RUN
子供の頃よく「親の言うことはよく聞け」なんてこと言われたことあるかもしれません。
そりゃ子供ですから判断力も思考も未熟ですし、一度注意されても何度もやってしまうことから、親の感情が爆発して「言うこと聞きなさい!!」みたいになってしまいがち。
これ以外にも子供の周りにいる大人は、近所のオジサンオバサンや学校の先生然り、基本的に人生の先輩にあたるわけで、単純に上の立場なんですよね。
上の立場だから「正しい」という構図が当たり前にできてしまう。
それに対し子供は怒った顔の大人を見るたびに潜在的に「言うことを聞かなくてはいけない」思考になり、気づけば「空気を読む」ことや「自分の意見を言えなくなる」など、自ら考えて行動しなくなるようになるんだそうです。
親としては「素直でいい子」に育ってほしい願いはあるかと思いますが、「親の言うことを聞きなさい!」と押し付けるのはいかがなものかという話。
今回鑑賞する映画は、そんな親の言うことを聞いていたら、どうやら親が間違ってるんじゃないか?と疑いを持つスリラー映画。
全編PC画面で構成された「search/サーチ」で大ヒットした監督が手掛ける、新たなサイコスリラー。
早速鑑賞してまいりました!
作品情報
失踪した娘を探す父親の姿を、全編パソコンのスクリーン画面で捉えた映像で進行していくという斬新なアイディアで製作されたスリラー「search/サーチ」で大成功を収めた監督の最新作。
自分の面倒を全て見てくれる献身的な母親に、ひょんなことから疑念を抱くようになる車いすの娘の決死の逃避行を描くサイコスリラー。
前作ではフル活用されたインターネットは、本作では一切使用できない環境下で描かれる。
血のつながった親に全幅の信頼を寄せる子供が、歪んだ母性愛に恐怖を覚え疑いを持っていく設定は、ヒッチコック作品のような王道サスペンスを醸し出しながら、監督独自の新鮮な視点と独自のひねりを加えることで、今まで見たことのない感覚を得る事だろう。
オーディションで勝ち抜けた新人女優と、「アメリカン・ホラー・ストーリー」で怪演を見せたベテラン女優が、濃密な心理戦を展開していく。
怒涛のクライマックスはもちろん、衝撃のラストまで目が離せない。
これを見た後、母の愛に疑いを持つかもしれない…。
あらすじ
郊外の一軒家で暮らすクロエ(キーラ・アレン)は、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。
しかし常に前向きで好奇心旺盛な彼女は、地元の大学進学を望み自立しようとしていた。
そんなある日、クロエは自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアン(サラ・ポールソン)に不信感を抱き始める。
ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑のカプセル。
クロエの懸命の調査により、それは決して人間が服用してはならない薬だった。
なぜ最愛の娘に嘘をつき、危険な薬を飲ませるのか。
そこには恐ろしい真実が隠されていた。
ついにクロエは母親から逃れようと脱出を試みるが……。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、アニーシュ・チャガンティ。
冒頭でも書きましたが、全編PC画面だけで進行するスリラー映画「search/サーチ」の監督。
父が娘の行方を必死に探すお話ですが、冒頭のシーンが凄く印象的でしたよね。
PCのメニュー画面から起動音からYouTube動画に至るまで、家族の歩みとPCの歴史を同列で見せるアイディアには脱帽でした。
サスペンスとしても基本を忠実にした内容で、知らない娘の側面を見せながら不安を煽る演出や、PCやスマホを駆使して手掛かりを探す点もよくできていたと思います。
本作を製作するきっかけは、前作完成時の時だそう。
多くのギミックを詰めた前作に対し、一つの型にはまりたくないとの考えから全く逆を行く作品を制作したい欲が生まれたとのこと。
あくまでシンプルにクラシックにタイムレスなもの、自分でもこういう映画が作れるという証明にもできる作品にしたい考えがあったそう。
