ヘルドッグス
「アウトレイジ」シリーズが終わりを告げて以降、ヤクザを題材にした日本映画はメジャー級ではあまり製作されていない様子がうかがえます。
それでも彼らを使った作品を作るには、「極主夫道」のようにコミカルに描くか、もしくは彼らを「すばらしき世界」や「ヤクザと家族」のような「社会に受け入れてもらえない人」として描くかの二択な気がします。
そういう現代的なアプローチとして扱う部分には大いに結構なんですが、ハリウッドでも「ジャパニーズYAKUZA」をストレートに描く作品が作られている現状があるわけで、あくまでフィクションなんですからもっと製作してほしいと僕は願っています。
今回鑑賞する作品は、そんなヤクザの世界に潜入する元警官の物語。
激しいアクションをベースに描く裏社会の男たちの物語を、フィルムノワールとして作ったそうですが、どんな内容になっているのでしょうか。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
「果てしなき渇き」や「組織犯罪対策課 八神瑛子シリーズ」などで知られるミステリー小説家・深町秋生が2017年に発表した「地獄の犬たち」を、シリアスで骨太な社会派人間ドラマを描く監督の手によって映画化。
元潜入捜査官とイカレた相棒が関東最大のヤクザ組織に潜入し、若きトップが持つ秘密ファイルを奪取するため、組織でのし上がっていく姿をハード且つスピーディーに描く。
主演には「関ケ原」「燃えよ剣」に続く3度目のタッグを組む岡田准一。
これまで演じてきた中で一番闇深い男を演じることになった岡田が、得意のアクションを活かしてクール且つダークに熱演。
裏社会という危険な場所で派手に暴れまわる。
他にも坂口健太郎がイカれた相棒役を、松岡茉優がヤクザの愛人役など、これまで見せたことのない表情で物語を盛り上げていく。
ミッションを遂行していく毎に明かされる驚愕の真実、残酷なほどに純粋な行きつく暇もない怒涛の138分ノンストップクライムアクション!
あらすじ
警官時代に愛する人が殺される事件を止めることができず、その苦悩を抱えながら生きる元警官の兼高昭吾(岡田准一)。
警察は関東最大のヤクザ組織「東鞘会」への潜入捜査を彼に強要し、データ分析で相性98パーセントと判定された無軌道なヤクザ・室岡秀喜(坂口健太郎)とコンビを組ませる。
東鞘会最高幹部の一人でもある土岐勉(北村一輝)が率いる東鞘会・神津組に潜り込むことに成功した二人は、抜群のコンビネーションを発揮。
連絡係の衣笠典子(大竹しのぶ)の協力を得ながら、組織内でのし上がる。(Yahoo!映画より抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、原田眞人。
「金融腐蝕列島 呪縛」や「突入せよ!あさま山荘事件」、「日本のいちばん長い日」、「検察側の罪人」など歴史上の事件や法や金融の内情をテーマに描くヒューマンドラマを制作したり、「関ヶ原」、「燃えよ剣」など司馬遼太郎原作の歴史時代劇にも挑戦するなど、あらゆる分野を舞台にした社会派ドラマを描くお方。
ややスピーディーな展開で運ぶことや我々が普段馴染みのない舞台での物語なため、中々理解することが容易ではないんですが、一度流れに身を任せれば「なるほど」と思わせてくれる説得力のある作品なのが魅力でしょうか。
「批評家」「評論家」としての一面も持っており、鋭い視点を持ってはいるんですが、ここ最近はその評論が非常に古い価値観での視点で語られることが多く、物議を醸すことでも話題の方ですね。
本作について監督は「10歳の頃に見た潜入捜査モノのTVシリーズを見て面白いと思ったのが原体験」と語っており、主人公と周囲の人物がどう関係を築いていくのかが理由だそうで、本作でも男たちのブロマンスな部分や三角関係などを盛り込んで関係性を構築していく物語にしたとのこと。
またフィルムノワールならぬジャパニーズフィルムノワールを世界に発信したいという意気込みも漏らしていました。
果たしてどんな作品に仕上がってるんでしょうか。
登場人物紹介
