さくら
「さくら」という犬の名前がタイトルの本作。
うちの実家にもイングリッシュコッカ―スパニエルという長ったらしい犬種の犬がいます。
幼少のころに飼っていた初代から10年の月日が流れ、うちの実家に2代目としてやってきた愛犬は、外の犬小屋で飼っていた初代と違い、がっつり室内犬として暮らしていました。
そもそもうちの家族はわりかし仲のいい方だと自負してますが、犬がやってきてからは、さらに会話が増えた気がする。
ひたすら膝の上に座って顔を嘗め回すこともあれば、大好きなブロッコリーやパンの耳欲しさに行儀よく待っていたり、日なたの前で愛くるしい表情を浮かべ眠りこける姿、庭にネコが来たり、雷が鳴ればとにかく暴れまわる。
騒がしいときもあれば穏やかな時もある犬を介して、家族が成り立っている。
とにかく犬がいないと、家族のコミュニケーションは以前のようなレベルになるのではないかと思うほど、一家にとって大事な一員です。
今回鑑賞する映画は、そんな一匹の犬と5人の家族が、バラバラになりながらも再び一つになろうとする、どこにでもありそうでない、きれいごとじゃない物語。
きっと本作も犬が欠かせない映画なのかなぁ、と妄想を膨らませています。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「サラバ!」で直木賞を受賞した西加奈子の2作目にあたる小説を映画化。
家族のヒーローであった兄の死により、バラバラになってしまった家族が、あるきっかけを境に再びつながろうとする姿を、愛犬と共に描く。
彼らに降りかかる様々な出来事や、かけがえのない人々との小さな幸せや、愛ゆえに起きてしまう葛藤など、家族の複雑な感情を惜しみなく描き、生きることの意味を丁寧に描いていく。
どこにでもいそうな家族に起きてしまった喜びと悲しみを、犬のサクラはどう見続けてきたのか。
主題歌には東京事変が抜擢。
物語で描かれるテーマ性に沿うように、脈を打つ歌詞とサウンドが見る者の心に浸透していくだろう。
旬の若手俳優とベテラン俳優陣という豪華キャストがどんな家族像を見せてくれるのかにも期待がかかる。
あらすじ
音信不通だった父が2年ぶりに家に帰ってくる。
スーパーのチラシの裏紙に「年末、家に帰ります」と綴られた手紙を受け取った長谷川家の次男・薫(北村匠海)は、その年の暮れに実家へと向かった。
母のつぼみ(寺島しのぶ)、父の昭夫(永瀬正敏)、妹の美貴(小松菜奈)、愛犬のサクラ(ちえ)とひさびさに再会する。
けれど兄の一(ハジメ)(吉沢亮)の姿はない……。
薫にとって幼い頃からヒーローのような憧れの存在だったハジメは、2年前のあの日、亡くなった。
そしてハジメの死をきっかけに家族はバラバラになり、その灯火はいまにも消えそうだ。
その灯火を繋ぎ止めるかのように、薫は幼い頃の記憶を回想する。
それは、妹の誕生、サクラとの出会い、引っ越し、初めての恋と失恋……長谷川家の5人とサクラが過ごしたかけがえのない日々、喜怒哀楽の詰まった忘れたくない日々だ。
やがて、壊れかけた家族をもう一度つなぐ奇跡のような出来事が、大晦日に訪れようとしていた─。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、矢崎仁司。
だいぶ前からご活躍されてる監督さんですが、すみません、彼の作品を見るのは本作が初めてになります…
勉強させていただきます…
いつか西加奈子原作を映画化したいと思っていた監督は、「さくら」と出会って以降、誰にも監督させたくないと思っていたんだとか。
「さくら」には彼の映画史すべてが入っているのだそう。
これだけ監督が愛してやまない作品ならば、原作に忠実に描かれているように感じます。
どれだけの思いが描かれているのか楽しみですね。
そんな監督の代表作をサクっとご紹介。
ルームメイトとして過ごす女性同士の恋模様を描いた「風たちの午後」で監督デビュー。
記憶喪失の兄と、兄を恋人のように想う妹の禁断の愛を描いた「三月のライオン」で、ベルリン映画祭でのプレミア上映や、ベルギーで大きな賞をもらうなど、世界各地で話題を呼びます。
他にも、性格も職業も異なる4人の女性が、都会での居場所を求め生きる姿をやさしく描いた「ストロベリーショートケイクス」、夫婦生活をしていくうちに、わずかな心のすれ違いをしていくことで起こる大人のラブストーリー「スイートリトルライズ」、1970年前後を舞台に、バロック喫茶で出会った男女と、ビターで官能的な青春を送る女性の物語「無伴奏」など、女性作家原作を映像化する傾向があります。