前作では父娘の関係をポジティブに捉えた物語でしたが、本作は母娘の関係をネガティブなものにさせる物語。
本作を見て監督の実力を堪能したいですね。
キャスト
娘を縛る毒親ダイアンを演じるのは、サラ・ポールソン。
作品情報でも書きましたが、TVシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」でシーズン毎に複数の役で出演し、エミー賞に5回もノミネートされるほど高い評価をされていいます。
ドラマをあまり見ないのでどれだけ凄い演技なのかはわからないんですが、本作に抜擢された要因は、恐らくこのドラマからなのではないでしょうか。
そんな彼女の出演作品をサクッと紹介。
テレビシリーズ「アメリカン・ゴシック」などに出演して以降、映画にも進出。
2000年代では、やり手の広告マンが、ふとしたことから女性の考えが聞こえてしまう奇想天外な設定のラブコメ「ハート・オブ・ウーマン」や、女性解放運動の作家とプレイボーイのロマコメ「恋は邪魔者」などロマコメ作品で活躍。
2010年代は、謎めいた危険な男と出会った少年二人組のビターな青春劇「MUD/マッド」や、普通の市民だった黒人が南部の農園に売り渡され、過酷な奴隷生活を送る羽目になる姿を描いた「それでも夜は明ける」、50年代のNYを舞台に美しい婦人に恋する女性の禁断の恋を描いた「キャロル」、「オーシャンズ」シリーズの女性版「オーシャンズ8」や、シャマラン監督発ヒーロー映画「ミスター・ガラス」など、話題作に多く出演しています。
近年では「カッコーの巣の上で」に登場した看護婦長を主人公にしたスピンオフドラマ「ラチェッド」で、板についた怖い女性像を本作でも発揮。
ゴールデングローブ賞で主女優賞にノミネートされました。
他のキャストとして、車いすの娘クロエ役に、本作のオーディションで抜擢され、実際に車いすで生活している女優キーラ・アレンが出演します。
シンプルな構成が故に本作が訴えたいテーマ性や、全体的なプロットが予想できる範囲とはいえ、驚愕のラストは気になりますし、何より結末までの過程がすごく楽しみです。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
映画『RUN/ラン』。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2021年6月18日
毒ママ怖かった😱😱😱😱 pic.twitter.com/FUj9mwh6Xl
正真正銘の「毒ママ」じゃねえか!!
徐々に不協和音が漂う戦慄の展開!
僕が思ってたような物語じゃなくて逆にヤラれました!
以下、ネタバレします。
「断崖」的な話かとばかり。
糖尿病に喘息など、複数の難病を抱えるわが子を献身的に世話する母親の本性を知った車いすの少女が頭脳を駆使して逃亡を図るも、一枚上手の母親に阻止され続ける姿を見せる物語は、ヒッチコックリスペクトであるシンプルなプロットに、不安を煽る劇伴や少女の顔演技が見事にマッチし、終始不快なサスペンス映画でございました。
僕はこういう類の映画を観る前に、あれこれ想像してしまう癖がありまして。
きっとこういう展開でラストのオチはこんな感じじゃないのかと、今回の映画も簡素由前にあれこれシミュレーションしてしまったわけです。
ヒッチコック作品を意識したという監督のインタビューを読んだことでさらに妄想は暴走。
母親に疑いを持ってしまう少女の決死の逃亡というあらすじから、僕は「断崖」のような展開とオチになるのではと予想してました。
魅力的だけどどこか怪しげな男性と結婚した女性が、結婚生活の中で夫に対し不信感を募らせ、やがて自分の身に危険が生じるのではと疑いを振り払えなくなっていく姿を描いたサスペンス映画。
もうお手本のような演出が随所に冴えわたっているし、名優2人の演技も素晴らしいし、何より夫人の視点で夫を見ていく流れなので、ホントにマジでこいつやべえ奴だな!って深い疑惑を抱きながら見ていくんですね。
最後の最後まで彼を信じていいかわからない見せ方なので、オチが分かっていても何度見ても面白いと思える映画です。
さすがにオチは伏せますが、要は本作も最後の最後まで母親が果たして毒ママなのか本当に心配しているだけのママなのかわからずに進んでいくんじゃないのかと予想してました。
