まともじゃないのは君も一緒
僕は子供の頃から食卓や給食でホワイトシチューの時にはパンが出ていたせいで、自然とホワイトシチューと白米を一緒に食べる人は普通じゃないと思い込んでいました。
だからホワイトシチューと白米を一つのお皿によそってカレーの如く食べている人が信じられず、相手に「ホワイトシチューとご飯一緒に食べるっておかしいでしょ、普通一緒に食べないでしょ」
なんてことを、若かりし頃に指摘したことがあります。
このように自分が「普通」だと思っていたことが、じつは「普通」じゃないことが、大人になり社会に出ると多々増えてきます。
広く通用すること=普通。
じゃあ広くってどこまでのことを指すのか。
非常に曖昧で個人差が大きく生じる言葉。
しかも厄介なのは「普通」が正しいと思い込んでしまっていること。
多様性が重んじられる現在。
「普通」って言葉、無くなったらいいのでは?とさえ思ってしまいます。
今回鑑賞する映画は、「普通って何だろう?」と模索する男女の「全くかみ合わない」ラブストーリー。
旬の俳優と女優が主演だからといって「このコンビなら映画ファンは普通見るっしょ!」なんて煽らないように心がけつつ、早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「婚前特急」や「セーラー服と機関銃ー卒業ー」の前田弘二監督と、「そこののみにて光輝く」の脚本家高田亮のタッグで製作されたオリジナルストーリー。
数学一筋でコミュ障の男と、知識ばかりで恋愛経験ゼロの女との「全くかみ合わない」会話を中心に描く、普通(まとも)じゃないラブストーリー。
誰もが抱く「普通とはなんだ?」という気持ちを二人が追及していくとともに、かみ合わない会話を独特なテンポでコミカルに描く。
今をときめく旬の俳優に、話題のイラストレーター、2021年注目のアーティストが楽曲提供するなど、オリジナルストーリーが製作しにくい中、魅力あるキャスト、製作陣が集った。
普通に無関心な人も、普通であろうと頑張る人も、彼らと一緒に「普通とは何か」を考えるきっかけになる作品です。
あらすじ
外見は良いが、数学一筋で〈コミュニケーション能力ゼロ〉の予備校講師・大野(成田凌)。
彼は普通の結婚を夢見るが、普通がなんだかわからない。
その前に現れたのが、自分は恋愛上級者と思い込む、実は〈恋愛経験ゼロ〉の香住(清原果耶)。
全く気が合わない二人だったが、共通点はどちらも恋愛力ゼロで、どこか普通じゃない、というところ。
そして香住は普通の恋愛に憧れる大野に「もうちょっと普通に会話できたらモテるよ」と、あれやこれやと恋愛指南をすることに。
香住の思いつきのアドバイスを、大野は信じて行動する。
香住はその姿に、ある作戦を思いつく。
大野を利用して、憧れの存在である宮本(小泉孝太郎)の婚約者・美奈子(泉里香)にアプローチさせ、破局させようというのだ。
絶対にうまくいくはずがないと思っていたが、予想に反して、少しずつ成長し普通の会話ができるようになっていく大野の姿に、不思議な感情を抱く香住。
ある時、マイペースにことを進める大野と衝突した香住は「もうやめよう」と言い出す。
すると大野は「今変わらないと、一生変われない。僕には君が必要なんだ!」と香住に素直な気持ちを伝える。
初めて誰かに必要とされた香住は、そんな大野の言葉に驚き、何か心に響くものがあり、初めての感情に「これって何!?」と悩み始める。
二人の心がかすかに揺らぎ始めた時、事態は思わぬ方向へと動き出す。
二人が見つけた《普通》の答えとは?(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、前田弘二。
恋愛を謳歌していたOLが5人の彼氏の中から本当の相手を探す恋愛コメディ映画「婚前特急」の監督さんであります。
この映画の吉高由里子が非常にハマっておりましてw
まだブレイクする前のハマケンこと浜野謙太も出演しているとあって、是非見てほしい作品です。
監督はこの映画がデビュー作。
