モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「セプテンバー5」感想ネタバレあり解説 メディアよ、結果を意識して報道してるか?

セプテンバー5

ドイツで2度目のオリンピック開催となった「ミュンヘン五輪」。

このオリンピックが「オリンピック史上最大の悲劇」と呼ばれていることはご存知でしょうか。

 

それは開催中の9月5日、パレスチナのゲリラ組織「黒い九月」が選手村のイスラエル選手宿舎を襲撃し、2人の選手を殺害、9人を人質にして立てこもり、結果死亡させてしまうというトンデモない事件が起きたから。

 

僕自身生まれる前の話なので全く知らず、こんなひどい出来事が起きていたなんて、いつの時代も「テロ」は怖いものだなと思い知らされました。

今回鑑賞する作品は、そんなミュンヘン五輪で勃発したテロ事件を、生中継することになったスポーツ局の報道マンらの姿を映したサスペンス映画。

 

本作を鑑賞するにあたあり、スピルバーグの「ミュンヘン」を鑑賞。

そこに描かれてたのは、未だ根強く確執のある「イスラエルとパレスチナ問題」。

そこにスポットを当てるのか、それとも「報道の自由」を在り方を問うのか、色々見定めようと思います。

 

早速鑑賞してまいりました!!

 

 

作品情報

事件の生中継を報道するのは「報道局」が相場だが、かつてスポーツ中継班がテロ事件を生中継するという事件が起きた。

そんな前代未聞かつ「史上最悪のオリンピック」と称された事件の模様を通じて、現代の報道の在り方を問う作品を、新鋭監督の手によって実写化。

 

全世界が初めてテロの生中継を目撃したとされるミュンヘンオリンピック開催中に起きた「黒い九月事件」を、当時オリンピックを報道していたスポーツ局クルーの視点でノンストップのサスペンスで描く娯楽性、報道の自由、人権、そして結果に対する責任など社会的な面を映し出し、今を生きる私たちに鋭く突きつける。

 

脚本と監督を担当したのは、『HELL』『プロジェクト:ユリシーズ』などを手がけたティム・フェールバウム

監督は事件を描いたドキュメンタリー「ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実」を鑑賞し、メディアの役割やメディア史におけるターニングポイントだったのではという気持ちが芽生え、製作を温めてきた。

 

そんな歴史的な一日を体験することになったTVクルーの面々には、「ニュースの天才」のピーター・サースガード、「パスト・ライブス」のジョン・マガロ、「ありふれた教室」のレオニー・ベネシュ、「スノーデン」のベン・チャップリンなどが演じる。

 

第97回アカデミー賞で脚本賞にもノミネートされた本作。

専門外の彼らはこの日、どんな気持ちで事件を報じたのか。

そのすべてが明らかになる。

 

 

 

あらすじ

 

1972年9月5日ミュンヘンオリンピックでの、パレスチナ武装組織「黒い九月」による、イスラエル選手団9名を人質にするテロが発生。


全世界が固唾を飲んで見守った歴史的なTV中継を担ったのは、なんとニュース番組とは無縁のスポーツ番組の放送クルーたちだった。

 

過激化するテロリストの要求、機能しない現地警察、錯綜する情報、極限状況で中継チームは選択を迫られる中、刻一刻と人質交渉期限は迫っていくのだった――(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

感想

ミュンヘンを先に見てしまってるせいか、もっと欲しがってしまった…。

それでもあの狭い密室の中での物語が、時間を忘れてしまうほど濃密な95分。

報道とは何のためにあるのか。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

実は世界で最初の「テロ事件生放送」。

僕自身この事件の顛末を映画で知ったというほど近代史音痴だったわけですが、第二次世界大戦から変わったことを世界に知らしめたかったドイツ・ミュンヘンでの平和の祭典が、こんな大参事になるとは誰もが思わなかったことでしょうし、何より世界中で放送されたことで、一体どれほどの人がこの事件に胸を痛めたことでしょう。

 

おそらく僕と同じ世代を生きた人なら「9.11」の放送を生で見つめていたことでしょう。

僕は二機目がビルに突っ込む瞬間をリアルタイムで目の当たりにしたんですが、あまりのリアルさに「映画」なんじゃないかと錯覚し、現実じゃないよね?と何度も頭の中で繰り返し唱えたほど。

