最後まで行く
汚職刑事が登場する映画は山ほど存在します。
個人的に好きなのでいえば「県警対組織暴力」ですとか「L.A.コンフィデンシャル」、「トレーニングデイ」や「フェイクシティ ある男のルール」、ゲイリー・オールドマンが金と女と欲にまみれた「蜘蛛女」なんてのもありますね~。
とにかく汚職刑事は犯罪組織とつながっていて、しかも一人ではなく警察組織自体が腐敗しているケースが多いです。
現実ではこういう状況になってほしくはないのですが、たぶん探せばいるんでしょうね…。
今回観賞する映画はそんな「クズ」刑事が負の連鎖に巻き込まれていく姿をコミカルかつサスペンスチックに描いた韓国映画のリメイク。
あまりの巻き込まれ具合に「ご愁傷様」と言いたくなるんだけど、どんどん事情が変わっていくことで主人公に何とか助かってほしいと肩入れしてしまう面白さが、オリジナル版ではありました。
そんな主人公の万事休すな事態を、ギリギリのところで回避するヒヤヒヤ感が楽しかったんですが、リメイクはそういう所も面白くできているのでしょうか。
個人的には藤井道人監督ってことであまり期待していないのですが、リメイクなら大丈夫かなと…。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
韓国で5週連続No.1に輝き、総動員数345万人という驚異のヒットを飛ばし、中国やフランスでもリメイクされたクライムサスペンスを、現在の日本映画をリードする存在とっても過言ではない藤井道人監督の手によってリメイク。
運悪く人を刎ねてしまった刑事があらゆる手を使ってもみ消そうとするが、その現場を見ていた監察官から脅迫を受け、極限まで追い詰められていく姿をユーモアを交えながらもノワールチックにノンストップで描く。
「新聞記者」や「ヤクザと家族」、「ヴィレッジ」、そして大ヒットした「余命10年」など社会問題を提起したシリアスな作風から、淡い青春の1ページを描くなど、幅広い作品で活躍する藤井道人監督.
本作では、年の瀬の96時間という制限された時間を、圧倒的な緊張感とスピード感、その中で時折見せるコミカルな演出と、絶妙な緩急を使って展開。
手に汗握るノンストップエンタテインメントとしてリメイクさせた。
また、主演には「ヘルドッグス」「ザ・ファブル」などで日本が誇る名アクションスターの称号を手にしたといっても過言ではない岡田准一。
ただ逃げたり隠ぺいするだけではない刑事の姿を、おなじみのアクションからキャラを見せていく。
そして主人公と対立する監察官役には、藤井監督作品でもおなじみの綾野剛。
かつては「GANTZ」や「るろうに剣心」、「亜人」、そして岡田と共演した「SP」などで激しいアクションを披露していることもあり、悪役を何度も演じてきた彼にふさわしい配役となった。
他にも岡田演じる工藤の別居中の妻役を広末涼子、車に轢かれた青年役を磯村勇斗、工藤の同僚役を駿河太郎、上司役を杉本哲太、そしてオリジナル版では登場しないヤクザの組長役を柄本明、監察官の妻役を山田真歩などが演じる。
危機、裏切り、罠、そして最後に待ち構える衝撃のラスト。
ヤバイ男とマズイ男の一騎打ちをとくと見よ!
あらすじ
年の瀬も押し迫る12月29日の夜。
刑事・工藤(岡田准一)は危篤の母のもとに向かうため、雨の中で車を飛ばす。
工藤のスマホには署長から着信が。
「ウチの署で裏金が作られているっていう告発が週刊誌に入ったが、もしかしてお前関わってるんじゃないか?」という淡島からの詮索に「ヤバイ」と血の気が引く工藤は、なんとかその場をやり過ごしたものの、心の中では焦りで一杯になっていた。
そんな中、美沙子(広末涼子)から着信があり、母が亡くなったことを知らされた工藤は言葉を失うが、その時、彼の乗る車は目の前に現れた一人の男を撥ね飛ばしてしまう。
すでに彼A絶命していることがわかると、狼狽しながらもその遺体を車のトランクに入れ立ち去った。
途中、検問に引っかかるも何とかその場をごまかし署にたどり着いた工藤は、署長に裏金の関与を必死に否定し、その場を後にする。
そして母の葬儀場にたどり着いた工藤は、こともあろうに車で撥ねた男の遺体を母の棺桶に入れ、母と共に斎場で焼こうと試みる。
その時、工藤のスマホに一通のメッセージが入る。
「お前は人を殺した。知っているぞ。」というその内容に、腰を抜かすほど驚く工藤。
その後メッセージは「死体をどこへやった?言え」と続く。
まさか、あの晩誰かに見られていたのか?
