モリのいる場所
公開当初以来の「モヒカン故郷に帰る」を見たんですけど、相変わらずゆるくてオフビートな笑いを自然に見せていて、で急にひょっこりハートウォーミングにさせてくれる素敵な映画だなぁと。
沖田監督の作品は、きっと今回もそんな映画になってることでしょう。
で、モデルになったモリこと熊谷守一という画家が住んでいた場所、調べてみたら今僕が住んでるめっちゃ近所で。
恐らく劇中の舞台も同じなんだろうと思われます。
なのでちょっと親近感が湧いてます。
早速鑑賞してまいりました。
作品情報
30年間家からほとんど出ることなく、庭にいる虫達や草木、ねこなどをひたすら見つめ描き続けた実在の画家熊谷守一、通称モリのエピソードを基に、夫婦を取り巻く人々の魅力的な生き方を暖かな目線で描いたオリジナルストーリー。
決して平坦な夫婦生活ではなかったモリ夫婦の掛け合う姿に、深い敬意と愛情が垣間見え、彼ら夫婦を日本が誇るベテラン俳優ふたりが、円熟した演技で感動を伝えます。
あらすじ
昭和49年の東京。
30年間自宅のちっちゃな庭を探検し、草花達や生きものたちを飽きもせずに観察し、時に絵に描く画家モリ(94歳)(山崎努)と、その妻秀子(76歳)(樹木希林)。
52年の結婚生活同様、味わいを増した生活道具に囲まれて暮らすふたりの日課は、ルール無視の碁。
暮らし上手な夫婦の毎日は、呼んでもいないのになぜか人がひっきりなしにやってきて大忙し。
そんなふたりの生活にマンション建設の危機が忍び寄る。
陽がささなくなれば生き物達は行き場を失う。
慈しんできた大切な庭を守るため、モリと秀子が選択したこととは――。(HPより抜粋)
監督
今作の監督、そして脚本を手がけたのは沖田修一。
「南極料理人」以降の全ての作品を鑑賞しているほど大好きな監督。
決して大爆笑するようなユーモアではなく、フフフッとなるようないわゆるオフビートな笑いを忍ばせ、音楽や演出で誇張させない演出で涙を誘う、ハートウォーミングな面を終盤にいれてくるのが特徴です。
モンキー的には、「南極料理人」と「横道世之介」がイチオシ。
南極観測隊のおっさんたちがわちゃわちゃしながら楽しそうに過ごしてるけど、やっぱり遠く離れたところでの仕事は精神的にきついよね、でもほらあったかいご飯食べたら元気になれるよ、的なほのぼのほっこりおっさんずLOVEな映画。
死ぬほどツボったのは、ささやかな楽しみだった夜食用のラーメンを全部食べてしまって、本気で夜眠れなくて堺雅人のところに震えながら部屋を訪ねるきたろう。
長崎から上京してきた超お人よしな主人公と周囲の人物とのふれあいを綴った青春映画。
当時のエピソードと風景を思い返す周囲の人物達の心境を交互に描く。
自分が過ごした青春時代や当時の思い出。
出来事や景色と共に存在いた人物も全て思い出であり、実は彼らと過ごした時間があったからこそ、今の自分があったりもする。
果たして自分は何かを与える存在になれていたのか、またはそんな風に思い出してくれたら、そんな存在であれたら嬉しいなぁとしみじみ感じてしまう1本。
吉高由里子史上最も可愛い吉高由里子が拝めるのも見どころ。
カーテンに隠れるとことかマジ最高。
他の作品はこちらをどうぞ。
キャスト
主人公モリこと熊谷守一演じるのは日本の俳優界のレジェンド、山崎努。
物心気づいたときからおじいちゃんの役をやっている気がするんですが、さすがにそれは言いすぎかw
黒澤明や伊丹十三、最近ではコミック原作の実写映画なんかも積極的に出演するお方。
もう彼が出てるだけで場面が際立ちます。
彼が出演してる作品で見たのは、古いのだと「天国と地獄」(最初彼だと気づかなかったw)、「八つ墓村」、「タンポポ」(安岡力也が最高)、「死に花」、最近のだと「劇場版クロサギ」とか「藁の盾」、「SPACEBATTLESHIPヤマト」、「無限の住人」とかですかねぇ。
もっと見てるはずなんですけど思いだせん・・・。
あ、数が多すぎるので紹介はまた後ほど・・・。
他のキャストはこんな感じ。
モリの妻秀子役に、「あん」、「海よりもまだ深く」、そして「万引き家族」のレジェンド樹木希林。
カメラマン藤田武役に、「それでもボクはやってない」、「硫黄島からの手紙」、「はじまりのみち」の加瀬亮。
カメラマンアシスタント鹿島公平役に、「百円の恋」、「ディストラクション・ベイビーズ」の吉村界人。
雲水館の主人・朝比奈役に、「恋人たち」、「あぜ道のダンディ」、「彼女の人生は間違いじゃない」の光石研。
工事現場の監督・岩谷役に、「るろうに剣心」シリーズ、「沈黙ーサイレンスー」の青木崇高。
マンションオーナー・水島役に、「土竜の唄」、「悪の教典」、「友だちのパパが好き」の吹越満。
モリの姪で、熊谷家の家事を手伝う美恵ちゃん役に、「ソロモンの偽証」、「DESTINY 鎌倉ものがたり」の水谷のぶえ。
画商・荒木役に、「南極料理人」、「横道世之介」に引き続き監督作品3作目のきたろう。
知らない男役に、「私をスキーに連れてって」、「スワロウテイル」の三上博史などが出演します。
沖田監督のほのぼのとしたユーモアがどれだけ詰まっているのか、そして老夫婦の掛け合いからどんなドラマが生まれるのか。
ここから観賞後の感想です!!!