- 兼高昭吾=出月梧郎(岡田准一)・・・復讐のために闇に手を染め、その獰猛さゆえ警視庁に目をつけられヤクザ組織に潜入させられる。躊躇なく人を殺め、高い格闘スキルとクレバーさで組織をのしあがる。極道のイメージを覆すタトゥーが特徴。腕には殺した人数が彫られている。趣味はマッサージ。
- 室岡秀喜(坂口健太郎)・・・兼高をアニキと慕う東鞘会のヤクザ。死刑囚の親を持ち、幼い頃に虐待で満腹中枢を壊す。その境遇から、感情を抑えられないサイコパスとして組織一とも目される凶暴性と残虐性を持つ。主な武器はマイナスドライバー。
- 土岐勉(北村一輝)・・・兼高と室岡のボスで、東鞘会最高幹部。「東鞘会三羽烏」の一人。一本筋の通った昔ながらのヤクザで、人情に厚く、兼高と室岡を高く評価している。
- 吉佐恵美裏(松岡茉優)・・・東鞘会・神津組のボス土岐の愛人でありながら、兼高とも道ならぬ関係を持つ、肝の座った極道の女。背中の鳳凰の刺青が特徴。象牙に興味あり。
- 十朱義孝(MIYAVI)・・・異例の人事で組長に就任。日本、そしてアジアで勢力を伸ばすインテリヤクザ。華奢に見えて高い戦闘力をもつ。趣味は美術鑑賞。警察が隠したい秘密のファイルを持っている。
- 衣笠典子(大竹しのぶ)・・・表の顔は兼高が常連のマッサージ師、裏の顔は潜入者への情報伝達係。東鞘会に息子を殺されて以来、復讐の刻を虎視眈々と狙っている。主な武器は毒針。
- 阿内将(酒向芳)・・・ある目的のために、ダークサイドに堕ちた出月梧郎を利用し、“兼高”として東鞘会に送り込む。趣味はオーケストラ鑑賞。特徴は早口。
- 大前田忠治(大場泰正)・・・東鞘会最高幹部。「東鞘会三羽烏」の一人。抗争で鼻を噛みちぎられて以来、鮫のノーズガードをつける武闘派幹部。
- 熊沢伸雄(吉原光夫)・・・歌う東鞘会最高幹部。「東鞘会三羽烏」の一人。趣味はオペラ。高い戦闘能力と高い歌唱力がウリ。
- お歯黒(吉田壮辰)・・・体はデカいが気は小さい三神の部下。新宿で交番を眺める兼高をたまたま見かける。
- 三神國也(金田哲)・・・土岐の部下で東鞘会三次団体三神組のボス。アジアで暗躍する“殺し屋集団ヘル・ドッグス”の監査役。
- 番犬(村上淳)・・・東鞘会の拷問場所の管理人を務める。多彩な武器をコレクションしている。片足が不自由。
- 佐代子(赤間麻里子)・・・圧巻のリーゼントを持つクセが強めの熊沢の妻。SMバーも経営するやり手。
- ルカ(中島亜梨沙)・・・東鞘会に仕向けられた近接戦のスペシャリスト。ホステスに紛れ込み、十朱暗殺を狙うが…。
- 俵谷一房(田中美央)・・・熊沢と五分の盃を交わした日本最大の神戸華岡組の幹部。十朱に華岡組のスパイを託されるが、腹の中はいったい…?
- 恭子(杏子)・・・東鞘会メンバーも気を許す筋の通ったクラブのママ。東鞘会の裏接待などで使われる。
- 杏南(木竜麻生)・・・室岡の施設時代の幼馴染。自身も属している犯罪者の遺族のコミュニティに室岡を誘う。
- ミス・チャオ(小柳アヤカ)・・・象牙ビジネスで十朱と提携する中国系マフィア。
- サロンの常連客(尾上右近)・・・典子のマッサージサロンの常連客。
(以上HPより)
原田監督なのでかなり速いテンポでの物語が予想されると思います。
人間関係だけはインプットした方がいいのかもしれませんね…。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#ヘルドッグス 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年9月16日
原田さんなんでセリフは全然聞き取れねえし人間関係もちんぷんかんぷんなんだけど、極道の内部抗争に潜入捜査官がガンガン絡んでくっていう二重のドキドキがものすごくたまらん!
これはごちそうさまでした!! pic.twitter.com/t9ycpmOJVA
台詞全然聞き取れねえけど、雰囲気だけでも十分お釣りがくるくらいカッケえジャパニーズヤクザノワール!
潜入捜査のドキドキよりも内部抗争のドキドキに重きを置いた没入感MAXのアクション映画でした!
