リコリス・ピザ
僕の大好きな歌に「青春の瞬き」って歌があるんですよ。
椎名林檎が栗山千明に提供した歌なんですけど。
1番のサビでは、若かりし頃のあの美しく楽しい時間が止まってほしいと訴え、2番のサビでは、それがもう跡形もなく消えていて、どんなに手を伸ばしても手に入れることができないという嘆きを歌ってるんですね。
青春の瞬きってタイトルがめちゃんこしっくりくるなぁという無常感と儚さたっぷりの歌なんですよ。
今回観賞する映画は、おそらくこの歌の1番のサビにあたる内容で、それを見終わった後2番のサビを感じるのかな?なんて予想してます。
70年代のアメリカっていう生まれる前の年代を舞台にした映画ですけど、僕はなぜかあの頃のアメリカに妙な憧れがあります。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」とか「ナイスガイズ」みたいな(最近のばかりやんw)。
決して良い時代とは言い難い闇や問題もあったけど、何故か見ていて「アメリカってこれだよな」と。
PTA監督ってことで「ブギーナイツ」のような青春映画を予想してますが果たして。
早速観賞してまいりました!
作品情報
第94回アカデミー賞で作品賞はじめ3部門にノミネートされた、世界のPTAことポール・トーマス・アンダーソンが描く、1970年代を舞台にした青春映画。
監督の過去作「ブギーナイツ」と同じ1970年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に、実在の俳優やプロデューサー、実際の出来事を背景に、男子高校生・ゲイリーと10歳年上の女性・アラナの初恋模様を描く。
『マグノリア』でベルリン国際映画祭金熊賞、『パンチドランク・ラブ』でカンヌ、『ザ・マスター』でヴェネチア、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でベルリンと世界三大映画祭すべてで監督賞受賞の伝説を作り、彼が師と仰ぐロバート・アルトマン監督と肩を並べたPTAが描く本作は、当時のファッションや音楽といったポップカルチャーを完全に再現。
そして主人公2人のつかず離れずでありながら、あふれんばかりの恋の喜びと痛みを描写。
誰もが経験した「あの頃の気持ち」を思い出さずにいられない作品に仕上げた。
主演には三姉妹バンド「ハイム」の三女アラナ・ハイムと、PTA作品に多く出演していたフィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが本作で鮮烈な俳優デビューを飾る。
ショーン・ペンやブラッドリー・クーパーなどの名優が脇を彩ることで、初めて尽くしの主演二人を見事にサポートしている。
また音楽には本作で5度目のタッグとなるレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当。
2人の感情に寄り添うような音楽で物語を盛り上げていく。
本作のタイトルは、カリフォルニア州南部で展開していたレコード店の名称とのこと。
誰もが一度は憧れた70年代アメリカの空気を体感しながら、2人の恋模様に酔いしれようではありませんか。
あらすじ
1970年代、ハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレー。
高校生のゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)は子役として活躍していた。
アラナ・ケイン(アラナ・ハイム)は将来が見えぬまま、カメラマンアシスタントをしていた。ゲイリーは、高校の写真撮影のためにカメラマンアシスタントとしてやってきたアラナに一目惚れする。「君と出会うのは運命なんだよ」強引なゲイリーの誘いが功を奏し、食事をするふたり。「僕はショーマン。天職だ」将来になんの迷いもなく、自信満々のゲイリー。将来の夢は?何が好き?……ゲイリーの言葉にアラナは「分からない」と力なく答える。
それでも、ふたりの距離は徐々に近づいていく。ゲイリーに勧められるままに女優のオーディションを受けたアラナはジャック・ホールデン(ショーン・ペン)というベテラン俳優と知り合い、映画監督のレックス・ブラウ(トム・ウェイツ)とテーブルを囲む。また、カリフォルニア市長選に出馬しているジョエル・ワックス(ベニー・サフディ)の選挙活動のボランティアを始める。ゲイリーはウォーターベッド販売を手掛けるようになり、店に来た女の子に声を掛ける。ある日、映画プロデューサーのジョン・ピーターズ(ブラッドリー・クーパー)の家へベッドを届けるが、面倒に巻き込まれる。それぞれの道を歩み始めるかのように見えたふたり。
