ラーヤと龍の王国
かつてディズニープリンセスは「シンデレラ」や「白雪姫」における、「王子様を待つヒロイン」像が強く描かれていましたが、時代の変化と共にディズニープリンセス像も変化を遂げていきました。
記憶に新しい「アナと雪の女王」もそうですし、海へと冒険に繰り出す「モアナと伝説の海」も、ゲームの中のお話「シュガー・ラッシュ」だって、これまでのディズニープリンセスではありません。
これまでのプリンセスと近年のディズニープリンセスが明らかに違う点のは、知性や勇敢さ、自立して行動するという性格がキャラクターに宿っている点。
アナとエルサが姉妹で力を合わせて問題を乗り越えたり、モアナは男性を恋愛対象としてでなく「相棒」として描くなど、女性が恋愛だけでない部分も強く描かれていくようになりました。
そんな時代の変化に合わせてテーマもキャラクターも変えてきたディズニーが、次に描くオリジナルアニメーション映画は、一人の女性と龍の物語。
最後の希望である女性が、バラバラになった世界を取り戻す冒険譚だそう。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
ディズニー59作目となる長編映画は、「モアナと伝説の海」以来のオリジナルアニメーション。
龍の石の守護者が、再び魔物たちの手によって脅かされてしまう世界を守るため、最後の龍を蘇らせ平和へと導くスペクタクルファンタジー。
ベイマックスを手掛けた監督と、オバマ元大統領も絶賛の作品を手掛けた監督が共同制作。
東南アジアをイメージした架空都市を舞台に、自分だけを信じてきた主人公が、他者と信じあう心こそ大切なものと気づいていく。
本作は、劇場での公開に加え、ストリーミング配信サービス「ディズニー+」のプレミアムアクセスにて視聴可能。
新作なのに自宅でも視聴できる選択となっています。
果たしてラーヤは最後の龍を蘇らせ、世界を平和へと導くことができるのか。
あらすじ
その昔、この王国は聖なる龍たちに守られ
人々は平和に暮らしていた
邪悪な魔物に襲われた時
龍たちは自らを犠牲にして王国を守ったが
残された人々は信じる心を失っていった…
500年もの時が流れ
信じる心を失った王国は、再び魔物に襲われる
聖なる龍の力が宿るという<龍の石>──
その守護者の一族の娘、ラーヤ(CV:ケリー・マリー・トラン/吉川愛)の旅が始まる。
遠い昔に姿を消した “最後の龍”の力を蘇らせ
再び王国に平和を取り戻すために…
監督
本作を手掛けるのは、ドン・ホールとカルロス・ロペス・エストラーダ。
本作の監督、実は他にも共同監督としてポール・ブリッグスとディーン・ウェリンズ、ジョン・リパという方々も加わっていて非常にややこしい製作陣になってますw
この中でも特筆したい人物は、カルロス・ロペス・エストラーダ。
元々低所得層の地域だった場所が、様々な都市開発によって地価が高騰し、富裕層が流入してくる現象「ジェントリフィケーション」を下地に、保護観察期間を乗り切ろうと奔走する黒人と、幼馴染の白人二人を描く「ブラインドスポッティング」を手掛けた方。
肌の色など関係ないと仲良くしている二人にも、2つの視点を同時に見ることができない=ブラインドスポッティングがあり、観てる我々も、同じ境遇の二人なのに肌の色が違うだけでこんなにも捉え方や見方が違うのかと驚かされます。
また監督の音楽やユーモアセンスも光ってるのが特徴的。
まさかディズニーに参加してるなんてすげえぞ監督!という気持ちです。
大出世した彼の作品。
大いに期待したいところです。
キャラクター紹介
- ラーヤ(CV:ケリー・マリー・トラン/吉川愛)・・・クマンドラに住むひとりぼっち”の救世主、バラバラになった世界の“最後の希望”。幼い頃のある出来事によって父を失い、自分だけを信じ“ひとりぼっち”で生きてきた。
- シスー(CV:オークワフィナ/高乃麗)…かつて龍の王国<クマンドラ>が魔物に襲われた時、王国を救ったとされる伝説の“最後の龍” 。いまや力を失っており、その魔力を取り戻すため、ラーヤと共に5つの<龍の石>を探す旅へー すぐ人を信用してしまう性格。
- ベンジャ(CV:ダニエル・デイ・キム/森川智之)…ラーヤの父親。
- トゥクトウク…人を信じることができず、‟ひとりぼっち”で生きてきたラーヤの幼い頃からの親友で相棒。成長して大きくなると体を丸める事で、ラーヤを乗せて高速移動、乗物にもなる?
