羊の木
吉田大八先生の新作です。
前作「美しい星」でなんとも不思議なSFドラマを、マジでやってんのかギャグでやってんのかのギリギリの所を突いた意欲的な映画だったんですが、今回は一体どんな話なのか楽しみでありました。
どうやらジャンルはサスペンスだそうなので、ドキドキハラハラする内容なんだろうとふんでますが、その真相や如何に。
脇を固めるのが実力派役者陣で、主役がアイドルなんでその辺のギャップというかアンバランスさが演技してるときに大丈夫か?とか思っちゃいますが、錦戸君なら大丈夫でしょう。
というわけで早速観賞してまいりました。
作品情報
日本ギャグマンガのレジェンド的存在の二人、山上たつひこといがらしみきおが原作と作画でタッグを組み、文化庁メディア芸術祭優秀賞に選ばれた作品が、これからの日本映画界を背負って立つ監督によって、原作を抑えながらもオリジナルな結末へと設定を変更し、衝撃の作品へと変化を遂げた。
過疎対策として元受刑者を受け入れた架空の街を舞台に、過去に凶悪な罪を犯した者たちと、今もそこで住む人々たちのせめぎあい、人間の恐怖の深淵に迫った作品に一体どんな結末が待っているのか。
素性の知れない人を信じることが出来るのか、それとも疑うのか、心揺さぶる衝撃と希望のヒューマンサスペンスです。
あらすじ
さびれた港町・魚深(うおぶか)に移住してきた互いに知らない6人の男女。
市役所職員の月末(つきすえ)は、彼らの受け入れを命じられた。
一見普通に見える彼らは、何かがおかしい。
やがて月末は驚愕の事実を知る。
「彼らは全員、元殺人犯。」
それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、国家の極秘プロジェクトだった。
ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文(あや)をも巻き込み、小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める・・・。(HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのは吉田大八。
コミカルな描写を入れながらも背景に社会性を混ぜ、人間の何たるかを照らす作品を作っている方だと思います。
要はヒューマンドラマとコメディをやってるってことです、はい。
「桐島、部活やめるってよ」以降、国内の賞レースでは逃すことなく絶賛される作品を作り続けております。
監督に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
主人公の市役所職員・月末一を演じるのは錦戸亮。
Twitterのフォロワーさんとも話したんですけど、彼には内に潜む狂気が発揮されたときこそ演者として魅力的になる、みたいなことを仰っていて、まさに同感だなと。
TVドラマ「ラスト・フレンズ」でのDV彼氏は圧巻でした。
アイドルなのにそこに行くか!?という批判覚悟で演じた度胸と、役者として1ランクアップしたい彼の欲が重なった演技だったと思います。
とはいえ今回の役どころは、心の揺れが伴われる役なのでその辺をどう演じるのか見ものです。
そんな彼の代表作を簡単にご紹介。
現代にタイムスリップした江戸時代のお侍が、ひょんなことからパティシエとして活躍し、居候先の母子と絆を深めていくハートフルコメディ「ちょんまげぷりん」で映画デビュー。
その後、自身が所属していたアイドルグループ「関ジャニ∞」のコンサート内で演じてきたキャラを映画化した「エイトレンジャー」が続編を製作するほどのヒット。
交通事故で下半身と記憶に障害を持った女性に恋に落ちたタクシー運転手との純愛を描いた「抱きしめたい~真実の物語~」などに出演しています。
これはオススメ。
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北川景子史上最高の演技です!
月末が思いを寄せる、帰郷してきた同級生石田文を演じるのは、木村文乃。
「追憶」、「火花」などにに出演。
近年は「伊藤くんAtoE」に主演と、徐々に映画にも出演が増えてきている彼女。
今後も映画にTVドラマに活躍して欲しいですね。
彼女の出演作に関してはこちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
傷害致死(懲役1年6ヶ月)、無邪気で好奇心旺盛な宅配業者・宮腰一郎役に、「探偵はBARにいる」、「まほろ駅前多田便利軒」の松田龍平。
傷害致死(懲役8年)、傲慢ですぐ人に絡む釣り船屋・杉山勝志役に、「テルマエ・ロマエ」、「無限の住人」の北村一輝。
殺人(懲役7年)、色っぽくどこか隙がある介護センター職員・太田理江子役に、「WOODJOB!」、「オーバーフェンス」の優香。
殺人(懲役18年)、強面で寡黙なクリーニング屋・大野克美役に、「永遠の0」、「るろうに剣心」の田中 泯。
殺人(懲役6年)、人見知りで几帳面すぎる清掃員・栗本清美役に、「シン・ゴジラ」、「三度目の殺人」の市川実日子。
殺人(懲役7年)、大人しくて気弱な理髪店勤務・福元宏喜役に、「ぼっちゃん」、「幼な子われらに生まれ」の水澤紳吾。
中小企業を継いだ同級生、須藤勇雄役に「シン・ゴジラ」の松尾諭などが出演します。
これからこんな未来が来てもおかしくない設定の物語。
もしそうなった時、あなたは信じることが出来るのか、それとも疑ってかかってしまうのか。
非日常的でありながら、日常へリンクしてしまうリアルさを孕んでいそうなヒューマンサスペンス。
ここから観賞後の感想です!!!