そのメッセージの送り主は、県警本部の監察官・矢崎(綾野剛)。
彼もまたある男が行方不明となり、死んでいたことが判明しに動揺していた。
そしてその男こそが、工藤が車で撥ねた人物だったのだ。
さらにその裏には、矢崎が決して周囲に知らされてはいけない秘密が隠されていた。
追われる工藤と追う矢崎。
果たして、前代未聞の96時間の逃走劇の結末は?
そして、男の遺体に秘められた、衝撃の事実とは!?(HPより抜粋)
感想
#最後まで行く Filmarks試写にて。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) May 9, 2023
年の瀬に次々と不運が降りかかるクズ刑事の4日間。砂漠のトカゲがひょこひょこする姿を笑え!追い詰められる岡田准一の表情を久々に見た気がするし、対立する綾野剛のヤベェ表情も拝めた。
オリジナル版の韓国映画を観てる人でも楽しめる改変とサスペンス感。 pic.twitter.com/PwLsc1Lgn0
クズい刑事VSヤバい刑事が激突する96時間!
明日を拝めるのはどっちだ!
全体的にはオリジナル版と同じだけど、日本風な改変と主演二人の背景を対等に見せることで面白さが加速。
モンキー的には特に後半からの展開は笑い含めてよかったです!
以下、ネタバレします。
実はどっちも追い詰められてる男
母の死、ヤクザから裏金授受リーク、そして人を轢く、それをネタに追われるという不運の連続に見舞われてしまった男と、とある理由で彼を追い詰めていく男の胎児を描いた本作は、オリジナル版である韓国映画のプロットをしっかり踏襲しながら少しずつ改変を施し、徐々に日本式の「最後まで行く」を完成させた見事な脚本と、コミカルさとシリアスさを絶妙な塩梅で演技をした岡田准一と綾野剛の対峙が見事なリメイク映画でした。
オリジナル版を観賞しての本作。
企業の巨悪や韓国の歴史といった社会派な面をしっかり描きながらハリウッドナイズな演出でブランディングを続ける韓国映画は、作品を見る毎に日本映画との差を突き付けられている気がして、毎度驚かされています。
しかしこの「最後まで行く」のオリジナル版に関しては、正直あまりハマらなかったんですよね。
基本的には賛なんですけど、こんなに尺を使わずとも話を展開出来たろうという点や、ひとつひとつのエピソードに諄さを感じてしまったんですよね。
それこそ検問での件や死体隠しのミッションシーンなどをコミカルに見せてはいたんですけど、笑いを作りたくいがために尺を伸ばしてる気がしたというか。
しかも個人的にその笑いが僕と合わないって部分も含めて長いなと。
またこれはリメイクである本作が巧く改変したなぁという点に繋がるんですけど、追う側の刑事の背景がセリフだけなため、なぜこんなにも執着してるのかが単純化されておらず、追われる側の主人公の視点ばかりなんですよね。
もちろんオリジナル版はそういう趣旨の作品だったのかもしれませんが、サシの勝負になっていく以上、両方の背景をしっかり見せてほしいと思うわけです。
じゃあ今回のリメイクはどうだったのかというと、僕と藤井監督が同じ思いだったのか、それとも綾野剛の所属する事務所からの圧力なのかはわかりませんが(さすがにそれはねえかw)、追う側である綾野剛=矢崎の背景をB面的な描き方で明かすのを後半で用意していたんですね。
僕はこのエピソードを入れたことが満足度を上げた大きな要因でした。
要は工藤だけでなく、矢崎も追い込まれていた。
そもそも工藤が追われてしまってるのは自分の落ち度ではなく、矢崎のせいだったというのを、後半矢崎の視点で見せるわけです。
ダイ・ハードのジョン・マクレーンのように不運まみれになっていく状況を土壇場でどう回避していくのかというハラハラでコミカルな姿を主人公側でやりつつ、事の真相はこうでしたってのを矢崎の視点で描くことでシリアスさが増していく。
こういう対比をもたらすことで、本作がオリジナルよりエンタメ性を高めていたように思います。
また藤井道人監督ということもあってか、韓国映画がオリジナルとばかりに警察組織や政治に携わる者たちの腐敗した状況や、工藤の裏金がはした金とも思えるほど巨額の資金洗浄を、まさかのお寺でやっていたという設定。