モンキー的に本作はこのテイストでいってくれたら…と期待しております。
監督は本作について、自主映画時代にやったノリで再び製作したい気持ちと、まったく新しい面白さを追求したいと語っています。
また、「婚前特急」でも脚本を手掛けた高田亮都のタッグである本作は、整合性のない二人の面白さに「かみ合わない」要素を加え、さらに「普通」でいることの滑稽さをプラスしたことで、秀逸なコメディ映画として完成されたそう。
どんな笑いどころがあるのか楽しみです。
キャスト
外見は良いが、数学一筋でコミュニケーション能力ゼロの男、大野康臣を演じるのは成田凌。
在京スポーツ紙7社の映画担当記者によって選出される「第63回ブルーリボン賞」。
「糸」、「スマホを落としただけなのに2」、「窮鼠はチーズの夢を見る」で見事助演男優賞を受賞されました。
僕は「スマホ~」しか鑑賞してませんでしたが、作品の中身は置いといて前作から豹変したサイコパスぶりを再び見せてくれましたね。
クズっぷりが様になるイケメンを演じる時もあれば、本作のように非モテ男子も演じることができる。
対照的な人物を演じる引出しがあるという意味では、最近の役者の中では稀有な存在だと僕は思います。
基本的には「真面目でいい人」に見えますが、たまぁ~に発言とか危なっかしいときがあるし、無名時代はやんちゃだったような話もチラホラ耳にするので、とりあえずボロが出ないように祈っています…w
彼に関してはこちらもどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
自分は恋愛上級者と思い込む、実は〈恋愛経験ゼロ〉の女、秋本香住役に、「宇宙でいちばん明るい屋根」、「3月のライオン」の清原果耶。
大野が一発逆転を狙う高嶺の花、戸川美奈子役に、「春待つ僕ら」、「記憶屋 あなたを忘れない」の泉里香。
香住が憧れる青年実業家、宮本功役に、「交渉人 真下正義」、「七つの会議」の小泉孝太郎。
香住の同級生、君島彩夏役に、「劇場版コードブルー」、「今日も嫌がらせ弁当」の山谷花純。
彩夏の彼氏、柳雄介役に、「夏、至るころ」、「樹海村」の倉悠貴などが出演します。
誰もが「まとも」で「普通」と思いがちな部分を、本作ではどうイジってくるのでしょうか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
台詞の応酬がすげえ!
「普通」に翻弄されることのバカバカしさを笑え!
以下、ネタバレします。
「普通」ほど曖昧なものはない
普通の恋愛が分からない数学の予備校講師と、普通を解ったつもりでいる女子高生が共犯となって青年実業家を嵌めようと画策するも事態が思わぬ方向へ進んでいく姿を、気の抜けた音楽に乗せて放たれる機関銃のようなかみ合わない会話によって、ホンワカにユーモラスな空気で包み込みながら、如何に我々が「普通」という概念いしがみ付き翻弄されてしまっているかを突き付けると共に、「普通」でないことが「異常」ではないこともしっかり教えてくれる、一風変わったラブストーリーでございました。
冒頭でも語った通り、僕らはいつの間にか「普通」いう名の抽象的で誰が言ったかわからない見えない何かに惑わされ、自分自身を切り捨てて生きてしまっているわけです。
気が付けば身近にいる人たちが口をそろえて言う「普通」に流され、本当のことを言えずに共感するしかない空気に汚染され「普通」に成り下がってしまっている。
果たしてそんな自己を放棄してまで協調性を保たなくてはいけないほど、この世界で生きていくのに「普通」でなくてはいけないのか!
否!
そんな生活はとても苦しい。
ホワイトシチューをご飯にかけたっていいじゃないか。
変と思われるかもしれない、いや逆にそう思ってる奴がヘンなのかもしれない。
答えはどちらでもいいのだ。
なるほど、そういう食べ方もあるんだね、
え?やったことないの?それはもったいない今度試してみたら?
と言えるような相手を尊重したうえで成立する関係性こそが「普通」だ!