感想
長く連れ添った夫婦だからこそ生まれる行間に込めた思いを、レジェンド俳優2人が見事に作り上げる。
これは昭和のホームドラマの再現だ!
以下、核心に触れずネタバレします。
庭こそすべて。
昭和49年の夏の主人公モリ夫妻が住む一軒家を舞台に、モリと奥さん、そして訪れる人たちの人柄や日常の風景を、映像に邪魔されないよう配慮された劇伴によって、静かながら時に賑わいを見せるほのぼのとした映像で綴る。
たかが一軒家の庭侮るなかれ、そこはモリにとってのすべてであり、一つの小宇宙ともいえる驚くべき発見の場。
30年間もそこでひたすら観察してるはずなのに、新しい発見に気付き、感覚を全て研ぎ澄ませ佇むモリ。
アリの行列、水辺を歩くサンショウウオ、地べたをはいずるトカゲ、手をこすり続けるハエ、池で泳ぐ魚、生い茂った草木、蔓を撒く植物、さえずる鳥たち、初夏の空気を感じさせる空。
自宅の庭に生息する生き物や景色すべてがモリにとってかけがえのないモノであり、それを観察する姿を我々はただ観察する。
序盤はそんな彼の日課ともいえる行動パターンを見せることで、見てるこっちもそこで一緒に観察するような感覚になり、感覚が研ぎ澄まされていく。
いきなりラストカットの話をしちゃいますけど、モリが住む家を上から眺めて幕を閉じるんですね。
そこで我々は気づくんです。
こんなちっちゃな庭に何がそんなにあるのかと。
でも、劇中モリは池に行ってくると言って出てくんですが、全然たどり着くことができない。
なぜかというと、いつもと同じ景色なのに、お前いつの間に生えたんだ?と見たことない草に目が留まりじーっと見つめる。
その後、色々なものを見てるうちに、縁側に戻ってしまう。
着いた途端「池まで遠いな・・・。」とぼやく。
これ結構長い尺で撮ってて、ほんとにこの庭どんだけ広いの?って思っちゃうんですよね。
でも実際は歩いて数歩で行ける距離。
決しておじいちゃんだから歩くの遅いとかそういう話じゃなくて、ここにたくさん尺を使って彼の日常を見せることで、一見何の変哲もない庭が彼にとって常に発見と驚きの場で、そのせいで広く感じると見せる序盤だったわけです。
池についても腰を下ろして腕を組み、パイプを加えてじっと眺めるだけ。
奥さんや誰かが声かけてもボソッと喋るだけ。
そんな彼の日常を見てるだけなのに彼の歴史を感じたりとか、人生の深みを感じたりとか、いつも忙しく過ごしている僕らなのに1分1秒が愛おしく感じるというか。
彼の観察によって途轍もなくゆったりと時間を感じることができる作品だったような気がします。
しかし彼の家の前にマンション建設工事が進んでおり、完成すれば日当たりのよかった庭に影ができ、住んでいる生き物たちの行き場がなくなってしまうことになるんですが、そこまでの重要なことには感じてないモリの腰の据わった感じがまたいいのです。
自分にとっての作業場であり発見の場であり、観察の場。
そこに割って入ってくる異物があったとしても、これも人生だと悟るような姿は、90年伊達に生きてねえなと。
訪れる訪問客
もちろん彼が庭を観察するだけの映画ではありません。
文化勲章を受け取ってくれ!と電話がかかってくるほどのお方ですから、彼の絵を買いたい者、先生の字で旅館の看板を書いてほしい者、忌々しいマンションを建てている工事現場の人間がトイレを借りに来たりと様々な人が訪れます。
信州からはるばるやってきた雲水館の店主は、何とかモリに看板を書いてほしいとお願いするんですが、今池の水観てて忙しいからと奥さんから断られますw
そ、そんなぁ信州から来たのに、と言うと、え、ちょっと待ってくださいね、とモリを呼び出し事情を説明するとすぐさま承諾。
どうやら30年も外に出ていないおかげで新幹線が走ってることを知らないモリは、何十時間もかけてやってきたと思い込み承諾したことが分かります。
そして持ってきた上質な板にいざ一筆と思ったら書いた言葉は「無一物」。
モリは書きたい言葉しか書きません、と事前に行っていた奥さんの言葉がようやく理解された瞬間でありました。