- ブーン…ラーヤ&シスーの最初の危機を救う10歳の少年。船上レストランのオーナーで、マネージャーで、チーフで船長と多才。彼もまた家族を、魔物<ドルーン>によって失っている。
- トング…見かけは巨大で荒々しく、獰猛な戦士。でも本当は子供たちのことが大好き。厳しさと穏やかさを併せ持っている。
- ノイ…まだ話すことができない2歳の女の子ノイ。 いつも3匹一緒のオンギたちを従える、盗人集団。
- オンギ…いつもどんな時も、3匹一緒のオンギたち。 まだ話すことができない2歳の女の子ノイをトップに、可愛いさで油断させる盗人集団。アクロバティックな連携プレイで相手を翻弄!?(以上公式twitterより)
これだけキャラがパーティーとして冒険するのなら、もはやドラクエのようなRPG感が漂ってて、すでに面白そう…
きっと内容もテーマも記憶に残る物語なんでしょうね。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
「信じあう心」こそ世界を一つにできるたったひとつの近道。
既視感のある要素を敢えて真正面から描いた王道ファンタジー冒険活劇でした!!
以下、ネタバレします。
ベタだけど良いのよ。
守り神である龍の消滅により分断されてしまった架空の国クマンドラを舞台に、石にされてしまった父を蘇らせるために旅を続けるラーヤの物語は、東南アジアの雰囲気を漂わせる世界観や、一つずつクエストをクリアしていくRPG要素、愛くるしいデザインの仲間たちとの出会いと結束、そして何より世界を平和に導くには「疑う心」や「欲に溺れる弱さ」ではなく、互いが「信じあう心」を持ち合わせることが何よりの近道であることをあえて捻りを入れずストレートに訴えることで、誰もがシス―のように純粋に受け入れることができる単純明快に仕上げた良作でございました。
今回字幕版を見たくて映画館へ赴きました。
大きな理由の一つに、時間の都合上スマホで見た「ソウルフルワールド」があまりにも良かったことから、改めてディズニーアニメのクオリティの高さと緻密なストーリー構成、そしてくすんだ心を浄化させるほどの高揚感を体感できたから。
スマホという小さな窓でここまで感動させてくれたのだから、映画館なら尚更だろ!と今回映画館で鑑賞しましたが大正解でした。
配給会社運営のシネコンが軒並み公開をしていない現状もあって、なかなか見に行く機会を得られない方も多いと思うんですが、まず先に是非映画館で見てほしいという思いを記したいと思います。
さて肝心の本作について、簡単に解説とあらすじの詳細を。
龍をかたどった川沿いを中心にしたクマンドラという国。
平和に暮らしていたはずが、ドル—ンという間者の襲来により、守り神とされた龍が身を挺して防いだものの消滅。
平和の象徴でもあった龍の不在により、残された人々は再び現れるかもしれないドル—ンに脅え、これまで持ち合わせていた「信じあう心」を失い、身を守るために分断し合ってしまう。
この時点でいかにも今のアメリカをモチーフにしている感じが透けて見えます。
白だ黒だと肌の色で分断したかと思えば、今度は右だ左だとわけ隔て合う。
SNSによる匿名の言葉によって誰もが「事実」や「真実」を見失い、攻撃したりされたりを繰り返す愚かな争い。
「両方を見ることができない私たち」を描いた「ブラインドスポッティング」同様、エストラーダ監督らしい設定だと思います。
月日は流れ500年後、クマンドラは5つの国に分かれ均衡を保っていました。
その中の一つで龍の玉を守り続けるハートという国の長ベンジャの娘ラーヤは、ま守り人としての特訓を父から受け、ようやく一人前に。
再びクマンドラを一つにするため集められた他の国の民を前に、長ベンジャは争うのではなく支え合い慈しみあうことを提案。
皆表向きは友好的に接しますが、経済的にも資源的にも貧しい他の国の人々は何もかもすべて豊かなハートの国、特に龍の玉が欲しくてたまりません。