以下、ネタバレします。
事前学習は必須かもしれないけども
とある事件を未然に防げなかった過去により闇落ちした元警官が、関東ナンバーワンのヤクザ組織に潜入し、機密ファイルを盗むミッションを描いた本作は、闇落ちしながらも自らの正義を背負って仕事する主人公の確固たる精神や、弟分のサイコパスボーイとの絆、その能力を買われてトントン拍子で出世しながらもミイラ取りがミイラにならない姿を存分に描き、銃声音の迫力も手伝ったゴリゴリのアクションと原田作品ならではのガンガン進行していく編集によってリズミカルに描かれた楽しい作品でございました。
燃えよ剣や関ヶ原に関しては、歴史をある程度かじっておけば、例え台詞が分からずとも、話の流れはついていけたわけですが、今回に関しては小説読んでおかねえと情報量多すぎてなんのこっちゃ分けわからん!という具合にハイスピードで会話が侵攻されてましたね。
しかも内容がかなり複雑な故に、セリフのボリュームが所々小さい点があり、一体今何が行われてるのかや誰と誰がどういう関係なのかなど、まっさらな状態で臨むにはいささか不親切な作品だったように感じます。
自分も事前にあらすじや登場人物、人物相関図などある程度の情報をを頭に叩き込んで臨むんですが、今回はかなり複雑だったように思えます。
ですから、せめて公式HP及び僕の感想手前までのイントロダクションを読んでおいた方がいいと感じた作品でした。
ですが、そんなことは無視してもいいほど演者がカッコよかったし、役者が光ってたし、終始ヒヤヒヤのドキドキもんのお話だったと思うんですよ。
なんてたって岡田君がカッコイイ。
坂口君が狂ってる。
MIYAVIが切れ味最高過ぎる。
松岡茉優が妙にエロい。
北村一輝がマジで筋モン。
などなど主要キャストが見事に極道色に染まっててハマってたんですよね。
それこそ岡田君演じる兼高という男は、冒頭から凄まじい切れ味でマフィアから足を洗った男を玉砕し、髪を乱して座りながら何やら小説を一節をぼそぼそ呟く。
そこから坂口君演じる室岡とのブロマンス要素を見せながら、一度もにこっとした表情を見せず目を光らせて極道でのし上がっていくわけですよ。
こういう岡田君をみんな見たかったんじゃないんですかね~。
さらに室岡演じる坂口健太郎。
彼が背負ってしまった純情青年のイメージを今回で完全に壊したかと思います。
原田監督は「クライマーズハイ」の堺雅人のような感触を彼に抱いたそうで抜擢したと語ってましたが、それに匹敵する化けっぷりだったんじゃないでしょうか。
宗教2世の子供という出自を持つ設定故に、標的に歯向かう視線はもはやサイコパス。
親によって人生を狂わされながらも、同じ過去を背負った者たちの前ではいっぱしの青年というギャップも見せる余裕でしたし、いつもの仕事に戻ればドスを効かせてしっかり会長をお守りし、兄貴とはぐれたら一気に豹変するおまけ付き。
個人的にはもっと見せ場を与え、過激なまでの豹変を期待してた部分もあり、もっとできるって!という感想もあるんですが、これが出来れば次こういう役が来たらもっとすごいのができるよ!と背中を押してあげたいくらいです。
他にも北村一輝は「沈黙のパレード」が同日公開というバッティングにも拘らず、刑事とヤクザ両方を演じ分ける偉業を達成したし、松岡茉優に至っては坂口くん同様これまで演じたことのないタイプの役柄を演じることで女優としての間口を広げた作品になったとも言える堂々としたお芝居。
土岐の愛人でありながら兼高とも体の関係を持つという設定で、本人たちを前にしても全く顔色を変えない姿勢はもちろんのこと、部下たちにも組長のオンナとしての風格と威厳を見せた演技でしたね。
そして極めつけは十朱会長を演じたMIYAVIでしょう。
異例の人事で会長にのし上がった男という設定で、背景が全く見えない秘めた部分を醸し出しながら、これまでのヤクザとは違うスタイルのインテリジェンスな面を容姿で見せつけ、登場するや否や自分のボディガード候補を銃でぶっ放して「さぁやれよ!!」と怒鳴り散らすマッドな叫び声は、会長までのし上がれるほどのカリスマ性とぎらついた攻めの姿勢が垣間見えた瞬間でもありました。
こんな感じで役者陣のお芝居を見るだけでも十分満足できる作品でしたし、原田組ならではの編集が今回もすごく効果的でテンポよく進行していく流れによって、頭は置いてけぼりになるけど心は高揚していく感覚になれるのではないでしょうか。
警察の犬たちの物語
とまぁ、色々褒めてはいるものの、じゃあお前全体的に話を理解してるのか?と言われると「はい!」とは言いづらい・・・。
というわけですご~くザックリ本作を解説したいと思います。
