Mr.ノボカイン
今や日本でもタレント2世と呼ばれる人たちがTVで活躍をするたびに「親の七光り」だと揶揄されていますが、それはハリウッドでも同じ。
ネボベイビー(縁故主義の赤ちゃん)なる造語で呼ばれる二世スターは、日本とは違い赤ちゃんの頃から色々ゴシップ記事に書かれるほど注目を浴び、デビューするころには、親のコネなのか実力なのか、日本よりも厳しい目で見られてる様子。
例えばジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘リリー=ローズ・デップや、ウィル・スミスの息子ジェイデン・スミス、ユマ・サーマンとイーサン・ホークの娘マヤ・ホーク、レニー・クラヴィッツの娘ゾーイ・クラヴィッツ、ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスの娘ダコタ・ジョンソンなどがおり、大成した人もいれば未だくすぶってる人も見受けられます。
親の恩恵を受けてることを受け入れてる人もいれば、造語で括られることに否定的な意見を言う人もおり、大成しない限り一生言われ続けるんでしょうね。
今回鑑賞する映画は、そんなネボベイビーにも拘らず、ようやく映画で初主演を手に入れた俳優の作品。
なんでもメグ・ライアンとデニス・クエイドの息子さんだそう。
人気TVシリーズ「ザ・ボーイズ」で活躍し、晴れて映画の舞台で主役をゲットしたわけで、これでようやく「売れた」ことになるのかどうか。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
『Body』(原題/2015)でいきなりヴェネチア映画祭にノミネートという鮮烈デビューを果たした、ダン・バーク&ロバート・オルセン監督が、80年代アクションを彷彿とさせる描写と医学的奇癖を混ぜて描いたアクションコメディ。
気弱でまじめな銀行員が、銀行強盗に人質として捕らわれた彼女を救うため立ち向かう姿を、無痛の体という特徴を活かし、人間としてはあり得ない方法で戦う、ある意味誰も見たことのない新たなヒーロー的なキャラクターを魅力的に魅せていく。
人気TVシリーズ「ザ・ボーイズ」でヒーローに復讐を誓うキャラとして人気を博したジャック・クエイドが主演の本作。
デカデカと街に飾られたポスターを見て興奮を隠せなかったクエイドは、平凡な男を演じるにあたり、ボーイズのようなキャラとは違い誰からも愛されるようなキャラを演じられて光栄だと語る。
他にも、ノボカインの彼女シェリー役に、『プレデター:ザ・プレイ』で主演を務めたアンバー・ミッドサンダーが抜擢。
ノボカインの親友で頼れる“バディ”の役を、『スパイダーマン』シリーズのネッド役でおなじみのジェイコブ・バタロン、ノボカインが立ち向かうこととなる強盗役として、俳優ジャック・ニコルソンの息子レイ・ニコルソンが出演。
ノボカイン演じるクエイドとの、豪華2世俳優の共演にも注目だ。
アツアツのフライパンを素手で触ったり、グツグツする油に手を突っ込んだり、手の甲にナイフがぐっさり刺さっても、全く痛みを感じない男・ノボカイン。
気弱な彼がどんな暴れっぷりを見せるか注目だ。
あらすじ
生まれつきどんな痛みも感じない体を持つ男、Mr.ノボカイン(ジャック・クエイド)。
マジメな銀行員としてごく普通の人生を歩んできた彼だったが、ある日大切な彼女が銀行強盗の人質にとられてしまう。
“戦闘力ゼロ”のノボカインが彼女を助け出すために使える武器は、“痛みゼロ”の体だけ。
生まれて初めて無痛の体が役立つ時がきたが、不死身というわけではない。(HPより抜粋)
感想
東和ピクチャーズから招待を受け #Mrノボカイン 試写。無痛な体を駆使して退役軍人と互角に戦う姿をユーモアに見せるが、彼が生涯背負う疾患の大変さや人質となった好きな人を追う姿は誠実に描く。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) May 16, 2025
この塩梅とある真実によって誰もが主人公を応援したくなるだろう。
