STUDIOS(シネフランス・スタジオ)」と「KADOKAWA」による日仏共同製作として本作は、舞台をフランス・パリに移して作り上げられた。

 

娘を殺された父親と彼に手を貸す精神科医が繰り広げる徹底した復讐の行方を、全編フランスロケ&フランス語で描き出す。

 

監督作品が人気であるフランスの製作会社からの依頼を受けた監督は、「徹底的に復讐していくといういつの時代でも国境を越えて通用する物語を、Vシネマだけで埋もれさせたくなかった」という理由から、今回「リメイク」に踏み切った。

 

オリジナル作品では哀川翔が謎めいた数学教師の役を演じたが、本作では柴咲コウが心療内科医を演じるという大きな改変を施した。

柴咲自身も、撮影に入る半年前から語学レッスンに臨み、実際に現地で生活までするほどの気合の入れ様で、物語の核となるキャラクターをどう演じるかに注目したいところ。

 

またラジ・リ監督の「レ・ミゼラブル」で注目を集めたダミアン・ボナールが、娘を殺され復讐を誓う父親を、「ダゲレオタイプの女」でも監督作に出演したマチュー・アマルリックが財団の幹部役で出演。

他にも、「ドライブ・マイ・カー」での出演を足掛かりに、アメリカのエージェント会社と契約して話題を呼んだ西島秀俊、「犯罪都市 ROUND UP」でのコワモテぶりが評判だった青木崇高などが出演する。

 

「最高傑作ができたかもしれない」と豪語する監督。

蛇の道へと突き進んでいく人間の哀しき業を、一体どのようにリメイクしたのか。

 

蛇の道

蛇の道

  • 哀川翔
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あらすじ

 

何者かによって8歳の愛娘を殺された⽗、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)。

偶然出会った心療内科医の新島⼩夜⼦(柴咲コウ)の協⼒を得て、犯⼈を突き⽌め復讐することを⽣きがいに、殺意を燃やす。

 

“誰に、なぜ、娘は殺されたのか”。

 

とある財団の関係者たちを2⼈で拉致していく中で、次第に明らかになっていく真相。

 

“必ずこの⼿で犯⼈に報いを̶̶”

その先に待っているのは、⼈の道か、蛇の道か。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

感想

復讐は終わらない、いや終わらせたくないのか。

まるで良心を感じない、大きく乾いた瞳が、まるで「蛇に睨まれている」かのような柴咲コウを抜擢したのは正解だと思う。

しかし、オリジナルと大筋は同じなのに、手段まで一緒ってのはなぁ。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

オリジナルとほぼ一緒

舞台をフランスに移し、哀川翔が演じた塾講師の役柄を、心療内科医の女性に変更して描いたセルフリメイク。

黒幕が子供たちをどういう経緯で殺害したのかや、オリジナルで印象的だったキャラ・コメットさんの排除、そして衝撃の結末などの細かい改変はあったものの、大筋や展開、拉致の手段などはほぼ同じな作品でした。

 

娘を殺した犯人を拉致し、真相を辿っていく2人でしたが、拉致した人物の証言から、どんどん近づいているのか遠ざかっているのか、事実が見えそうで見えない展開が続きますが、なかなか終わることができずに苦しんでいくアルベールとは裏腹に、柴咲コウ演じる小夜子だけは、その是非に一喜一憂せず突き進んでいく確固たるものが存在していました。

 

僕はオリジナルを鑑賞した時に、中々真相にたどり着かないことや主人公2人、特に哀川翔演じる塾講師の背景や行動するうえでの動機が見えてこず、ただただヤキモキした状態で見終えてたんですが、本作はオリジナルよりもセリフを通じてキャラの背景や、何故アルベールに協力するのか、オリジナル以上に小夜子の背景のようなものがにじみ出た作品になっていたと思います。

 

特に小夜子のバックボーンに関して言えば、今回のセルフリメイクで新たに登場した、小夜子の患者と旦那の存在が大きく感じます。

 

患者を西島秀俊が演じていたのですが、彼は来たくて来たわけじゃないフランスの地で、慣れない生活を送るせいで、精神的苦痛を患っていたことが見て取れます。

薬を飲めばこの苦しみから解放されると思っていたものの、苦痛は一向に改善されず、どうやって終わらせればいいのか苦悩していくんですよね。

日本へ帰れば治るのでは、という小夜子の助言も、それは彼のキャリアをも終わらせてしまうことに繋がるらしく、終わらせることのできない辛さを、西島秀俊が狂気にも似た表情で表現していたのが印象的でした。

 

