麻希のいる世界
その年のベストテンに入れたほど「さよならくちびる」という映画が大好きな僕。
インディーズデュオのハルレオの解散ツアーを描くこの映画は、女二人と男一人の複雑な関係性を描いた音楽映画でした。
さよならくちびるという歌の歌詞に魅了された僕は、この映画の本質をちゃんと見抜けていなかったのかもしれないけど、「歌」というモノがどういうモノなのかと、他者への思いが重なった、至福の作品だったなぁと。
この作品の劇中でハルレオの追っかけファンを演じていた2人の女子高生がいたのですが、今回監督が彼女たちを主演にした作品を鑑賞いたしました。
当初はさよならくちびるのスピンオフなのかなと思いましたが、どうやら全く別の話の模様。
役名は一緒だけど世界線は違うと。
しかもバンド組むとか、音楽が向井秀徳がやるとか、中々興味のそそる案件。
早速観賞してまいりました!!
あらすじ
重い持病を抱え、ただ“生きていること”だけを求められて生きてきた高校2年生の由希(新谷ゆづみ)は、ある日、海岸で麻希(日髙麻鈴)という同年代の少女と運命的に出会う。
男がらみの悪い噂に包まれた麻希は周囲に疎まれ、嫌われていたが、世間のすべてを敵に回しても構わないというその勝気なふるまいは由希にとっての生きるよすがとなり、ふたりはいつしか行動を共にする。
ふと口ずさんだ麻希の美しい歌声に、由希はその声で世界を見返すべくバンドの結成を試みる。
一方で由希を秘かに慕う軽音部の祐介(窪塚愛流)は、由希を麻希から引き離そうとやっきになるが、結局は彼女たちの音楽作りに荷担する。
彼女たちの音楽は果たして世界に響かんとする。
しかし由希、麻希、祐介、それぞれの関係、それぞれの想いが交錯し、惹かれて近づくほどに、その関係性は脆く崩れ去る予感を高まらせ──。(HPより抜粋)
感想
#麻希のいる世界 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年1月29日
麻希とは関わりたくない。
でもそれは俺の意見で、由希にとっちゃ彼女こそ人生なんだろう。
しかし窪塚Jr.は語尾の言い回しやら怒鳴り声がお父さんそっくりだなw
しかも親父役が井浦新って最高なんだけど。 pic.twitter.com/GPihPSOfuw
彼女にとって、麻希こそ全て。
「さよならくちびる」が終わりに向かう作品ならば、本作は始まりに向かって進む映画かなぁと。
以下、ネタバレします。
どいつもこいつもクレイジーだよ。
重い病を抱えながら孤独に暮らす女子高生・由希と、周囲をひっかきまわす問題児・麻希、そして由希に想いを寄せながらも家庭の事情と麻希との関係が歪ながらもまっすぐな純情を孕ませた本作。
いつ死んでもおかしくない由希が、周りの目も気にせず奔放に生きる麻希に羨望の眼差しを向ける姿は、恋にも似た感情であり恋とは違う感情でもあり、仮に度を超えた行動をしてもどこか微笑ましいし、何より麻希に出会う前までの由希と、麻希に出会ってからの由希の表情がまるで違うことに、ただ「生きる」のと、「誰かを思いながら生きる」のとでは雲泥の差があるのだなぁと、若い彼女たちを通じて教えられた感覚を覚えました。
由希は「過剰なストレスによって死を招く危険性のある」病を抱えており、入院生活を1年送っていることから、学校に復帰しても当時のクラスメートは誰一人おらずひとりぼっちな生活を送っていたのでしょう。
しかも病の事もあり、何事も起きないよう他者と距離を取っている。
物思いに更けて海辺を歩くと小屋から出てきた麻希を見て、彼女の中で何か蠢くものがあったのでしょうか。
勝手に彼女をストーキングしだし、しれっと仲良くなっていく冒頭のシーンは、無言でありながら物語を容易に読み取ることができる映画らしいシーンだったように思えます。
麻希もまたなぜ彼女を受け止めたのか。
性犯罪によって前科のある父親を持ったことから、彼女の人生も波瀾万丈だったのでしょう。
何かをすれば災いが起こる。
周りから白い目で見られる。
もうそんな世界しかないのなら好きに生きよう。
どうせ世界は変わらないのだから。
だけど、由希に出会ってちょっとだけ世界が変わったのかもしれない。
死んだように生きているこの世界を、もしかしたら抜け出すことができるかもしれない。
由希に引っ張られるようにバンドを始め、この腐った場所からおさらば出来る道=東京への切符を手に入れられるかもしれない。
あくまで僕の妄想であり、これまた本質を見れていないのかもしれないけど、2人のやり取りや行動から、そんな関係性を感じました。
しかしだ。
幾ら女子高生といえども、中々クレイジーなことしてやしないかい?