因みにノボカインは本名ではない。 pic.twitter.com/vShXXdogF4
無痛症ってそんなに大変だったのか。
障がいを個性として描きながら、バカにしない姿勢に好感。
もっと好感なのは主人公が好きな人のために必死になってること。
思った以上にコメディに寄らず、思った以上にラブストーリーだ。
以下、ネタバレします。
日陰の人間に陽が差し込んだら。
サンティエゴの信用組合で副支店長として働くネイサン・ケインは、恋をしていた。
それは4ヶ月前に職員としてやってきた女性シェリー。
彼女に夢中だけど声をかける勇気もない。
しかしひょんなことから彼女とランチに行き、彼女が開く個展に招待され、あれよあれよと良い感じになっていく。
とうとう一夜を共にした翌日、彼女に「昨日は最高だった」と告げようとした瞬間、銀行強盗がやってきてさぁ大変。
犯人の顔を見てしまったシェリーは人質にとられてしまい、ネイサンは無我夢中で犯人の逃走車を追うことに。
果たしてネイサンは無事シェリーを救うことができるのか、って話。
痛みを感じない特性を活かして描いたヒーローと言えば真っ先に思い浮かぶのが「キック・アス」。
屈強な奴らにボコボコにされたことをきっかけに「痛みを感じなくなってしまった」主人公がヒーローとなって町を救う姿をバイオレンス且つコミカルに描いた大好きな作品ですが、本作はその無痛症を誠実に観衆に伝える。
シェリーとランチに行くことになったネイサンだったが、彼はバニラミルクシェイクしか頼まない。
ここのチェリーパイは絶品なの一口食べてみてと薦められても、ただ拒む一方。
その理由は「モノを食べた際痛みを感じないから下を嚙み切ってしまう恐れがある」から。
痛みを感じないとは、決して外部から物理的に受けた攻撃だけではない。
例えば虫歯が痛み出してもわからないし、ガンに蝕まれても痛みを感じないことになる。
だから万が一物を食べてかみ合わせを間違えた際、歯の力も加減できないし、舌を噛んでも反射神経が作用しないってこと。
え、結構深刻じゃないかと。
ネイサンのルーティーンはこれだけではない。
定期的に鳴る腕時計のアラームは、「トイレに行く」合図だという。
そう、膀胱に溜まった尿すらも感じることができないのだ。
だから3時間おきにトイレに行って用を足さなければ、大変な事態になるらしい。
ネイサンが抱える疾患は先天性のモノで、生まれた時から毎日両院が病院に運ぶほど壮絶な日常を送ったそう。
だからずっと家に閉じこもって日陰の毎日を送っていたことが窺える。
医者からも25歳までに死ぬとまで言われており、冒頭から笑顔で出勤する彼の表情からは想像もできない辛い過去が、会話の内容から少しづつ見えてくるのだ。
そんなネイサンにとってシェリーは正に日陰の自分にとっての太陽であり希望のような存在。
これまでまともに人付き合いをしてこなかったこともあり、上手く接するタイミングもなかったが、まさか意中の女性からアプローチされるとは思ってもなかったろう。
僕個人も陰キャで非モテなこともあり、彼がトントン拍子でシェリーとくっついていく描写はまるで自分の事のように嬉しく感じた。
一切痛みを感じないネイサンに対し、シェリーはというと自傷行為を繰り返すほどつらい日々を送っていたことが明かされる。
いくつも里親を渡り歩き12歳で養女として迎え入れられたが、急に大きな兄と両親ができたことに戸惑ったり、そこまで歓喜を築けなかったこともあり、18歳で独り立ちして今に至ったそう。
グループセラピーに通いながら自身が好きな絵画をしながら、シェリーは今を変えようともがいていたことが窺える。
そんなプライベートなことを語る中、「ノボカイン!」と声を糧画来る男性が一人。
彼は現れるや否や、ネイサンの首に腕を回し「お前まだ生きてたか!」といいながら腹にボディブローを2,3発ぶち込む。
仲が良さそうな雰囲気だが、ネイサンの顔は曇りがち。
そう、彼は学生時代にネイサンをいじめていた奴の一人で、殴っても痛みを感じないことに目をつけ散々殴っていた奴だったのだ。
ここでようやくタイトルの「ノボカイン」の意味が明かされる。
