ミナリ
春先の若草を食べると万病を防ぐということから、1月7日には「七草がゆ」を食べる風習が日本にはあります。
その中でもポピュラーなのが「せり」。
免疫機能を高めたり、貧血予防や解毒作用、茹でて摂取すると抗酸化作用の働きもあるという優れものだそう。
独特な香りのする食べ物ですが、おひたしにするも良し、鍋に入れるもよし、油で炒めるとクセもなくなり食べやすいんだとか。
冬が旬とされているそうなんですが、実は2月から4月にかけてが茎葉が柔らかく食べごろなんだそう。
まさに2度目の旬のほうがおいしいということなんでしょうか。
今回鑑賞する映画は、この韓国語で「せり」というタイトルの作品。
アメリカに移住した韓国人家族の物語です。
2021年の賞レースでも軒並み話題の本作。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
今やオスカーの常連となった映画スタジオ「A24」と、ブラッド・ピットが所有する製作会社「PLAN B」がタッグを組んだ本作。
農業の成功を夢見てアメリカ・アーカンソー州へと移住してきた韓国人家族に、様々な困難と予想もしない事件が降りかかる。
「パラサイト/半地下の家族」がアカデミー賞作品賞を受賞したのが記憶に新しいが、再び韓国人たちが世界を席巻するのではないかと高い注目を浴びている。
「ミナリ」とは、韓国語で「芹」のこと。
しっかり根を張ることで2度目の旬がおいしいことから、子供の幸せのために親が懸命に生きる意味があるそう。
理不尽且つ不条理な運命に倒れてもまた立ち上がる。
小さな家族が、新たな地でどんな希望を見せてくれるのか。
あらすじ
1980年代、農業で成功することを夢みる韓国系移民のジェイコブ(スティーブン・ユァン)は、アメリカはアーカンソー州の高原に、家族と共に引っ越してきた。
荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを見た妻のモニカ(ハン・イェリ)は、いつまでも心は少年の夫の冒険に危険な匂いを感じるが、しっかり者の長女アン(ネイル・ケイト・チョー)と好奇心旺盛な弟のデビッド(アラン・キム)は、新しい土地に希望を見つけていく。
まもなく毒舌で破天荒な祖母も加わり、デビッドと一風変わった絆を結ぶ。
だが、水が干上がり、作物は売れず、追い詰められた一家に、
思いもしない事態が立ち上がる──。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、リー・アイザック・チョン。
今回初めて知る方です。
本作は、監督が在米韓国人2世であることや、アーカンソー州の農場で育ったことから自身の幼少期を映画にしたものだと思います。
実際彼が娘と同じ年の頃の思い出を書き出してみたところ、「両親が激しく口喧嘩していた」ことや、「父のもとで働いていた男性が十字架を引きずって街を歩いた」といった思い出がよみがえり、自分はこういう物語を語り継ぎたいと思ったんだそう。
また監督の父が「大いなる西部」という映画を見てアメリカに憧れたものの、厳しい現実を目の当たりにしたことを覚えており、「農業によるリスクを描く作品があまりないことや、自然の優しい部分と対比して描きたい」という思いがこもっているんだそう。
さらに監督は、新海誠監督の「君の名は。」のハリウッド実写版の監督に抜擢されていることもあり、本作含め要注目のクリエイターであることが窺えます。
キャスト
本作の主人公ジェイこぶを演じるのは。スティーブン・ユァン。
勉強不足ですいません。この方も初めて知る方です。
ソウル生まれのデトロイト育ちだそうです。
