フォール・ガイ
アクション映画に欠かせないのは何といっても、誰も真似できないような肉弾戦やガンアクション、スピード感あふれるカーアクション、目の前での大爆破や危険な場所での演技など、我々では到底出来ない動きを見せて楽しませてくれるのが特徴です。
ではそれらの動きは全て演じている俳優がやっているのか。
答えはNO。
近年ではキャラクターになり切るためにイチから体を鍛えて臨む俳優が多いですが、決して全て自分たちでやっているわけではない。
彼らと体格も顔も似ているスタントダブルという仕事を担っている方が、危険なアクションを演じているわけです。
今回鑑賞するのはそんなスタントマンを主人公にしたアクション映画。
かつてブラッド・ピットのスタントダブルを務めたデヴィッド・リーチ監督が、これまでの、そしてこれからのスタントマンへの愛を凝縮した内容に違いありません。
だって、彼らがいなければアクション映画は成立しないのですから。
一体どんな愛が詰まっているのか、早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「ジョン・ウィック」や「アトミック・ブロンド」、「ワイルドスピード/スーパーコンボ」や「ブレット・トレイン」など、現在のハリウッドアクションを牽引してきたデヴィッド・リーチ監督が、1980年代に放送されたテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」を映画としてリメイクし、自身が経験してきた「スタントマン」に光を当て描いた、「陰のヒーロー」へのラブレター映画。
自身がスタントダブルとして請け負ってきた俳優の失踪の行方を追うことになったスタントマンが、やがて事件に巻き込ま真れながらも仕事で体得したアクションで切り抜けていく姿を、映画監督になった元カノとのロマンスや、スタント仲間との饒舌なやり取り、危険度MAXなアクションを織り交ぜながら、リアル且つ斬新で壮大なスケールで送るアクション映画。
「私の映画業界でのキャリアは、20年間スタントマンとしてパンチを受け、ワイヤーで吊られ、車で突っ込み、火をつけられ、全部門のスタッフと密に仕事をしてきた年月の上に成り立っている。映画への愛情が原動力になっている」と語るデヴィッド・リーチ監督が、自分を育ててくれた現場やスタントマンたちへの愛を、本作に注いだ。
そんな本作には、彼とのつながりも深く、数々のアクションコーディネートをしてきた「87ノース・プロダクション」が製作を担い、ギネス記録を打ち立てるほどのあり得ないアクションや、予告編にも映っていたヘリコプターからの美しい落下など、アッと驚くシーンで魅了する。
キャストには、「ドライヴ」や「ラ・ラ・ランド」、「バービー」など、多彩な才能を発揮するライアン・ゴズリングと、「オッペンハイマー」で初のアカデミー賞にノミネートを果たしたエミリー・ブラント。
アカデミー賞授賞式でのプレゼンターとして登壇した際のやり取りが絶賛だったこともあり、本作での掛け合いもきっと楽しいに違いない。
他にも「キック・アス」や「ブレット・トレイン」のアーロン・テイラー=ジョンソンや、ドラマシリーズ「テッド・ラッソ:破天荒コーチが行く」のハンナ・ワディンガム、「ハクソー・リッジ」のテリーサ・パーマー、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のステファニー・スー、「ブラックパンサー」のウィンストン・デュークなどが出演する。
アカデミー賞では、スタントダブルを務める者たちへの賞を新たに設立しようという動きもあり、本作がスタントマンたちが陽の目を浴びるきっかけになるかもしれない。
そんな危険と隣り合わせの彼らへ愛を束ねた本作。
デヴィッド・リーチ監督の「映画愛」を是非ご堪能あれ。
あらすじ
大ケガを負い、一線を退いていたスタントマン=コルト(ライアン・ゴズリング)。
愛する元カノの初監督作で久々に現場復帰するが、主演が突如失踪してしまう!行方不明のスターの謎を追ううちに、コルトは危険な陰謀に巻き込まれることに…
彼は己のスタントスキルで、この危機を突破できるのか!?(HPより抜粋)
感想
#映画フォールガイ 観賞!久々に規格外のアクションを観た気がする。転がる車に大ジャンプ、ヘリからの落下に大爆破。そこにすれ違ってしまった恋愛を絡めて怒涛のロマコメ。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) August 16, 2024
不覚にもテイラースウィフトを聴いて泣くゴズゴズに、フィルコリンズを熱唱するエミリーにもらい泣き😭😭😭 pic.twitter.com/ecOwnk1Ryz
男は立ち止まってしまう理由があり、女は立ち止まれない理由がある。
すれ違ってしまった恋人たちの行方をロマンティックに描きつつ、失踪した男探しと怒涛のアクションを描いた、デヴィッド・リーチ監督ならではの「映画愛」が爆発した、究極のポップコーンムービー!!
