新聞記者
映画は娯楽であると同時に時代や社会を映す鏡となり、我々を楽しませる以外に考えさせる役割を持ってると思います。
僕はそんな考えさせてくれる機会を与えてくれる映画から、たくさんの事を学んだつもりです。
ただしそのほとんどは洋画。
もちろん邦画の中にも真正面から政治的なことや社会的な内容を含んだ作品があるんだけど、やっぱり少ない気がする。
なぜ日本に住んでいるのに、社会の裏側とか闇とかを切り取ったような作品にお目にかかれないのだろう。
単純に僕が避けているのか?
いややっぱり少ないんだと思う。
今回鑑賞する映画は、権力の闇を暴くために奔走する一人の新聞記者と、権力の中で高い理想を持ちながらも葛藤する官僚2人が織りなす、ポリティカルサスペンス。
はっきり言って、不得意なジャンルです。
しかし先日お笑い芸人が司会の情報番組の中で政権批判した途端、番組打ち切りになり、与党議員の娘が司会の番組になるという、いかにも煮え切らないことが実際に起きています。
もしかしたら偶然かもしれない。
でも仮に権力の圧力によってなされたのなら、もうメディアは権力に抵抗することは不可能なのか。
この映画はもしかしたら「大統領の陰謀」や「ペンタゴンペーパーズ」、「スポットライト」と同等の日本映画になるかもしれない、なんて大きな期待をしております。
あくまでフィクションだけど、僕らのいる「今」とリンクしているかもしれない。
そんな視点で楽しませてもらえたらと思います。
早速鑑賞してまいりました!!!
作品情報
東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラー『新聞記者』を“原案”に、一人の新聞記者の姿を通して、報道メディアは大きな権力にどう対峙し、真実を伝えるべきなのかを突き詰め、問いかけていく。
2019年、絶対に避けて通ることのできない新進気鋭の監督が、霞が関を舞台に現代に蔓延るメディアと官邸の裏側にメスを入れ、フィクションとリアルの境目を壊すことで観客に大きな衝撃を与えていく。
国家の平穏のためならば真実は明らかにしない方がいいのか、それとも、真実は全て明らかにするべきなのか。
国民にとってどちらが正しくどちらが大事なのか。
真実が明らかにされないのならば、世に伝える役目のマスマディアや新聞記者は果たして必要なのか。
国家の闇というタブーに果敢に切り込んだ今作。
あなたはこれを信じますか?
それとも?
あらすじ
東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査を始める。
一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。
「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。
愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎(高橋和也)と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実迫ろうともがく若き新聞記者。
「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
2人の人生が交差するとき、衝撃の真実が明らかになる!(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、藤井道人。
「DAY AND NIGHT」で映画好きたちから注目された監督。
仲良くさせてもらってる映画ブロガーたちも絶賛しており、鑑賞するタイミングを失ってしまった僕としては、今作の監督が彼と知り、これは絶対逃してはいけない、そう自分に言い聞かせて観賞した次第です。
と思ったら「オー!ファーザー」という映画、藤井さんが監督されてたようで、今作が初めてだと思っていた僕としては恥ずかしいw
どうやら監督は今作のオファーをもらった時に、政治に疎いからという点で断ったそうです。
しかし政治から遠い世代が描く作品にしてほしい、というプロデューサーのプッシュに押され引き受けたんだとか。
そして今作は記者を賛美し政権批判することがメインの映画ではなく、記者と官僚両方の大義を描くことで、是非を鑑賞したお客さんに問いかけるようにしたんだとか。
