マザーレス・ブルックリン
「シャーロックホームズ」のホームズ。「チャイナタウン」のジェイク・ギテス。
「ロング・グッドバイ」のフィリップ・マーロウに、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」のパトリックとアンジー。
「私立探偵 濱マイク」のマイクに、「探偵はBARにいる」の探偵。
とりあえず、思いつく限り私立探偵モノの映画を上げてみましたが、どれも街を舞台にしたお話で、どこかもの悲しさを引き釣りながら終わりを告げるようなパターンが多いです。(ホームズはちと違うかw)
僕はそういうタイプの探偵映画が大好きで、一件落着で終わるよりも、イチ探偵ごときが扱えるような事件でなくとも、巨悪に挑んだり、陰謀に真っ向から飛び込んだりする姿がたまりません。
もっと古い探偵映画もあるはずなんですが、まだまだ知識不足でございまして…その辺は今後の課題ということで。
と、今回鑑賞する映画は、正に僕がはまりそうなノワール仕立ての探偵映画。
しかもちょっと癖のある探偵のようで、それを演技派のあの人が演じ、しかも脚本、監督までするという。
いやめっちゃ面白そうじゃん!!ってことで、早速鑑賞してまいりました。
作品情報
ジョナサン・レセムが執筆した同名小説を、「真実の行方」や「アメリカン・ヒストリーX」などで抜群の演技力を発揮し、アカデミー賞にノミネート経験のあるエドワード・ノートンが主演・監督・制作・脚本の4役を務めた意欲作。
原作の設定である1999年を1957年に変更し、1950年代半ばのNYに相応しいハードボイルドな作風に仕上げた。
また彼のコネクションも強く、各演技派俳優がこぞって集結、作品に華を添えた。
当時の犯罪映画を彷彿とさせる古典的な面がありながらも、主人公が抱えるトゥレット症候群初め、マイノリティに向けられた視点、当時のNYがいかに腐敗していたかなど、今の社会問題にもつながる現代的なテーマを描いたアメリカンノワールです。
あらすじ
1957年、 ニューヨーク。
障害の発作に苦しみながらも驚異の記憶力を持つ私立探偵のライオネル(エドワード・ノートン)は、人生の恩人であり唯一の友人でもあるボスのフランク(ブルース・ウィリス)が殺害された事件の真相を追い始める。
ウイスキーの香りが漂うハーレムのジャズ・クラブからマイノリティの人々が集うブルックリンのスラム街まで、僅かな手掛かりを頼りに天性の勘と抜群の行動力を駆使して大都会の固く閉ざされた闇に迫っていく。
やがて、腐敗した街で最も危険な黒幕にたどり着くが…(HPより抜粋)
監督・キャスト
今作を手掛け、主演も飾るのはエドワード・ノートン。
ちょっと弱々しい表情かと思いきや、カメレオン的な芝居で観衆をあっと驚かせる、生粋の演技派俳優ですよね。
僕が彼を知ったのはみなさんご存じ「真実の行方」。
未見の方にネタバレしないようにしないといけませんが、一泡食らいます、とだけ…。
他の作品でもイイもんワルもんを多様に使い分け、あの映画にこの人あり!なお芝居で魅了してくれます。
これまた知識不足ですが、今回初めての監督作なんだなぁ~と思ってたら。実はこれが2作目なんですってね~。
「僕たちのアナ・バナナ」っていうニューヨークを舞台にしたロマコメだそうなんですけど。
これが2000年制作なんで。今回役20年ぶりの監督作ってことになります。
今作も前作同様NYが舞台ってことで、彼の思い入れが詰まった作品になってるのではないでしょうか。
監督の紹介にはなりますが、彼の過去の代表作をサクッとご紹介。
大司教殺害事件で逮捕された青年を、事件の話題性に食いつき無償で弁護を引き受けた弁護士が、次々と明かされる事実に翻弄されていく法廷サスペンス「真実の行方」で映画デビュー。
迫真の演技が批評家たちの評判を買い、いきなりアカデミー賞助演男優賞にノミネートする快挙を成し遂げます。
その後も、白人至上主義の極右組織であるネオナチのメンバーとなった兄弟の悲劇を通じて、現代アメリカの暗部を炙り出していく「アメリカン・ヒストリーX」でもアカデミー賞主演男優賞にノミネートします。
他にも、空虚な生活を送る男の目に現れた謎の男によって謎の秘密組織のメンバーとなり没頭していく姿を描いた「ファイト・クラブ」では、ブラッド・ピットを食うほどの演技で圧倒します。
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MCUシリーズ第2作目あたる「インクレディブル・ハルク」のようなフランチャイズ映画に主演を飾るなどしますが、基本的にはインディペンデントな小規模映画で活躍する傾向にある様子。