感想
元殺人犯を受け入れられるか、それとも拒むのか。
人間の真理を問うように、緊張と緩和で揺さぶったヒューマンサスペンスでした!!
以下、核心に触れずネタバレします。
心を掻き乱す演出。
地方の小さな町。そこでは若者が離れていくことで高齢化が進み、過疎化が問題となっていた。
また罪を犯したものを収容する刑務所では、受刑者を国の税金で賄う故に、増えればその分費用がかさむ。
この2つの問題を解消する糸口として、刑期の軽い元受刑者を仮釈放させ、その町に10年間住ませることで、過疎問題も解消、刑務所の飽和状態や税金などの経費削減という、いわば一石二鳥の極秘国家プロジェクトが誕生した。
そんな一見理に適ってそうで、よくよく考えるとそれバレたら大問題だろ!という設定を冒頭でサクッと説明しながら、特に何も考えてなさそうな普通の人間の視点で6人の受刑者を迎える序盤が非常にコミカルに展開されており愉快。
一緒に来た人は友達ですか?
いいでしょう?人もいいし、魚もうまい。
開口一番キャッチコピーのように同じ言葉を繰り返したり、どう見ても友達じゃねえだろwな人を友達と思い込むような、人を見た眼で判断しないちょっと能天気な月末が、非常に地方に住む独身の好青年に見え、親近感が沸く。
その後も味噌ラーメンとチャーハンと餃子を「幸せの黄色いハンカチ」の高倉健よろしく、口いっぱいにかっこむ福元、
着ている服がカビ臭いからとギフトショップで急ごしらえの着替えをしてパッツンパッツンのTシャツを着る大田、
塀の高い場所で明らかにソッチの人だろ・・・と勘ぐってしまう大野など、淡々と受刑者を迎える月末。
さすがの月末も大野を迎えた時は疑問に思ったのか、上司に問い詰める。
その事実を知った途端、それまで同じリズムと同じ音符で刻んでいたBGMで構成されていたほのぼのとした空気が一変する。
これを同じBGMなのに、重さでエフェクトすることで一気に緊張感が芽生える。
正に月末の心情を音で表現した演出に序盤一気に引き込まれる。
この緊張感のまま杉山が登場した際には、タバコを買ってきてと言われると拒否する姿勢を取る、あからさまな態度。
かと思えば、宮越の登場では、逆にいつものキャッチコピーを宮越から言われる件で元ののほほんとした空気に戻る。
序盤で非常に良いフックになっていてよかったですね。
ここで、宮越という人物が物語において重要な役どころになるのでは?と想像できるのではないでしょうか。
音に関して言えば、表現する演出が非常に効果的で、月末と文、同級生の須藤とバンド練習をするシーンも、画的にはなぜバンドwwと俯瞰で見ると笑える場面なんだけど、やってる音楽がグランジwwなんて設定だw
この演奏を始める前に須藤が、「まだそんなバンドごっこなんかしてるのって妻がいうんです」という愚痴をこぼした後にかき鳴らされるギターのノイジーなストロークと、安定のリズムでベースを刻み、そこに感情をぶつけるようにタム回しをするドラムがそれぞれの今の想いを音で表現していた辺りも面白い。
須藤は家庭内の不満を、文は故郷にUターンしてしまった今の人生を嘆いてるかのように。
そんな内心を全く理解せず、ただただ現状維持な自分に満足しているかのように淡々と同じ音階のベースを弾く月末。
この3者のアンサンブルが、複雑でありながらごくごくシンプルなアンサンブルを奏で騒音となる様は、地方に住む若者の声なのか?とも感じられる演出であり、これを繰り返すことで徐々に物語に緊張感が加わるのが非常にうまいと感じました。
ここから物語で感情のピークや物語の山場を迎える時に、このノイジーなギターの音が多用されていくので、効果的だなとも感じます。
緊張と緩和は中盤も続き、受刑者たちを合わせてしまうと後々大変なことになるから注意しろ、という上司の忠告がありながら簡単に後輩にバレてしまう点、しかもバレ方が後輩が課長のPCを勝手にいじって発覚するというセキュリティの甘さ!
