死刑にいたる病
「羊たちの沈黙」のレクターや、「サイコ」のノーマン・ベイツ、「バットマン」のジョーカーなど、現実世界では非常に恐怖でしかないシリアルキラーも映画の中ではなぜか妙な魅力があります。
洋画だけではなく日本映画でも「悪の教典」、「冷たい熱帯魚」、「ヒメアノ~ル」に「凶悪」など、殺人鬼を題材にした名作は数知れず。
その仲間入りの果たすかもしれないシリアルキラーの映画が誕生です。
今回鑑賞する映画は、24件もの殺人容疑で逮捕された死刑囚が、たったひとつだけ冤罪だと主張する事件を大学生が追うというもの。
白石和彌監督の出世作「凶悪」でもリリー・フランキーやピエール瀧演じた外道たちの不気味過ぎて不快なシーンが今でも脳裏をよぎりますが、本作でも良い意味で「不快な記憶」として残ってしまうのか。
異常性を当たり前のように描写する本作、早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「ホーンテッド・キャンパス」シリーズをはじめとするミステリー作家として知られ、2015年に発表した「チェインドッグ」から改題された櫛木理宇原作小説を、「孤狼の血」シリーズ、「凶悪」の白石和彌監督で実写映画化。
史上最悪といわれたシリアルキラーが唯一「冤罪」と主張する最後の事件の真相を追う大学生の姿を描く。
大河ドラマでの活躍が記憶に新しい阿部サダヲが、役者人生の中で1度は演じて見たかったというシリアルキラーを熱演。
他にも、これからを担う若手俳優から熟練した演技を見せるベテラン俳優まで、個性あふれる演者たちが行き着く暇もない心理戦を展開。
たどり着いた残酷な結末に、誰もが震え上がる。
あなたはこの殺人鬼に恐怖を抱くか、それとも魅了されるのか。
あらすじ
史上最悪の連続殺人鬼からの依頼
それは一件の冤罪証明だった・・・
ある大学生・雅也(岡田健史)のもとに届いた一通の手紙。
それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村(阿部サダヲ)からだった。
「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。
過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、事件を独自に調べ始めた雅也。
しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、白石和彌。
「凶悪」以降、コンスタントに映画製作に勤しむ監督。
圧倒的なバイオレンスを描いた「孤狼の血」や「日本でいちばん悪い奴ら」もあれば、人間の内面をしっかりフォーカスした「ひとよ」や「凪待ち」、それらをミステリー仕立てで描いた「彼女がその名を知らない鳥たち」など、この10年で良質な日本映画を作り続けています。
また、現場のハラスメントを無くすために「リスペクト・トレーニング」を導入したことも話題です。
恐らく本作でもよりよい環境下で映画を制作するために取り入れてる事でしょう。
今回のキャスティングについて、「彼女がその名を知らない鳥たち」で出演した阿部サダヲの「暗い目つき」の印象が強く、出演をお願いしたとのこと。
また監督作でお馴染みの「雨」の演出も健在。
自然を映画の中に映し込んで画面を作り込んでいくことは、映画作りの醍醐味だと語っており、今回も使い過ぎないよう色々相談しながら製作したそうです。
楽しみですね!
キャスト
24人を殺した連続殺人鬼・榛村大和を演じるのは、阿部サダヲ。
「大人計画」出身ということもあって、コメディ映画に多く出演してるイメージが強いですが、意外とシリアスな役もいけるんですよね。
それこそ監督の過去作「彼女がその名を知らない鳥たち」の小汚いながらも献身的な愛を注ぐ中年は印象的でしたし、うだつのあがらない料亭の主人が妻の提案で結婚詐欺を働く「夢売るふたり」もよかったですね。
連続殺人鬼を「1度でいいから演じて見たかった」という阿部さんですが、監督の指示で歯のホワイトニングをしたり、共演者との演技上での駆け引き、現場の雰囲気に感銘したりと、芝居をする上での役者魂と芝居以外の部分にも目を向けるなど、仕事を楽しんでる様子。
一体どんなシリアルキラーを演じられるのか楽しみです。
他のキャストはこんな感じ。
大学生・筧井雅也役に、「ドクター・デスの遺産」、「そして、バトンは渡された」の岡田健史。
金山一輝役に、「名も無き世界のエンドロール」、「バスカヴィル家の犬/シャーロック劇場版」の岩田剛典。
雅也の母・衿子役に、「Love Letter」、「マーマレード・ボーイ」の中山美穂。
加納灯里役に、「任侠学園」、「うみべの女の子」の宮崎優などが出演します。
これだけ人を殺めたのだから、自分がやってないのが1人や2人増えても死刑は免れないんですけどね。
死刑囚にも尊厳ということなのか、もっとエグい話なのか。
阿部サダヲの猟奇ぶりに期待ですね!