観賞前から主人公の名前がノボカインて変だなと思っていたが、実際はこの彼から局地麻酔薬という意味のあだ名をつけられていたわけ。
シェリーはあだ名こそクールだと茶化したが、ネイサンがトイレから帰ってくるとそのいじめた男と仲良くしていた姿を見て、ネイサンは瞬時に現実を突きつけられる。
結局女はああいう陽キャがタイプなのだ、そう自分に言い聞かせながらシェリーが頼んだ酒を3人で乾杯することに。
するとその酒は激辛のチリペッパーソースで、痛みを感じる彼はただ一人悶絶する羽目に。
ネイサンをバカにしたシェリーの仕返しだったというわけだ。
こうして、痛みを感じない男と痛め続ける女、互いの秘密を明かすことで急接近する2人が光らうのは必然だったわけだ。
晴れて結ばれた二人だったが、ここで一つの疑問が浮かぶ。
いくら映画にしても、トントン拍子にことが上手く行き過ぎやしないか?と。
きっと冷静に見てる人なら思うはずだが、僕はこの時ネイサンと同化していたこともあり、気づく事すらできなかった。
それは後程語るとして、翌日出勤したネイサンは意気揚々と働く。
出勤前にはようやく食べても問題がないことをしり、ミキサーに入れるレモンを頬張ってみる。
初めて食べたチェリーパイの味が格別だったように、レモンも恋の味だったに違いない。
なるべく浮かれないように勤務するが、どうしたって浮かれてしまう。
デスクで足をばたつかせながら、早くシェリーに一言声をかけたい。
そんなネイサンの満面の笑みに誰もがニヤケてしまうだろう。
しかしサンタの格好をした客が銀行を占拠し始める。
銃を乱射し警備員を殺害、挙句の果てには金庫の暗証番号を吐かない支店長を、「顔を見られた」という理由で射殺してしまう。
窓口対応をしていたシェリーはその場で蹲っていたものの、警察からの発砲を防ぐための人質として連れていかれてしまい、犯人から暴行を受けて失神していたネイサンは、彼女を救いたい一心で、ムチャな行動に打って出る。
2幕からユーモア描写が連発。
1幕は思っていた以上に哀愁のあるな描写が続き、徐々にほのかなラブロマンスへとシフトしていくシリアスな内容だった。
しかしシェリーが連れ去られてからの2幕は、ネイサンの特性を活かした激しい攻防戦をメインに、笑いとアクションで見せていく。
2手に分かれた犯人の片方を追いかけるネイサンは、警官から盗んだ拳銃を使って、仲間の居所を聞きだそうと試みるが、無論犯人がそんなこというはずもない。
逃げ込んだ先のレストランの厨房で、二人は取っ組み合いの肉弾戦をおっぱじめていく。
銃を奪われたネイサンはアツアツのフライパンで応戦。全く熱さを感じないネイサンとは違い、フライパンをしっかり受け止めた犯人はあまりの熱さに狼狽える。
終いにはフライヤーに落下した拳銃をネイサンが素手で救い上げ、相手の腹めがけて一発発砲してジエンド。
生まれて初めて発砲したこと以上に、人を殺めてしまったことに大いに戸惑いを見せるが、相手の攻撃を避けるための策という正当防衛であり、何よりもシェリーを救うためには仕方のないことだと割り切り、犯人の胸ポケットから携帯を奪い、主犯格のアジトの手かがりを探し始めていく。
ネットゲーム仲間のロスコ―に協力を依頼し、犯人が掘っていたタトゥーから店を割り出すことに成功したネイサンは、自分自身でタトゥーを掘っていたこともあり、客として潜入。
屈強な彫り師に殺した犯人の素性を聞きだすが、結局ウソがばれてしまったことでバトル開始。
素手で殴っても全く効かない相手に対し、ネイサンは折れたバットを倒れて潰しにかかる相手の体にぶっ刺しダメージを与えると、割れたガラスを拳で叩きまくり、相手の顔めがけて殴りかかる。
もちろんネイサン自身に痛みはないが、見てるこっちはどう見ても痛々しく見えるので、顔をしかめてしまうこと必至だ。
劇中見ていて疑問に思ったが、ネイサンという男は一度人を殺めただけでこうも簡単に人を傷つけることに抵抗はないのかと思ってしまった。
痛みを感じない男は、こういうあたりも麻痺してしまうものなのか。