おいおいっ!極秘じゃねーのかよw
しかも町で行われる「のろろ祭り」の参加者が見つからないからって、受刑者全員に声をかける後輩のKYな人選!
祭り前に参加者で食事するシーンもやはり騒動は起こってしまいます。
理髪店の店主に酒を薦められた福元は、頑なに断っていましたが、祭りだし体を清めるって意味もあるからということで1杯飲んだ途端、ガンガン飲んで悪酔いしてしまい暴れてしまう。
徐々に緊張が積み重なっていく感じが非常に素晴らしかったです。
人間の本質を見極めるには。
東京に住んでいればすれ違う人すれ違う人、二度と出会うこともなければ、今後関わってくる人もいるかもしれない人口密集地帯なわけで、その人がどんな人かなんてのは気にすることもない無干渉な生活が当たり前なわけだけど、小さな町ともなるとそうはいかない。
良くも悪くも些細なことが一気に広まるような場所だから顔も素性も筒抜け。
過去に何をやっていたとか、どこで働いてるとか、誰と付き合ってるとかまでも知られてしまう。
そんな狭い町に元受刑者が、しかも6人も転入してくるのだからざわつかないわけがない。
そこに偶然起こる死亡事故。
事情を知っている月末は、いやがうえにも受刑者と事件を結びつけてしまう。
これってすごく普通の考え、と思いつつも、早合点だろうとも思える場面でした。
自分だってそう思って身構えてしまう。
俺じゃねえよ、と杉山が話しても、だ。
だけど、話が進んでいくうちに受刑者たちはなぜ人を殺めてしまったのかというバックボーンが語られていく。
仁義を通すために、または殺意をもってという明らかに殺すために罪を犯した凶悪な者が何人かいる中で、ある者はもみ合いで打ちどころが悪く運悪く死んでしまった、ある者は相手を愛しているがゆえにエスカレートして、またある者は自分に暴力を振るわれ、パワハラを受けられ。
このように仕方なく、はずみで、事故的に、偶発的に、というような形で殺めてしまった人もいる。
この話を受け月末は宮越と友達の関係を築き、太田と父は恋愛関係に発展していき、理髪店の店主は雇った福元の素性が分かっても、自分と同じ境遇の持ち主だとカミングアウトし距離を縮め、大野がカミングアウトして出ていこうとしても、クリーニング屋の女店主は引き留めるんですね。
月末の場合は宮越の犯した罪が偶発的だったこと、人当たりのいい好青年だと思ったから彼を受け入れた。
太田は好きになった人ともう離れ離れになりたくない気持ちを刑務所で肌で感じ、彼女が犯した罪を理解してもなお、好きな気持ちに嘘偽りはない、という父の気持ちを受け入れていく。
福元は素性がバレたことでいてもたってもいられなくなるが、実は理髪店の店主も元受刑者だった。
お前の気持ちは痛いほどわかる、だからそばにいてほしいと彼を受け入れる。
大野は、客足が自分のせいで減っていくクリーニング店に迷惑をかけていると悟り、事実を全部話し出ていこうとする。
しかし、女店主は私はあなたを悪い人と思ったことは一度もない、周りの人はそういうけど私の気持ちは?と自分の正直な気持ちを話し、彼を引き留める。
皆それぞれが殺人犯であることを理解しながらも、そのフィルターの先の人間の本質をそれぞれが見極め受け入れていく様が描かれていて、人間てまだまだ捨てたもんじゃないなと。
そして印象的だったのが、文のセリフ。
宮越と付き合うことになった文に、思いを寄せていた月末はつい要らんことを言ってしまう。
彼は元受刑者だよ、と。
あなたは付き合うのに、過去をあれこれ気にするの?
全てを理解したうえで付き合うの?
そうじゃないでしょ?
