メイ・ディセンバー ゆれる真実
実在した事件を映画化するパターンはたくさんありますが、「実在した事件を映画化するために取材する女優」って物語、僕は聞いたことありません。
それこそアメリカ映画はなり切る芝居をする「メソッド演技」が主流と呼ばれており、ロバート・デ・ニーロやクリスチャン・ベイル、ダニエル・デイ=ルイスあたりが有名ですが、その代償は大きく、特にダニエル・デイ=ルイスに至っては燃え尽きて役者業引退するとか言ってしまってるほど。
なり切る方が見る側に強い印象を残すのは理解できるとして、俳優も大変だなぁと。
今回観賞する映画は、教師が12歳の少年と不倫をし実刑を受けた後、結婚したというガチの事件が映画化、その主演女優が自ら取材をするという物語。
調べたところによると、ケイト・ブランシェット主演の「あるスキャンダルの覚え書き」は、この事件が元ネタだそう。
あのジュディ・デンチはまぁ~クソババァだったなぁw
本作はあくまで事件そのものではなく、事件後にフォーカスしたお話だそうで、第三者である女優が入ることで、色々透けて見えてくるような物語になってる様子。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「エデンより彼方に」や「キャロル」などで知られるトッド・ヘインズ監督が、家族のいる女性教師が12歳の少年と不倫、後に彼との子を身ごもり獄中出産、そして出所後結婚をしたという通称「メイ・ディセンバー事件」を題材に、映画化のために事件から23年後の2人を取材をする女優という視点を混ぜながら、当事者の揺れる真実をスリリングに描く。
初の長編作品の脚本を担当したサミー・パーチによる「事件への解釈」を基に、監督は当事者たちの本当の気持ちや世間との壁、男性だけが寛容な社会で女性の欲望とは何かをテーマに、幾度もタッグを組んだジュリアン・ムーアと、「ブラック・スワン」での卓越した演技が未だ忘れられないナタリー・ポートマンの競演によって、映し出されていく。
また、渦中の少年だった役には、「サン・イズ・オールソー・ア・スター 引き寄せられる2人」で注目を浴びたチャールズ・メルトンが演じる。
タイトルとなっている「メイ・ディセンバー」とは、親子ほど年の離れたカップルを意味する言葉。
誰もが興味をそそられたスキャンダルを、どのようにして「真実」を炙り出すのか。
本当に純愛によって結ばれたものなのか、それとも、ただ大人が子供を支配し虐待し、洗脳したものなのか。
あなたのモラルを問う。
あらすじ
当時36歳の女性グレイシーはアルバイト先で知り合った13歳の少年と情事に及び実刑となった。
少年との子供を獄中で出産し、刑期を終えてふたりは結婚。
夫婦は周囲に愛され平穏な日々を送っていた。
ところが23年後、事件の映画化が決定し、女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、映画のモデルになったグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)を訪ねる。
彼らと行動を共にし、調査する中で見え隠れする、あの時の真相と、現在の秘められた感情。
そこにある“歪み”はやがてエリザベスをも変えていく……。(HPより抜粋)
感想
#メイ・ディセンバー 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) July 2, 2024
揺れたねー、真実。
事実を基にした映画は多々あるが、果たしてそれは‥的な。
火サス的BGMがまぁ煽る!
「ホットドッグが足りないわ」は今年の流行語大賞で。
製作にウィル・フェレルの名が。#メイディセンバー試写 pic.twitter.com/ssxu82W2tI
2大女優の名演光る作品。
あまりに唐突に入るBGMに、笑っていいのかそのまま煽られていいのかよくわからん。
正直段々真実に興味が失せてったのが、俺の真実。
以下、ネタバレします。
解釈を委ねる。
物語はフィクション。だから僕自身物語にはちゃんとした結末、または「明確な答え」を提示してくれないと、正直気持ちが悪くて嫌なんです。
もちろん答えはあなたが見て思ったことがすべてとか、本作への解釈は好きにしていいとか、ものすごく曖昧に終らせるタイプの映画を、見た人同士で議論するのも楽しいことは楽しい。
しかし、そういう人が近くにいない時、どうすりゃいいのさ。
このモヤモヤした気持ち、誰にぶつければいいのさ。
え?考察系YouTuberの動画見て解決しろって?
俺らみたいな映画ブロガーの解説を読めって?