キャスト
長谷川家の次男、薫を演じるのは北村匠海。
俳優の傍ら音楽業にも精を出す北村君。
2020年は「サヨナラまでの30分」、「思い、思われ、ふり、ふられ」、「とんかつDJアゲ太郎」、「アンダードッグ」が公開と、本作を入れて5作もあるという売れっ子ぶり。
TVドラマも「おカネの切れ目が恋のはじまり」にも出演していました。
これに加え、ダンスロックバンド「DISH//」の活動もしているから、忙しさは尋常じゃないでしょうね…。
「猫」も大ヒットしていることですから、音楽面でも今後注目を浴びることでしょうし、20代前半の若手俳優の中では、人気度や注目度でいえば、頭一つ抜き出てると思います。
彼に関してはこちらをどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
長谷川家の長女、美貴役に、「さよならくちびる」、「糸」の小松菜奈。
長谷川家の長男、一役に、「キングダム」、「青くて痛くて脆い」の吉沢亮。
長谷川家の母、つぼみ役に、「幼さな子われらに生まれ」、「オー・ルーシー!」の寺島しのぶ。
長谷川家の父、昭夫役に、「最初の晩餐」、「カツベン!」の永瀬正敏。
大友カオル役に、欅坂46で映画初出演の小林由依。
矢嶋優子役に、「ホラーの天使」、「honey」の水谷果穂。
須々木原環役に、「劇場版コードブルー」、「今日も嫌がらせ弁当」の山谷花純。
溝口先史役に、「望み」、「彼女は夢で踊る」の加藤雅也。
フェラーリ役に、「パッチギ!」、「ストロベリーショートケイクス」の趙珉和などが出演します。
ありふれた家族のきれいごとじゃない物語。
どこにでもいそうだけど、どこにでもありそうじゃない家族のお話、なのかな。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
う~ん、可もなく不可もなく。
長谷川家に訪れる様々な悪送球、くすっと笑えるエピソード。
色々なことがあるけれど、家族は素晴らしい。
以下、ネタバレします。
犬は一体何を考えてるのだろう。
東京から帰省してきた次男・薫を視点に、長谷川家に起きた数々の出来事を回想しながら、壊れかけた家族が一夜でのふとした出来事から再生していく物語を、削ってはいけないエピソードや印象的なセリフなど、原作の良さを損なわないよう配慮された構成で描かれており、両親が恋をして生まれてきた自分や兄弟、特別な感情を抱いた全ての人に気持ちを伝えることが人生を豊かにさせていくことだということを、押しつけがましくなく優しい筆致で伝えた作品でございました。
正直これといって特別に素晴らしい作品ではなかったんですが、自分の家族に当てはめてみてみると、不思議と家族に会いたくなる気持ちが芽生えるというか、家族のありがたみだとか、家族とのどうでもいいことだとかをどんどん思い出させてくれる、そんな映画たったと思います。
別にうちの家族と同じ家族構成じゃないし、親父は失踪しねえし、妹は兄の小意地を邪魔するような我儘な女じゃないし、オカンは親父の飯を処分してしまうほど、過去の誰かに嫉妬するような人ではないし、俺も俺で学生時代に性欲を処理するだけのような相手がいたこともないし、何より俺が長男だし。
長谷川家のような大きな波乱が起きた過去を過ごしていないんだけど、なぜかこの家族を通じて自分の家族のことを思い出させてくれた映画だったと思います。
とりあえず共通するのは、長谷川家もうちも犬を飼っていたことでしょうか。
犬って面白くてね、というか飼っているペット全般に言えることですけど、彼らは家族にどんなにいいことがっても、どんなに暗雲立ち込めるような状況に陥っても、呼べば寄ってくるし、誰かが要るから安心して眠るし、夜中に物音がすれば起き上がって吠えるし、歳を取っても生まれたままの気持ちで僕らに接してくれて、家にやってきたころから家族の何もかもを見つめて、見守ってくれてるんですよね。
ホントどうにかしてこいつと話をできないものか、と考えた飼い主もたくさんいるのではないでしょうか。
君は一体いつもどんなことを考えていて、どんな感情を持っていて、何を生きがいに生きているのか。
ただ餌をくれる人、ただ散歩に連れてってくれる人、ただかまってくれる人、家族をそんな風には決して見ていない、はず…。