 

それほどテロ事件の模様を生中継することの衝撃って大きいものなんだって話です。

あの事件を生で見て、もしかしたらメンタルがやられてしまう人だっているかもしれない。

 

特に昨今はニュースの多さに疲弊するし、それ以上に消費されるスピードが速すぎて、どこかメディアが「次のネタ」を欲しがってるように思えるし、それに呼応して我々一般人もどこか「刺激」のように求めてるかもしれない。

 

本来一つの事件にもっと時間を割くべきだし、それについてもっと議論がなされていいはずなのに、気が付けばニュースや報道が軽んじられてる気がしてなりません。

 

俺のお気持ち表明はその辺にして、本作はそんな前代未聞の事件を生中継したクルーの面々の必死の現場の模様、そして他局を出し抜くために度を越えた行動に出てしまうメディアに対する「報道の在り方」にも言及した作品だったように思えます。

 

 

ただ、先にスピルバーグの「ミュンヘン」を予習したせいで、本作が取り扱っている「黒い九月」事件の全容を知ってしまったことや、ほぼ室内で繰り広げられる会話劇が終始緊張感のみで緩急がなく、少々退屈に思えてしまったことなど、そこまでの満足度は得られませんでした。

 

 

別についていけなかったとかではないんですが、結構緊迫感のある現場になっていたこともあってか、思考が止まりかけてしまう事態にw

自分のせいではあるんですが、それにしても95分という短い尺の中で、もっとターニングポイントを入れても良かったのではないかってのは思いました。

 

詳細はこの後書きますが、スポーツ局が事件の生中継をするまでのゴタゴタだったり、生中継をしてしまったことによる失敗、人質を救出できたのかどうかの真偽以外でも現場はもっとバタバタしていたはずだし、何よりそのターニングポイントを、そうだな、ハッタリを入れつつ劇的にできたと思うんですよ。

 

どうも薄暗い室内ってこともあってか、全体的に話も映像も同じトーンが続くので、その辺のメリハリが若干弱かったかなぁとは思います。

 

 

主要キャストの役割としては、プロデューサーがいて、チーフがいて現場指揮がいて、そこにドイツ語通訳の女性がいる。

この4人を中心に、現場をどう取り仕切るかって話になっていくんだけど、もっと葛藤があったり切羽詰まった状況があっても良かったと思うんですよね。

 

この4人の葛藤だったり、それこそ言い合いだとかを、それこそオーバーに見せて緊迫感をもう一段階高めても良かったのかなぁと。

 

 

とはいえ、畑違いのスポーツ局の面々が上に掛け合って世紀の大報道を成し遂げようという姿をドキュメンタリータッチで描いたのはすごい。

 

これ劇中では22時間で起きたことを95分にまとめてるんですけど、22時間で起きたことって感じさせないような作りになってるのがホント凄い。

 

ドイツ語翻訳のマリアンナが外のドアを開けて一服していると、何やら銃声が聞こえたところから物語が不穏に動き出すんですが、モノの数分したら出勤するスタッフが映し出されるんですよ。

さっきまで夜だったよ?いつの間に朝を迎えてるの?って。

 

さぁ今日も仕事仕事というさわやかな空気が、ある一報によって一変。

PLOの連中がイスラエル代表選手を人質にとって、囚人の解放を取引してるではありませんか。

 

本来なら報道畑のクルーが生中継を報じるわけですが、そこにはスポーツ担当のクルーしかいない。

当時はドイツからアメリカに送れる回線がひとつしかなかったそうで、この報道をアメリカが朝である時間帯にやりたいがために、別のテレビ局にかけあって放送権を得ようとするプロデューサーの姿が映し出されます。

 

 

とにかくこの好機を逃すわけにはいかないと、少ない人数で皆が駆けずり回って報道をこなしていくわけです。

 

現場に行けなければ自分たちのいるビルの屋上からカメラを持っていって映せばいい。

アメリカ代表の選手に成りすまして中に侵入してしまおうなど、あの手この手で事件を伝えようと躍起になっていきます。

 

屋上に設置したカメラによって警察の動きまで伝えることができるなど、全てが滞りなく進んでいたクルーでしたが、さすがに屋上のカメラで警察の動きまで映していたことがまずかった。