そういうことじゃねえんだよなぁ。
それじゃ議論できないわけよ。
だからこの手の映画は、一人で断定しながら感想挙げるの、凄く嫌なんですね。
まぁあれだ、つまりは単純に自分が思ったことに自信がない、というか考えるのめんどくさい、そういうことですw
これは好みの問題で、本作はそういうのが好きな人はすごく向いてる作品なんだと思います。
エリザベスの言うことを鵜呑みにするもよし、彼女によって色々暴かれたけど、グレイシーはジョーと純愛だったんだと思うもよし。
いやいや、あれだけ涙を浮かべたりしたジョーこそ、一番真実を語っていた、もよし。
色々な意見が飛び交う作品だったんじゃないですかね。
そんな中俺がする解釈ですが、正直どうでもいいですw
この後語りますけど、なんつうかどっちもどっちというか。
グレイシーみたいな女性が自分の居場所を作るために必死な所は同情しますし、それでもあなたのやったことは倫理的に軽蔑するしで、結局全体的にはあまり近づきたくないし、仲良くするのも怖いというか。
逆にエリザベスに至っては、この女優が出演してる映画がどれだけ凄いのかってのが劇中では具体的に語られてないわけですよ。
TV映画に出演しててそれ自体本人はあまり見てほしくない様子でしたけど、所詮その程度の女優さんなんですよ。
ハリウッドでバリバリ出演作品があるわけでもない、知る人ぞ知る女優。
そんな彼女が製作に名を連ねてるもんだから、気合が入りまくり。
自分の代表作にしたい、そんな気持ちでグレイシーに直接取材を兼ねて役作りをすると。
見る映画全部制作秘話をチェックするほど暇じゃないし、作品そのものにしか興味がない俺にとって、裏側を知って作品への愛が薄れたことはないんですが、果たして「メイディセンバー」のような取材があったという事実を知った状態で、グレイシーを演じたエリザベスの映画を見たら、俺はどんな気分になるんだろうなと。
まぁ嫌いになるんだろなw
それくらい、エリザベスのしたことが気味悪くて不快でした。
メソッドだか何だか知らねえが、他人の家に入り込んできて、かき回すようなことはしてはいかんのですよ。
彼女がいなければ、心ここにあらずなジョーだって、もしかしたらあんな気持ちにならなかったのかもしれないし、もっといいタイミングで決別をできたかもしれない。
ようやく手に入れた平穏を、エリザベスが蒸し返したのではないか?と思うと段々腹立ってきたw
あれ、俺グレイシー擁護になってる?
いやいや、グレイシーだけにグレイですよ彼女だって。
なんですか、あのパイナップルケーキ。みんな同情で頼んでたんじゃない。
無邪気だからってなんでもかんでも自分の手中に収めようとする狡猾さは、さすがに擁護できないですって。
ジョーに「あなた誘惑したじゃない?」とか言ってましたけど、仮にそれが本当だとして、ちゃんとたしなめるのが大人ってもんなんじゃないんですか?
そういうのはフィクションとかAVの世界だけにしてくださいよw
あとね、これはもう「それを言ったらきりがない」になりますけど、年上なのが女性だからまだ見れたものの、これ男性が年上だったら世間のバッシングはとんでもないですからね。
刑だって相当重いでしょうし、万が一出所して結婚なんてしたらあんな平穏な生活できっこないんですから。
ずっと前から思ってましたけど、高橋ジョージと三船美佳は、遅かれ早かれ別れる結末だったんですよ。
この映画がそれを理解させてくれてますw
余計なお世話かw
俺なりに解説。
実際に起きた事件、またはスキャンダルを映画化させてください、そのために取材させてください。
そんな経緯によって実現した、グレイシー家への取材。
冒頭でも書いた通り、メソッド演技において綿密な取材や情報収集、鳴り切るための下準備はかかせないわけですが、劇中のエリザベス、そこまでする必要ある?ってくらい、下世話根性で色んな人に取材かますんですわ。
グレイシーの元夫、彼女とジョーが働いていたペットショップの店長、グレイシーの弁護士、その店で働いていたグレイシーの息子などなど、どう考えても「演技のための取材」の域を超えてます。
そこまでして果たして演技が抜群によくなるんだろうかと。
結局エリザベスはジョーとエッチするまで行ってしまうんですから、まぁ怖い。
劇中ではグレイシーが身に纏っている服に寄せてきたり、ヘアスタイルまでまねたり、終いにはメイク術を教わるまでに至ります。
するとどうでしょう、鏡越しで並ぶ二人が瓜二つに見えてくるではありませんか。
ここで、グレイシーの事をすべて理解したエリザベスという構図に見えてきますが、実際はそうでもないぞ?というような流れになっていくのが本作の面白いところ。
一見、取材を重ねた結果グレイシーとジョーは純愛じゃねえぞ?完全に権力を持ったグレイシーによる搾取だぞ?という空気にさせておいて、グレイシーになり切ったエリザベス自体がヤバく見えてくるっていう。
そのマックスがジョーとの絡みなんじゃないのかなと。
そして、ジョーがエリザベスとベッドで添い寝した時に、つい「物語が」と発言したことから、ジョーがブチ切れて帰宅したシーン。