以下、ネタバレします。
かつてハリウッド映画はこんなのばかりで楽しかった。
正直デヴィッド・リーチの映画は好きじゃない。
彼は自分に酔いしれているのか、とにかく発展しそうにないセリフの掛け合いに尺を使い、得意のアクションでこれまた尺を稼ぐ。
これにより物語が停滞がちなんです。
物語の構成とテンポ重視の俺からすると、「さっさと次行けよ」と毎回思ってしまい、退屈に感じてしまう。
しかし本作はそれがかなり軽減されていたように思えた。
といっても、相変わらずな所はあるけれど。
マイナスだと思っていた箇所が軽減されていたことが個人的にプラスに働くと同時に、アクションもいわゆる87イレブン御用達の「近戦格闘アクション」ばかりに頼ることなく、「これぞハリウッド映画だ!!」と言わんばかりのド派手で大掛かりなスタントアクションが目白押しだった。
これがとにかく楽しかった。
物語は、ハリウッドスターのお抱えスタントマンを担当していたコルトが、スタント失敗により挫折。
大物監督の器を持つ恋人ジョディとの恋愛も、彼が心を閉ざしてしまったことで消滅し1年半が経ったところから転がっていく。
プロデューサーの計らいで現場復帰と共にジョディと再会したコルトだったが、ジョディの気持ちはとうに冷めており、製作中のSFラブストーリー超大作「メタルストーム」は、正に彼女がコルトから受けた仕打ちを反映させたかのような、エイリアンとスペースカウボーイの気持ちをすれ違いによってできた諍いの物語だった。
そんな彼女の気持ちを理解しながらも男の気持ちも理解してほしいと諭すコルト。
前のような関係に戻れないことに心を痛めつつ、プロデューサーから連絡の取れない主演俳優の行方を捜してほしいと依頼される。
嫌々引き受けた仕事の道中で、ユニコーンの幻影が見えてしまうほどラリッてしまったり、氷漬けの死体を見つけ警察に連絡したはいいものの、当の死体は跡形もなく消えていたり、主演俳優のアシスタントが突然拉致されたりと、ハプニングの連続に。
一体主演俳優はどこへ消えたのか、そしてジョディとの恋を再び実らせることができるのか、という流れ。
予告ではサスペンス要素が強そうな内容に思えたが、いざ蓋を開けてみればゴリゴリの「ロマコメ」だったわけです。
恋愛において男は過去に拘りウジウジし、女はきっぱり忘れて前を向く。
そんな恋愛観を反映させたかのように、コルトはそれまで無敵のスタントマンだと思っていたが大怪我により失意のどん底に落ちてしまう。
そう、いつだって男は立ち止まって考えてしまう生き物なんだと再確認させられた。
片やジョディはいつか大作を撮る監督になりたいという野望がある。
心配しても振り向いてくれないコルトにかまっている暇なんてないのだ。
そう、だから彼を忘れて前を向くしかない。
しかしプロデューサーの計らいが、幸か不幸か二人を引き合わせていく。
コルトは、ジョディが製作している映画の内容が自分との恋愛エピソードを見事に反映させたものだと知り、彼女が如何につらい思いだったか、如何にすれ違ってしまったのかを目の当たりにするわけです。
ただ本作は第3幕の内容が難航している模様。
そう、この恋の続きはまだ書き換えることができることが劇中で明示されるわけです。
だからこそコルトはプロデューサーから頼まれた主演俳優探しを引き受け、映画の成功をさせることが彼女を振り向かせる術だと悟るわけです。
かつての90年代ハリウッド映画は、ド派手な特効でスクリーンいっぱいに爆炎を見せながら、男女の恋愛模様を描いた作品がたくさんあったように思えます。
ミニマムな人間模様と破格のスケールで描く映像こそ、ハリウッドがやってきた手法なんです。
車を9回転も転がしたり、火花を散らすトラックにしがみつきながら敵を追うカーチェイス、車をジャンプさせてトラックを追いかけるシーンもあれば、ボートでも大ジャンプ、地上に向かって大ジャンプ、ヘリからの大落下、そして爆破のオンパレード。
アクション映画は決して肉弾戦だけじゃない、こうした決死のスタントあってこそ「アクション映画」なんだよなと。
それをこの2024年に復活させてくれたデヴィッド・リーチ監督には感謝しかありません。
映画を彩る楽曲たち
個人的には今回使用された楽曲たちは見事な演出をしていたように思えます。
例えば主題曲にもなっていたKISSの「 I Was Made For Lovin' You」は、正にコルトのジョディへの思いを綴った曲としてマッチしていたように思えます。
別に他のポップスの曲でもよかったんでしょうけど、なんてったって劇中で製作している映画のタイトルが「メタルストーム」ですから、メタル、厳密にはハードロックであることが相応しい。
俺はお前を愛する為に作られた、お前は俺を愛する為に作られた
相思相愛だと思っていた二人に溝が生じていく流れでしたが、幾度となくこの曲が流れるたびに、コルトが立ち上がるのが印象的でしたね。
