サバービコン 仮面を被った街
何かがおかしい。
マット・デイモンのシャツの襟には血がついており、ジュリアン・ムーアが持つティーカップは欠けている。
いかにも中流家庭的な小奇麗な装い。外は青空。彼らを見る少年。
今回これを見ようと思ったのは他でもない「俺の」オスカー・アイザックを堪能するためであり、コーエン兄弟脚本だからでもある。
そしていかにもブラックユーモアの匂いがぷんぷんするこのポスター。
一体どんなお話なのか。楽しみだ!
しかし!監督はジェージ・ネスプレッソ・クルーニー。
「ミケランジェロ・プロジェクト」のつまらなさが再び蘇るのか。
超豪華キャストを使っていながら全く持って笑えなかったあの映画・・・。
なぜ「スーパー・チューズデー」のようなガチのサスペンスをもう一度やろうとしないのか。
そこだけが気がかり。
とにかく少しの不安を抱きながら大好きなオスカーみたさに観賞してまいりました!!!
作品情報
俳優としての実力はもちろん、監督業としても才能を発揮するジョージ・クルーニーが、脚本に盟友コーエン兄弟を迎え手掛けた作品。
ヴェネツイア国際映画祭コンペディションに出品もされた、ブラックユーモア炸裂のコメディサスペンス。
1950年代に実際に起こった人種差別暴動をもとに、理想の街サバービコンの裏側を一人の少年の視点でブラックに描いていく。
黒人差別とアメリカ公民権運動―名もなき人々の戦いの記録 (集英社新書)
- 作者: ジェームス・M.バーダマン,James M. Vardaman,水谷八也
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 新書
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あらすじ
少年だけが知っていた、 幸せに満ちたニュータウンの真実を。
明るい街、サバービコンへようこそ!
そこはアメリカン・ドリームの街。
しかし、そこに住むロッジ家の生活は、自宅に侵入した強盗により一転する。
足の不自由な妻ローズ(ジュリアン・ムーア)が亡くなり、幼い息子ニッキー(ノア・ジューブ)が遺される。
仕事一筋の一家の主ガードナー(マット・デイモン)と妻の姉マーガレット(ジュリアン・ムーア二役)は、ニッキーを気遣いながらも前向きに日常を取り戻そうとするのだが・・・。
時を同じくして、この白人だけのコミュニティに紛れ込んできた黒人一家の存在が、完璧なニュータウンのもうひとつの顔をあらわにする。
街の人々と家族の正体に、ただ一人気がつくニッキー。
事件は想像を超える結末へと急展開する。
果たして、幼いニッキーの運命は?
ロッジ家は幸福な暮らしを取り戻せるのか!?(HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのは、俺絶対白髪染めなんてしません、ジョージ・クルーニー。
俳優としては数々の作品に出演し活躍していますが、監督としてはこれで6作目。
きっと監督作品で賞を取りたくてウズウズしてるんでしょう。
作風はコメディ色の強い作品からロマンスモノ、政治サスペンスモノと色んなジャンルを手がけていますが、どことなく社会性だったり、戦争だったりを背景に入れている気がしますね。
今作もコーエン兄弟とのタッグということで、人種差別というアメリカの永遠のテーマにも感じる社会問題を取り入れており、きっと面白おかしくシニカルに扱っているのでしょう。
そろそろ役者として一発でかいのやって欲しいんですけどね。
でもこの人は賞が欲しいんだろうなぁ。
彼に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
何かがおかしい人、ガードナーを演じるのはマット・デイモン。
ジョージ「やぁマット。今度映画を撮るんだ。また出てくれないか。」
マット「やぁジョージ。君の作品なら喜んで出演するよ。今度はどんな役だい?」
ジョージ「50年代の街で起きた人種差別暴動知ってるかい?あれに白人達の裏の顔や街の暗部を見せる話でさ、コーエンと共同でブラックジョークを入れつつも、怒りを前面に押し出した映画なんだ。そこでの君は中産階級の家庭の主をやってもらいたいんだ。」
マット「なんかジョージらしいね(笑)。コーエンも参加するのか。じゃあ僕が出ないとね。」
ジョージ「そう想ってたよマット!君にしかできない役なんだ。とりあえず当時の男性だから体格を少し大きくして欲しいんだ。」
マット「OK。また太らないといけないのか。その分ギャラははずんで・・・」
ジョージ「詳しいことは書面で送るよ!それじゃあ!」
マット「・・・。」
マット「・・・またギャラ少ねぇな。」
ジョージが主演した「オーシャン11」。