ファング族の長の娘ナマーリと仲良くなったラーヤは龍の玉が置いてある泉に招きますが、仲良くしていたのは他の民をここへおびき寄せ玉を奪うための口実でした。
ダマされたラーヤは父と共に必死に玉を守りますが、はずみで落とし玉を割ってしまうことで、再びドル—ンが襲来。
人々は石となってしまい、世界は混沌を極めていきます。
父によって身を川に投げ入れられ一命をとりとめたラーヤは6年後、父を蘇らせるため、ドル—ンを封印した龍シスーの眠っている場所を求め、アルマジロと丘ダンゴムシのミックスの動物トゥクトゥクと共に孤独な放浪の旅に出るのでした。
何というか石になった父を元に戻すって設定が「ドラクエ5」を連想させてしまうのは僕だけでしょうかw
小川の果てにたどり着いたラーヤは復活の儀式を行いシズーを復活させます。
伝説の生き物の割には、とにかくペラペラしゃべるし調子はいいし人懐っこいシスー。
ラーヤは拍子抜けしますが、5つの国によって分け合ってしまう羽目になった龍の玉を再び一つに戻し、ドル—ンだらけの世の中を一掃すべく、シスーと共に冒険を始めるのでした。
果たしてラーヤは父を元に戻すことができるのか。
そしてクマンドラは再び一つに戻ることができるのか、というのが序盤までのあらすじです。
キャラ良しストーリー良しテーマ良し
今回特に良かったのがキャラクターたちの良さ。
東南アジアを意識したキャラクター構造なんですよね。
ラーヤはムーランよりも肌が少し黒目の人種で、龍の玉の守り人として身軽な剣術を武器に巧みなアクションをする女の子。
ナマーリとの一件で世界を分断してしまったことから、とにかく相手を信じることができない女の子として描かれていました。
龍のシスーは、とにかくおしゃべり。
500年眠っていた鬱憤が溜まっていたのかとにかく陽気にしゃべるんですよね。
水の魔力を持つ龍ということで泳ぐのが得意。
ブーンの船を早く進めるために自ら川の中に飛び込んで尻尾をフリフリしてグングン速度を上げていきます。
ラーヤと違ってとにかく相手を「信じる」信条を持っているシスー。
龍の玉を奪還する作戦だったり、ラーヤを手助けするために単身乗り込む際、すぐ人を信じてしまうことでダマされてしまうんですね。
この気持ちが物語の「核」になっていくんですけど、そもそもシスー自身たくさんいる龍の中でもそこまでの魔力や意志の強さを持ってなかった様子。
しかし実を犠牲にして魔力をたまに封じ込めた兄弟たちを信じる心と、自分を信じてくれた彼らへの思いを知ったからこそ「信じる」ことの強さをラーヤよりも信じていることが明かされます。
ちなみに龍の玉には、魔力を封じ込めた兄弟たちの力が宿っており、かけらを手にするたびにシスーは兄弟たちの力を手に入れるんですね。
霧を巻いたり雨雲を呼んで空中を走ったりとパワーアップできるのが本作の面白い設定だと思います。
オークワフィナが声の担当をしていることもあって、途中でラップを披露するのが非常に「らしい」し、横顔をじっと見ていると彼女の顔に見えてしまう不思議さ。
もしかしたらアニメータの人も意識して作ったのかな?
ブーンはナマーリ一行に追われたラーヤが逃げる一心で乗り込んだ船の船長兼コック。
金をせびる姿も見えますが、毒が入ってるんじゃないかと疑ってかかるラーヤと違い、気兼ねなく料理を振る舞う優しさをもっています。
彼もまたドル—ンによって家族を奪われてしまった生き残り。
ラーヤの話を聞いて冒険に参加します。
彼の作った料理がすごくおいしそうなので是非。
タロン族が住む街で出会ったのは、オンギーズという詐欺集団を率いる赤ちゃんのノイ。
かけらを取り戻しにトゥクトゥクと共に街へ繰り出す途中、泣いている赤ちゃんを発見。
ほっとけないラーヤはあやそうとするんですが、これが彼女の罠でした。
猿のような生き物のオンギ3匹によってこれまで集めた龍の玉のカケラを盗まれたラーヤは全速力で追いかけるんですが、オンギたちの身のこなしはわかるとしてノイの身体能力の高さよ!!