溝で思い出しましたが、ジョディが第3幕で「画面分割」をしたいという提案をコルトにした瞬間、実際に画面が2分割になり、二人が対称的に身振り手振りをするシーンは秀逸でしたね。
同じ動きをしてもそこには確かな「溝」があり、ジョディがエイリアンの着ぐるみの手を付けながら話すことから、主演俳優が演じるスペースカウボーイのスタントをするコルトとの溝は、劇中劇でも実生活でも埋まることがないことを示唆したシーンでした。
話は戻りますが、個人的にぶっ刺さったのはコルトが車中で涙を流しながら聞くテイラー・スウィフトの「All Too Well」。
このシーンは、プロデューサーから主演俳優探しを極秘に頼まれ引き受けた後、車の中で一人この曲を聴きながらジョディへの思いが蘇り、涙を見せるというもの。
歌詞の内容はかつて付き合っていた時の風景や思い出を、私は覚えているしあなたも覚えているはずという思いを綴ったもので、決して前向きには綴られてない歌だと思います。
実際ジョディに会えることを楽しみにしていたコルトでしたが、彼が思い描いたような再会ではなかった、しかも彼女は裏切られて失意にかられながらも、それをバネに前を向く意思を示していた。
そしてつきつけられたのは、自分との別れに対するバッドエンドな内容の映画。
そう、確かに彼女は覚えていたけど、待ってはいなかった。
カーステレオから流れる彼女の歌が、ジョディの悲痛な思いに様に聞こえ、ようやく全てを理解するコルト演じるライアン・ゴズリングの刹那な表情が、僕の涙腺を緩め、思わず泣いてしまったわけございます。
しかしプロとして割り切って仕事をする関係に戻った二人は、監督とスタントマンという枠を超え、気心の知れた「映画好き仲間」としての表情を浮かべ、距離を使づけていくのであります。
ジョディも全ての要求にしっかり応えるコルトの振る舞いに心を許し、打ち上げのカラオケに誘うんですね。
しかしコルトには彼女には言えない仕事が立て込んでいたわけです。
カラオケ会場に姿を現さなかったコルトに、再び失意の表情を浮かべたジョディは、歌う予定だった楽曲を変更し、フィル・コリンズの「Against All Odds」を歌い上げます。
ミディアムバラードなこの曲は、元恋人に「戻ってきて私を見てほしい」という思いがつづられた内容の歌。
ジョディはプロデューサーから「コルトは飛行機に乗って帰ってしまった」と知らされ、もっと話したいことがあったのに、伝えたいことがあったのにそれができないと知ったことで選曲をこの歌に変えたのであります。
僕のことを本当に知っているのは君だけなんだという歌詞から、あれだけ怒りを放っていたジョディもまた、彼を求めていたことがこのシーンから伝わったのではないでしょうか。
このように、懐かしい楽曲やカントリーソングをセレクトして2人の相手に対する思いを描写した本作。
手堅いと思えてしまいがちですが、こうした手法は実はメッチャ効果的な演出だと自分は思っていて、その手法に俺は見事にやられてしまったんだぁ!!という話でしたw
最後に
ラスト・オブ・モヒカンやテルマ&ルイーズ、ジェイソン・ボーンやワイルドスピードなどのセリフを引用しながら、スタントマンら陰のヒーローたちに光を当てた、デヴィッド・リーチ監督らしい「映画愛」の詰まった本作。
そんな彼らあっての「映画」にもかからわず、保身に走ったり陥れようとする奴らに対するコルトたちの落とし前の付け方は、難航していた第3幕への最適解(ハッピーエンド)であった共に、誰もが爽快と思えるクライマックスだったように思えます。
またエンドロールでは、そんな陰のヒーローたちの命がけのスタント映像を交えて幕を閉じていくものになっており、これまた監督への愛情がこもった終わり方になっていました。
しかし主演俳優のトム・ライダーは、最高のバカキャラでしたね。
糖質制限をするあまりメメント並みの記憶力しかなく、部屋には忘れないための付箋がありとあらゆるところに貼られているという。
コルトから炭水化物を採れ!!と怒鳴られるシーンは爆笑しましたねw
しかもあれだけマッチョな体をしているにも拘らず、車は運転できないだ、ロクなアクションもできないわで、如何にコルトのスタントによってスター街道をひた走ってきたかが理解できる奴だったんではないでしょうか。
劇中ではフォールガイとは「身代わり」のような意味合いで使われてましたが、実際スタントの失敗で大怪我をし、それまで無敵と思っていた自分の身の程を知ったコルトは正に「落ちたヤツ」で、それを「ヘリからの落下」でケリをつけるというラストは最高でしたね。
ラストシーンではジェイソン・モモアが本人役で主演俳優の代わりに熱演してましたけど、あの体格だとコルトではボディダブルにはならないですよね・・・。
全部取り直したんでしょうか・・・。
とにかく苦手だったデヴィッド・リーチ監督にサムズアップを捧げたいと思います!!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10