一体どんな手法で描いたのか、また二人の主人公の表情や葛藤を、どうカメラで捉えたのか、その辺にも注目してみたいと思います。
キャスト
東都新聞記者・吉岡エリカを演じるのは韓国の女優、シム・ウンギョン。
偶然会った余命いくばくもない昔の親友の頼みで、当時の仲間を集めると共に、昔の青春時代を回想していく青春映画「サニー/永遠の仲間たち」や、
70歳のおばあちゃんが突然20歳の女性に若返ってしまうことで繰り広げられるファンタジー・コメディ「怪しい彼女」など、映画ファンにはご存じの彼女が、何と日本映画に初出演でございます。
サニー 永遠の仲間たち デラックス・エディション Blu-ray
- 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: Blu-ray
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
予告編を見る限り、流ちょうな日本語で演技している姿が映っているので、かなりの練習を積んだんだろうなと感心しております。
てか日本で活動するために日本語を習得する韓国スターってホントすげえな。
彼女は他にも、夏帆と共演した「ブルーアワーにぶっ飛ばす」に出演されています。
日本で活躍した後はハリウッドにも進出したりして。
外務省から出向し内閣情報調査室、通称「内調」で働くエリート官僚・杉原拓海を演じるのは松坂桃李。
近年の大活躍で役者として一皮も二皮も剥けた彼ですが、今年も映画にコンスタントに出演。
「居眠り磐音」、今作、そしてアニメーション映画「HELLO WORLD」や「蜜蜂と遠雷」と、働きすぎですw
特にモンキー的には松岡茉優と共演した「蜂蜜と遠雷」は、お芝居が非常に良かったと思っております。
他のキャストはこんな感じ。
杉原の妻・奈津美役に「空母いぶき」、「鋼の錬金術師」の本田翼。
倉持大輔役に、「帝一の國」、「翔んで埼玉」の岡山天音。
神崎俊尚役に、「あゝ荒野」、「そこのみにて光輝く」の高橋和也。
陣野和正役に、「長いお別れ」「響ーHIBIKI‐」の北村有起哉。
多田智也役に、「アウトレイジビヨンド」、「人魚の眠る家」の田中哲司。
他、原作者の望月衣塑子さんなども出演します。
劇中で描かれてる事件、めっちゃ最近起こった事件をイメージさせてるように思えるんですが。
あくまでフィクション、でもフィクションとは言い切れない現実と繋がった内容の今作。
不得意ながらじっくり堪能したいと思います。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
なんだこれ、震えが止まらん。
内調VS女性記者の静かなる戦いを見事に捉えた社会派エンタメ!
どんな時でも自分を信じ、疑え!!!
以下、核心に触れずネタバレします。
内調に消される前に観てほしい。
ある過去の出来事から日本で記者としてひたむきに真実を追いかける女性・吉岡と、熱意を持ちながらも自分の仕事に疑念を抱き葛藤していく若き官僚・杉原、
互いの環境や置かれた立場などを配色やカメラ割りなどで対比を生む演出、演者たちの細かい感情の揺らぎによって、追いかけているネタが如何にとんでもないものなのかを観衆に知らしめ、あくまでフィクションでありながら現実に起きた事件を扱うことで、今我々が暮らしている現代と密にリンクしているかのような感覚にさせ、静かで無味無臭感があり、鋭利な何かを突き付けられた、総じてとんでもない映画でございました。
さて…何から書こうか。
見終わった感想はですね、この映画を考えれば考えるほど震えが止まりません。
それくらい僕にとっては衝撃的で観る価値のある映画でした。
冒頭でも書いた通り政治や時事ネタには疎いですし不得意です。
しかしここで描かれてるのは政治云々とかではなく、国の安定と平和を保つためという建前を言いながら、本音は内調の徹底した情報操作や同調圧力で内閣を守り、結果、人間の尊厳までをも奪ってしまっていることに対し、
果たしてこれでいいのか?、本当のことを公に伝えるべきなのでは?、と駆けずり回る女性記者と、事件に関与した知人が死んだ本当の理由を知りたくて協力する官僚の男が奔走する、真実を追い求めた男女の物語なんですね。