特に近年では、「ムーンライズ・キングダム」、「グランド・ブタペスト・ホテル」、「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督作品にも出演したり、ソーセージたちが世界という名のスーパーマーケットを救うお下劣冒険譚「ソーセージパーティー」でも声の出演をするなど、様々な作品で脇役として存在感を発揮しています。
そして、公私ともにどん底の俳優が一念発起して舞台を製作する中で、様々なトラブルに見舞われながらも悪戦苦闘していく姿をワンカット風で描いたシニカル・コメディ「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で2度目のアカデミー賞助演男優賞にノミネートされます。
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そんな彼の力が爆発しそうな今作。非常に楽しみです。
他のキャストはこんな感じ。
ライオネルのボス、フランク役に「ダイ・ハード」、「シックス・センス」、「アルマゲドン」のブルース・ウィリス。
ローラ役に、「ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男」、「女神の見えざる手」のググ・バサ=ロー。
モーゼス役に、「レッド・オクトーバーを追え!」、「ミッション・インポッシブル」シリーズ、「ジョーカー」のアレック・ボールドウィン。
ポール役に、「プラトーン」、「フロリダ・プロジェクト」、「永遠の門 ゴッホの見た未来」のウィレム・デフォーなどが出演します。
これ以外にもレッチリのフリーが出演していたり、主題歌をレディオヘッドのトム・ヨークが担当するなど、ノートンの交流の広さがうかがえるキャスティング。
一体ライオネルはどんな巨悪にたどり着くのか。
そして彼は親友の仇を討つことができるのか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
この空気感、この世界観、スローなテンポ。
いい、すごくいい。
だけどノートン、これは長いよ・・・
何故あそこまで1シーンを長く撮るんだ・・・。
以下、ネタバレします。
ノワール探偵ものに新たな1ページ。
まだドジャースがロサンゼルスに行く前の1950年代のNYブルックリンを舞台に、トゥレット症候群という特殊な病を抱えながらも、抜群の記憶力と機転を利かせた行動で、NYの闇に殺された親友真相を暴こうと孤軍奮闘する姿を、これぞNYブルックリンな街並の再現、トム・ヨークの主題歌や心地よく上質なジャズのリズムに乗せて、時にスムースに時に和やかに、そして時にスローに描き、さらには光と影のコントラストを巧みに表現することで、ノートンが求めたであろうアメリカンノワールの世界にどっぷり浸かれることができた、旨みの深い作品でございました。
もうですね、主人公ライオネルの特徴やクセ、性格がツボです。
トゥレット症候群という病を患ってるのですが、とにかく思ったことを言ってしまうというもので、不動産屋の女性の胸が大きかったら「デカパイ!」って言っちゃったり、親友フランクを呼ぶ際も「フランク、フランキー、フランコ!」って言わないと気が済まないし、女性のタバコに火をつける時もマッチに火をつけてタバコに火がつく前に自分で消しちゃうし、ドアを閉めるときも締め方の音が気に食わないのか何度も締め直すしと、とにかくクセがすごい。
ライオネル曰く、頭の中の自分が二人いるような状況で、相手に気を掛けたりしながら会話している一方で、もう一人の自分がそれよりもサイフの中の紙幣の向きがちゃんと合ってるか気にしなきゃいけないから、お前そんなことしてる場合じゃねえだろ!(ライオネルは彼の事をベイリーと呼んでます)ということで、変な言葉を発してしまうとのこと。
冒頭で自分のセーターの袖から飛び出た糸を引っ張って、結局ほつれちゃう件があるんですけど、これが正に彼の思考を意図していたものだったんですよね。
で、ただ言いたいことを言っちゃうだけでないのがライオネルの凄いところで、活字も言葉も音楽の音階までも正確に記憶してしまうという特殊能力があるのがまた素晴らしい。
途中新聞記者に化けて調査するんですけど、普通記者なら相手が話したことをメモしたりするんですが、彼にはそれが必要ない。
全部暗記してるんですから。
それを一人になった時パズルを組み立てるように、一つずつピースを探して額に嵌めていき、答えにたどり着こうとするんですよ。
で、彼は女性との経験はあるものの、こういう病もあって一緒に寝たことが泣く、またそれが彼を消極的にさせているということで、非常に女性に弱いのであります。
加えてネコが好き!!