そこから紐解かれるのは、様々な媒体が、こぞって事件を「物語やドラマ」のように記事を書き上げ、それに注目する世間が「観たい展開」に執着していく。
そんな構図が生きてるうちに幾度となく溢れてたことを思い返すと、自分も含め、人の人生を何だと思ってるんだろうと思わされます。
最近で言えば「ミッシング」でも似たような感覚になったわけで、なんでもかんでもメディアはドラマに仕立て上げ過ぎじゃないですかね。
事実自体が面白いんだよ、そんな台詞が刺さりましたが、本作もまた「事実自体が面白い」からこそエリザベスは着目し、映画にしようと目論んだわけで、それが果たして正しく伝えるためという名目であれ、再び世間から注目を浴びることになるのですから、グレイシーも一体何を考えてるのかわかったもんじゃありません。
恐らくジョーの心境の変化に気付いてたから、映画化に協力したのかもしれないですけど、その辺は映画の中では読み解くのは難しかったですかね。
さてさて、本作はとにかくBGMがサスペンスチックな音楽で構成されてました。
火曜サスペンス劇場のような不快感と緊張感のあるメロディで、物語の中でここぞ問う時に流れるんですが、なぜかここぞという時でない時も使われる、非常に不思議な音楽の使い方をしておりました。
特にオープニング、庭でジョーがグリルでソーセージを焼いてる時に、エリザンスが訪問するんですが、その直前、グレイシーが冷蔵庫を開けるとこの音楽が鳴るんです。
こっちは何か冷蔵庫にヤバいモノでもあるのかと思うんですが、その時に彼女が発するセリフが「ホットドッグが足りないわ」でした。
は?www
思わず笑ってしまいそうになったんですが、客席からは誰一人笑い声が聞こえません。
多分笑いたいけど、笑ったらいけないんだろうという勝手な同調圧力が生まれていたのだと推測しますw
やはり俺も周りを意識したせいで、声を出して笑うことができなかったんですが、出来る事なら笑いたかったですw
このように、このシーンでその音って変じゃない?ってのが何発も訪れるんですよ、この映画。
意図的にやってるんでしょうけど、見てるこっちはどうリアクションしていいか複雑で困ってしまいましたね。
あと、思ったところで言うと、ジョーが育てていた蝶が、蛹から蝶へと成長していく過程、そしてジョーとグレイシーの間に生まれた双子の2人が、高校を卒業して大学へ進学する=親元を離れるという流れが、ジョーもまたグレイシーと別れを告げ、別の人生を歩もうと思考を巡らせていくのとリンクしていた部分ですかね。
絶滅しそうな類の蝶の卵を見つけ、仲間と情報を共有しながら丁寧に飼育し、ようやく蝶にまで育て上げたというのと、それを献身的に飼育したジョーもまた、自分自身がずっと押し殺してきたモノから解放され、決心へと向かっていく過程を同時進行していく見せ方は良かったですね。
要は蝶を育てる描写がメタファーのような使い方になってるのかと。
最後に
他にも、学校に訪れたエリザベスが生徒の前で「セックスシーン」について言及したシーン。
リハーサルでどう動くかが決まっているわけですから、そこは「こう来たらこう」というような機械ような取り組み方で動くわけだけど、時として相手と心がシンクロする瞬間はあり、それが演技を超えた感情が芽生える時があると。
実際役者同士でそういう感情になるのはあるのだと思いますが、本作ではそれによってエリザベスがなぜグレイシーに取材をするのかということろにもつながるし、グレイシーとジョーの関係にも言及した発言にも聞こえてくるんですよね。
そこでも悪役を演じる際の発言によって、同席したグレイシーの娘が不機嫌になっていくあたりは、デリカシーのない奴だなと思うし、何よりその後の展開でエリザベスをあまり信じられなくなる要因にも繋がってくるシーンだったように思えます。
またグレイシーの家の近所で街頭演説をしているシーンが挿入されてますが、ああいう演出はロバート・アルトマン作品でもよくあるシーンで、もしかしたら意識したものだったのかもしれません。
それこそバカみたいに同じ音楽使ってシニカルさやブラックユーモアをぶち込んでくるのも、アルトマンぽいなと。
しかしケーキを知り合いに売って、夫はほとんど家にいるような仕事をしているのに、何であんな家に住めるのか、それ以上に3人の子供を養えるのか不思議でしょうがない。
元家族たちと近所に住んでるのも援助があるからだったりするのだろうか。
それ以上にグレイシーの存在がホントに怖いんだよなぁ。
無邪気ってだけでは済まされない、奥深い闇がありそうで。
だって子供の卒業式の朝に狩りしてんだよ?やばいだろw
エリザベスもまぁやばいですよ。ジョーからもらった手紙を芝居仕立てで朗読したけど、あれって本当に書いてあったことなんだろうか。
グレイシーという役を演じるために、改変してるようにも思えたんですよね。
実際読んでやってるわけではないので。
全体的には、最初で言った通り「解釈を委ねる」系の映画はあまり好みではないので、満足度は低めです。
光量が現代っぽいのに、ショットと音楽がどこか一昔前な感じなのが良かったかな。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10