片思い世界
2024年の邦画でマストとなった「ファーストキス1st kiss」。
松たか子と松村北斗という年齢差の離れた二人が織りなすSFラブストーリーに、僕を含め多くの方が涙したことでしょう。
そんなファーストキスの脚本を手掛けた坂元裕二の作品が早くも公開。
今度はこれまた大ヒットした「花束みたいな恋をした」でタッグを組んだ土井裕泰監督だから期待値は増すばかり。
予告編を見た段階では同じ家に住む3姉妹が一人の男性に想いを寄せるような物語なんだろうと思ったら、どうも3人は一緒に住んでるだけで血は繋がってないようで…。
全く展開が読めない!
とにかく観賞してまいりました!!
作品情報
「花束みたいな恋をした」「怪物」、そして「ファースト・キス 1st kiss」と昨今TVドラマから映画へと主戦場を変えた脚本家・坂元裕二が、「罪の声」や「花束~」の土井裕泰監督と再びタッグを組んだオリジナル脚本作品。
東京の片隅で暮らす固い絆で結ばれた3人の女性を主人公に、楽しく気ままな日常を映しながら、それぞれが抱える「究極の片思い」を何とか伝えようと奮闘する健気な姿を、想像の斜め上を行く展開で描き出す。
「花束みたいな恋をした」の大成功を客前で噛みしめた坂元裕二は、もう一度同じ監督で、しかも旬の女優3人を起用して映画を作りたい意欲を持ったと語る。
近い年齢の3人をTVドラマの様なキャラクター作りをせず、一人の中にあってもおかしくない人格が3つあるようなイメージで作り上げていったそう。
主演には、「流浪の月」、「キリエのうた」、そして今年は本作のほかに「ゆきてかへらぬ」含む3作の映画が控えている広瀬すず、「青くて痛くて脆い」、そして「市子」での高評価でステップアップした杉咲花、「線は、僕を描く」、「青春18×2」の清原果耶の3人が、同じ屋根の下で暮らす3人を演じる。
他にも、「正体」の横浜流星、「ミッシング」の小野花梨、「雨の中の慾情」の伊島空、「嗤う蟲」の田口トモロヲ、「大きな玉ねぎの下で」の西田尚美などが出演する。
一方的に相手を思う「片思い」にはどんな意味があるのか。
「推し文化」や「投げ銭」といった新たな形の「片思い」が溢れる今、彼女たちを通じて我々にどのような無償の愛を与えてくれるのだろうか。
あらすじ
現代の東京の片隅、古い一軒家で一緒に暮らす美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)。
仕事、学校、バイト、それぞれ毎日出かけて行って、帰ったら3人一緒に晩ごはん。
リビングでおしゃべりして、同じ寝室で寝て、朝になったら一緒に歯磨き。
お互いを思い合いながら穏やかに過ごす。
楽しく気ままな3人だけの日々。
だけど美咲には、バスで見かけるだけの気になる人がいて、そのことに気付いた2人は・・・。
もう12年、家族でも同級生でもないけれど、ある理由によって固い絆で結ばれている3人。
それぞれが抱える、届きそうで届かない<片思い>とは…。(HPより抜粋)
感想
#片思い世界 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) April 4, 2025
下手なこと書けないので短く。
えぇ、しっかり泣きました。
声、届いたわ。
ラジオの声、きっとすぐ気づくはず。 pic.twitter.com/umq2tRvMDE
声は風 風は夢 飛んでけ
元気でね 元気でいてね じゃあね またね
この歌で涙腺決壊
以下、ネタバレします。
実は予想出来ていた展開。
事前に行われた試写会では「ネタバレ厳禁」だったことから、きっとこの映画には何か知られてはいけない、知ってしまったら楽しみを削いでしまう要素がきっとあるんだろう。
そんなことを鑑賞前から感じていたため、坂元裕二のインタビューや主題歌「声は風」の歌詞、そして予告編を何度もリピートしていたんです。
冒頭で展開が読めないとか書いてましたが、実は嘘ですw
そもそも血の繋がっていない3人が12年も同じ屋根の下で過ごしていること自体、どこかおかしいわけですよ。
12年前って幼いころから一緒に住んでるの?