超豪華キャストが泥棒を演じるこの映画は、ジョージがそれぞれキャスト陣に交渉し、ギャラを抑えたことで実現したという逸話があり、きっと今回もマットはギャラを安くされたんだろう、というボクの妄想掛け合いを書いて見ましたw
まぁマットくらい一流スターならお金なんて気にしないんでしょう。
それ以前に「オーシャンズ」シリーズや、「シリアナ」、「コンフェッション」、「ミケランジェロ・プロジェクト」で共演しているくらいだし、ジョージいわくマットは最高の俳優だと豪語するほど。
無論マットもジョージを褒め称えているので、良き友人であり最高の仕事仲間なんでしょう。
加えてコーエン兄弟作品にもよく顔を出す二人。
ジョージとは「オー!ブラザー」、「ディボース・ショウ」、「バーン・アフター・リーディング」、「ヘイル、シーザー!」。マットは「トゥルー・グリット」に出演するなど、てとも深い間係。
だからこの3人が一堂に会して作品を作るという時点で期待してしまうわけです。
マットのところにジョージのこと書くとややこしいですが、それだけこの二人の関係は深いということなわけです。はい。
他のキャストはこんな感じ。
ガードナーの妻ローズ、そしてローズの双子の姉マーガレット役に、「アリスのままで」、「キングスマン・ゴールデン・サークル」、「ワンダーストラック」のジュリアン・ムーア。
保険調査員バド・クーパー役に、「インサイド・ルーウィン・ディヴィス/名もなき男の歌」、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のポー・ダメロンでお馴染み、「俺の」オスカー・アイザックらが出演します。
一見理想的な街だけどその裏では何が起きてるのか。
その裏側を見てしまった少年はどうなてしまうのか!
笑いと怒りが混じったジョージ渾身の1作。果たしてどんな物語なのか!
ここから観賞後の感想です!!!
感想
2つの家で起きた惨事をほのかなユーモアで固めた、
ジョージの怒り爆発!「ここがヘンだよ白人野郎」映画!
以下、核心に触れずネタバレします。
ジョージがやりたかったこと。
家庭を持てば誰もが憧れる一軒家。
その夢を叶えてくれる理想的な街サバ―ビコンに越してきた黒人一家と、その裏に住む家での泥棒騒ぎを、一見風刺の効いたコメディ調で見せるかと思いきや、徐々に少年の視点からみせる騒動に発展し、悪雲立ち込めるサスペンスへとスライドしていく、今アメリカに住む白人たちに伝えたいと願うジョージの怒りが爆発した作品でありました。
コーエン兄弟脚本とあって、どこかしらに当時のアメリカを風刺したユーモアが紛れているんだろうと、知識不足であるものの楽しみにしていましたが、意外にも内容はかなりジョージの想いが詰まったお話となっておりました。
一家の泥棒騒ぎから妻の死、そして何やら嘘をついている少年の父ガードナーの不可解な行動と、死んだ妻の双子の姉マーガレットの変貌、悲しみに暮れているかと思いきやべったりの二人、そして家に訪れるベテラン保険調査員と、会社を訪ねる2人組。
一家を襲った泥棒騒ぎの真実が少しづつ明るみになっていく様を、ガードナーの息子ニッキーの目線でつづった本編の中で、ひたすら流れる白人たちの黒人差別のTV放送やラジオ放送。
主軸はもちろん事件の方ですが、どうやらジョージが一番言いたいことは、その公共の電波で執拗に流れる白人による黒人への差別なのであります。
少しずつ黒人一家への嫌がらせをしていく白人たちの悪行の数々が、クライマックスではとうとう一線を越える展開に。
こんなことが実際にあったのかと思うと残念極まりなく感じる顛末。
この映画を見る前に「アイ、トーニャ/史上最大のスキャンダル」を鑑賞したのですが、ここで語られていたセリフの中に、敵を作って強さを強調するような言葉があり、それがまさにアメリカの象徴であることをトーニャを通じて描かれていたわけです。
今作でも彼らは、白人が掲げる理想の街に黒い異物が混ざったことで団結し強さをアピール、終いには追い出すことで、白人こそアメリカ、強い俺たちこそアメリカと理想を掲げようとしているのであります。
なるほど、これは痛烈な風刺がきいてるよジョージ。
政治的な発言もよく飛び出る彼だからこそメッセージ性の強い作品になっていたね。
でもさジョージ。このサイドストーリーが結局本筋と全く絡んでこないような展開は一体何なんだ。
まるで意味がないじゃないか。
これじゃあコーエンが書いたのが本筋で、ジョージがやりたかったのがこっちみたいに住み分けられちゃてて一つの物語になってないよジョージ。
たまたま一つの街で起きた2つの出来事になってるじゃないかジョージ。
最後に子供たちでキャッチボールしたって何の解決にもならないよジョージ。
それはダメだぁジョージ。
君は所でも高橋でも山本でもない、クルーニーだろ?