出会い、歩み寄り、このまま、すれ違っていくのだろうか――。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、ポール・トーマス・アンダーソン。
2000年代に入ってからは「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や「ザ・マスター」といった重めの作品が代表されましたが、「ファントム・スレッド」はその重さを引き継ぎながら「男女の駆け引き」を描いた、一応恋愛映画でした。
そこから今回原点回帰ともいえるような明るい青春映画にしたのはどういう経緯があったのでしょうか。
「ファントム・スレッド」完成後、故郷で映画を作りたい衝動にかられたという監督は。実生活で共に暮らしている子供たちの年代を題材にした作品にしたそう。
ボーイミーツガールを一度しっかりやってみたかった想いや、主人公二人の年齢差を通ることで面白さを見せようと試みたこと、脚本執筆のルーティンなどが下のリンク先で語られてます。
天才監督の頭の中をのぞく ポール・トーマス・アンダーソン「リコリス・ピザ」製作秘話(映画.com) - Yahoo!ニュース
キャスト
主人公アラナを演じるのは、アラナ・ハイム。
3姉妹バンド「ハイム」の末っ子である彼女。
2020年にコロナによって中止となった「フジロック」のYouTube番組の中で「ハイム」を知りました。
3人の女性なのに先鋭的なことをやってると思いきや意外と骨太なロックだなぁと。
あと普通にメロディラインが好みw
で、今回PTAの新作で親父そっくりが故にフィリップの息子だとすぐわかったんだけど、女性の方はまさか「ハイム」の人だとすぐわからなくて。
しかも、今回ハイム一家全員出演というリアルなキャスティング。
年上で自己肯定感が低い女性の役だそうですが、どんな演技を見せてくれるんでしょうか。
他のキャストはこんな感じ。
ゲイリー・ヴァレンタイン役に、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子で本作で俳優デビューのクーパー・ホフマン。
ベテラン俳優ジャック・ホールデン役に、「LAギャングストーリー」、「ミスティック・リバー」のショーン・ペン。
映画監督レックス・ブラウ役に、「ダウン・バイ・ロー」、「デッド・ドント・ダイ」のトム・ウェイツ。
映画プロデューサーのジョン・ピーターズ役に、「世界にひとつのプレイブック」、「アリー/スター誕生」のブラッドリー・クーパー。
ゲイル役に、「インヒアレント・ヴァイス」、「ブライズ・メイズ史上最悪のウェディング・プラン」、そして監督の奥様であるマーヤ・ルドルフなどが出演します。
「ブギーナイツ」と「パンチドランク・ラブ」を掛け合わせたかのような青春映画と評判の本作。
モンキーはPTA大好きなので、観賞前からハードル上がってますが果たして。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#リコリスピザ 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年7月1日
あーなんだろ!!
俺これが観れて超幸せです!!
ありがとうPTA!! pic.twitter.com/gUEAjhN1Je
PTAからまたしても素晴らしい作品が生まれた!
アメリカに精通してるわけでもないのに、まして当事者でもないのに、なぜか懐かしく感じてしまう…
美しいショットと歪な二人のつかず離れずな恋模様に、僕も走りたくなった!
以下、ネタバレします。
なぜこんなにも懐かしく思えるのだろう
1973年のサンフェルナンドバレーを舞台にした、15歳の少年と25歳の女性による青春グラフィティは、完璧なショットの連続や被写体深度を浅く映すことで生まれる光、ひたすら長回しでキャラを追いかける撮影など、こだわりの強い撮影技法によって「懐かしさ」の度合いを強めた映画であったことに加え、年齢の割に精神年齢が正反対かと思いきやそうでもない部分がちらつくことで、2人のつかず離れずで歪で可愛らしく歯がゆくもある駆け引きにやきもきしてしまう、眩しいくらいに純情な恋愛映画でございました。
これまでブギーナイツ、インヒアレントヴァイスと地元を舞台にした作品を作ってきたPTAが、3度目の地元映画にしたのは恋愛映画。
73年が舞台だから、もしかして監督の昔話なんじゃね?と思って調べたら、当時監督はまだ2,3歳というお年頃。
そんな年齢の子がよくこんな時代の記憶を覚えてるよなぁと思ったら、どうやら登場人物にはモデルがいて、そこからお話を膨らませたそうな。
正直言うとですよ、PTAの映画ってそれこそ「ザ・マスター」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」とか重めの映画がメジャーじゃないですか。