他にもモリの姿を写真でおさめ続ける藤田と助手も訪問。
彼の庭での過ごし方をじ~っと見つめ、時には同じ状態で写真を収めたりする力の入れよう。
アリの観察時も一緒になって寝っ転がり、2本目の左脚から歩くことに気付いたモリの言葉につられずっと凝視したり、拾った石を右手においてじっと眺めている様子をひたすら張ったり、彼の些細な行動をカメラに収め観察しているのです。
助手は彼の事を全く知らない状態でやってきたので、虫よけスプレー持参したり、モリの事を仙人見たいと言ったりと少々無礼な言動や行動をとっては、藤田に怒られます。
しかし彼と共に過ごしているうちに助手はモリに興味を抱いていきます。
そりゃあそうです、30年もこんな狭い庭にこもって何を観て何を感じるのか、そしてなぜみんなそこに集まるのか、見ていた僕も助手と同様に興味が沸きましたからね。
モリは気づいていないうちにそういう魅力を放っていたんだなぁと。
終盤には工事現場の人も訪問。
建設反対の看板を撤去してくれとお願いにあがった際、モリを見つけ息子の絵を見てくれとお願いする。
「へたも絵のうち」とアドバイスし、その出会いもあって彼にあるお願いをする。
これがきっかけで現場の人間全員連れて、すき焼きをごちそうになりにやってくるという流れ。
なぜか「夕陽のガンマン」のテーマ曲をモチーフにした曲で、暗い夜の庭の中をヘッドライトをつけてスローモーションで登場する姿はちょっと笑えます。
誰が来たかと思いましたしw
今では考えられない光景ですよね。
玄関も縁側も開けっ放し。
そこに勝手に来ては自分で勝手にお茶を汲み、お茶請けを探しくつろぐ。
もちろんちゃんと用があってくる客もいるけれど、誰でも訪れることができるような空間であることがステキ。
ただ午前中に来ないとモリが午後寝ちゃうからって条件があるのも面白い。
長年連れ添った夫婦だからこそ。
何十年も共に生きた夫婦。
そこまで共に生きてくれば、相手の些細な部分も気にしなくなり、好きや嫌いといった感情を超越した関係になってくるのが、モリ夫妻を見ていて感じます。
囲碁をやっているシーンでは、モリはひたすら考えて一手を打つも、奥さんは別の事をしながら片手間でサクッと打って勝ってしまう。
モリと奥さんの性格が垣間見えるシーンでもありました。
とにかく観察する日常を過ごしているモリは囲碁も同じスタイルで、奥さんは家事をやったりお客さんを相手にしている中でモリを気遣う容量の良さが囲碁のプレイに出ていて、よく見ると夫婦間の主導権まで見えてくる。
藤田が撮った奥さんの写真を見たモリは「鬼ばば」といったり、奥さんも負けじと外に出ないモリをいじり倒したりするシーンがあったりと、お互いが言いたい放題だったりするわけですが、奥さんはマンション建設の現場人間がやってきた時に、日照権の話は聞いてない、日陰が出来たらあの人の庭が無くなってしまう、あの人にとって庭は全てだと語ることで、奥さんのモリへの思いが感じられるセリフだったように思えます。
一方のモリも、ある人物が異世界へ連れて行こうとするんです。
その人物は「もっと広い世界に行っていろんなものを見よう」と手を差し伸べるんですが、そんなことしたら奥さんの面倒が増えるから止めてくれ、これ以上苦労をかけたくないと思いやりある言葉を投げかけるんですね。
直接は言えないんだけど、お互いがお互いを思いやりあっている姿を見ることで、絆を感じることができる瞬間だったように思えます。
まだ幼かった息子を早くに亡くしたことが劇中語られるわけですが、そういった悲哀さや喪失感を出しながらも、人生まだまだ生きたいと生きる理由があることを語るモリ。
奥さんはもう一回同じ人生は疲れますと嘆いたりすることろも、この人生はこれっきりでいいみたいに聞こえます。
実際奥さんは前の旦那がいて結構よかった、みたいなことも言ってるので、夫婦間でそういう差も出るんだなぁというのが描かれています。
決して平坦な道ではなかった、楽しかったこともあったけど辛いこともあった。