親御さんは?
どうやって生活できたの?
あんな大きな家で。
そんな疑問と、「アニメ作品のように『世界に抗う物語』にしなければ実写作品は立ち向かえない」という坂元裕二のインタビュー、そして「ファーストキス」よりも先に完成させていた脚本などから推測するに、
「彼女たちは生きていないのでは?」という答えにたどり着いたんです。
結果、本作を鑑賞すると冒頭から大きな違和感に遭遇することになります。
渋谷の明治通りを歩くさくらが、子供が落としたおもちゃを拾わず素通り。
通勤に使うバスに間に合わない美咲とさくらが運転手に「乗ります!」と手を振ってもあかないドア。
その後も大学で授業を受ける優花に誰も気づかない周囲の生徒。
オフィスで頼まれたデータの打ち込みを一人黙々とこなす美咲。
仕事を辞めたいスタッフに「ペンギンに心を開けば大丈夫」とアドバイスする男性スタッフ、その横で同じく励ますも2人の反応は無し。
同僚との飲み会で端っこに座って美咲が相槌を打っても、誰も反応しない。
こんな「?」な状態がずっと続く冒頭。
バスに乗り合わせたアホ毛の青年に視線を送る美咲、それに気づくさくら。
優花と二人で「声をかければいいじゃん」と背中を押すが、美咲は「絶対気づかないんだから無理」とつっぱねる。
その青年が女性と出かけたラフマニノフのピアノ演奏コンサートで、静かな状況の中声を荒げて邪魔しようとするさくら。
最初に抱いた違和感は徐々に確信へと変わる。
やはり3人はこの世にいない存在だった。
きっと捻くれた心で本作を追うと、一気に邪念が生まれることでしょう。
彼女たちはどうやってバイトに受かったのか、大学に受かったのか、就職できたのか。
スーパーで買った食材はどうやって金を払ったのか。
そうした現実的な疑問が次々と生まれ、やがて本作を「駄作」とか言う輩も出てくることでしょう。
別に各々が抱いた感想にケチをつけるつもりはないが、スーパーで買った支払いシーンも端折っていれば、生きている人から見た彼女たちの家がボロボロなのに、彼女たちからすれば家がしっかり整っていることに対する理由、誰かがエレベーターに乗らないと乗れない理由など、ありとあらゆる理由を「敢えて」説明していないことは、そういうことなのだと受け止めないといけない映画だったと思います。
そんな重箱の隅をつつくような粗探しをして見てしまっては、本作の本質を見失ってしまうから、やめた方が良いよって話。
実際俺もそんな邪念が時折顔を覗かせたけど、割り切ってみていくと、自ずと3人が暮らす「片思い世界」に没入できる気がします。
彼女たちはとにかく誰とも接することができない。
赤ちゃんを置き去りにしたまま放置してる車を発見しても、誰にも知らせることができない。
目の前に大事な人が現れても気づいてもらえもしない。
だから彼女たちは3人肩を寄り添って暮らしているわけです。
本作はそんな彼女たちが半ば諦めた気持ちを抱きつつも、ずっと思いを寄せていた存在に遭遇することで物語が動き出していきます。
それまでは、ホラー映画を見て「なぜあの幽霊はみすぼらしい姿をしているのか?」と、ちゃんと身なりを整え、食事もしている自分たちと比較するユーモアなシーンもあれば、素粒子を学んだ優花の説に倣って、「もしかしたら私たちは元の世界に戻れるかもしれない」という淡い希望を抱いて行動しようとしたりと、坂元裕二ならではの視点や、彼が製作前に念頭に置いていた「世界に抗う物語」へと展開していきます。
世界に抗うとはどういうことか。
これは「ファーストキス」でもそうだったように、時間の不可逆性に抗って主人公の世界を変えようとするお話で、本作も「死んでいる者が生きている者に想いを伝えようとする」話になっていることから、世界に抗うことをテーマに作られたと思います。