そう言える世の中が「普通」なのだ!と願いたいものです。
本作はそんな誰しもが知らずに流されている「普通」を壊して本当の自分を見つけようと模索する2人の、なんとももどかしいやり取りが最高に可愛く可笑しく、そして切なくもある「ヘン」な映画でもありました(褒め言葉です)
何がややこしいって、もちろん二人の平行線をたどってばかりの会話ばかりが続くんですが、思いを寄せる実業家と恋人との婚約を破棄させようと、詰め込み型教育の餌食になったせいで一般教養や一般常識、ステレオタイプな価値観総じて「普通」がまるでわかってない予備校講師に、恋愛経験などロクに無い女子高生が、学校というコミュニティやらTVドラマだかネットの情報で吸収した様なしょうもない雑学や情報、そして脅威のストーキング能力で調べ上げた標的の行動範囲を駆使して、具体的な作戦を立て予備校講師をモノホンの「普通」のイケメンに育て上げていくわけですが、面と向かって「君が必要なんだ」という言葉に恋愛経験ゼロの彼女が逆に彼のことを好きになってしまうからさぁ大変!!という非常にややこしい恋愛ゴタゴタ劇に発展してしまうわけです!!
・・・ゼェゼェ・・・ハァハァ・・・
何がややこしいって俺の説明かw
そもそも40手前(おそらく)の青年実業家に恋してしまう女子高生ってのも普通じゃない(こら!そういうとこだぞ!)ですが、数学ばかりに現を抜かして「おくら」も「いくら」も「天ぷら」さえも今まで認識してこなかった予備校講師も「普通」じゃねえ(こら!そういうとこだぞ!)!
しかし!
ご飯に行こうと誘われ馴染みの定食屋に連れていくことの何がおかしいのか。
お皿を買うのに思ったことをそのまま言って何が悪いのか。
女子生徒の間でまことしやかに愚痴の標的になっている生徒に面と向かって質問して何が悪いのか。
もちろん程度はあれど、「普通」に縛られることなんてないのだ。
そして「普通」でいなくてはいけないことから解放された彼女も、「普通」を演じることに疲れて元の自分を貫くのも、「普通」でいるからこそ保てる自分もどれも悪くないのだ。
どれも正解なのだ。
「普通」はもしかしたら妥協かもしれない。
「普通」はもしかしたら「悪」かもしれない。
でも、もし色んな虫の声が聞こえる森の一部になって「存在」できる、違和感を持たずに佇むことができたなら、もう「普通」に惑わされないだろうし、「普通」になることの妥協も「普通」でいなくてはいけないことへの罪悪感も消え失せることでしょう。
そんな森に早くなってくれたらいいよねっていう話。
・・・結局俺は何が言いたいのかw
またこういう世の中にしたいと言っておきながら、具体的な案を全く言わずに流れに任せて小銭を稼いでる実業家こそ本作を見て反省をしてほしい!と言っているようにも聞こえる映画だったと思えます。
セリフの応酬がとにかくすごい!
とまぁ、「まともじゃないのは君も一緒」ってのは結局のところ「お前は異常だ」という解釈ではない作品だったと思うんですけど、全体を抽象的でしか把握できない映画でもあったんですよ。
なんでかってとにかく「セリフ」が多い!
例として予備校講師の大野と女子高生の秋本さんの掛け合いを書き起こしてみますと。
予備校にて。
「なんで機嫌悪いの?」
「先生には関係ないでしょ、学校の先生なら人生について話したりするけど、予備校の先生なら勉強だけ教えてればいいんじゃない?」
「なんで機嫌が悪いの?あ、その、女性特有の・・アレか・・・」
「あのさ、先生、女の子に普通そういうこと言わないから!」
「なんで機嫌が悪いの?って?」
「その次!」
「その次って?」
「繰り返さない!」
「あ、ああ生理の事か…」
「・・・今日は違うから!」
「じゃ授業始めようか」
「あんた人の心が無いわけ!?」
「いや今勉強だけ教えれば…」
「人と人!気持ちで会話しないと成長できないよ!」
「成長?」
「・・・先生、そのままじゃ一生結婚できないよ」
「え…?」
これを独特のテンポでゆったり話す時もあれば早口で喋るという軽妙でありながらなかなか話を追うのが難しいやりとりでもあります。
さらにおうむ返しをしがちなのに加え、デリカシーが無さ過ぎてなんでも口にしてしまう大野、普通を押し付けてしまいがちで会話のキャッチボール以前に自分の感情を押し付けがちな秋本さんのキャラクター像もしっかり出ているのが素晴らしいのです。
さらに!