ここで小夜子は「終わらない苦しみを続けるよりも、苦しみを終わらせた方が良いに決まってる」という発言をするんですよね。

これが彼女の復讐に対する信念に繋がってくる作用をしていたように思えます。

 

さらに彼女には旦那がいますが、既にフランスから日本へ帰っており、定期的にビデオチャットで様子を伺うシーンが挿入されています。

彼の場合、苦しみを終わらせるためにはその場所から離れて忘れることが一番だと思っているんですが、それに対し小夜子はあまりよく思ってない様子が映し出されます。

 

物語の終盤、小夜子の娘もまたアルベール同様、財団の手によって娘を殺害されていたことが明かされますが、この新たキャラの存在と発言によって、小夜子の中で「終わらせるためにはこの地に留まり復讐を果たすこと」こそが、苦しみを終わらせる唯一の方法だということが理解でき、オリジナル以上に理解しやすい、または感情移入しやすいキャラクターへと進化していたように思えました。

 

オリジナルでは、果たして正解に導いてるのかよくわからない数式をひたすら書いて生徒たちに教える哀川翔の存在が、違う意味で不気味感を出していましたが、今回の柴咲コウは、その大きな瞳がとにかく映画の中で最重要パーツとして映し出されてるんですよね。

 

特別愛想の良い顔立ちをしてるわけでもない彼女が、さらに心を冷たくする、または心を失いかけている表情をしながら、ほぼ瞬きをせず立ちすくんでいる姿として君臨しており、本作でものすごく機能していたように思えます。

 

逆にアルベールに関して言えば、オリジナルで演じていた香川照之のような怪演とは程遠い演技で、フランスで映画を撮るのだからフランス人でやるのが妥当、程度なキャスティングとしか思えませんでした。

ただ彼がより普通に演じることで、柴咲コウの存在が強まっていくのは正解だったと思います。

 

 

また本作では、児童福祉を目的とした財団が、実は裏で子供たちを人身売買していたという事実が発覚し、アルベールはそこで動画販売の仲介を行っていたことや、妻が黒幕を信奉していたことなど、オリジナルとはまた違った気味の悪い設定がなされていました。

実際フランスでそのような社会問題があるのかは知りませんが、異国の地だからこそどこか生々しい組織になっていたような気がします。

 

しかも黒幕自身はすでに他界しており、残党がなんとか組織を保ったままの状態でいる、これもまた「終わらせることのできない苦しみ」を表現していたのかと解釈すると、さらに気味の悪い組織だなと。

黒幕はアルベール曰く「真実と嘘を見極めることができないような不気味な存在」と語っており、子供たちを解体する際のメス裁きは相当鮮やかなモノだったそうで、ガチの悪魔だと。

出来る事なら、彼女を登場させてしっかり復讐を果たした後に。更なる復讐劇へとつなげてほしいと思いましたが、既に存在しないことのほうが不気味さが漂ってよかったのかもしれません。

 

杜撰な拉致は改変しないんかい。

今回セルフリメイクをするということで、一体どこまで改変していくのか、脚色していくのか興味がありましたが、拉致の方法はほぼ変更なしというある種斬新な決断で驚きました。

 

オリジナルでは宅配便を装ってスタンガンで意識を失わせて車のトランクへ運ぶ、またはゴルフをしている最中一人になったところを狙って、寝袋に包んで芝生をダッシュして逃げるというな、一見計画的に見えてイレギュラー起きたら100%アウトじゃん!!みたいなやり方だったんですよね。

 

確かに斜めになった芝生を人質転がして走って逃げる姿をロングショットで見せる画は壮観でしたが、現実的に考えるとそりゃムチャだろうと。

だからそういう杜撰なやり方を今回は変えてくるだろうと思っていたんですが、そこはステイかよ!キープかよ!!と。

 

今回も二人目の犠牲者となる人物で、財団の幹部だった男を拉致するんです。

彼はすでに田舎で隠居生活をしており、ウサギを狩る姿が映っていますが、狩りで留守だった家の中に忍び込んで待ち伏せをするんですね。

オリジナルでは片方が正面に立ちはだかることで、相手が油断しているところを、もう一人がスタンガンで狙うという算段でしたが、ここでは2人が正面に立って普通に会話を始めるという、え?ちゃんと計画してるこれ?という手段。

 

結局ともに狩りをしていた男が中から聞こえてくる話し声に気付き、中に入って猟銃で仕留めようとするんですが、オリジナルと同じ手法で一人が正面に立ちはだかり隙を作ってスタンガンで仕留めます。