実際ふたを開けてみたら、全く違う展開になっていて、僕の予想はいい意味で外れて良かったということをまずはじめに言っておきたかったんですw
巣立ちたい子、そばに置きたい親
というわけで本作の感想です。
幾ら難病を抱えていたとしても親元を離れ自立したい気持ちってのはあるわけですよ。
その気持ちを理解しておきながらも自分のそばにいつまでも置いておきたい親が、実は行き過ぎた行動をしていたので、娘にとっては恐怖なわけです。
正直親の気持ちもわからんでもない。
だって痛い思いをして生んだ子が、まさかの未熟児。
しかも片親なわけですから、子育ても人一倍苦労したことでしょう。
いつ病気が悪くなるかわからないわけですから、眠れない日々もあったはず。
そんな思いまでして育てたのに、ワシントン大学に行って寮で過ごしたいと言われた日にゃ悲しくて仕方ないのかなと。
だけど、この親の考えがマジでヤバい、いやヤバすぎるだろってのが本作の見どころでして。
要は劇中で母と娘がしっかり真相について対話せずに、一方的に娘が母親に不信感を募らせていくからサスペンスになってるんですよね。
この時点でしっかり話し合えばいいのになんて思ってしまう人は、こういう類の映画に向いてないのかもしれません。
もちろん見方は人それぞれですが。
そして実はこの母親が我々が思う領域を遥かに凌ぐ「毒ママ」だってのが明かされることで、身の毛がよだつほどゾッとする展開になってるわけです。
とりあえず解説しながら詳しい感想を。
クロエの病気についてまず把握しておかなくてはいけないのが本作の肝。
糖尿病、下半身麻痺、喘息・・・あと忘れたw
一応冒頭で併発している病名と詳細が表示される所から始まるので見逃さずに。
未熟児として生まれてしまったことが原因で、いくつもの病気を患ってしまったことが明かされるんですね。
ものすごく小さい体で呼吸器やらなんやら器具がついたまま、息も絶え絶えな状態で呼吸している姿に、良かった!生きてて!なんて最初は思ってしまうんですよ。
そこから急に時代は変わり、クロエの一日のルーティーンが描かれます。
起床して車いすに乗り、トイレで痰を吐いたらたくさんの薬を飲んで朝食。
血糖値を計って、お母さんにストレッチを手伝ってもらって自宅で学習。
食事は自宅で栽培された野菜を中心に、色とりどりのメニューが並びます。
基本プレートで出てくるような一品料理ですが、栄養バランスがめっちゃ高そうですし、何よりインスタ映えしそうな色どり。
これならクロエも低血糖にならんだろうと思えるし、お母さん毎日頑張ってるなぁなんて、この時は安心して見てられるんですよね。
いつも決まった量のおやつも出てきて、クロエとの仲も良好な姿を序盤で見せています。
しかしある日、いつも処方してもらっていた薬品会社が倒産したことで、いつもと違う薬を処方されたことから、母親に対する疑惑が膨れ上がっていくんです。
翌日、買い物してきたお母さんの目を盗んで、おやつのチョコをガメろうと買い物袋の中に手をツッコんだら、お母さんの名前で書かれた薬が出てきます。
緑とグレーの色をしたカプセルは、その日の夜クロエが眠る前に飲む薬の中に紛れ込んでいました。
これお母さんの薬でしょ?アタシ見たんだよ買い物袋の中にお母さんの名前で書かれた薬が入ってたのを。
お母さんは勝手にチョコを取ったらダメでしょ、いつも決まった量でないといけないのと話をそらします。
結局勘違いと言われ、渋々薬を飲んでしまうクロエ。
どうしても知りたい欲求が抑えられないクロエは、母の留守中に手製のハンドアームで洗面台の上に置かれた薬のケースを入手。
確かに表の表示には自分の名前が記載されてますが、ラベルを剥がすとお母さんの名前が書かれてることに気付き、不安を一気に募らせていきます。
なぜ母親はこれを隠して自分に投与させているのか。
剥がれたラベルには「トリゴキシン」と名付けられた薬品名が。
お母さんに知られないよう、夜中にこっそり起きてリビングにあるパソコンで検索してみることに。
しかし!!
パソコンはインターネットに接続できず、回線が切断されていました。
さらに不安を募らせるクロエ。
その奥ではうっすら母親の影が・・・こわっ!!