ここから観賞後の感想です!!
感想
#死刑にいたる病 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年5月6日
阿部サダヲよりも、岡田健史くんのお父さん役の人の方が怖い。 pic.twitter.com/0xrEqURy05
親に抑圧された子供は、自尊心が低い。
子供の心理を掌握し犯行を重ねる殺人鬼の底知れぬ怖さ。
彼に魅了されながらも呪縛を解き放とうと足掻く岡田健史くんの繊細な芝居が光ってました。
以下、ネタバレします。
そう簡単に心を許してはいけない
連続殺人鬼からの依頼により冤罪照明を依頼された大学生が、彼に心を寄せながらも真相を辿りつこうと奔走する姿を、プロジェクションマッピングやボイスチェンジ、雨の演出による場面の印象など、様々なアイディアで映画を配色し、登場人物の心理描写を細部まで表現した意欲作であったと共に、ネグレクトで育った子供たちの決断能力を利用した殺人鬼の手口や拷問にいたるまで終始不快な作品でございました。
近所のおじさんやおばさんなどと気さくにコミュニケーションをとっていた幼少期。
あの時の「簡単に心を許してしまう無垢な気持ち」って危険だなぁと、本作を見て感じました。
どこの誰かも知らない人に優しく声を掛けられたり、褒められたりしたら、子供はどう対応するか。
多分そのまま受け入れるよなぁと。
それが何度も続いたら、その人の素性など気にもせず仲良くしてしまう。
判断能力や警戒心など、相手に対する防衛本能が備わってない子供は、やっぱり変態に狙われやすいよなぁと。
榛村は普通に街の商店街でパン屋を営みながら、高校に通う優等生ばかりを狙って殺人を繰り返してたと語られていますが、実際現実世界でも馴染みのパン屋があって、そこに足しげく通ってるうちに常連になって仲良くなることだってあるんですよ。
劇中では一体どうやって二人きりになって犯行に及んだかはよくわかってないんですが、きっと「馴染みのパン屋の主人」てだけの認識から心を許してしまったんだろうなと。
また本作では「親に抑圧された子供」をターゲットにしていたという設定でした。
自尊心が低いため、相手の心を操作することが容易いようで、榛村は若いころから巧みに操作していたようで、彼の事を語る人間は皆「いい人」という印象を抱いていました。
要は警戒心の少ない子供だけでなく、心がしっかりした大人でも榛村の手にかかればイチコロだったってことですよね。
あれだけ狭いコミュニティの中に「殺人鬼」が潜んでるなんて普通想像もつなかいし、そりゃ大人もあれだけ気さくで優しい人間と出会ったら気が緩むよね~。
犯行がエグい
本作の醍醐味は、普段は決まった時間に仕事をしながら色んな人にやさしく振る舞うという表の顔と、その裏に潜んでいた異常なまでの狂気というギャップを見せつけた阿部サダヲ演じる榛村の残虐ぶりにあります。
上でも書いたように、まずネグレクトされてきた子供たちを見つけ、少しづつ距離を縮めていきながら「優しいおじさん」を演じる。
真面目であればあるほど操作しやすいそうでしたが、最後のとどめを刺すまで時間をたっぷりかけて犯行に及ぶ姿が描かれえています。
拉致した後は自分の家の外にある燻製小屋に連れ込み、ひとつずつ爪を剥がしていきます。
何度も謝りながら叫び声をあげる未成年たちの苦しい表情を直接的に映す容赦ない描写が、観る者に居心地の悪さを与えていく辛さ。
にもかかわらず榛村は基本真顔。
たまに口角を上げる表情を作りますが、淡々と作業してるかのような手際の良さでした。
意識がまだある中耳を削いだり歯を抜いたりと非情なまでの拷問が続き、最後は焼却。
