モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「殺し屋のプロット」感想ネタバレあり解説 マイケル・キートンが見せる冷徹な男の終活ノワール。

殺し屋のプロット

マイケル・キートンが監督・製作・主演!?しかもノワールモノだって!?

こんな面白そうなのは見ないわけにはいかない。

 

それこそ監督主演でノワールモノといったら個人的に真っ先に思い浮かぶのがエドワード・ノートンの「マザーレス・ブルックリン」。

あれは見て良かった。そこそこ長尺故に配信で見てたら絶対飽きてたし、何よりもノワール愛、50年代愛が詰まったノートンのラブレターみたいなものだった。

 

一応今回の映画は現代劇ノワールなので、そうした作品とは微妙に違う楽しさがあるんでしょうけど、何よりほとんど情報を入れずに早速見てまいりました。

 

 

あらすじ

 

博士号を有するという異色の経歴を持つ凄腕の殺し屋ジョン・ノックス(マイケル・キートン)。

ある日予期せぬ事態が降りかかる。

急速に記憶を失う病だと診断され、残された時間は、あと数週間というのだ。

やむなく引退を決意したノックスの前に、疎遠だった一人息子のマイルズ(ジェームズ・マーデン)が現れ、人を殺した罪をプロである父の手で隠蔽してほしいと涙ながらに訴える。

 

刻々と記憶が消えていく中、ノックスは息子のために人生最期の完全犯罪に挑む──。(HPより抜粋)

youtu.be

 

感想

渋い、渋すぎる。

記憶が消える前に、罪を消すことが最後の仕事って、もうたまらんドラマ。

途中、俺が記憶飛んだのか?ってくらい不可解な行動するけど、最後に納得。

見事な仕事でした。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

アルツハイマーとは違う。

テーブルに並べられた小物を持って家を出るが、腕時計を忘れてしまう。

そんな冒頭で始まる本作は、この時点で既に「物忘れ」が進行していることが窺える。

 

さらに殺し屋の同僚と落ち合って食事をする際も、さっき淹れてもらったはずのこーひを再度注文したり、同僚との会話に微妙なズレが生じたり、急に「5分で飯を済ませろ」と言いだすし、終いには自分の車を間違えるなど、物忘れの症状が悪化していることがわかる。

 

彼が同僚に会ったのは、私用で1,2日ほど空けることを伝えるため。

向かった先は神経科の病院だった。

犬やリンゴなどの絵付きカードを見て名前を答えるのックスだったが、車の絵付きカードを見て、「車」とすぐに出てこない。

 

若い頃は記憶力に自信のあった自分も、さすがに叔父さんの年齢になると「忘れる」ことがかなり増えた。

固有名詞は出てこない、歌の歌詞も出てこない、挙句の果てには「あれ?今何しようとしたんだっけ?」レベルまで来ている。

日常生活を送る分には問題ないが、誰かと会話をしたりしているとさすがに物忘れの酷さにはこたえる。

 

自分でさえこの落ち込み具合なんだからノックスはもっと凹んでるに決まってる。

きっと家で八つ当たりするんだろう。お皿やグラスなんかぶちまけて。

なんでこの俺が!完璧な生活だったのに!これからどうやって仕事すりゃいいんだ!

 

・・・とはならなかった。

寧ろ言われたことありのままを受け入れる姿勢。

どうせ起こったって忘れるんだ。

なるほど、ここまで冷静に物事に対処できるから、殺しても足がつかないのか。

 

彼のキャラクター性がにじんで見えてくる冒頭10分の運びはものすごく完璧だった。

 

物語は、1週目、2周目といった具合に章立てで進んでいく。

ノックスがかかった病気は、ただのアルツハイマーではなく、それよりも急速に記憶を失う「ヤコブ病」というもので、彼に関してはとにかく進行が早いとのこと。

完全に記憶が無くなるのは数週間ないかもということで、1週間ごとに区切ってるわけ。

 

1週目は、というか週の始まりは娼婦と体を重ねる木曜日から始まる。

何で木曜日からなのかはよくわからないが、彼のルーティーンがあるのはこの曜日ってことからなんだろう。

英文学と米歴史の博士号を取ってたり、一時は大学で教えてた、さらに国税職員だったなど、とても殺し屋とは思えない経歴のあるノックス。

インテリスマートな殺し屋は、娼婦に貸す本も哲学の本ばかり。

やっぱり知性って魅力なんだよな、地頭が良いのではなく知性ね。

 