この金をめぐる争いを、工藤と矢崎、車に轢かれたチンピラという小者から、そのバックにいる汚職本部長、そしてヤクザという組織が絡んでくる構造になってました。
劇中では「砂漠のトカゲは熱い砂の上で手足を交互に動かしながら暑さをしのいでる、お前はそうやってそこから動くことなく一生を送るのか」という言葉が工藤の心を動かしていくんですが、本作はまさに砂漠のトカゲである工藤と矢崎が、そこから脱するために命を削って争うという構図になってるんですよね。
しかも何がおもろいって、砂漠にいるのか、いさせられているのかどっちなんだろうね、っていうのを最後に見せてくる辺り。
正直ここ数作の藤井道人監督作品は全然ハマってないんですけど、本作はこういうエンタメに振り切った演出や脚本になってて、それこそ変なテーマ性だったりメッセージ性を打ってないんで、説教臭い感じなってないし、それによって彼の職人監督としての顔がしっかり作品に出てたんですよね。
話は戻って。
本作の大きな改変部分はこの程度で、細かいディテールもかなり変えてましたね。
それこそオリジナル版では登場しない奥さんの登場。
オリジナル版では別居状態で、葬式を切り盛りするのは妹でしたが、今回は工藤のゴタゴタのために広末涼子演じる奥さんが切り盛り。
また追う側の矢崎にも奥さんがいる設定で、しかもこの事件の最中に挙式を上げているという新婚さん。
これもちゃんと理由があるために矢崎の腹の中がより理解しやすい設定でした。
さらにはヤクザの組長が登場。
工藤に裏金を渡している設定ですが、物語が進行していく毎に徐々に深く関わっていくという点もオリジナルとは違う点でした。
細かい点でもちょっとずつ変えてましたね。
検問シーンで矢崎と初対面を果たしていたり、娘のおもちゃを使って死体を棺まで移動させていたオリジナルとは違い、こっちは工藤自身が通気口を使って運ぶという体力勝負。
オリジナルの方がコミカルでしたが、こっちの方はさほど計画性のないやり口なために工藤ってそこまで頭良くないんだな…っていう馬鹿さ加減がコミカルさを掻き立てていたように感じます。
またオリジナル版は母親の遺体を土葬にしていたので、棺に隠した死体を夜な夜な掘り起こす姿が面白かったんですけど、さすがに日本版で土葬をやるわけにはいかないので火葬にして改変されてました。
これにより夜な夜な母親の棺を掘り起こすようなパートは描けないために、どうやって死体を回収するかをドタバタ風に描いてましたね。
さすがに火を入れたらもう死体は回収できませんからとっさの判断で回避するんですよね。
個人的には火がついた状態で「あっつ!あっつ!!」とか言いながら回収するのかと思いましたが、さすがにそれはないかとw
このようにちゃんとオリジナル版からの改変を施しつつ、2人の刑事をしっかり対等に描くことで物語を再構築させた巧さが際立った作品でした。
岡田准一と綾野剛
やはり本作を面白くさせたのは、主演の2人抜きでは語れません。
正直ヘタレ感を出す岡田准一っていつ以来だ?と思ったほど久々な「顔芸」炸裂のコメディセンスを見せてくれた岡田君。
冒頭怒り喚いていた岡田君が、どんどんピンチに追い込まれていくわけですが、この時の表情は最初の時点では、割と抑え目気味のリアクション芸だったんですよね。
オリジナル版は冒頭から主人公のダメっぷりを笑かす様に演出してたんで、その辺の差を感じてたんですよね。
というのも、岡田君の顔芸ないしリアクション芸を活かしたような演出ではなくて、シリアス目の劇伴を多用していたこともあって、笑かそうとしてなかったんですよ。
しかもこの重めの音楽を終始使ってるのも手伝って、オリジナル版可笑しかったパートをことごとくシリアスに見せてたんですよ。
だから「あれ…これ・・・失敗じゃね?」と。
少々雲行きの怪しい気持ちだったんです。
でも後半から、岡田君の顔芸が徐々にいい塩梅になってくんですよね。
一番印象的だったのは死体から回収したスマホの指紋認証を解除し、通話履歴から仲間である女性に電話を掛けたシーン。
中々連絡のつかなかった分まくしたてるかのように問い詰めてくる相手に対し「おぅ…おぅ…おぅ…お。おぅ…」と聞いたこともない男の声をまねて返事をするわけですよ。
しかも岡田君の顔がどんどん焦ってくし困っていくw
そうそうこれよこれ!