 

選手村に設置されたTVは、アメリカで中継されてる放送も見ることができることを、彼らは知らなかったのです。

そのため、せっかく人質を救出しようと作戦を立てたのに、相手のテロリストに情報が全部筒抜けになってしまっていて、救出作戦が失敗してしまうという事態に。

 

ただでさえ憲法によって部隊を送り込むことができないでいるミュンヘンの警察、さらに選手やコーチが2名殺されてしまっているというのに、これは報道する側としてはアウトです。

最近でも事故現場をヘリで報道するTV局がいますけど、あれのせいでドクターヘリを飛ばせないとか、秘密裏に容疑者を護送したいのに追いかけてしまうのとかありますよね。

アレの走りですこれは。

 

 

ドイツの警察がスポーツ局の仮設スタジオに流れ込んできて、放送を止めろと激昂するわけです。

 

そうそう、彼らはドイツ語が話せないというのも本作は上手に機能してます。

このシーンでもマリアンナが通訳として介入できたからよかったものの、いなかったらどうなることやらという緊迫感。

 

また夜になると、テロリストは人質を空港まで連れて逃走を図る流れになるんですが、この時もマリアンナが現場に急行し不在のため、主役たちが手に入れた情報の真偽をドイツの放送局で確かめなくてはいけない事態が多々訪れます。

 

それをトランシーバーや電話越しで聴かせて通訳させるんですが、このタイムラグが生々しさを与えてくれます。

 

マリアンナたちは空港の近くまではいけたモノの、渋滞に巻き込まれて現場までたどり着けない。

さらに情報によれば空港で銃撃戦が繰り広げられている、それでも人質は解放されたといった、真偽不明はおろか情報が錯綜し、クルーの面々はどのように報道すればいいか委ねられます。

 

このシーンは非常に考えたくなる場面で、現場指揮のジェフが「噂」だけれどという注釈をつけて言えば、たとえ正しくない情報だとしても大丈夫だろうという慢心を現すんですよね。

その根底にあるのは、どこよりも先にすっぱ抜きたいという「欲」でしかなく、今の報道の在り方に通じる瞬間だったのではと。

 

しかも上が「待て」と言ってるのに現場の判断で決めてしまうという失態は、その情報によって他の局も引っ張っぱられてしまう事態に陥るわけで、なんて危なっかしいことをするんだと思えて仕方ありません。

 

直後にドイツの直営放送が「人質解放」の一報を出したことで、より強調していくわけですが、プロデューサーが受けた電話の内容に、皆が愕然とします。

 

 

最後に

狭い空間で演じていることもあって、皆がイライラしてるかのような時間を見つめなくてはならない、結構な息苦しさを味わうことになりますが、短い尺だからこそ濃密な時間を堪能できるのではないかと思います。

 

ただ、上でも書いたようにもっとメリハリが欲しかったのは事実。

割り切った言い方をすれば、別にドキュメンタリー調でなくても良かったのではと。

 

でもそこは好みなので、是非この最大の悲劇を目の当たりにしながら、誰でもすぐさま発信できてしまうこの時代に、発信する前の心構えと、発信した後の責任や覚悟、そしてモラルなど、もう一度冷静になってみてはと思わさせる作品でした。

 

 

また、ひとつひとつの表情をクローズアップすることや、演者の細かい「間」によっていろいろ伝わるような演出も冴えていたと思います。

 

あ、そうそう当時放送されていた映像を使って報道してるってのも、巧かったですね。

実際TVの司会者はブラウン管の向こうでしか登場しないんですよ。これを巧く合成してお話作ってるんですよね。

これはすごかった。

 

あと、俺は先に観ちゃったけど、これを見た後是非スピルバーグの「ミュンヘン」を見てほしいです。

本作の倍近くある尺ですけど、この事件の全容を別視点で見れるし、その後イスラエルがどのように報復をしていくか、その報復が次に引き起こすもの、終わりの見えないマラソンから私たちは何を学ぶべきかという問いを与えてくれるし、何より当時行われていたことが今再燃してしまっていることにも直結する作品です。

 

うちの母ちゃんが良く言ってました。「自由と勝手は違うからね」って。

何もやっても良いってのは、決して自由ってことじゃねえってこと。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10