女に弱く、特殊能力があり、病も患っている、そんな男が何とかして親友の死の真相を暴こうと探偵と良して活躍するって時点で、僕は大好物な映画でした。
探偵ってやっぱりコナン君のように頭脳明晰だったりヤバイ空気を察するような勘だったりってのがないと、僕としては探偵辞めてもらえますか?って思ってしまう節なんですけど、今回はそんなことはなく、弱々しさもありながら真相のために守らなきゃいけない時には強い姿勢で臨むライオネルが凄く好きになりました。
またこのライオネルを演じるエドワード・ノートンの抜群の演技力ですよね。
ひたすらビートたけしのように首をひねりながら「イフ!イフ!」と言ったり、ずっと頭あの仲がグルグル回っているのを表現するためにしかめっ面になったり、喋る時もどこか落ち着きのない感じが口元の辺りから醸し出してたし、ローラに触れる際の手の仕草から事件のパズルを嵌めていく時の考え事に至るまで、芸の細かい事細かいこと。
あくまで一つのキャラクターではありますけど、ここまでトゥレット症候群を演じられるのもすごいなと。
さらには、ごくごくわずかな手がかりから、どんどん真相に近づいていく流れもたまりません。
それこそ最初はフランクの最後の言葉から始まり、フランクと誰かの会話の端々から糸を手繰り寄せ、その人物の声で誰かを特定し、NYの都市開発を裏で強引に進める男という黒幕、さらにはその黒幕がひた隠しにしているネタにまでたどり着くという話の運びがなんとも面白いんですよね。
ちょっとしたユーモアを挟みつつも時に起きる悲劇や事実に場面が変わったり、スラム街やハーレムの街並みも堪能できるし、多様に変化するジャズの音楽によって空気が一変する辺りもオシャレでしたしムーディーなんですよ。
こうした作りによって、探偵ノワールモノに新たなページを刻んだノートンの手腕に感服いたしました。
映画から読み解くノートンのテーマ性
今回フランクが掴んだネタは、ブルックリンのスラム街を一掃しようと計画する、モーゼスのあるネタ。
彼は市長よりも地位の低い役職ではありますが、それはあくまで表向きで裏では市長までも操るほどの権力の持ち主であることが明かされていきます。
これまで255もの公園を作ったり、1500万ドルする土地を50万ドルで買ったりしてビーチを建設するなどしていましたが、どれもそこに住んでいた住民に、おいしい案件をちらつかせるも実は全くのでたらめというやり方で立ち退かせる、とにかく強引なスクラップアンドビルドでNYを暮らしやすい街に変えてきた男。
それもこれも汚いものは排除しキレイなものにするという思想が根本。
その汚いモノとは黒人たちやマイノリティな人たち。
橋を作ったことでいろんな人が流れ込んできたNY。そもそも彼らのために作ったわけではないと語り、その流れ込んできた人を追いやるために、汚いやり方で潰していくんですね。
大きな高速道路を作るにあたって、この土地を譲ってください、代わりに新たな住居を低価格で用意すると甘く誘い、立ち退かない人には勝手に業者が配管を壊したりするなどの嫌がらせを企て、結果住民が提出した住居の移転書はゴミ箱に捨てて燃やすという手口でなかったことにさせる。
中々の暴虐ぶりです。
そんなモーゼスを演じたのが、アレック・ボールドウィン。
ミッション・インポッシブルでのステキ上司を演じたのが記憶に新しいですが、彼はサタデーナイトライブでトランプ大統領の物まねを披露するなどの芸達者で、今作では歩くたびに地鳴りがしそうなほど力強く歩いたり、豪快にスイミングしたり、権力について熱く語ったり、なぜおれの言う通りにしない!と激オコで詰め寄ったりと、どこかトランプを演じているような口ぶりに思えました。