俺が待っていたのはこういうのよと。
緊張と緩和によって笑いもサスペンスも生まれるわけですが、ようやくずっと続いていた重々しい空気を、抑えた音楽と彼の表情によって変えていく瞬間だった気がします。
何~こういうの出来るんなら最初からやってよぉ~なんて不満もありますが、それこそ「木更津キャッツアイ」の時に培ったであろうコミカルな面を拝めた気がしますw
また彼に反するように存在するのが矢崎演じる綾野剛。
これまで色んな役を演じてきた彼ですが、今回は切れ者というかそこの知れないヤバさを感じさせる役柄で、後半描かれる彼の背景によってヤバさと怖さと、それを突き抜けた笑いが漂った演技でした。
まずね、今回インタビューでも書いてあったんですけど「右手だけで殴る」って設定にしたそうなんですよ。
それを事前に知ってたってのもあって注目してたんですけど、終始右手でぶん殴ってるんですよね。
岡田君をボコるときも素早く右手で殴りまくる。
本部長である義理のお父さんが、結果的に彼を追い込んでく立場なんですけど、さすがの矢崎もついにプッツン。
車に乗り込もうとする義父をこれまた右手でフルボッコ。
ヤバい役の時の綾野剛はホントヤバい奴ってわかってるのに、あ、ほんとやべえな…と改めて感じる鬼の形相。
なんていうんでしょうか、目がいっちゃってるんですよw
ちなみに目がイってる点でいえば、最後車で追いかけてくるシーンは激やばでしたねw
血だらけでアザだらけで目の焦点が合ってないのも手伝って、どれだけ執着してるんだこいつ…っていう怖さを見せて幕を閉じるっていうw
笑える点もちゃんとあるんですよね。
結婚披露宴で式場からのプレゼントってことで手形を取るんです。
でも実はこの手形、チンピラの仲間の女性が式場のスタッフに変装していたわけです。
隠し金庫の指紋認証ロックを解除するために彼の手形が必要だったわけです。
花嫁のお色直しの後、本物のスタッフから招待客の前で手形を取るという演目が始まったことで、自らの失態に気付いた綾野剛は、表情こそ笑顔を振りまいてるものの、しかめ面の義父を見ながら汗だくで気まずさを醸し出すというコミカルな姿を見せております。
僕は本作の出来は綾野剛のヤバさ次第だなぁと思ってたんですが、矢崎の背負わされてる状況、それによって様々な面を見せてくれたこと、こいつがどれだけ切羽詰まってるかによって生まれるサスペンス感含め、オリジナルより良かったなぁと思っております。
最後に
肝心のラストなんですけど、オリジナル版とは全然違う終わり方でびっくりしました。
いわゆるハッピーエンドではないパターンなんですけど、冷静に考えて「最後まで行く」ってどういうことってのをちゃんと見せてくれたラストだったなぁと。
しかも今回の黒幕が一体どこから着手していたのかってのも見せて幕を閉じるっていう。
なんていうか、追う者と追われる者の争いだけではなく、二人とも追い込まれていて、さらには手の上で転がされていたみたいな、資本主義をおとぎ話風味で描いた構造というかw
相変わらず最後でドン!とタイトル出すのがダサいんですけど、これ無かったら「は?どゆこと?」ってなったかもしれないので、決してダメってわけではないピリオドだったかなと。
笑いに突いて強調したかのような感想になってますが、全編通してヒヤヒヤする内容ですので、しっかりサスペンスです。
もちろん札束が舞うクライマックスのアクションシーンはかっこいいですし、なんならボロボロで墓場の上を転がりながら激しくぶつかる姿も、これさすがにセットだよね?セーフだよね?と思いながら堪能できるので、違う意味でヒヤヒヤしながら楽しめるかとw
ただあれかな、岡田君やられっぷりがあんまし慣れてないのかなw
痛そうに感じなかったんですけどw
もっと痛みを表現してほしかったかなw
それでも楽しく見れたのでOKです!!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10