テレビシリーズでは「ウォーキング・デッド」のグレン・リー役として注目を浴びたそうです。
映画では、育てた豚を取り戻す少女の姿と社会問題を取り入れたポン・ジュノ監督の「okja/オクジャ」や、作家志望の田舎の青年と幼馴染、彼女が連れてきた声援との不思議な交流を描いた、巨匠イ・チャンドン監督の「バーニング劇場版」では、アメリカ批評家協会から数多くの賞を受賞しています。
他のキャストはこんな感じ。
ジェイコブの妻モニカ役に、「ハナ奇跡の46日間」、「海にかかる霧」のハン・イェリ。
息子デビッド役に、本作で映画デビューのアラン・キム。
娘アン役に、こちらも本作で映画デビューのネイル・ケイト・チョー。
祖母スンジャ役に、「ハウスメイド」、「藁にもすがる獣たち」のユン・ヨジョン。
ポール役に、「アルマゲドン」、「タイタンズを忘れない」のウィル・パットンなどが出演します。
アメリカンドリームを夢見てやってきた移民たちの奮闘ぶりから、どんな思いが沸き上がるのか。
彼らの雑草魂を堪能したいですね。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
おばあちゃんに捧げるバラッド。
移民家族の過酷な開拓ドラマでした。
以下、ネタバレします。
どこかで見たことありそうな話
農業でアメリカンドリームを手に入れようと夢を抱く父の半ば強引な行動により、カリフォルニア州からアーカンソー州へと引っ越してきた韓国人家族の、自由で過酷な物語を、まるで「北の国から」のような何もないところから始める楽しさと辛さや理想と現実をキレイに並べつつ、前半はユーモラスに後半はシリアスとしながらも全体的に淡々と綴っていき、どこでも根を張るミナリ(芹)のように、どんなことが起きても強く逞しく育ってほしいという願いと希望、またアジア系移民の当時の受け入れられ方なども水面下で描いた、アカデミー賞ノミネートに相応しい作品でございました。
見終わった率直な感想としては「こんなものか…」といった、ちょっと期待値を上げ過ぎた故の満足度ではありました。
というのも、物語を通じて何か特別なことが起こるわけでもなく、淡々と家族の日常が描かれてるからです。
だからといって全てが退屈とは思わず、緊張と緩和をもたらした物語構成になっていたり、時にハッとするセリフがあったり、親子や孫と祖母のちょっとした掛け合いが瑞々しく描かれており、自然と自身の家族や祖母に想いを馳せてしまうような、どこにでもいる「普遍的な家族」の姿を見せつけられる点においては、観て良かったと思います。
また「身勝手の親父の夢に付き合わされる家族の姿」や「移民家族が開拓していく物語」という点においては、上にも書いた「北の国から」や過去の西部劇などを思わせる懐かしさを含んでおり、それを白人でもなく黒人でもなくアジア系アメリカ人で描くことでアメリカンドリームの何たるかをアップデートさせた印象があります。
正直既視感のある内容なんですよね・・・。
例えで「北の国から」を挙げてみたんですが、もっとピッタリというか全く一緒だろって映画を観た記憶があるんですけど、どうしてもタイトルが出てこない・・・。
多分洋画で西部劇、邦画でも同じような映画があった気がするんですけど…。
実際監督自身も西部劇をヒントにしたと仰ってることもあって、あながち間違ってない気がするんですよ。
なんだっけなぁ…
家族それぞれの視点が冴えてた
また家族それぞれがこの現状をどう感じているかといった視点も冴えてましたね。
アメリカという慣れない土地でも知恵を使えば韓国人だって成し遂げることができる姿を子供たちに見せたい親父。
しっかりリサーチをしたうえで選んだ土地。