骨を砕いて庭の土の中に埋め、その上に苗木を植えて処理するという鬼畜ぶり。
近所のおじさんがその姿を見たとしても、ただガーデニングをしているようにしか見えません。
こうして20数名の命を奪うわけです。
さらには「パン屋時代」以前にも数々の犯行の及んでいたことが明かされます。
バス停で少女を空き地の裏へ誘い、石で後頭部を殴打。
少女の局部に石を何個も詰め込み、意識が戻らないように高い場所から彼女の身体や顔めがけて何度も飛び降りるという鬼畜ぶり。
少女は内臓も眼球を破裂し、顔も陥没するなどの重傷を負ったという事件があったことを弁護士の口から語られるんですね。
その犯行の際も平然と真顔でこなすのです。
また金山という長髪の男が本作のキーパーソンになってるんでんすが、彼にも心理的に精神を追い詰めていっていたことが明かされます。
彼もまた幼少期に虐待を受けていた過去があり、榛村と仲良くなった時に、弟と彫刻刀とカッターナイフで刺し合いをさせたというエピソードが描かれます。
自尊心の低い子供は、自分で何かを決断する能力が欠けていることから、榛村の言葉によって「決めさせる」ことで自尊心をつけさせるという手法で操っていました。
今日はどっちが痛めつける?と金山に聞き、自分で物事を決められない金山は弟を指さして刃物で腿を刺す行為をさせており、大人になっても尚それを拒絶することができなかった後悔に悩まされていたのです。
榛村が冤罪照明したいといった最後の事件では、金山が関与しており、独自で真相を究明していた筧井は、彼を疑い始めるという流れでした。
このように、自身で手を下すパターンもあれば、標的を使って殺人を教唆させる事例もあり、榛村という男の底知れぬシリアルキラーぶりが徐々に明かされていくことで、恐怖以外の感情が出てこないほどの体験を本作で味わうことになります。
筧井くんについて
祖母の葬式から登場する筧井は、当初家族を失ったことで呆然としていた感じに見えましたが、物語が進行するにつれて家庭環境や出自が見えてくることで、彼もまた辛い少年時代を送っていたことが明かされていきます。
祖母が学校で校長先生をしていたことから、父は教育熱心だったようで、中学生時代は生きた心地がしなかったと筧井は語ってます。
高校は進学校に進めたものの、勉強についていけず挫折。
Fランクの三流大学に進学したことが父としては気にくわないようで、祖母のお別れ会には出席しないよう遠回しに断るよう仕向けていました。
どうせ自分はろくでもない人間だというレッテルを父から貼られたことが、生気の感じられない姿から見て取れます。
そんな時に榛村からの手紙を読み、彼の冤罪照明を見つけるために奔走していくんですね。
学校と塾の往復ばかりだった中学時代、パン屋が唯一の憩いの場だったと語る筧井は、彼と面会した際には、目の前にいるのは殺人鬼だと認識していながらもどこか疑いを持ってるかのような素振りを見せています。
彼もまた近所の大人たち同様、「極悪人だけど自分には優しくしてくれた」という気持ちを持っていたのでしょう。
だから彼の依頼を受け真相を探ったのでしょう。
しかも劇中では、母親の過去にある疑惑が生じることで、今までとは違う何かを得たのではないか、いやそもそも自分自身はもっと特別な存在なのではないかと思うようになっていくんです。
その結果、どこか強気な態度を取ったり、挙句の果てにはある犯行未遂までしてしまうまでに。
内なる凶暴性を表に出し始めたことで、弁護士事務所の弁護士にも盾を突いたり、これまで画逆らえなかった父親にも憎悪を向けるまでになっていきます。
阿部サダヲの狂気
連続殺人鬼を演じて見たかったという阿部サダヲ。