麻希は麻希で、あらゆる男を手玉に取り体を重ねるビッチで、軽音部の生徒4人と同時に付き合い、一人の生徒を自殺未遂にまで追い込んだ小悪魔。
いや魔性の女ですな。
由希が引っ張って軽音部に入部できたのに、定例ライブに平気でバックレたり、ボウリング場でナンパしてきた男たちとも海辺で普通に体を重ねる。
由希も由希で、そんな麻希と同じことをしようと試みる。
そもそも彼女が働いてるバイト先に応募して一緒に居たいってどういう衝動からくるのか。
定例ライブをバックレられたせいで、生徒の前で一人下手くそなベースを弾く羽目になり大恥をかいたはずなのに、麻希を一切責めようとしない態度。
ナンパした男たちについていくのも一体どういう神経をしているのか理解できない。
麻希がいなくなってもだ。
最近の若者はSNSに釘付けのあまり、LINE電話を無言のまま通話状態にしてお互いの日常を過ごすなんてのを聞いたことがある。
無料だからというのもあるが、一体何のために用もないのに通話状態にしてるのか。
たまに鳴る生活音を聞くだけで安心するらしい。
受験勉強をしていても通話状態らしい。
たまに出てしまう独り言も、ただ聞くだけ。
おじさんは理解できませんw
とはいえ、コロナ禍の今、誰かと会うことが容易ではなくなった時代を迎えたことで、こういうコミュニケーションの仕方はもはや当たり前なのかもしれない。
とにかく「繋がりたい」世代の彼女たちにとって、誰かと共に行動することは、自分を押し殺してでも「生きる上で必要なこと」なんでしょう。
まして由希はこれまで「ただ生きる」だけの生活だったわけで、麻希もまたある種の「ただ生きる」だけに過ぎない生活だったわけで。
ただ物語はもう一人の人物・祐介によって、複雑なモノになっていくんですね。
軽音部の部長で、学年の人気者。
由希に想いを寄せているんですが、それが原因で由希は周囲から疎まれているという設定。
さらにややこしいのは、由希の主治医が彼の父であり、彼の父親は由希の母親と再婚を考えているという。
「思い、思われ、ふり、ふられ」の浜辺美波と北村匠海ですよ。
もっとややこしいのは、麻希とかつて付き合っていたという・・・。
彼女とは縁を切り、今は由希へ思いを寄せるわけですが、由希は麻希に夢中なわけで、彼女の他の身なら一緒にバンド活動をしてもいいと。
それもこれも全部由希を振り向かせるため。
これもこれも非常に厄介で、振り向かせるためには何をしても良いと思っているところ。
よく言えば「由希のいる世界」に彼も居たいというわけですよ。
こっちとしてはですね、さよならくちびるのように、一方通行の思いによって気持ちの整理がつかないし、一緒にいても辛いだけだからバラバラになろうって話なんですけど、こっちはまぁ大人ですよ。色々割り切って現状維持を選択するんです。
でも本作は、若いからなのか、柔軟な選択ができないのか、周りが全く見えないのか、とにかく未熟なんですよ。
その選択以外彼らの中では「あり得ない」ことになってるんですよ。
それが見ていて非常に苦しい。
苦しいけど、それがあの世代のリアルだったりするんだよなぁ。
最後に
もう何が言いたいって、観衆の視点だとかもはやどうでもいい映画だったと思うんですよ。
悪く言えば監督のエゴ。
よく言えば、スクリーンの向こう側でどんどん不幸な目に遭っていく3人だけど、実は彼らにとってはあんなの痛くもかゆくもなくて、思いを寄せる相手の世界に触れられるだけで「生きる」ことができるという現実こそリアルだと。
そこに俺みたいな何言っても敵わない、寄せ付けてくれない映画だったなぁと。
なんでもかんでも感情移入させることで評価を得てる作品ばかりが目立つ世の中で、こういうある種の「突き放す」かのような映画って稀有だなぁと。
衝動に駆られることが減ってしまっている自分だけに、本作は彼女たちの目力も内容も眩しかった気はします。
好きか嫌いか、もう一度見たいかとかは置いといて。
しかし窪塚洋介の息子愛流くん。
親父の声とそっくりですね!
特に語尾の言い方。
劇中では基本怒鳴ってばかりで抑揚もねえし、文節というか変なとこで息継ぎしちゃってめっちゃ棒演技なんだけど、でも親父さんのDNAを感じられただけで満足。
あの年で妙な色気あるし、早く化けてほしいなぁ。
まぁあれです、俺こういう映画は向いてないw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10