ブギーナイツもパンチドランクラブもインヒアレントヴァイスもそれらとは違う分類をされるけど、正直決してサラッと見るには違うというか。
でも本作はPTA作品の中で一番見やすい映画だったような気がします。
多分まだPTAをよく知らないという人でもハマる人が多い映画なのかなと。
その最たる理由が、全然自分と関係のない街の、全然自分が育った時代でもないのに「懐かしい」と思えてしまう作品だったということ。
ぶっちゃけストーリー自体は「シン・ウルトラマン」のようにエピソードを繋いでいくだけの構成なんですよ。
ゲイリーが同世代の女の子とイチャイチャしてるのを見て怒りと落胆がこみ上げたアラナが、水着を着たまま帰宅してベッドで寝てしまうってエピソードから、急に女優としてジャック・ホールデンの前でオーディションを受けているシーンに突入するんですよね。
一瞬「これは夢か?」と思ったら現実で、なんでこんなに隙間をすっ飛ばすかねと。
ただこれにはいくつか理由と狙いがあると思うんですよね。
1つは「記憶」の映画だから。
途中でも書いたように、これは監督が思春期を過ごした時代の話ではなく、人から聞いたエピソードから着想を得て作った作品。
とはいえ監督も当時の時代を再現すべく色んな資料や映画を見て(初体験リッジモンド・ハイやアメリカン・グラフィティを参考にしたとか)、作ったわけです。
でも結局のところ監督はその時代の記憶がないわけですよ。
で、人間も当時を思い出す時って脳内にある記憶を引っ張り出して話したりするじゃないですか。
そうすることで懐かしいという感情が芽生えてく。
でも、20何年11月の何日の記憶、とか言われても絶対出せないですよね。
んでもって、何時から何時までの記憶とか細かいところまで言われても出せないですよね。
あくまでよかったことやこんなハプニングがあった、あの時○○が○○して程度しか覚えてないんですよ。
監視カメラの映像みたいに記録してないし、要はぶつ切りなんですよ、記憶って。
印象の強い所しか記憶してないんですよ人間は。
だから今回エピソードをつなげて見せてる理由って、記憶をめぐったような構成にしたかったから、それが「懐かしい」という感情を見出すと分かってたからじゃないかなと。
あともうひとつは当時の映画って、こういうエピソードぶつ切りの構成の作品て多くなかったですか?
それこそこの1973年のちょっと前ってニューシネマの時代で、メジャー作品もあったけど色々インディペンデントっぽい作品が多かった気がするんですよ。
僕は引き出しが少ないんでいい例が出てこないんですけど、それこそPTAが大好きなロバートアルトマンもこういう構成で映画を作ってたと思うんですよね。
もうナッシュビルとかもろにエピソード繋ぎまくってますよ。
おまけに人多すぎて誰が今どういう状況か全然ついていけないw
だからそういう意味でも当時の「記憶」って意味でやってるのかなと。
だからこういう構成で描くことで、誰かの記憶を追いかけてるような状態になり、どこかしら自分と似たようなエピソードがあって「懐かしい」という状態に陥るのかなと。
…という案外雑な分析でしたw
PTAはやっぱり最高
当時の街並もファッションも流行も歌も空気でさえも映画としてパッケージしてしまった天才PTA。
それはあくまで外側の作りであって、本来しっかり見なくてはならないのはゲイリーとアラナの2人です。
15歳というガキンチョでしかもそこそこぽっちゃり。
そのくせ母親は広告業で稼ぎ、自分は子役として一丁前に稼いでる。
将来のビジョンが明確で野心的。
ウォーターベッドに将来性を見出し安価で仕入れて売りさばくと思ったら、今度は法改正でピンボールが解禁!という情報を聞きつけて速攻で動き出す勘の良さ。
お前は品川祐か。
未成年のくせに色々出来過ぎなゲイリー。
要は子役俳優だったから大人の世界を小さい時から見てるんですよね。
だからマセてるんですよ。
そんなゲイリーが一目ぼれしたのが10歳年上のアラナ。
ゲイリーとは違い、将来が全く見えず宙ぶらりんな状態。
とりあえず彼氏は欲しいみたいで、ゲイリーの友人で子役俳優のランスから猛アプローチを受けたことで一度はガールフレンドに。
ですが宗教上の理由で速攻破たん。
他にもゲイリーが急に連行された時にはおまわりさんに激昂するし、お姉ちゃんたちにはめちゃめちゃ喧嘩腰。
そのくせ急に一人でたそがれたりと結構めんどくさいけどファンキーなノリのお姉ちゃんなんですね。
そもそも15歳からアプローチされてその日の夜に食事に行きますか?普通。
この時点でだいぶロックですよw
ゲイリーからの猛アタックに仕方ないなぁと言いながら一緒にお仕事したりお出かけしたりご飯食べたりしていくんだけど、ゲイリー自体一向に「付き合ってください!」とか言わないんだよね~。
マセてるくせにそこはガキンチョなゲイリー。
アラナもアラナで色々サインとか送ってるんだよなぁ!