同僚と頼まれた仕事をこなすノックス。

標的が一体何者なのかを語ろうとする同僚に対して、殺し相手の素性などどうでもいい、どうせ死体になるんだと語るノックス。

干渉しないために課したルール、もしくは人を殺める上での美学なのかはよくわからんが、彼のスタイルとしては非常に合っている。

 

・・・と語っておきながら、数分後には大失態をしてしまう。

シャワーを浴びている標的をシャワーカーテン越しに射撃したはいいが、もう一人女性が入っていたことに気付かず、条件反射で発砲してしまう。

一般人を巻き込んでしまうのは、幾ら事故とはいえども彼の中では御法度なんだろう。

 

戸惑いを隠せないノックスは、洗面所で自分の顔を洗い始める。

冷静になれとでも言い聞かせたんだろうが、病魔はそんなに甘くない。

 

先生は「思考と感情がずれはじめてくる」と語っていたが、こういうことかと身をもって知るノックス。

そこにいた人物が突然消えたり、目の前に映る世界にノイズが入ったりピントが合わなくなってきたりと、現実世界から切り離されたような感覚に落ちていく。

普段の生活ならまだしも、仕事中に起きてしまうのは本当に厄介だ。

 

とにかく死体の処理なり隠ぺい工作なりしないと、警察にバレてしまう。

そう慌てふためいていたノックスに更なる悲劇が。

何とあとから入ってきた同僚を、これ魔ら謝って発砲してしまうのだった。

 

これはいけない。

いけなすぎる。

映画でもこうしたシチュエーションになった時、良くお互い撃たないでいれられるなぁと感心するので、こういう事故はもしかしたらあるのかもしれない。

いや、寧ろこういうシチュエーションで撃ってしまうことは、ありえないんだろう。

 

振り返った時に拳銃だけが目に飛び込んだのか、それとも同僚だと認識できずに反射的に撃ったのか、事情はわからないが、結果的に大失態であることに変わりはない。

自分の銃を死体に持たせて応急処置を計り、ボスに事情を説明して事なきを得たものの、このミスによって警察にマークされることは時間の問題。

 

これは早々に店じまいしなくてはならないと覚悟を決めたノックスは、終活の段階にかかる。

古い友人に資金洗浄と資産の分配を頼む。

3等分にしてほしいと頼んでいたが、元妻と息子、あと誰?

 

また、ヤコブ病が悪化し始めたので、これまたアル・パチーノ演じる泥棒の友人に事情を話し後始末をお願いする。

 

さぁ、終活のファーストステップは整った…と思ったら、突然疎遠だった息子が家を訪ねてくる。

右手にタオルをグルグル巻いたまま現れた男性を前に、すぐ息子と認識できないノックス。

無反応の父に、連絡を取らなかった仕返しだと思った息子は、しきりに「ダッド」と呼びかける。

 

どうやら娘を妊娠させた32歳の白人男性に面会し、あまりの態度に怒り浸透、近くにあった包丁で首根っこを何度も刺し殺してしまったらしい。

要するに、殺し屋をやってる親父なら何とか後始末をしてもらえるかもしれない、確かに遠ざけたのは息子の方で、こんな時に現れて頼み事するなんて都合が良すぎる、でもこれまでお願いなんて一度もしたことがない。

しかも殺したとはいえ、相手はノックスの孫娘に傷をつけ、しかも妊娠までさせたクソ野郎だ。

もちろんノックスは「俺が殺し直したのに」と息子の気持ちを悟る。

 

こうして、ノックスは自分の終活と並行して、息子が警察に捕まらないための後始末をしなくてはならなくなるが、病魔はそう簡単に待ってはくれなかった…という話。

 

 

突如起きる瞬間的な病魔の進行を、その場にいなくなるような空間にして見せたり、ノイジーな映像を入れたりしながら表現する本作。

 

これが都合的にも見えるけど、本当に「ここぞ」って時に起きるからヒヤヒヤする。

同僚を殺した時に起きた症状なんてほんの序の口で、後半はそれが頻繁に起きてくる。

 