歩くのもおぼつかないくらいの年齢化と思ったら大間違いです。
壁を自由自在に登れれば、オンギと連係プレーで狭い穴もスルっと潜る柔軟性。
ただの詐欺師かと思ったらとんでもないイツザイで、思わずそのギャップの凄さに笑ってしまいますw
彼女もまたドル—ンによって母親を失っており、生き抜くための手段としての詐欺行為だったのです。
ラーヤはオンギーズを追い詰め、作戦を手伝ってもらうことから仲間に加わります。
船上ではブーンやトングらとともに和気あいあいの様子。
かくれんぼしたり飯を食べまくったりシスーにぶら下がったりと無邪気な子供だなぁと実感しつつも、いざ作戦実行となると別人のような動き。
是非このギャップを堪能してほしいと思います。
スパイン国に入ると、今度はトングというコワモテの男に捕まってしまうラーヤとシスー。
彼はその顔の怖さと強そうな姿から相手が怯えることが快感のようで、せっかく捕まえた二人をどう懲らしめようか悩みに悩んでも浮かばない様子。
ここはひとつ頼んでみるかとラーヤ。
実は心はとても優しく、すぐさま打ち解けて仲間に加わるんですね。
彼もまたドルーンによって子供を失っており、ノイを誰よりもあやすのが上手という見た目とは違う姿が見れます。
皆ドルーンによって家族も生活も奪われてしまった人たち。
ラーヤとシスーの掲げる目的に協力し、パーティーを組んでいく流れになってます。
もうほんとドラクエw
物語に関しては何度も言ってますが正にドラクエ感のある構成。
魔物によって壊された国を取り戻す龍の守り人が、伝説の龍や個性的な仲間とともに、保守に走るそれぞれの国の龍の玉のカケラを取り戻そうとするお話。
かけらを取り戻すことで力を手に入れるシスーや、幽遊白書の桑原の霊剣みたいに伸縮自在の剣を武器に戦うラーヤなど、東南アジアをイメージした舞台にも拘らずファンタジー要素抜群のRPGなんですよね。
テーマ性に関しても冒頭で書いた通り「信じあう心こそ平和な世界への近道」であり、互いを疑うことの「不安」や「弱さ」がドルーンを生み出してしまうわけです。
それに飲み込まれ心を石にしてしまうことが今世界で巻き起こっている分断へと繋がり、再び争いの火種になってしまうと。
とにかく「不安」や「弱さ」に打ち勝つには相手をまず信じることだとシスーは強く訴えます。
だから敵対するナマーリと拳を交えてしまうこともあるんだけど、ラーヤはしっかりシスーの教えを受けて、本当にすべきことは何なのかに対する答えに、相手に託すと追う選択をこれまでになかった答えだなぁと。
自分を信じてもらうにはまず自分がいてを信じることから始まる。
簡単そうで難しですもんね。
誰だって最初は腹の探り合いで疑ってかかるのが世の常。
どういう手を出してくるかとかどう思われてるかという雑念はまず置いといて、誠意をもって相手を信じてみようよという使い古されたテーマなのに、本作はどうしてこんなに人を信じてみたくなるんだろうという気にさせられます。
またアニメーション描写もすごい。
トゥクトゥクの皮膚なんかすごく固そうに見えるし、シスーの毛並みはフカフカそうだし泳ぐ姿も滑らか。
ドル—ンも紫と黒を基調とした雲や煙のような装いで、妙に気持ち悪い姿。
風景も深い森と川をベースにした開放感のあるもので、そこで縦横無尽に動くキャラクターたちが非常に映えます。
街並も水に弱いドル—ンの性質を活かして、皆水辺に街を作ってるんですよね。
この辺りが非常に東南アジアチックで、ディズニーの手にかかればじめっとしてそうな場所もカラっと美しく神秘的に描けてしまうのかと脱帽。
何よりアクションシーンが秀逸です。
女性特有のしなやかさをしっかり具現化し、スピーディーなカット割りや実写では難しいアクロバットなシーンもお手の物。
特にラーヤとナマーリのサシの対決はお見事です。
最後に
やはり物語の中身だけ見てしまうと凡庸だとかベタだとかって感想に行きつくかもしれないし、既視感によってあまり満足できない人も多いかと思います。
しかも女性の冒険もので、テーマも良くある話。
しかしこの一見よくある話に魔法をかけてくれるのがディズニー。
なぜか心洗われるかのような多幸感に導いてくれるんですよね。
きっとキャラクターの良さや映像表現に対する高レベルな描き方が主な原因なのでしょうか。
やはり表現に限界はないよな。
というか、ここへきて一周したものを提示するディズニーの力強さにやられたというか。
それか単純に魔法にかかっただけなのかw
にしても冒険ものファンタジーものってどの作品も心躍らせてくれるからいいですよね。
本作はディズニー+で課金すれば自宅やお出かけ先で見ることも可能です。
しかし!!
僕は本作は映画館で見ることを強く薦めます!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10