この土ならきっといい韓国野菜ができると夢を抱き、一家でトレーラーハウス生活をすることになるわけです。
とりあえず軌道に乗るまでは「ひよこの雄雌を分ける作業」で生計を立てていく親たち。
カリフォルニア州に居た頃も何とか生計を立てていたんでしょうが、要はそれくらいしか仕事にありつけなかったんでしょう。
韓国でも時代的に民主化運動が盛んな時期だったでしょうから、さぞ辛かったことと思います。
劇中でも「毎年3万人の韓国人がアメリカに移住する」と言っていたように、祖国で生活するよりも自由の国アメリカの方で暮らす方がよっぽどいいんでしょうね。
そんな韓国人に向けたビジネスに目をつけるのも納得です。
しかし地下水が底をついたり、代わりに水道水で賄うことで増える借金など、なかなか思うようにいかない日々が続きます。
上手くいかない時ほど視野が狭くなることってよくあると思うんですけど、ジェイコブが正にドツボにハマったように見えます。
結果家族の事よりも事業で成功することを自然と優先してるんですよね。
土が乾いたことで野菜が育たない時に、他の水脈を探すのではなく、諦めて水道水に頼るんですけど、こういう時って奥さんにまず相談したりとかすると思うんですよ。
ライフラインを使うってものすごく家計を圧迫するわけですから。
なのに自分で勝手に決断して水道水を使ってしまうわけです。
これはいけないなぁなんて勝手に心の中でつぶやいた瞬間でしたねw
さらにジェイコブは、敬虔なクリスチャンであるポールと一緒に農業を進めていくんですけど、このポールがちょっと普通とは違う変人気質な人で。
あまりにも神を信じるあまり急に祈ったり歌ったり感謝しまくったりするんですね。
だからなのか、雇用人として家に招いて食事したいするものの、よそよそしい空気を出したり、煙に巻こうとする姿が見て取れました。
どういう意図なのかはよくわかりませんが、きっとアメリカに来て差別を受けてきたのかもしれません。
だからアメリカ人を心底信用してないようにも見えます。
さらに、奥さんは信心深いキリスト教信者であることに対して、ジェイコブは神を信じてい無い様子。
友達のいない奥さんを気遣って、家族総出で協会に赴くシーンもありましたが、ジェイコブはやはり神を信じてない描写が多々ありましたね。
とにかくジェイコブはこれまで自分自身を一番信じており、誰の力も必要としなかったり、誰も信用していなかったと思います。
そんな彼がたくさんの災難を経験してたどり着いた答えがラストに出ていたように思えます。
逆に奥さんのモニカは、ジェイコブの夢に振り回されてしまい、聞いていたところとは違う場所や家に怒り心頭の様子。
心臓が弱いデビッドのことを気遣って、施設や環境が整っている都心部の方が暮らしやすいと何度も提案するほど、この土地がお嫌いな様子。
劇中でもハリケーン警報が出たり周りに誰もない事など不安で仕方ないわけです。
恐らくモニカは貧しくとも家族が安全で平和な暮らしを望んでいるのでしょう。
だから半年しか経験のない「ひよこの雄雌の仕分け作業」も、もっと上達できるように自宅でも練習していたわけで、この仕事さえできれば前に住んでいたカリフォルニア州の方が安全だと。
やっぱり男はロマンチストで女はリアリストってのは万国共通なんでしょうか。
ジェイコブとモニカを見ていてそんなことを思い、男として色々痛感させられます。
どこの親も家族の幸せを願っているのは当然だと思うんですが、観ている「家族の幸せだと思う景色」やビジョンが違うんでしょうね。
そんな息苦しく生活をしているモニカを気遣ってか、彼女の母親母親スンジャがやってきます。
恐らくおばあちゃんは祖国からやってきたってことでいいのかな?
