モガディシュ 脱出までの14日間
「タクシー運転手」、「1987、ある闘いの真実」、「はちどり」など、ここ最近の韓国映画は、軍事国家下にあった韓国が民主化を巡る争いを背景にした作品が多いです。
やはり歴史を繰り返してはならないという思いと、当時の過酷さを忘れてはならないという思いを映画に込めたのではないででしょうか。
今回鑑賞する映画は、そこから数年後の1991年を舞台にしたお話。
韓国映画ですが、舞台はソマリア。
当時ソマリアはバーレ大統領の独裁政権に対して、反政府勢力が首都を制圧するなど内戦が激化。
そんな中、晴れて民主化を果たし、アジア大会やソウルオリンピックなど国際的行事を行うことで、国連の仲間入りを果たそうと奔走していた大使館の大使が、内戦の渦に巻き込まれていくという作品です。
北朝鮮との熾烈な外交合戦から、何としてでも生き延びるために手を取り合う両国の大使から、私たちは何を受け取れるしょうか。
エンタメ色も強い韓国映画だからこそできる社会派作品。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
コロナ禍にもかかわらず2021年度韓国でナンバー1ヒットを記録した、実話に基づく衝撃の人間ドラマ。
「ブラックホーク・ダウン」でも舞台となったソマリア内戦が激化した1991年の首都モガディシュで、韓国と北朝鮮という敵対した両国の大使たちが決死の脱出に挑んだ実話を、近年公表された顛末や丹念なリサーチを基に実写化した。
タリバン政権復活や、ロシアとウクライナの緊張状態など、いつどこで起きてもおかしくない内戦や紛争を連想させる本作は、当時グローバル化を掲げていた韓国が国連に加盟すべく、隣国である北朝鮮との外交戦に火花を散らしていた時期の中で起きた悲劇と奇跡。
これを「ベルリン・ファイル」で優れたポリティカルサスペンスを生み出したリュ・スンワン監督が、再び当時をスタッフに声をかけ、得意の情報収集と撮影技術、そしてモロッコでのオール海外ロケによって、社会派でありながら一級品のエンタメ映画に仕上げた。
俳優陣も「チェイサー」のキム・ユンソクや、「名も無き野良犬の輪舞」のホ・ジュノをはじめとした韓国の豪華出演陣が集結。
緊張渦巻くモガディシュでの決死の脱出劇をシリアスに演じた。
国家も理念も違う二つの国を背負った者同士が、「ただ故郷に帰る」ために、そして「生き残る」ために協力して挑む脱出。
ようやく明かされた真実を目の当たりにせよ。
あらすじ
1990年、ソウル五輪で大成功を収め勢いづく韓国政府は国連への加盟を目指し、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。
ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。
一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。
そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。
暴徒に大使館を追われた北朝鮮のリム大使は、絶対に相容れない韓国大使館に助けを求める決意をする。
果たして、ハン大使は彼らを受け入れるのか、全員で生きて脱出することができるのか、そしてその方法は──?(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、リュ・スンワン。
韓国映画ファンならご存じ「ベテラン」や「ベルリン・ファイル」を手掛けた監督。
いつだって彼が作る映画には、社会や巨悪に対して鋭く風刺した視点があり、そこに極上のエンタ―テインメントな演出を施すことで、これぞ韓国映画!と思わせてくれる作品ばかり。
今回も「ベルリンファイル」のスタッフを集結させ、徹底的に資料調査を敢行。
渡航禁止国家とされてしまったソマリアでのロケーションができないため、とにかく調べる必要があったようです。