それ以外にも、大学という言葉が出てこなったり、任意同行で職質を受けた際には、自分のミドルネームを間違えてしまうほど、うっかりが過ぎる状態に。

 

言語を忘れるのは俺もよくあったりするけど、さすがに名前が抜け落ちるなんてことはない。

ミドルネームを頻繁に言ってないってのあるかもだけど、さすがにこれはもう末期なんじゃ?と思えてならない。

 

終盤では森の中で路頭に迷うノックスの姿も見れるので、このヤコブ病っての?実際にあるか知らんけど、アルツハイマーも含め早く特効薬が出来てくれたらいいのにと願うばかり。

 

 

とはいいつつも、そこは殺し屋。

こうした言語が抜け落ちたり名前を間違えたりするけれど、体が色々覚えている。

家に男たちが押し寄せた時も、ダメージはくらったモノの見事な立ち振る舞いで一掃するし、時々何をしなきゃいけないのか呆然とすることがあるけれど、何とか持ち直して息子の隠ぺい工作を丁寧にこなしていく。

 

他にも宝石の隠し場所や元妻の家の合鍵の場所などは覚えてるという律儀な所も絶妙。

忘れてる事と覚えてる事の差を見せながら、殺し屋最後の仕事をこなす辺りは見事でした。

 

そうそう、中盤以降、「え?ノックス何やってんの?」ってなったんですよ。

息子が来ていた服の血を特製の液体かなんかを使って表面化させたり、凶器となった包丁の指紋を消さずに保管したりと、何やらわけわからん作業をしてるじゃないですか。

 

警察に手の怪我を聞かれたら父の家でグラスを割ったというよう忠告してたので、彼が触ったグラスを粉々に砕いて保管はしていたものの、どうも行動がおかしい。

 

さらに息子の衣服や凶器を、息子の家の中に隠すノックス。

おいおい、これどういうこと??

これ結局息子が罪を被ることになるじゃん。まぁそうなんだけど、親父は最初からそのつもりだったの?

やっぱ疎遠にされた腹いせ?今更?最後の仕事がこれでいいの?

 

もちろん警察にはバレバレで、息子が逮捕されてしまうんですよ。

もう!病気!こら!!さすがにひどいぞ!と。

 

・・・と思って見た人は、見事に騙されてますw

 

 

最後に

ホントね、終盤にノックスの行った後始末が鮮やか過ぎて恐れ入りました。

なるほどそういうことかと。

病魔が進行してる中、相当大変だったと思うんですよ。

きっと思っていた以上に思い出すことに時間がかかったろうし、時には「今俺何やってるんだっけ?」まで陥ったかもしれない。

友人のパチーノも、ノックスの状態が深刻であることを見抜いてたし、奥さんからも身を引いた方が良いと忠告されるけど、ノーギャラで全部見届けてあげる優しさよ。

 

元妻の表情や、周囲の友人が彼に協力する姿勢を見ていれば、自ずと彼のスタイルや配慮が見えてくる。

それは例え記憶を失っても変わることはないってことを、まだそこまで手慣れてないだろうカメラワークや編集のぎこちなさを感じつつも、しっとりと、そして渋く見せるLAノワールだったのではないでしょうか。

 

とにかくね、動揺や戸惑う仕草はするものの、大きく取り乱すようなことはしないから、記憶を失ったとしてもかっこいいわけですよ。

最後息子と会う時も、もう末期かってくらい危ない感じに見えるんだけど、クールに見えちゃうから不思議。

その姿が逆に涙を誘うんだけどね。

 

ある種プロフェッショナルな映画だと思います。お仕事映画。

どうしようもない出来事に直面しながらも貫徹する切実な姿を、キートンが体現していくから面白い。

哀愁も孤独も醸し出しながら、やり遂げる。

あ~かっこいいわ。

 

最後に娼婦にしたことも、かっこいい。

そうか3人目はお前だったのか。

あんなことやらかしても「世話になったから」許す優しさ。

二都物語か、うんうん。

 

意外と面白い映画です。キートンのカッコよさに痺れたい人、または物忘れの酷い人(一言余計w)は是非。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10