ちょっと聞き逃しましたが、英語がうまく話せない辺りからアメリカにはまだ慣れてない様子が伺えます。(違ってたらごめんなさい)
このおばあちゃんがやってきたことで、ずっと平行線のまま重い空気だった家族に緩和が生まれていきます。
初めておばあちゃんと会うからか、お母さんの後ろに隠れるほど警戒心のあるデビッドは、なかなかおばあちゃんと心を通わすことができません。
おばあちゃんと一緒に寝るのが嫌だとごねるデビッドは、行ったこともないのに「韓国の臭いがするからいやだ!」といったり、お土産に持ってきた栗の皮を歯で割って自分の口の中で食べやすい大きさにして食べさせようとするお婆ちゃんに頑なな姿勢を見せるデビッド。(それはマジで俺もヤダ・・・)
体に効くとこしらえた露の水を「怪しい濁った液体」と言わんばかりに飲みたくないと突っぱねる始末。
幾ら子供だからと言って正直に言い過ぎだぜデビッド…さすがに婆ちゃん傷つくぜ…。
終いにはこの飲み物を自分のおしっことすり替えて婆ちゃんに飲ますというとんでもないいたずらをしてしまうデビッド。
「このクソガキ!!」と怒るお婆ちゃん、もっと怒るべきですよw
嫌われていてもきっと心を開いてくれると信じてやまないおばあちゃんは、デビッドの身体を気遣いながら水辺に連れていき、芹をここで育てようとデビッドに語りかけます。
どんな土地でも雑草の如く根を生やし立派に育つ野菜になぞらえ、体の弱いデビッドに大丈夫だと優しい眼差しを送ります。
また蛇が出てきた際に石を投げるデビッドに対し「見えていた方が安全だ、隠れている方が厄介だ」と語ります。
まるで表面上は優しいけどアジア系アメリカ人を蔑視するアメリカ人のようにも聞こえるセリフ。
お土産代わりに持ってきた花札に夢中になるあまり、立て膝ついて汚い言葉を飛ばすおばあちゃんに、最初はあっけにとられるも、気づけばとっもだちの家でお婆ちゃんのマネをするほどすっかりおばあちゃん子になっているデビッドの姿が印象的です。
そんな孫大好きなお婆ちゃん。
おねしょをするデビッドに股間が壊れてるという意味合いの「ディンドンブロークン」なんて小バカにしたことを言ったりしますが、ある夜デビッドが「死にたくないから神に祈る」仕草をした際、抱き寄せて「大丈夫だ、ノーサンキュー天国」と励ますんですよね。
ミナリのように君は強い子だという意味合いの「ワンダフルミナリ」の子守歌が、デビッドの心を強くしていくんですね。
結果おねしょしなくなったんですが、代わりにおばあちゃんの容態に異変が。
農業で忙しいジェイコブ、この先の暮らしに不安しかないモニカ、そして容体が急変するお婆ちゃんと、幸せになりたい家族に次々と災難が降りかかっていくんです。
最後に
自由の国と謳われるアメリカは、どんな人にでも夢を与える国だと子供の頃に思っていましたが、大人になるにつれ自由の国の実態がこんなにも不自由な国であることに驚かされます。
名ばかりのアメリカンドリームが、夢を抱いてやってきた彼らに過酷な試練を与えるわけです。
ひよこの仕分けくらいしか仕事が無い、せっかくできた野菜を納品しようにもドタキャンされる、手伝ってくれる人が地元で変態扱いされてるクリスチャンしかいない。
なんで平たい顔してるんだ?と思いっきり差別的な視点で近づいてくる白人の子供。
妙な韓国語の歌の意味を聞きに来る白人の女の子。
表向きは歓迎されているけど、実際アジア人に平等に接してくれない、アジア人にロクな仕事も与えない現地の人間。
決して本作がそんな多様性に欠けている現状を描いた話ではないにしろ、どこかしらに彼らを蔑視した部分が描かれていたとは思います。
ただ本作が素晴らしいのは、どこの国の人にでも通用する普遍的な家族の物語であることや、異国の地にやってきても希望を胸に強く逞しく生きようとする彼らを見つめるお婆ちゃんの姿が、本作のタイトルである「ミナリ」に現れていたように思えます。
ラストシーンでは家族にとって何が一番大事なのかにたどり着くシーンであったと共に、ジェイコブやデビッドに大きな変化が見えた気もします。
僕自身もお婆ちゃんを亡くして長いこと経ちますが、久々におばあちゃんに会いたくなる気持ちになる映画でもありましたね。
俺どうしてもお婆ちゃんと一緒にお風呂に入れなかったんだよなぁ…なんでだあれw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10