もっとできたはずだジョージ。
すごくもったいないよジョージ。
しつこいかいジョージ。
ジョージ…。
そうです、物語としては可もなく不可もない、ある街で起きた出来事を描いてるんだけど、主軸とサイドストーリーが結局最後結ぶような話になってないのがこの映画の欠点になっている。
これがラストにうまく結びついてくれたら良作になっていたのに、すごくもったいないオチになっておりました。
理想の街なのにどこにもいない理想の人たち。
1950年代から60年代のアメリカは、地域によっては人種の融合にこそ寛容になってはきていたものの、実際は黒人は白人にとって悪であり、災いのもとであり、そんな彼らとともに同じ町で暮らすのなんてまっぴらごめんだという風潮が非常に強かったわけで、白人にとっての理想の街とは、要は一軒家でもなく、周りの施設の充実さでもなく、雇用問題教育問題なんかでもなく、黒人が誰一人住んでいない街だということがこの映画では描かれておりました。
夢が実現したことで、ニューヨークから、オハイオから、ミシシッピからこぞって白人たちが越してきたわけですが、なんとこの町に黒人一家がやってきたことで街は不穏なな空気に変わっていくわけです。
それと同時に裏に住んでいるロッジ家に泥棒が侵入する騒ぎに。
こんな理想的な街にも泥棒が!
しかしこの泥棒、何やらのんびりくつろいだり、顔を隠すことすらしない。
一応一家全員椅子で縛ってクロロホルムで眠らせるわけですが、家にお金を置いてなかったことが功を奏したのか、結果何も取られていないことが判明。
はいきました、一つ目の「何かがおかしい」。
このクロロホルムを吸引し過ぎたせいで、ニッキーのお母さんであるローズは死去。
意気消沈する一家を励まそうと叔父さんは躍起になりますが、ガードナーからは煙たがられている様子。
学校を休んでマーガレットおばさんの勤務先でお手伝いをしたり、ガードナーは仕事に復帰するものの身が入らない始末。
電話をとれば誰かの弔辞ばかり。
そんな中、警察から容疑者の面通しをしてくれと依頼が。
マーガレットと一緒にいたニッキーも署にやってくるが、未だに元気のない子供に面通しは重荷だということで大人の二人が面通しすることに。
落ち込んだままのニッキーですが、単なる好奇心なのか自分も確認したいのかこっそり部屋に侵入し犯人の顔を覗くことに。
すると一番端に犯人がいるではないか!
パパ!おばさん!
アイツ犯人じゃん!
しかぁし!
ガードナーもマーガレットも口をそろえて「この中にはいません」と言い張るではないか!
えっ!?ウソだろ!?
あの時パパメガネかけてたし、おばさんだって目隠ししてたわけじゃないし、あいつらあまりにも顔出し過ぎてたし、誰もが納得の犯人じゃん!
僕にだってわかるよ!