モロッコでの撮影も政府の協力の下、長い年月をかけて製作したそうで、本作に懸ける意気込みが伝わってきます。
一体リュ監督が伝えたい思いとはなんなのでしょうか。
非常に楽しみです。
登場人物紹介
- ハン・シンソン駐ソマリア韓国大使(キム・ユンソク)・・・自らの外交によって国連加入を成功させ、それによる昇進まで期待し、使命に総力を注ぐ駐ソマリア韓国大使館の大使。3週間ほど耐えれば韓国に戻れる状況だったが、突然の内戦勃発により大使館の職員と共に大使館から出られなくなってしまう。危機的な瞬間にも他者を優先する人情味溢れる人物。危機に直面した人々を助けることで、責任者、リーダーとしての役割を自任する。
- カン・テジン駐ソマリア韓国大使館参事官(チョ・インソン)・・・
国連加盟に向けた外交戦のために韓国から遥か遠い国ソマリアに派遣された。
何でも言わなければ気が済まない性格で、卓越した情報力と企画力はもちろん、自己流のコリアン・イングリッシュ(コングリッシュ)まで操り、内戦で孤立した人々と共に脱出するために冷静さを失わずソマリア警察と交渉をはじめる。
- リム・ヨンス駐ソマリア北朝鮮大使(ホ・ジュノ)・・・長い間ソマリアに駐在し、外交関係を築いてきた北朝鮮大使。当時、韓国よりも経済的に発展していた北朝鮮の大使らしく堂々とした態度で、外交を支えている。しかし反乱軍と暴徒らの公館略奪によって、韓国大使館に助けを求める。
- テ・ジュンギ駐ソマリア北朝鮮大使館参事官(ク・ギョファン)・・・北朝鮮大使館の安全を図る忠誠心の強い参事官。リム大使と共に北朝鮮大使館の対外外交を主導し、モガディシュの若者たちとも関係を築いている。北朝鮮公館が襲撃を受けすべてを失う状況に置かれたため、渋々韓国大使館に来たが、緊張と疑いを絶えず持っている。
- キム・ミョンヒ駐ソマリア韓国大使夫人(キム・ソジン)・・・孤立した状況下でも理性を失わないように努め、突然の事態で行動を共にすることになる北朝鮮の人々を警戒しながらも彼らの気の毒な状況に共感するなど情の深い人物。経験したことのない危険な状況に、怖がりながらも誰よりも積極的に脱出作戦の先頭に立つ度胸も持っている。
- コン・スチョル駐ソマリア韓国大使館書記官(チョン・マンシク)・・・ハン・シンソン大使が行くところには必ず同行し、大使の手となり足となる忠実な書記官。自分よりも若いが役職が上のカン・テジンに若干の劣等感を抱いているが、ソウルにいる家族を想いながら日々頑張っている。
(以上HPより)
どんな歴史的出来事でも超面白くエンタメ映画にしてくれる韓国映画。
その代表的存在のリュ監督ですから、期待していいのではないでしょうか。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#モガディシュ 脱出までの14日間 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年7月2日
内戦勃発下の中歪み合う南北両国の大使たちが手を取り合って脱出を図る韓国映画版アルゴ。
緊迫感増していく銃撃の嵐に思わず息を飲む。 pic.twitter.com/TaRa4UYXEj
もはや内戦は敵も味方も無くて恐ろしすぎる。
相変わらずの映画に対する力の入れ様に、韓国映画の気迫を感じる。
国を背負ってるが故の別離にも涙。
以下、ネタバレします。
良くも悪くも映画な部分は目立つ
1990年代初頭のソマリア首都モガディシュで起きた内戦に巻き込まれてしまった南北両国の大使たちによる決死の脱出劇の模様を、警察も反乱軍両挟みからの、敵対する国同士の協力という二重構造での緊迫感を丁寧に抽出し、多少無理矢理ではあるが喰らうマックスで一気にエンタメ映画に持っていく力技が見事な、映画産業に力を入れる韓国ならではの大作映画でございました。