本作はさくらという犬が、家族が壊れかけの状態でも決して態度を変えることなく寄り添ってくれる存在であることを教えてくれたと同時に、彼がいなければ家族は一体どうなってしまっていたんだろうとさえ思えてしまう作品のように思えます。
中々面白い家族たち。
一体長谷川家にどんな出来事が起きたのか、ザーッと書いちゃいましょうw
まず、親父である昭夫。
お父さんは運送業に務めており、様々な荷物を運送するトラックが目的地に早くたどり着けるようにナビをするお仕事をしていました。
だから色んな道が脳内にインプットされており、渋滞しているトラックを彼の指示で迂回させるなどしてサポートしてるんですね。
子どもたちはそんなお父さんの仕事ぶりを誇りに思っていました。
大体親父の仕事って、親父から説明されることってあまりないと思うんですよ。
何というか親父って自慢げに語らないイメージというか。
ウチもそうだったような気がして。
だから親父の仕事ぶりって母親から聞かされることが多いというか。
お父さんはすごいんだよ~って。
また昭夫は、つぼみとの初デートで餃子屋さんに連れて行ったことを境に、何か特別なことがある日は、長谷川家では必ず餃子を食べるという習慣になったという過去も描かれてます。
そんなお母さん・つぼみは、家族のムードメーカーという立ち位置。
行方不明だったお父さんが帰ってきた時には、開口一番責め立てるようなことはせず、まずは受け止める、そんな妻であり母でした。
意外と嫉妬深い面を持っていて、ある日昭夫宛に届いた手紙が女性名義だったというだけで、夕食時にイライラし、それを面白がるかのように美貴が文面を読み上げるとさらに怒りがこみあげ、まだ帰宅していない昭夫の分の夕食のおかずを捨ててしまうという勢い。
帰宅後正座させて、一体これはどこのどいつだ!同級生!?アルバム持ってきて誰だか指さしなさい!と。
結果、それが男でいわゆるオカマになった友達からの手紙であったという勘違い。
その後家族総出で開店祝いに駆けつけ、昭夫の友人である先史と仲良くなるという始末。
他にも、美紀曰く「お母さん夜中にネコみたいな鳴き声出して何してたのぉ~?」という、子供ならではの直球的な質問に対し、お父さんとの夜の営みを子供でも理解できるように、愛と夢が詰まったファンタジーな内容でしっかり性教育をする素敵な一面も。
ちなみに僕は恥ずかしくてニヤニヤしながら見てましたw
僕が子供の頃、夕食時に家族で「笑っていいとも!」のスペシャルを見ていて、その時「あるなしクイズ」をやってたんです。
そしたら松本人志が「オ〇ニーにはあって、○○にはない」みたいな例えを出して、すぐさま妹が僕に「オ〇ニーってなあにぃ~」と聞いてきたんですね。
まあ僕も子供ですからどういう意味かは理解できなかったけど、お兄ちゃんですからそりゃ知ったかぶりこいてテキトーに応えましたよw
すぐさまお母さんとお父さんに、そうだよね?と、さも正解だと言わんばかりの顔で覗いたら、二人とも苦笑してましたw
何が言いたいかって長谷川家のように、うまい具合に説明してほしかったなぁと。
そんなことを思い出しましたww
長男の一(はじめ)は、名前から「オンリーワンでナンバーワンや!」という口癖というか、決まり文句というか、とにかく名前が気に入ってる様子。
ただ実は出来ちゃった結婚で生まれた子供で、一番初めに生まれたから「一」という名前なんですけどもw
長谷川家の中ではヒーローような存在。
子供の頃は薫と共にフェラーリなる謎の男に近づかれないような我慢比べをしたり、生まれてきた美貴のために誰のものでもない花を摘みに行ったらずいぶん遠くへ行ってしまって、警察の世話になってしまうんだけど、理由を明かさずただただ黙って謝る姿勢から、薫は一のことを男らしい面をもってると、子供ながらに羨望の眼差しをしていたほど。
さすが長男です。
高校時代は野球部として活躍。
校内の女子がみんなメロメロになるほど人気の存在でしたが、好きになった相手はちょっと不良チックな女の子・優子。
初めて家に招いたときは、つぼみからアップルパイを出されても愛想が悪く、さくらにも近づこうとせずといった、近寄りがたい女性でした。
何故一は彼女を好きになったのだろうと薫は疑問に満ちてましたが、人を好きになることがどれだけ素晴らしいものなのかを兄の背中から教わるのでした。
また優子は家庭の事情が複雑なようで、いわゆるシングルマザーで、連れてきた男は大体暴力を振るう日常を見てきたことから、男はみんなそういうモノだと認識していたよう。