だからはっきり言って全然難しくないし、百歩譲って何やってるか理解できなくても、監督が生み出すサスペンス性が秀逸だから、立ち向かう相手がどれだけデカくて手加減なしで潰しにかかってくることで生まれる恐怖心てのを存分に醸し出してるので、単純に怖さってのを肌で感じるだけでも全然面白いんですよ。
またですね、冒頭でも挙げた洋画、「ペンタゴンペーパーズ」然り、「スポットライト」然り、「大統領の陰謀」然り、どれも実際にあった出来事を映画化したものですけど、日本では今のご時世こういう事実を基にした政治ネタってのは映画にしにくいわけです。
ならここは嗜好を変えて、フィクションだけどフィクションではない、かもしれない内容でポリティカルにしあげたらどうだろうと。
それでできたのはいいけれど、実際公開できるかどうかさえ分からなかった、てエピソードがあったくらいですから、世に出すには過激な内容だったわけで、この作品が全国で公開されるって意義がね、素晴らしいと思うんですよ。
これ絶対地上波なんかで放送しないから。
スポンサーもテレビ局も手出さないから。
で、なんで公開できるかどうかわからなかったのかって話になりますけど、まず物語の中で扱ってる事件が近年話題になった事件とリンクしていた、ってのがひとつ。
例えば、劇中で内閣府が国有地に大学を新設する、というタレコミが入るんですけど、普通大学新設ってのは文科省が認可するわけで、内閣府がなぜ?と。
しかも医療系の大学ってのに、厚労省の認可でもない。
そしてこの計画に携わった杉原の上司が自殺や文書が改ざんされていたなど、次々と出てくる煮え切らない問題。
これってモリカケ問題そのものですよね。
他にもジャーナリストが女性をレイプした事件の裁判で不起訴になったことで、被害者の女性が実名を出して控訴したというニュース。
これを被害者の弁護士が野党の人間と繋がっているというように見せるチャート式の相関図を内調が作るんですが、この件に関しても伊藤詩織さんのニュースと酷似しています。
劇中で出てくるニュースは正に先日起きた出来事で、これを内調が裏で情報操作し、SNSなどで同調圧力を生み垂れ流すことで、世間に議論の余地を与えないよう仕組んでいる、というようにされてるんですね。
ぶっちゃけですよ、内調っていったいどんな仕事してるのかわかりません。
一応アメリカのCIAとかイギリスのMI6のような機関だってのは聞いたことありますが、実態は正直明確にされてないし、ざっくり国の安定と平和を守ってはいるんでしょうけど、こんな地道な情報操作をしているのかわかりません。
この点においては完全にフィクションだと思ってますが、そうも思えない徹底した演出と、もしかしたら本当にやってるかもしれないリアルさがあるから、鵜呑みにしてしまうのも事実。
また今作、劇中でよく出てくる言葉があるんですけど、鑑賞しているこちら側にさりげなくメッセージを放っているんですよ。
「誰よりも 自分を信じ疑え」と。
俯瞰で見ると明らかにこの映画、内調のやってることは悪で、真実を明らかにしようとする二人は善、という構図で物語が進んでいくわけです。
下手したら内調を飛び越えて今の政権は悪とさえも見えてしまう。
実際に内調は国を思って必死で仕事しているかもしれないし、本当に彼らは「民主主義なんて形だけでいいんんだよ」なんて思ってあれこれ情報操作している、かもしれない。
真実は闇の中なんですよね。
また情報は時が経てば消え去ってしまう、なんてのも実はこの映画で語られているんですよ。
例のレイプ訴訟の件、序盤で取り上げて、吉岡がツイッターでセカンドレイプの怖さを語るんだけど、それだけで終わり。
すぐに大きなリークへと話はスライドして、この件に関してはそこから何ひとつ語られない。
映画的に言えば杉原が心揺らぐきっかけの一つに過ぎないし、吉岡のジャーナリズムを強く表すためのツールにしかなってない。
なんですけど、これが今の世の中なんだよなぁって僕は感じます。
世の中の人が今、この件についてどれだけ関心持ってるのよって話で。
で、これもまたもしかしたら内調の仕業かもしれないってのも思っちゃうのが、僕が震えた原因。
よく目にする事例のひとつで、芸能界で大きなスキャンダルがスクープされた時、こっちを大々的に取り上げますけど、そこにぶつけたかのように、国民にとって大事な法案が国会で可決される見通し、ってのを、よくみかけませんか?