今回のサダヲちゃんは本当に不気味でした。
裁判での供述シーンでは、逮捕されたのは警察の優秀さではなく、自分の慢心が原因だと語る榛村。
一切表情を緩めず淡々と語る姿から、「あ、これはガチの殺人鬼だ」なんて身震いしましたね。
筧井と面会した際も、久方ぶりの再会だったこともあり、今まで接していたかのような優しい語り口で「大きくなったね」などと話しかけ、冤罪照明を頼み込んでいきます。
「あの町に殺人鬼がもう一人いたらいやだろ?」と最後の事件の無実を主張する榛村は、筧井が面会に来るたびに虚無な視線を浴びせつつ彼に寄り添っていくんですね。
優しい語り口に弁の立つ主張。
相手をとにかく褒めながら自分の手中に収めていく手法は、まさかの監察官にも通用してしまうほど。
クライマックスで明かされる彼のやり口はホント驚愕ですし、何よりこれを見たら今後の阿部サダヲ作品も、過去の阿部サダヲ作品も直視できないのではないかというほど怖いんです。
彼の黒目が大きいんですよ。
まるでアキュビューディファインでも入れてるんじゃないかってくらい黒目がデカい。
さらに若かりし時代は、昔の阿部サダヲの時みたいなセンター中分けヘアーってこともあって、余計に怖い。
俺が子供だったら絶対近づかないw
なのに子供たちは平気で仲良くなっていく。
あのデカい黒目はそれだけ魅了させるんだなとw
とにかくその目と言葉で人の心を操作していく手口がホントに見事で、それを表現してる彼のお芝居が見事でした。
グロ描写もやばい
榛村の犯行手口は痛々しいモノばかり。
拷問シーンも器具を使って爪を取ったり耳を削いだりする仕草を直接的に見せることで、鬱屈した気分にさせるのは白石監督ならではといったところ。
最後の事件のシーンでも、成人女性の手と足には切り刻んだ跡があり、雨によって泥だらけの中這いつくばって逃げようとする姿を惜しみなく見せるんですが、これもホントに見ていて辛い。
終いには逃げる彼女のふくらはぎを掴んで腱から骨を飛び出させるってのを、そのまま見せてますからね…
最後に
ただどうしても全体的にサスペンスとしての詰めの甘さが残る作品ではありました。
面会シーンでプロジェクションマッピングなどを駆使して様々な工夫を施した心理描写を表現していた意欲は買いますが、結果として対象人物の深い部分まで見せることができてない印象を受けました。
体温も感受性も低めの筧井を演じた岡田健史くんが、物語が進行するにつれて感情を露わにしていく流れではあったものの、芝居の沸点がどこか低いせいか作品全体のターニングポイントが弱かったなぁと。
最後の対峙はもっと激しいやり取りにして榛村をねじ伏せる、いわば明確な勝敗を提示欲しかったなぁというか。
それを見越したうえで、あの結末を出せば驚愕のラスト、大どんでん返しにできたのにと。
その結末あっての榛村の底知れぬ怖さだと思うので、クライマックスはもっと盛り上げてほしかったですね。
とはいえ、弁護士が語っていたように、殺人鬼の言うことなど鵜呑みにしてはいけませんね。
弁護士はあくまで仕事で携わってるわけですから線引きは必要不可欠。
素人が独自で調査しても主観でしか物事を見れないってことですよ。
「こちら側に来たら抜け出せないよ」
榛村もそっち側に行ったことで殺人をやめられなくなったということなんでしょうか。
死刑にいたる病ってタイトルは、榛村自身のことなのかな。
しかし白石監督は安パイが多いな…
本作ももっと行けたと思うんだけどな…
どこかもったいないと感じてしまいました。
描写はきついですけどね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10