じゃあなんでいるのにいない・・・って。
はい、これが2つ目の「何かがおかしい」
家に帰りガードナーにうまく言いくるめられるニッキー。
仕事してると会ったことあるのになかったり、会ったことないと思ってた人が実は会っていたりすることがあるんだ。
確かに、ある。
しかしそんなことでダマせるほどニッキーはバカじゃない。
でもパパには逆らえない。
お母さんのローズは冒頭で、引っ越してきた黒人の少年とキャッチボールするようにニッキーに命令していました。
そう、ガードナー家では、パパは人種融合に否定的でしたが、ローズは寛容的でした。
その結果、パパは厳しい人でママはやさしい人だったのです。
そのママがいなくなったことでニッキーは心のやり場を無くしていたのでした。
代わりとなるはずのマーガレットおばさんも、ニッキーの気持ちになってくれずじまい。
気が付けばマーガレットおばさんは、お母さんと同じ髪の色に。
そしてニッキーは家に帰ると地下室から「やめて!」と叫び声。
包丁を持って恐る恐る降りて灯りをつけると、パパとおばさんがお楽しみの最中w
卓球のラケットでおばさんのお尻を叩いてるパパ。
パパ!!
パパ・・・。
これが3つ目の「何かがおかしい」。
その後犯人2人組は会社を訪ねガードナーを脅し、それと同時にベテラン保険調査員が家をたずねにやってきます。
ローズが死んだことで入る保険金。
でもこれ詐欺なんじゃないの?と調べるのがお仕事の方。
マーガレットさぁん、これローズさんが死ぬ3か月前に保険金額上げてますよ~?
どういうことですかぁ~?
その5か月前にも何か怪しい動きがありますねぇ~。
何とかバレないようにうまくはぐらかすマーガレットでしたが、全ては調査員の罠でした。
そんなやましいことなど最初からしていなかったのです。
実際は妹夫婦のお金なのに、マーガレットはつい私たちのお金と口走ったことが決め手でした。
ガードナーもマーガレットもどんどん窮地に追い込まれていきます。
そしてニッキーも今回の一連の事件は、パパとおばさんが仕組んだことだと感づいていきます。
果たしてニッキーは無事助かることができるのか!
ガードナーもマーガレットも保険金でカリブへ越して優雅な暮らしをすることを目標に計画を進めていました。
理想の街に暮らしていながら、彼らにとっては今の生活は理想的ではなかったのです。ガードナーにとってマーガレットはローズよりも愛すべき存在だったのでしょう。
ローズはガードナーのの乗った車で事故に遭い車いす生活を余儀なくされましたが、きっとこれもガードナーの計画だったのかと思うと恐ろしいばかりです。
最後に
ガードナーが起こす殺害の連続は意図したものでなく、自身の身を守るための殺人でした。
予想外の出来事に仕方なく人を殺めてしまう展開はコーエン兄弟の傑作「ファーゴ」にそっくりではありますが、そっちはユニークに展開する内容だったのに対し、こっちは割とシリアスに進む内容。
似たような展開に差別化を図ろうとしたのか、ジョージはがっつり真面目にやったわけですが、僕としてはここまで来たらコーエン兄弟が脚本書いてるんだから同じ雰囲気でいいじゃん、滑稽にガードナーの予想していなかった連続殺人を描けばよかったじゃん、と感じてしまったのは否めない。
またサスペンスチックに驚かそうとしたのか、急に前を通る消防車のインサートは非常にこのの物語にふさわしくない演出。
それやるならもっと驚かせてがっつりサスペンスをやってくれ。
中途半端にやらないでほしい。
そして体感時間も少々長く感じたのももったいない。
テンポよく編集すればいいものを、何かがおかしい優先で見せたかったのか丁寧に見せたかったのか、スピードが遅い。
やっぱりサスペンスにしたかったんだなぁ。
すごく勿体付けて見せるんだもん、どこもかしこも。
さほどすごい驚きがないのに。
演者に関しては素晴らしい役者ばかりなので問題はないんですが、あえて言わせてもらうなら俺のオスカーアイザックが颯のように現れて颯のように去っていく短い出演時間だったのは残念。
しかしながらネチネチしたしつこさと、一枚上手な卑怯っぷり、そして洗剤飲んじゃった時の苦しい表情はごちそうさまでした。
僕はあなたがいないと生きていけませんw
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10