あれ、もしかしたらですよ、内調がマスコミに情報をリークして世間の関心をそっちに向けるトラップ、かもしれないわけです。
だからなんだろう、この映画、実際の事件とリンクしてることで本当のことに思いがちなんだけど、本当かどうかはあなた次第ってことを強く言いたい映画に仕上げたのがすごいなぁと、時事ネタに疎い僕としては非常によかったです。
演者の芝居もすごい。
とまぁ、いつもながらダラダラ書いてますが、物語とか扱ってる題材も素晴らしいんだけども、演者の演技も見ごたえ抜群だったんですよ。
特にシム・ウンギョンの小さい表情の変化ね。
ぶっちゃけ日本語に関しては覚えたてってのが見え見えで、カタコト過ぎる。
多分日本語の意味を咀嚼していってないんだろうなってのがちょこちょこあったように思えます。
しかも彼女の語学スキルを考慮して長セリフはなく、一言だけってのが多い。
うまくやったように思えて、うまくできてなかったんだけど、芝居はやっぱすげえなと。
例えば彼女が最初、大学新設のリークを知った時の身震いして動揺を隠せない表情と、ジャーナリストとしての血が騒いだって表情をいっぺんに出すって難易度の高いことやってのける部分を見たときにトリハダ立ったし、
劇中のほとんどが演者の寄りの画になってるから、お父さんが死んだ時の沸々と涙が出てきて最後には嗚咽してしまうって芝居の組み立て方も、日本の女優より感情入っててすげえなって。
また、自分の記者生命を絶たれるかもしれない、けれども脅しにも負けない鉄の意志を見せる目の力強さとか、それこそラストカットの息絶えたえの中、杉原を見つめて言葉を発しようとする表情も素晴らしかった。
この説得力、日本の女優さん、特に彼女と同年代の人、盗んでほしいな。
これに負けじとですよ、松坂桃李の演技も卓越してて。
最初こそ上から言われた任務を愚痴こぼさず淡々と専念する様から、レイプ訴訟での民間人を巻き添えにしてまで国家の安定と平和を望む内調のやり方に疑問を抱きはじめ、ネットの書き込みにどんどんメンタルやられていく。
その上妻からこの事件どう思う?なんて聞かれてさらに追い込みかけられ、挙句の果てにはお世話になった上司が今何をしているか、それによって彼の身に危険が起きてるのではないかという不安、そして予感は的中し・・・っていう一連の流れにおいて、表情を少しづつ少しずつ変化させていくのが巧いなぁと。
なんですかね、コップの周りが湿度の上昇によって少しずつ浮き出る水滴のように、じわじわ変えてくんですよね。
あとこれ僕の好みなんですけど彼の話し方が好きで、基本的には話すときにあまり口を大きく開かないんですけどしっかり通る声質で。
それでいて滑舌もよく響きも良くて。
で、この状態で心が揺れてるときは目線を下に下げて、尚且つ唇あまり動かさないから本当にグワングワンしてるんだろうなぁってのを彼よくやるんですけど、今回もそれをやってくれたし、これに微妙に震えを加えてるから、終盤の上司の多田から脅されてからのラストカットがね、めちゃくちゃ響くんですよ。
またね、これに負けじと一切顔色変えずに眼だけで感情をあらわにする内調の上司・多田の怖さたるや!!
お疲れさま~って言った後のニラミとか、アウトレイジのヤツ~!!って思ったし。
北村有起哉の中間管理職的な叱咤激励感も冴えわたってましたね。
吉岡と記事の直しを何度もやる件、編集でサラッとだったけど、ああいうところでしっかり上司としての役割を見せていたのが名脇役でしたね。
最後に
落ち葉が揺れる国会前の色合いや、赤いマフラーを撒いて走り回る吉岡の爽快感、窓から差し込む太陽が一瞬の希望にも見える演出、
これと対比して内調の室内での整頓され過ぎな不気味さや、無機質で体温のない冷え切った空気感てのを暗色基調で映してる辺りは、ちょっとやり過ぎかなとも思いましたけど、映画だから逆にやり過ぎくらいがちょうどいいのかなと思えた演出でしたね。
記者たちは今も真実を追いかけ懸命にネタを追う。
いざ世に出ると政権を揺るがし混乱をきたすから、圧力をかける組織がある。
監督が仰ったようにどちらにも大義があって、善でも悪でもないと。
そして投げられた情報に対し、我々はその選球眼で鑑賞眼で洞察力で真偽を確かめる必要がある。
果たしてそれは本当なのかそれともフェイクなのか。
なんでもかんでもメディアが流した情報を鵜呑みにすると、内調のような情報操作をする組織、突き詰めるところの内閣の思うつぼになるかもしれない。
正直最後は投げかけて終わるのではなく、一つの物語の終着として結論を出して欲しかったという思いはあります。
ですが、政府から圧力がかかるかもしれないような題材を、韓国の女優と日本を代表する俳優がタッグを組んでやったということ、しかも全国で公開できるように尽力したスタッフや製作陣の熱い思いってのをボクは大事にしたい。
そして難しいなんて言わずに、まずは見てほしい。
ここで描かれてることを真に受けてもいいし、疑り深く見てもいい。
やっぱり誰よりも自分を信じ疑う、という視点をここで磨いてほしい、そんな風に思います。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆☆★★8/10