それに気づかない鈍感なゲイリーは、結局アラナと何度もすれ違うわけですよ。
アラナがランスとの手つなぎデートを目撃すれば嫉妬をし、今度はゲイリーが同世代の女の子とイチャイチャしてるのをアラナは目撃。
ジャック・ホールデンと良い仲になっていくのをマジマジと見せつけ、イラつくゲイリー。
さらには市長候補の事務所でボランティアを始めるアラナに嫉妬し、ビジネスに走るゲイリー。
どちらもモーションを掛ければスカし、誰かと仲良くしてるところを見ると嫉妬するを繰り返していくんです。
でもゲイリーが捕まった時には警察署へ全力疾走して抱きしめるアラナだったり、ジャックの後ろに乗ってバイクで危険な走行をした際に転げ落ちてしまったアラナを見てダッシュで彼女の元へ駆けつけるゲイリーだったり、距離が離れたとしても気持ちは離れていない2人なのです。
この距離感がなんともたまらんのです。
実年齢10歳も離れてるのに精神年齢は意外と近い2人の行動を、ただ見せられてるだけなのに目で追いかけたくなる、どこか応援したくなる。
そしてなぜか初心だった自分の恋愛と紐づけてしまう。
途中で変な奴も出てきて話がわけわかんなくなるのもエピソードとして秀逸。
ジャック・ホールデン(ウィリアム・ホールデンをモチーフにしてますね)が、中々のマッチョナルシシストで、ただただてめえの昔話を語って、アラナの事を急に君はグレース・ケリーだとか抜かして、危険なバイクスタントをさせようとする姿。
結局コケたくせに急にテンション上がって「お~し飲み直そうぜみんな!」とか言っちゃうキャラクター最高ですよw
この後にも「スター誕生」のプロデューサーで、主演を演じたバーブラ・ストライサンドと付き合っていたジョン・ピーターズ(なぜか実名w)の家にウォーターベッドを届けるシーンでは、ゲイリーを捕まえては
「俺の彼女知ってるか?バーブラ」
「はい、ストライザンド」
「違う、ストライサンド」
「はい、ストライザンド」
「もう一度 ストライサンド」
「ええ ストライザンド」
と、名前を言えないから何度でも修正させる件を、そこそこ時間かけて見せるシーンは、あまりのくどさに噴出してしまったし、なぜか急に脅されたので腹いせに部屋を水浸しにして帰るゲイリー達が笑って興奮してたら前からジョンが歩いてやってきて「ガソリン入れに行くぞ!」と勝手にトラックに乗り込んできた時の焦り具合。
さらにはオイルショックで行列の絶えないガソリンスタンドに乱入して、注入口を持ちながらライターに火をつけて「俺に先にガソリンを入れさせろ」と脅すとんでもないぶっ壊れ野郎な姿も大爆笑。
こんな奴らに挟まれながら、二人はつかず離れずの恋を繰り広げていくんですね。
あくまで著名な人たちが出てくるのは、ロサンゼルスに近い町ってことやゲイリーが子役ってことでVIP専用のお店を使ってたりってのもあったのではと。
最後に
まだまだ語りたいことがあるんですけどこの辺で。
とにかくゲイリーとアラナのパンチドランクなラブをただただみていくだけなんだけど、彼らのつかず離れずな恋模様を、PTAが最高密度の演出で後押ししてくれるから最高なんですよ。
ニーナ・シモンの曲で始まって、チャック・ベリーで挟んで、ポール・マッカートニー&ウィングスでときめかせて、極めつけはデヴィッド・ボウイの「Life on Mars?」で泣かせに来るんだよバカ野郎!!
泣くよあれは!!
あんな神々しい光と共に二人がぐっと縮まっていく姿見せられたら!!
あとはね、とにかく走るんですよ二人が。
何のために走るかって?自分のためでもあるけれど、誰かのためでも走るんですよ。
それを横移動で撮影して見せるんです。
なんて映画的な見せ方なんだろうと。
最近じゃ近いとこからしか映さなかったりするじゃないですか。
PTAは違うんですよ。
遠くから見せるんです。
あ~映画だなぁって思った瞬間でした。
ちなみになぜハイムの三女を起用したかというと、監督が彼女たちのPVを監督したってのが理由なんですけど、どうやら彼女たちのお母さんがPTAの学生時代の先生だったからだそうです。
縁て面白いですね!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆☆★★8/10