要は本作は「ヤクザの内部抗争の中でのし上がっていく潜入捜査官」の物語なんですけど、それと同時に「警察の犬たちがどうやって落とし前をつけていくか」という物語でもありました。
東鞘会という組織は、会長の跡目を十朱にしたことで一応一つにまとまり、組織としてさらにのし上がろうとしている最中でした。
闇カジノやら象牙ロンダリングやらクスリの売買などでシノギを上げている東鞘会でしたが、神戸の組織にいるジョージ氏家という五代目会長の息子が、恐らく跡目を継げなかったことへの腹いせか、十朱の命を狙おうとしており、さらにはヘンダリクソンという傭兵まで送り込んできたという情報を受け、十朱を護衛できるエキスパートを人選していたのであります。
そこで白羽の矢が立ったのが兼高と室岡です。
幹部である土岐が作り出した殺し屋集団「ヘルドッグス」の一員として汚れ仕事を請け負っていた二人を土岐が推薦し、用心棒バトルを勝ち抜き見事に会長の護衛に抜擢。
十朱の様子を探りながら護衛を続ける兼高は、高級クラブに潜入した女ヒットマンを見事見破る大手柄を上げたモノの、これがジョージ氏家の仕掛けた罠であることが発覚。
女ヒットマンを拷問するため訪れた処理場に十朱自らが参加したことが裏目に出てしまい、次々と敵が押し寄せる羽目に。
兼高も室岡もいつもの調子で次々と敵を始末するのですが、会長の秘書を請け負っていた三羽ガラスの幹部熊沢が命を落とす結果に。
空いた穴を十朱自らの巣戦で兼高が指名されることで、室岡とのコンビを解消されてしまうのであります。
行き場のない感情をどこにぶつけたらいいかわからなくなった室岡は、散々自分の事を死刑囚の息子呼ばわりしていたヘルドッグスの若頭・三神に怒りをぶつけらせん階段の上から突き落としてしまうのであります。
しかしその時、「兼高は実は警察の犬だ」という話を聞いた室岡は、兼高を疑い始めるのです。
そしていよいよ十朱の側近となった兼高は、捜査官としての上司である阿内から十朱の秘密を明かされるのです。
彼は元潜入捜査官だったのであります。
警察とFBIの情報を握っている彼は、警察にとって非常に厄介な存在。
正義のために身を捧げてきた十朱でしたが、ヤクザに身を投じていくうちに正義と悪の境目が分からなくなってしまい、ダークサイドに落ちてしまったわけです。
幼女殺害事件の記事で悪いのは誰かを兼高に質問したことが、彼の背景に繋がっていたと思われます。
そして阿内は、さらに送り込んでいた警察の犬と、マッサージ師として東鞘会と関わる典子と手を組み、十朱と土岐、そして大前田を殺すよう命じます。
警察の犬として任務を全うしながらも、徐々にのし上がってきた兼高は、実際に闇落ちし闇の奥深くへといざなおうとする十朱を始末することができるのか…という話だったのです。
具体的な部分、特に内部抗争に関してはいまいちよく分かりませんでしたが、警察が仕組んだ罠なども絡んでいて非常に厄介な所ではありました。
しかし大枠はこんな感じだったと思います。
東鞘会はとにかく汚いことばかりやっていて、しかも海外にまで拠点を広げようとしていた節もあり、あまりの巨大さに警察もなかなか手を出せなかったところに、兼高という格好のダークヒーローがいたというわけです。
兼高自身も、スーパーで起きた女性4人銃殺事件を防げなかった辛さを背負いながら一生償う覚悟でかたき討ちをしてきた身。
警察という組織にいては成し得ることのできなかった行為ってことですよね。
でもなんで兼高は女子高生のアルバイトをデートに誘ったんだ…謎。
最後に
意外とユーモアな面がいくつかあって、熊さんのオペラ調の歌声や「120グラムのうんこを出す時の声」とか意味の分からないタイミングでみんなを和ます感じが良かったですね。
しかも敵に囲まれてる時に、兼高にも聞くというメンタリティw
「今っすか?」という兼高の返しは笑ったw
そうだよ、なんで今なんだよw
あと十朱が急に高揚しだしてバーカウンターにある瓶を回し蹴りする姿をスローモーションで映すんですけど、その後自分で拾う所作が妙にシュールでしたw
部下にやらせろよそんなのw
アクションに関してはしっかりカット割りをしながら手際よく見せる映像で好感を持てました。
車内でのブレブレカメラワークは置いといて、全体的には直視できない部分を巧く見せない処理をしながら激しい殺し合いを描写していたと思います。
また「地獄の黙示録」にインスパイアを受けたかのようなお話でしたし(廃墟にあった和風料理店の看板がモロ)、それをヤクザの内部抗争に持ってきた感覚は嫌いじゃないです。
日本映画はこういうアウトローな奴を主人公にした大作が少なく感じるので、是非どんどん製作してほしいですね。
東映ならではのバイオレンスな作品でした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10