恐らくですが、史実は「モガディシュでの内戦から脱出するために、北と南が協力し合った」程度のモノなんだと思います。
妙な心理合戦や金で警備を雇って守ってもらったりとか、そこに救助を懇願する北朝鮮の大使たちとか、それこそクライマックスでの政府軍から銃を乱射されてイタリア大使館前で銃弾を浴びるとかはフィクションに過ぎないだろうと。
またあくまで韓国映画ですから、北朝鮮側を助ける側になるように見せてるのはお国事情も絡んでの見せ方なんでしょう。
実際北側も彼らを助けた部分も多かったでしょうし。
もちろん映画ですからこれを鵜呑みにしてはいけなくて、こうした事実を脚色して料理したにすぎません。
とはいえ、よくこんな話をあそこまで肉付けしてポリティカルサスペンスに仕上げたなぁと。
ホント毎度毎度韓国映画のパワフルな描き方には感服です。
さてさて本作ですが、冒頭でもふれたとおり1990年代に入り、何とかして国連に加盟したい韓国側が必死に外交に力を入れてる姿から始まります。
どうやらアフリカは国連に加盟する際の投票権を一番持ってる大陸だそうで、だから韓国は必死に地盤を作っていったんでしょうね。
しかし当時は独裁政権とされていたバーレ大統領下の政権であり、それに反発する市民から反政府軍が発足してしまうほどの緊迫状態。
もうこの時点でドラマの土台が出来上がってるんですよね。
そうした状況にもアンテナを張りつつ、政府から最優先事項と銘打って派遣されたハン大使の地道な努力も垣間見える序盤でした。
というのも既に20年も前からソマリアのあらゆる大使館とも交流を深め、韓国より1歩も2歩もリードしている北朝鮮に色々妨害されてしまうんですね。
大統領に差し上げる貢物も、北側が送り込んだ現地の武装集団によって奪われてしまうし、待ち合わせ時間に遅れてしまったことで北側に面談の先を越されてしまう。
また何がめんどくさいって独裁政権だからソマリアの偉い人たちはどいつもこいつも汚い奴ばかりなんですよねw
外務大臣も息子にかかるアメリカ留学の資金をよこせば、俺が大統領に知られずに巧いことやってやると持ち出して、その後すぐに北朝鮮と商談をするあたりが、堂々とし過ぎてて腹立つんですよね~w
このように「北の野郎!また邪魔しやがって!」や、「ソマリアの大臣はこんなやつしかいねえのか!」と踏んだり蹴ったりな外交が続くわけです。
しかし事態は一変、外の様子が何やら物騒になって良き、とうとう恐れていた内戦が始まってしまうわけです。
それこそ最初は反政府軍たちが政府に対して直接的にデモ行進や攻撃を始めていくんですが、そもそもこの土地はバーレのモノではなく俺たちのモノ。
バーレに協力する奴らは敵だ!ってことで、各国の大使館にまで標的が行ってしまうわけです。
こうしてアメリカはじめ様々な大使館が狙われ、北朝鮮の大使感も標的されてしまう。
寧ろ北朝鮮側は若者の武装集団と密に取引してることから、簡単に館内に入れてしまったことで襲われてしまう手のひら返しをされてしまうわけで。
物資も金品も根こそぎ取られ、中国大使館も中に入れない状況だから、苦肉の策で韓国側に救助を要請することになるわけです。
中盤からは、北と南による「協力していいのかどうか」の心理戦に。
どちらも参事官が頭のキレる側近という立ち位置であり、色々裏で独断で工作をしだすんですが、ハン大使もリュ大使の場合心の底では「助けたい、助けてほしい」という気持ちなんですが、やはりそこは敵対国ってことで簡単には信用できない様子。
リュ大使は急に演説じみたことを言い始めるあたりから、まだ国の代表、国を背負ってるから今置かれた状況よりも立場を明確にしたい感じ。
でもハン大使は、今そんなこと言ってる場合じゃなくね?確かに国の都合もあるけども、今はここからどうやって脱出するか互いの知恵と外交を使おうじゃないかと。
もうね、こんな例えしか出てきませんが、ラディッツを倒すために仕方なく手を組むことになる悟空とピッコロみたいなもんですよw
そんな展開熱いやん!と。