しかもモーゼスのやってることもトランプが進めるような分断と排除を思わせる行動で、やはりダブって見えますよね。
ノートンも当時のNYがどんなことをしてきたのかを見せることで、今再び世の中で同じようなことが起きようとしていることを語っています。
ノートンのノワール探偵モノ、という娯楽性を出しながらも、しっかり彼のNY愛と今の社会問題を上手く融合させたわけです。
あとこのモーゼスのモデルになるような人物が実際いたそう。
都市計画家のロバート・モーゼスという人。
彼はマスタービルダーという異名で、1950年代のNYの大改造を行った人物で、アレックが演じたような特権階級ならではの野心と強い信念を持ち、巧みな戦略と鋭い専門知識を武器に計画を進めたんだそう。(泳ぎも達者だとか!)
劇中でも彼は白人たちからは救世主のような熱い支持を受けていたそうですが、実際にロバートもNYのインフラ整備に大きく貢献したそうで、あくまで都市圏の都市開発は彼の影響が大きかったんだそう。
そんな彼のNYでの急激な都市開発に異論を唱えたのが、ジェイン・ジェイコブズさんという方で、(多分ローラと共に行動していたおばさんは彼女がモデルなのでは?)都市には人々の伝統的な生活が織りなす多様性が豊かさと再生能力があることから、彼の計画を阻止しようとした動きがあったんだとか。
ロバートの悪行がどこかに書いてないか調べたんですが、特に目立ったものが無く、ここでは言及できなかったんですが、劇中でのモーゼスのような排除を目的とした行動はきっとあったんでしょう。
でなければジェイコブズさんのような反対派との論争は起きないはずですから。
こうした人物の配置をすることで、NYのちょっとした歴史を知ることができる上に、何かを新しく作る上での犠牲の面も考えなくてはならないような話にしたノートンのNYへの想いが感じられる映画でした。
最後に
タイトルのマザーレス・ブルックリンとはフランクがライオネルに付けたニックネームってことが明かされるんですね。
実際に6歳で母を亡くし孤児院で12歳まで育ったライオネル。
そんな彼を育った街にちなんでブルックリンと呼び、母親のいない彼をマザーレス・ブルックリンと呼ぶ。
それはモーゼスという野獣によって暮らしを搾取されていく黒人たちを、母の如く守ることができないことを指すようなタイトルにも思えます。
と、あれこれいいとこ語りましたが、途中ずっとジャズの音楽に乗りながらローラとダンスするようなシーンを筆頭に、そこまで長く会話だったり動いてるシーンを長々と映す必要性が感じられないことから、2時間20分も上映しなくとも、もうちょっと短くできたよねぇって文句は言いたい。
やはり監督主演てことで、どこか酔いしれちゃってるような意味合いに思えて仕方がなかったです。
またライオネルのナレーションで説明してるのに、劇中の人物にも同じ説明をしなくてはいけないという二重の説明が何度も出てくるのもどうにか工夫できなかったのか。
確かに初対面の人に説明しないとただの変人扱いですから、仕方ないよなぁと思いつつも、何かうまい配慮は無かったものかと考えたくなる説明過多でした。
それでもこの空気感はノワール好きならたまらないんじゃないでしょうか。
一人で巨悪に挑み、どうにかして傷を与えてやりたいと奮闘する探偵の意地がカッコイイなぁって。
是非続編、やってほしいです。
頑張れノートン!!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10