だからこんな人生はこれっきりで十分と言っているのかなぁと。
その反面モリはまだまだ自分の可能性を追求したい、アーティストであるが故の気持ちが出ていたのかなぁと。
ユーモア描写も監督ならでは。
今作は監督作の中でも一番笑いの強さが弱いなとは感じました。
だからと言って決してつまらないとかそんなことではなくて、いつもの沖田節をあえて前面に出さずに取り組んだのかなと。
それでも笑える部分は多々ありました。
朝食のシーン。
お味噌汁の油揚げがかみ切れないモリはハサミでチョキチョキして丸皿に移し、すすって頬張るんですね。
その後ソーセージを金具でつぶして食べる。
漬物の大根もつぶして食べる。
93歳ですから歯が弱いってことですよね。
だからって汁飛ばしてまでつぶすこたないのにww
食べ物で言えば、昼食にうどんをゆでていると、お隣さんがカレーのおすそ分け。
多く作りすぎちゃったから食べてと持ってきたのはいいものの、うどんを既に茹でていたのでどうしよう、こうしよう、ハイ、カレーうどんの完成。
みんな掻っ込んで食べている中、モリは箸が滑って全然口に運べない。
そんな状態の中、みんなはドリフの話。
どうやら荒井注が抜けて新しく入った志村けんについてあれこれ議論。
モリと奥さんはドリフの事はちっとも知らないようで、周りの人間だけで盛り上がっている様子。
高木ブー派もいれば、元体操部の助手は仲本工事は本物だ、アタシは長さんが好きなど色々思い思いのドリフを語っています。
そんな話はお構いなしに目の前のカレーうどんに苦戦し、とうとう放った言葉は「うどんにカレーを入れるな」w
奥さんが「知りませんよそんなの、ヘックシ!」とくしゃみをした途端、茶の目のみんなの頭の上に金ダライが落下!
まさかのドリフのコントになっているんですね~ww
急にそんなの放り込んでくるとは思いもよらず、思わずわらけてしまいました。
表札をモリが書いているため、よく盗まれてしまうというシーンも。
お手伝いをしている姪が、なんとか盗まれないようにと釘を何本も使って打っている姿が呪い人形を打っている姿に見えるほど熱心だったり、表札に使った板は、お土産でもらった饅頭のふたという、また盗まれるんだからこれでいいだろ的な扱い。
姪はどうやら独身。
よく足をつってしまうので、ダイエットに励もうと水泳教室に通います。
そこでお目当ての水泳コーチに助けてもらおうと足をつって助けてもらうも、どうやら脈ナシのご様子。
しかも運動したから奮発してお肉をたくさん買い込んできてしまうダイエット下手すぎだろwなオチ。
他にも些細なユーモアがたくさん詰まった作品となっておりました。
最後に
この映画はモリの日常だけを描いており、彼が絵を描くシーンは一つもないんですね。だから画家の半生とかそういった伝記映画ではなく、ちょっと変わったおじいちゃんと奥さんのあるべき姿にフォーカスをあてていたんだなぁと。
そして夫婦を演じた山崎努と樹木希林が、長年連れ添った夫婦ならではの空気感と距離感で、絶妙な掛け合いをしていく場面はさすがレジェンドといった演技。
周囲の人間がわちゃわちゃすることで生まれる昭和のホームドラマ的和やかな風景。
みんなで一つのテレビに釘付けになったり、食卓を囲んでワイワイガヤガヤする。
彼らを横移動で行ったり来たりして撮影したり、モリが座る上座から奥まで奥行きを見せ、縦の構図で手前と奥とで別々の会話をいっぺんに撮影する。
監督得意のさりげなく後ろで気にならない程度の芝居を見せる場面は今回も健在。
きたろうは今回もさりげなく細かい演技していますw
かりんとうを探しにうろちょろしてますからw
どうやら70年代を盛り込んだ描写が多々あるようですが、僕にはそこまで気づかなかったのが残念。
きっと樹木希林ネタが盛り込まれてるんだろうなぁ。
あと三上博史の役はなんなんだw
今回も沖田監督らしさが全開。
満足させていただきました!
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10