韓国はイタリア大使館に、北朝鮮はエジプト大使館にお願いして、逃亡ルートをつくってもらう。
理想は両国が助かること、でも現実はそうはいかない。
これまで裾野を広げてきた外交がモノを言う場であり、イタリアとはそこまで関係の深くない北朝鮮はイタリア側から突っぱねられてしまうわけです。
エジプトも残念ながら脱出ルートを確保できず意気消沈。
リュ大使の参事官は、どうしても南側に借りを作りたくないようで、色々リュ大使に要らんこと言うんですが、大使は一体どこでスイッチが入ったのか完全にハン大使を信じることに。
こうして両国の脱出を懸けた決死のドライブが敢行されるわけであります。
面白いのは、決して言語の違う国同士が、ディスコミュニケーションの中で何とか心を通わせていくって設定じゃないんですよね。
あくまで言語が通じないのはソマリア国民の方で、こっちとのやり取りの方が危ない目に遭ってる感じが強い。
だから序盤はそっちで緊迫感を作ってる印象だったんです。
でも北と南は言語が一緒なので、言葉が通じないことでの緊張感てのはないわけです。
だからそれに変わって緊迫感を生み出すのが「敵対心」になってるんですよね。
異なる緊迫感を巧くスライドして緊張状態を保たせていく演出は見事な構成だなと思いました。
またモロッコでガッツリロケを敢行できたことから、内戦の様子がとてつもなくリアルです。
荒れ狂う住民のデモ行進から始まり、警察による無作為な物理攻撃や、国家権力だからと理由で大使館にも平気で銃を向けようとする危険性、さらに発展して反政府軍による銃撃戦はホントに怖いと思えてしまうほどリアルです。
特に小さな子供たちがライフル持って「金よこせ!」とかケタケタ笑って市民を銃で脅す様子なんかは、シティオブゴッドかよ!と思えるほど不気味過ぎて見てられない。
彼らから逃れながら逃げる様子を長回しで撮影したり(トゥモローワールドのような!)、夜に放たれた野良犬を見せることで、さらに緊張感を煽っていく演出は、予算をたくさんもらえただけある丁寧な画づくりだったように思えます。
最後に
正直クライマックスのカーチェイスは、もうちょっといい導入はなかったものかと。
政府軍の喚問で白旗上げようとしたら棒の先端だけ出てしまい、それが銃だと間違われて被弾される所から決死のカーチェイスが始まるんですが、あまりにも強引な盛り上がりに見えてしまい、イマイチ「お~!」とはならなかったんですよね・・・。
シンプルに反政府軍に追われてイタリア大使館に逃げる方が、理に叶った流れなのになぁと。
また残念なことに、ソマリア内戦という悲劇が舞台装置にしかなっておらず、北と南が逃げるための道具でしかないのももったいない。
何かしら彼らが内戦の中で外交を使ってせき止めるような描写があれば「モガディシュ」というタイトルに相応しいのになぁと。
まぁ史実を描いた作品ですから、そこは文句を言っても仕方ないですけどね。
あとはもうラストですよね。
結局北側を見事に助け感謝され、これまであった均衡状態が解けたかのように見せておいて、悲劇の現場から離れれば、再び敵対国として振る舞うしか、互いが助かる道がないという辛さ。
現実問題まだ両国は主義も理念も違っていがみ合ってる状態ですから仕方のないこと。
とはいえ、国を背負ってなければ互いをたたえ合う者同士の間柄になってただろうし、逆に言えば敵対国同士だからドラマになるわけで、なんとも言えない気持ちになります。
しかし内戦はホント怖いです。
どっちに転んでも悲劇でしかない。
そんな中でどうやって生き延びればいいのよと。
確かに独裁政権下の国なんかで過ごしたくないし、かといって武力で抑えつけることに賛成したくないし。
ケネス・ブラナー監督のベルファストでもそうだったように、そこで生きたいと願う者が日常を奪われていく故郷を奪われていく国ってのは、無くなってほしいですね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10