今までずっと一緒にいてあなたは私の何をわかってるの?
付き合うって、その人をわかりたいから付き合うんじゃないの?
人と共生していく中で、全てを疑ってばかりいたら何も始まらない。
まずは信じて一歩踏み込んでみることだ。
そんなことを思い知らされるセリフだったように思えます。
でもそれだけで終わらせないのがこの映画の肝といいますか。
やっぱり更生してきちんと社会で他者と向き合おうとする者もいれば、なんも変わらない犯罪者もいるわけで。
例えその相手が犯罪者だろうが普通の人間だろうが、これから人と向き合っていく上で人間の本質を見極めて付き合っていくことが大切なのかな、と考えさせられる内容でした。
結局羊の木って何?
冒頭でこんな一節が流れます。
その種子やがて芽吹き タタールの子羊となる
羊にして植物
その血 蜜のように甘く
その肉 魚のように柔らかく
狼のみ それを貪る
「東タタール旅行記」
この一節に加え、清掃員の栗本がこの羊の木が描かれた缶のフタを海岸で拾い、玄関に飾るシーンがあります。
そして栗本はアジを二尾購入し、一つは晩飯のおかずとして、もう一匹はアパートの庭に埋めるのです。
その行動は他にも亀の死骸も埋めたりと不可思議な行動。
この件は、恐らく羊の木が描かれたフタを見て発想を得たのが理解できると思いますが、果たしてそれが何の意図なのかがわからない。
というわけで色々考えてみました。
まず羊の木に関してですが、調べてみるとバロメッツという伝説の植物に行き当たります。
これはヨーロッパなどで見られたもので、羊の実がなった木なんだそうです。
時期が来ると実をつけ、生きていない羊が収穫できるそうで、放置しておくと周りの草を勝手に食い散らかせていくとのこと。
辺りに草が無くなれば飢え死にし、それを餌に狼や人が群がってくるというもの。
あくまでこれは伝説であり、実際は木綿を誤解したヨーロッパ人の間違った言い伝えだとされているそうです。
では、これがこの映画にどういう意味をもたらすのか。
それは植物であり動物でもあるこの羊の木ないし羊の実が、人間そのものなんじゃないかということなのかなと。
目の前にいる人物が果たして植物のような人なのか、それとも動物なのか。
羊の皮をかぶった狼なのか、はたまた本物の羊なのか。
それは食べてみないとわからない、理解しないとわからない。
逆に自分もまた羊の実なのかもしれない。
物語ではそんな風に元受刑者という羊の実ともいえる6人が登場し、それを見極める月末たち町の住民によって試されているのかなと。
いや住民たちが試されているのか。
そして庭に死骸を埋める栗本に関してですが、彼女は唯一住民と触れ合う描写がありません。
しいて言えば亀の死骸の件で子供たちと触れ合っていますが、そこに強い意味はないかと。
その代わり彼女は死骸を埋めて木を育てようとする役割があります。
これは恐らくこれから魚深でまた受刑者が転入することを示唆しているのかなと。
それと同時に彼らがこの町で試されることで本当の自分を知ってほしいという願いが込められているのかなと。
きっと彼女は今後もああやって暮らす気がします。
自分は誰とも関わらない、私の本質など誰からも見なくていい代わりに、他の誰かが周りの人たちからきちんと見極めてほしいという現れなのかなと。
実際羊の木の画には5匹しか描かれていません。
これは栗本以外の5人の受刑者の事を指すのかなと。
これはあくまで個人的な、あ、モンキー的考察ということでめっちゃ自信ないし不正解だとも思いますが、やはり思った事は書こうというスタンスでやっておりますので、どうかお前分かってねよ!みたいなツッコミはご勘弁をw
多分「のろろ様」とも関連付けたら違う見方ができるだろうし、きっと関連付けないとダメなんだろうけど、あえて切り離して考えてみましたw
難しいわこういうの。
最後に
癖のある受刑者たち6人の、普通でいながらも違和感ありありの空気感が見事でしたし、その中でとにかく普通を意識した錦戸君の佇まいも素晴らしかったです。
特に優香はむちゃんこエロかったw
ちょっと濃いめの口紅が、どこか地方の女感が出ていてエロかったですねw
やっぱりこの人かわいいわw
とりあえずですね、受刑者によって試されている人間を描いたヒューマンサスペンスでございました。大八節炸裂でした。
というわけであざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10