無事殺してしまった犯人の名前を聞きだせたネイサンは、警察に犯人の仲間と容疑をかけられ面倒になっていく中、信用組合の顧客リストから住所を突き止め、その場に向かう。
やってきた家には退役軍人ならでは(?)の仕掛けが多数あり、トラップボタンを踏んでは背中に鉄球を喰らい、クロスボウから飛び出した矢が足に刺さり、終いには吊るし縄で自ら捕らわれてしまう。
そこでロスコ―に助けを求め無事脱出できるかと思いきや、そこに殺してしまった犯人の兄がやってきてしまい、事態は再び修羅場に。
軍人時代に覚えた拷問で犯人はネイサンを痛めつけるが、爪を剥がしても、足に刺さった矢でグリグリされても、ネイサンには全く効かない。
しかしロスコ―が来るまでの時間稼ぎをするために一生懸命「痛いフリ」をするネイサン。
このシーンでは、犯人には痛がってる姿を見せなくてはならないが、我々客には痛くないことを伝えなくてはいけないため、その騒ぎ方が絶妙なのが大変面白かった。
決して余裕がある状況ではないが、内心痛みに関しては余裕だということを我々にだけ見せなくてはならないという芝居を、まだこれからの俳優がいとも簡単にやってしまう凄さを感じたシーンでした。
最後はマウントポジションで絞殺しようとしてくる相手に対し、足に刺さった矢の先端をこめかみに突きつけ両足でロックして殺害するという、これまで見たことのない殺し方でジエンド。
このアイディアもさすがだなと感心しました。
このように、痛みを感じない特性をユーモアに見せながら、中々激しい描写を見せつけることで、見てるこっちは痛々しくて目を伏せてしまうシーンの連発。
おまけにタカが外れたのか平気で人を殺めてしまうような、サイコパスギリギリな殺し方まで見せるネイサンの姿に、ちょっと恐怖を感じるまでに。
クライマックスでもとっておきのアイディアで敵を仕留めるのが痛快なので、最後まで楽しんでほしいところ。
最後に
1幕で頭をよぎった疑問の回収について。
なんと犯人グループのリーダーは、シェリーの兄貴だった。
シェリーは、ただネイサンが気になっていた存在だからアプローチしたのではなく、信用組合の副支店長で金庫の暗証番号を知っているから近づいたということが、兄の口から明かされる。
痛みを感じない男でも、心の痛みは痛恨の一撃だったに違いない。
ここまで必死で彼女の身を案じながら探し出したのに、たどり着いた答えは全く予想だにしないもの。
ただシェリー自身も最初は兄に協力をしてはいたモノの、支店長を殺害するような行為は容認していないし、実際ネイサンと秘密を明かし合ったことで気持ちが揺らいだのは本当だった。
人生を変えたいという思いはネイサンと同じであり、このまま兄にくっついていては再び自傷行為も免れない。
こうして二人の間に灯された愛が事態を変えていくクライマックスは、1幕と2幕の要素をフル活用して盛り上がっていく。
総じて楽しい映画ではあったものの、ネイサンと犯人を追う警官の使い方には難あり。
間抜けにも程があるキャラになっていたり、犯人を追う要領の悪さも露呈して非常に勿体ないキャラだった。
女警官のバディももう少し良い使い方があっても良かった気がする。
他にも、急に人を平気で殺めてしまうネイサンの心境ももう少し躊躇する描写や、やるしかなかったような心境があっても良かったと思う。
痛みを感じないだけにずっとヘラヘラしてる分、そうした内面が失われてしまっていたのもん残念なところ。
また1時間50分の内容にしては、順序よく場所を変えてアイディアを見せるだけの描写に留まっていて、間延びしていたのも事実。
退役軍人の部屋の仕掛けはさすがにおかしいし、ネイサンが色々やらかした割には「中流階級の白人」だからと色々免除されるってセリフも、別に言わなくても良かったのではと疑問を感じてしまった。
とはいえ、疾患を持つ人たちに配慮した描写や、それを個性だと訴える一方で、痛みを感じないキャラが痛みを伴わずに立ち向かう一途な姿をしっかり描いたのは好感が持てた。
あとはもっと80年代のノリをふんだんに見せたら最高でしたね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10