もっと早口なのが。
「先生は普通以下!だから私の言うことを聞いて」
「普通以下・・」
「え?普通がわからないから普通を教えてほしいって言ったの誰だっけ?
」
「ヤンーミルズ方程式と質量ギャップ問題わかる?友愛数は無限に存在する?ヒルベルトの第12問題は?」
「全然分かんないけど?それが何か?」
「まだ誰にも解かれていない問題だよ」
「何が言いたいの?」
「ひとつのことがわからないからって、普通以下って判断するのもどうかと思う。世の中にはわからないことがたくさんあるし、君の知らないこと僕の知ってる事たくさんあるんだから」
「・・・え、怒ってるの?」
恐らく10秒足らずのやりとりです。
ここでは大野が屁理屈でめんどくさい奴でスイッチが入るととにかく早口でまくしたてる姿が描かれていて、それまで主導権を握っていた秋本さんが圧倒されてしまう関係性が映し出されています。
このように、ガッチガチの会話劇でもあるんですが、言葉を全部は愛くしていなくても、この2人が一体どういう性格なのかだけ把握しておけばその後の展開もすんなり入る優しさが含まれている素晴らしい脚本だったと思います。
これ以外にも本作は二人が歩くシーンが印象的です。
宮本の婚約者・美奈子の友人が道楽で開いてる食器店に赴いて仲良くなろうという作戦に見事失敗した帰り道では、二人が肩を並べて言い合う場面だったり、大野があまりにもポンコツ過ぎて嫌気がさし、彼の普通の結婚計画を取りやめようと話し出すシーンでは、とにかく早歩きで前ばかり見て話す二人だったんですが、さっさと歩く秋本さんの前に出て制止し「僕には君が必要なんだ!」と大きな声で言い出す大野という場面。
さらには美奈子と接触するために訪れた小料理屋の帰り道に、風の音を聞きながら夜の散歩を楽しむ2人といったシーンなど、とにかく歩いて会話するシーンが出てきます。
これらを通じて感じたのは、大野って屁理屈で拗らせてばかりの男なのに、ちゃんと女性の歩幅に合わせて歩いていることなんですよね。
美奈子の本質はわかりませんが、秋本さんは大野や同級生の君島さんたちとの会話のやりとりから、どこか自分のペースでしかやり取りができない性格なのかなと想像できます。
だから大野と歩いてる時も恐らく大野に合わせて歩いてるのではなく、自分のペースで歩いているというか。
それに対して大野はしっかり相手を見て歩いてるんですよね。
これって彼面倒なタイプで全然女性とうまく会話できないけど、優しさはしっかり持ち合わせてるんですよ。
これまでの大野と比べると、美奈子とうまく関係を向上させたいと急に気持ち切り替えた時に自然と会話できるのとか、それが苦痛でないと感じさせる美奈子への配慮ってなかなかできないというか。
映画的にそこ端折ってるから不自然になりがちなんですけど、こういう所作から紐解いてみると、大野って無駄にイケメンじゃなくて、ちゃんとイケメンだったと思うんです。
変な笑い方は治ってないけどw
最後に
正直、泉里香目当てで挑んだ映画だったんですけども、なかなか面白い映画でございましたw
もちろん僕は、里香さんと一緒に隣の席で「これは何ですか?」って食ったことある食べ物を、さも知らないふりして質問攻めして、「何この子、かわいい♡」って思われたいなぁ…と妄想しながら見てましたし、「ごめんなさい!僕あの食べ物全部知ってました!嘘ついてごめんなさい!」と白状した後、「私は今日会って、明日も会いたいなって思える人がいいです」って言われたらいいなぁ~と目ん玉ハートにして見てました。
てか俺だったら、宮本ぶっ飛ばして俺と付き合ってください!っていっちゃいますけどねw
秋本さんとの関係を隠してww
とりあえず小泉孝太郎の胡散臭い実業家って役柄完ぺきだったので、今度是非お兄ちゃんに見立てた役柄もやってください。
「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている。」
うん、完璧でしょうw
とにかく何かを諦めるための口実として「普通」と言ってしまう僕らが、本作に笑いながら教訓にして生きていきましょう。
まともじゃないのは彼らじゃなくて、何年も毎週懲りずにコツコツプライベートと命削ってブログを書いてる俺だって。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10