今度は母親が外にある家庭菜園に水を撒いているのを見計らって、薬局に電話してみることに。
しかし番号表示されていたことから、素性がバレてしまうためにすぐさま電話を切ってしまいます。
番号案内で適当な薬局を探しますが、対応の遅さや一度母親が家の中に入ったタイミングで切ってしまいます。
今度は見知らぬ人にネットで検索してもらおうとチャレンジ。
彼女との仲が微妙そうな若者に繋がり、何とか説得し「トリゴキシン」を検索してもらうんですが、カプセルの色が違うことから戦意喪失してしまうクロエ。
この一連の場面は、窓の外を伺いながら、いつ母親が家の中に入ってくるかドキドキしながら見せていくんですね。
電話も窓から離れている場所に置いてあり、電話、窓、電話、窓、と忙しいクロエを見せることでドキドキするシーンとなっています。
ネットも使えない、電話も空振り、しかも書かれた薬品名は全くの別物。
どうしよう、こうしようということで、お母さんを映画に誘い外出にこぎつけます。
上映中にトイレに行くふりをして、かかりつけの薬局に向かう作戦を決行。
予定通り薬局へたどり着くも、先頭のおばあちゃんに時間がかかっていて行列が!
障がい者の特権を使って、すぐレジにたどり着いたはいいが、母親に処方された薬のため、幾ら娘といえども個人情報を教えることはできないと却下されてしまいます。
これはゲームだとあれこれ言い訳を作って見るも、規則は規則!と却下されますが、実は娘の名前で動物病院から処方された薬であることが発覚!
犬用の薬で筋肉の硬直を和らげる名目の薬でしたが、人間が飲んではいけない薬だったのです。
ここで母親改め「毒ママ」登場!
周囲の客を遠ざけたのを見計らってももに注射を刺して眠らせる毒ママ。
この時点で、このお母さんクロエの思った通りだなと確信めいた感覚が生まれるはず。
こうしてクロエは薬の中身を知ったことで、毒ママから注視される羽目に。
部屋から出ようにもデッキブラシで固定され中から出ることができず、知恵を絞って外から屋根を伝って別の部屋に移動する暴挙に出たり、2階から降りる車いす用の乗降装置の配線が切られていたり(電話線も切れてましたね…)、身を投げ出して階段から転げ落ちてかなりの大怪我をするも、必死の逃亡を図るクロエ。
道中郵便屋さんに出くわし事情を話して介抱してもらいますが、ここ毒ママの買い物帰りに遭遇!
郵便屋さん、クロエのために頑張って毒ママに渡さないよう制止しますが、結局毒ママの術中にはまり命を落としてしまうことに…。
ここから先の展開は核心に触れてしまうので伏せますが、既にここまでの話の流れで、毒ママは正真正銘アウトな人物であることはお分かりいただけるかと思います。
この後はさらに驚愕の事実が待ってるんですけども、クロエがとんでもないことをしてまで毒ママから逃れようとするのと、その先もドキドキの展開になってるので期待してほしいですね。
最後に
ここまで煽っておきながら、ヒッチコック的な撮影方法とか使わないのかぁと残念な箇所も。
それこそ屋根の上を下半身まひ状態で移動する件は、きっと彼女からしたら高さに慣れていないことから相当な怖さだったと思うんです。
だから「めまい」のような撮影方法で演出してみるとかしたら、あのシーンはもっとドキドキするんじゃないかなぁと。
他にも家の中でもっとドキドキできるような展開でもよかったかもしれません。
一度外出してしまうと、何でもありな気がしてしまうし、逆に外出したならもっといいパターンあるだろうと。
あとはもう冒頭のシーンですよ。
未熟児として生まれた赤ちゃんが呼吸器付けて安堵の表情を浮かべるダイアンが、ぼそっと一言発してしまうことでオチが読めてしまう。
あ、これはきっとあれかと。
わざわざ言う必要なかったのになぁと。
とはいえサラ・ポールソンの猟奇的な怖さは本作で十分に活かされていますし、それ以上にクロエ役のキーラ・アレン巧い表情を見せてくれるので恐怖感は倍増です。
実際足が不自由なのに、ずいぶん体張った演技してて、マジもんのリアルでしたね。
さすがに階段から落ちたシーンは別人だろうけど。
とにかく子供に依存している母親を極限的に怖く見せているので、反面教師的に見てもらえればw
いや!子供を愛するってことは素晴らしいんですよ!でもねっていう。(必死の弁解)
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10