確かに私たちは死んだ人の声を聴くことはできない。
触れることもせっすることもできないわけですが、それは死んでいる人にとっても同じ。
彼女たちの場合、なぜか「無」の状態ではなく、私たちと同じように生活をしており、同じ世界にいながら、どこか別世界の場所に追いやられている設定になってます。
そうした大きな壁を壊すために彼女たちがどう抗うのかが本作のハイライトになっていると思います。
美咲は合唱クラブでピアノ伴奏をしていた典真という青年に。
優花は自分を生んでくれた母親に。
そしてさくらは、自分たちを殺害した犯人に。
片思いという言葉が「一方的に好きな人に向けた思い」だけに留まらないよう、様々な感情や思いが分裂したものになっていました。
届かない思いを伝えるために
僕自身、幽霊の存在を信じてはいません。
霊感があるわけでもないし、誰かいるかもしれないなんて勘が働くこともない。
でも本作を見て感じたのは、「あの時起きたことはもしかしたら、自分を思ってくれている死者によるものだったのかもしれない」ということ。
車に轢かれる寸前だったこととか、家に鍵をかけ忘れて戻ったこととか、そうした危険だったことや思い出したことは、自分が気付けたからなのではなく、守護霊のようにずっと身近で死者が見守っていて、声をかけてくれたからかもしれないと。
本作では美咲と典真のエピソードが中心となっています。
冒頭、音楽劇を創作していた美咲は完成した本を典真に見せようとしますが、彼の姿はなく、外まで探しても姿はありませんでした。
生徒たちが集まって合唱の練習をする前に、集合写真を撮ろうということになりましたが、そこで不審者が現れ、美咲、優花、さくらは殺されてしまったのです。
なぜ典真は姿を消してしまったのか。
それはお腹がすいたためにコンビニへ行き、肉まんを買っていたからです。
典真は自分のいない間に起きた悲劇に、罪悪感を抱え、それまで続けていたピアノを辞め、細々と暮らしていたのです。
そんな彼をバスの中で見つけた美咲は、彼がピアノを辞めてしまったこと、ピアノを続けてほしいこと、自分のせいだと思い込まないでほしいことを伝えようと努めます。
やがて典真は合唱コンクールのピアノ演奏を依頼され頑なに拒んでいましたが、あのリハーサル室を訪れた時に、美咲が書いていた音楽劇のノートを読んで、彼女に背中を押してもらうことになります。
もう二度と同じ世界で暮らすことはできないけれど、ちゃんとわたしはここにいるし、あなたを見守っている。
互いが抱いていた一方通行の思いが、このシーンで交差することにより、12年間心の中にしまっていた言葉が要約と毒というドラマチックな場面でした。
刑期を終えて出所し、真面目に働くも全く人の心が理解できず再び犯行を行おうとする犯人に憎しみをぶつけるさくらのまた、相手に対して一方的な思いを持っているという点で「片思い」ですし、亡くなった娘への思いを引きずりながらも前を向いて再婚し、新たに娘を設けた優花の母親も、優花への思いは決して失っていないことを示唆したシーンもあり、それぞれがこうしてずっと抱いていた思いを言葉にして相手に伝えた瞬間が多々あった作品でもありました。
また本作の面白い所は、もしかしたら元の世界に戻れるかもしれないという可能性を秘めた部分。
3人が常に聞いていたラジオは、いつも外れてばかりの天気予報でした。
しかしまだ発見されていない素粒子を見つけることができる装置によって、自分たちを見つけてもらえれば、誰かに気付いてもらえるかもしれないという思いつきから、物語は意外な展開へと向かっていきます。
その装置がある研究所には、かつて無断で侵入した男性がいたそうで、その男性こそがラジオの声の主だったのであります。