その光景を見た幹部はお手上げとなり、意識のある状態で寝袋に入れられるんですね。

 

そして意識を取り戻した部下は、猟銃でバンバン小夜子たちを狙うんですけど、なかなか当たらない。

お前ほんとにウサギ狩りできたんか?と疑うほどの低い命中率。

途中で彼は撃つのを諦めるんですが、その後ろ姿から2人の姿を映すショットを見るに、それは知ったら追いつくんじゃない?という近さで、俺は開いた口が塞がりませんでした。

 

こうした杜撰な拉致手段を特にいじることなく見せていく一方で、拉致した後の冷酷な追い詰め方は健在。

 

トイレに行かせない件もちゃんとありますし、作った朝飯をギリギリ鎖で届かない位置に落とすシーンがちゃんとありました。

結果的に大きい方を漏らしたマチューアマルリックは、柴咲コウを睨んで「人でなし」と罵りますが、いざホースで水をぶっかけられると、その気持ちよさに応じてちゃんと尻を突きだして洗ってもらう姿は爆笑でしたね。

 

他にも拉致した二人の鎖を手だけ外し、その場に拳銃を転がしての生き残りゲームも存在したし、2人目を拉致するために溶接をする柴咲コウ、その奥で唖然とするマチュー、さらに奥で発砲の練習をするダミアン・ボナールの構図は、左右逆だったものの、オリジナルをしっかり再現した「不可思議な構図」で、なぜこれをまたやろうとしたのか、キヨシの意図が全く読めない再現でした。

 

 

3人目の餌食となるクリスチャンは、少々いじってましたね。

オリジナルでは全く無関係の男を犯人に仕立て上げ拉致しようとするも、なぜか哀川翔は「自信を明かすな」と忠告。

よって車中では、果たしてこいつは誰なのか?という妙なやり取りをしていました。

しかし本作ではそのような奇妙な光景はなく、寧ろ警備主任という元肩書から二人にくってかかる野獣ぶりを見せておりました。

 

なんとか事なきを得るも、拉致した後は気絶してるふりをしてアルベールに襲い掛かるという猛獣ぶりを見せて、二人を翻弄させるも、オリジナルと同じ手法で「クリスチャンと名乗るな」と小夜子が忠告、財団のアジト手前で正体をバラすという見せ方になってましたね。

 

因みにここでアルベールが苛立って発砲し殺してしまうんですけど、打った瞬間カットして繋げてたのはよくわかりませんでした。

何であそこ切ったんだろう…。

 

 

最後に

本作の結末では、小夜子が夫とのビデオチャットの最中、更なる敵を見出し復讐を続ける決意をする姿で幕を閉じます。

ウロボロスのような「終わりの見えない」蛇の道をひたすら進み続ける小夜子に、果たして終わりは来るのか。

それとも進んではいけない道だったのか、そんなことを考えたくなる物語でしたが、セルフリメイクをするという点においては、改変してよかったところと改善すべき点があると感じた作品でしたね。

 

とはいうものの、物語の道筋や導線、設定や背景がセリフから読み取れることで、オリジナルよりも理解しやすく、小夜子というキャラクターも輪郭がはっきりしているようにも思え、基本不得意な黒沢清作品の中でもわりかし楽しめた印象が強いです。

 

できることなら、映像全体の光度をもう少しキヨシっぽく落としてくれたら、さらに不気味感が出たんでしょうけど、そこはフランス映画だからやらなかったんですかね。

夕方や暗がりのシーンでの、夕陽が差し込む拉致現場とかはよかったですし、途中外に出る小夜子を追いかけようとするアルベールのシーンでは、若干外が暗くなるような演出をしていて、あ、キヨシだ!って感じたんですけど、それ以外はやはり明るすぎたなぁと。

 

これはどうでもいいんですが、路上駐車で警官に注意を受ける小夜子との会話の中で、「君は日本人?君の国の文化は大好きだよ、特に漫画、聖闘士星矢ね」って警官が話すんですよ。

それに対し「私も好き」とか小夜子が言うんですよ。

お前絶対読んでねえだろwwって思いましたw

フランスでも聖闘士星矢って人気なんですかね?そこはドラゴンボールかキャプテン翼じゃねえの?って。

 

あともうひとつ。

小夜子の部屋にお掃除ロボットのルンバがずっと動いてるんですよ。

カメラはなぜかその動きを追いかけるんですよ。

あれ、すっげえ不気味に思えてw

発明だなって思いましたw

 

とまぁ、どうでもいい点は置いといて。

工場でのシーンをまたやったり、肉付けした点も含めて、全体的には良かったのだと思います。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10