そんな間違った視点を一を通じて変えていくんですね。
だから付き合う年月が長くなるほど優子は愛想がよくなり、さくらとも戯れるし、つぼみとも打ち解けるほど、長谷川家に溶け込んでくのでした。
たった一人を除いては・・・。
で、一番厄介なのが末っ子長女の美貴。
どこの家族でも末っ子の長男長女ってなかなか厄介なんじゃないかって僕のイメージがあるんですけど(ワガママだとか頑固だとか)、正に絵にかいたような厄介さ。
一には「お兄ちゃん」と呼び、薫は呼び捨て。
子供のころからとにかくお兄ちゃん子で、一軒家で自分の部屋を持てたにも拘らず、一緒に寝ないと気が済まない甘えん坊。
大人になっても、特別な日にみんなで食べる餃子にハズレ餃子を混ぜるようないたずらっ子でもあり、こんな子がいたら兄貴も両親も大変だなぁと。
で、美貴ちゃん、かなりお兄ちゃん好きをこじらせておりまして。
一の彼女・優子を連れてきた際、部屋にこもりっ放しで、優子が訪ねてくるたびに、大きな音を立てて嫌がらせをする始末。
一応部屋には近づかない姿勢から、それなりの筋は通していたものの、とにかく優子が来たら一気に不機嫌。
よくいますよね、お兄ちゃんの彼女は私が決めるとかいう子。(山本舞香という女優さんですがw)。
一体何様なのかよくわからないんですが、非常に良くないと思いますよ…。
で、このお兄ちゃん子は、一の彼女・優子が遠くへ引っ越してしまった後の手紙のやり取りでもかなりの嫌がらせをしていることが終盤で明らかになるんですが、それは見てのお楽しみということで。
一が辛い生活を送ることになっても、一の気持ちを考えず、ズケズケと思ったことを言ったり思いやりのない発言や行動をしちゃうんですよね。
しかも高校卒業後は、どこにも進路を決めず、一の世話をするだけの生活。
両親は何も言わなかったのか・・・。
一の葬儀でも、急に立ってお焼香を口に頬張って、ニタニタしながら失禁する奇行をしてしまったり、お兄ちゃんからもらったクルミをお兄ちゃんに見立ててひとりでしたりと、お兄ちゃんが大好きで仕方ない一面が見て取れます。
そもそも一年中ショートパンツを履いているあたり、それを大人になっても来ているあたりから、周りからどう見られても平気な姿勢というか、体が大人なのにまだ子供の気持ちでいるのか、そんな面も着ている服から感じられます。
で、次男の薫。
彼はヒーローであるお兄ちゃんの影に隠れてるけど、しっかり家族を見てきたことが語り口から感じられます。
兄の活躍ぶりを見て、自分もアイデンティティだったり立場を確立するようにしだした思春期に、学園一番の成績の帰国子女・須々木さんに声を掛けられ、いきなり初めての経験をしてしまう流れに。
とはいえ、薫的には好きという感情よりも性欲を処理するだけの存在という中々ひどい奴ではありましたが、思春期なんて案外そんなものかもしれませんw
ぶっちゃけ薫のエピソードってそんなにたくさんなくて、だから彼の視点で長谷川家が語られることが多いのかなぁと。
最後に
ただエピソードを並べただけの感想ですが、一見どこにでもいそうな家族の長い人生は、どこにでもない微笑ましいエピソードが山ほどあり、どこにでもない波乱が起こり過ぎるエピソードがあり。
そんな長谷川家を通じて、両親の屈託のない笑顔や見守る姿勢、兄弟たちの一筋縄ではいかない不安定な心の内面などを見せ、それでも家族は愛おしい存在であること、どんなことがあっても犬のさくらは温かく家族を迎え入れてくれる存在であることなど、家族の全員が歪さを持ち合わせてるけど、誰かが欠けても五角形のバランスってふとした時に戻るんだなぁ、そんな気持ちにさせてくれた映画だったのかなと。
それにしてももうちょっと語りの部分を減らして、こちら側に委ねるようなことをしてもよかったのかなぁと。
原作が素晴らしいからこういう演出にしたんでしょうけど、そこは映画の力をもっと信じて描いても良かったというか。
またLGBTだったり近親愛などを盛り込んではいるものの、そこに明確な何かを突き付けるようなことをしないのも、日本的というか。
言い悪いは別にして、この軽さなのも印象的というか。
単に美貴のように何のことでもない普通の事と捉えればいい事なんですけどね。
ご覧になった方は自分の家族のどんなことを思い出すのか聞いてみたいですね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10