彼曰く、自分は一度死んで元の世界に戻ってこれたと語っており、元の世界に戻るには思っていた人に想いを伝えることだとラジオからまだ見ぬ死者へ向けて話していたのです。
それを聴いた3人は、元の世界に戻るためにあれこれ行動しますが、結果うまくはいきませんでした。
因みにラジオの声の主は、聴けばすぐわかると思いますが松田龍平が担当していましたね。
果たしてあの声の主は、本当に死んで蘇ったのでしょうか。
それともただのデマだったのでしょうか。
でもなぜか3人にはその声が届いたという点においては、まだ見ぬ死者への「片思い」が届いたと言い切ってもいいのかもしれません。
しかし真相は藪の中・・・。
「声は風」が素晴らしすぎる。
本作のクライマックスでは、美咲と優花とさくらが、当時の合唱団の衣装を着て、合唱コンクールで子供たちと一緒に歌を歌うシーンとなっています。
観賞前からこの主題歌「声は風」を聴いていたんですが、JPOP調の美メロと合唱団のハーモニーになっていて、しかも歌詞が正に「片思い」がテーマになっていることや、明らかに自分の姿が見えていない相手に対しての思いを、優しい言葉で集めた歌詞になっていて、聴くたびにウルウルしていました。
でも本作では、それまでずっと堪えていた涙が溢れるほど感動してしまいました。
結局元の世界には戻れない、この世界で生きていくしかないといった諦めよりも、ずっとため込んでいた思いを伝えられたという達成感に満ちた表情で、典真の伴奏と共に子供たちと歌うんですね。
3人が片思いしている人にどんな気持ちでいたのかを総括した様な歌詞になっていることを事前に理解していたこともあって、より3人の気持ちに感情移入できたんです。
さらに映画は、彼女たちが殺害されてからどういう経緯であの家にたどり着いたのかをフラッシュっバックして見せるんです。
ボロボロの衣装を着ながら土手の下で少ないパンを二人に分け与える美咲の姿、3人でどうすればいいかわからないまま彷徨い、ようやく見つけた家に喜ぶ3人、太い柱で身長を計る3人。
もし2人だったら、もし1人だったら、きっと辿りつけなかったかもしれない。
それこそホラー映画の幽霊のように食べるものもなく、ただただ浮浪してただけかもしれない。
3人が寄り添って暮らせたから、今があるのだという回想と、歌のメッセージが重なって、僕は涙腺決壊しました。
映画を見て泣く事ってしょっちゅうあるんですけど、本作に限ってはずっと抑えてたのもあって、蛇口がバカになってエンドロール流れても泣いてましたねww
なんでここまで泣いてしまうんだろうと、自分でも不思議に思ってますw
最後に
広瀬すず、杉咲花、そして清原果耶という20代の女優を代表する3人が、どこか少女の様な振る舞いで仲睦まじく生活をする姿が、非常に微笑ましいのも本作の見どころのひとつ。
長女的な存在の美咲が「死んだら何やってもいいっしょ」というスタンスの2人に、生きている人と同じように生活しないとダメ、という躾けがちゃんと生かされた暮らしぶりになってました。
逆に2人よりも大人でなきゃいけないと思い込んでる美咲を、冒険しちゃいなよ!と後押しする2人もかわいらしい。
サプライズ誕生日がうまくできないことにツンツンなさくらが、一人先に部屋に籠って隠れてサプライズするのもものすごく微笑ましかったですよね。
3人の役柄がそれまでの「片思い」からある種の卒業をしたように、10代から活躍してきた女優3人が、本作を持ってようやく「少女」を卒業した様な立ち位置の映画でもあるんじゃないかとも思いました。
本作を見たら、ぜひ感じてほしいですね。
それが生きている人でも向こう側の人でも、自分を思ってくれている人を。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10