モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「逆転のトライアングル」感想ネタバレあり解説 ヒエラルキーが逆になっても立場が変わらない人。

逆転のトライアングル

富裕層と貧困層の差が著しい格差社会。

搾取する者は巨万の富を得、搾取されるものは骨の髄まで搾り取られる。

もちろん資本主義社会ですから、うまくいけば貧困層から脱出できる自由度はありますが、ことはそううまくいかないっていうね。

 

もっと難しいのは、この資本主義社会によって組み立てられた貧富のピラミッドが、そっくりそのまま逆になること。

今の俺らが金持ち、もしくは権力を手に入れて、金持ちどもが貧乏になる、もしくは権力を失う。

 

では仮にそうなったら。

 

そりゃもう最高でしょう、これまでこき使ってきたやつらをこき使って、しかも低賃金で働かせるっていうね。

なんにせよこれまでのうっ憤を晴らすかのような仕打ち、仕返しみたいなことをしちゃうんだろうなw

でも、頂点に立ったことのない俺らが果たして務まるのか、または底辺である我々労働者のほうが圧倒的に多いので、ピラミッドごとさかさまになってしまうと、残念ながら社会が回らないんですよね~w

 

今回鑑賞する映画は、豪華客船クルーズの転覆によって、ヒエラルキーも転覆してしまうという超ブラックユーモアなお話。

なんせアカデミー賞で作品賞や監督賞にノミネートしちゃったもんだから、さすがに見なくてはと。

2時間半あるからちょっと躊躇してるんですけどね~w

 

早速観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

フレンチアルプスのリゾート地で起きた雪崩を機に、夫婦仲に亀裂が生じていく姿をユーモラスに描いた「フレンチアルプスで起きたこと」で、カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞、そして美術館のキュレーターの身に起きる様々なトラブルから、現代社会の問題を辛辣な笑いと共に描いた「ザ・スクエア/思いやりの聖域」では、同映画祭最高賞のパルムドールを受賞したリューベン・オストルンド監督が、今回もブラックユーモア満載の作品を作り上げた。

 

豪華客船クルーズに乗り合わせたインフルエンサーの人気モデルカップルや、金に物言わせるリッチな太客、彼らからの高額チップ欲しさに従順な犬と化すクルーを中心に、転覆した先でのサバイバルにより、彼らのヒエラルキーとパワーバランスが崩壊していく姿を、過去作同様皮肉かつユーモラスにたっぷり描く。

 

本作もまたカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したことで、史上3人目となる2作連続パルムドールの快挙を成し遂げた。

また第95回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞に初のノミネートを果たしており、かつて作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」のような盛り上がりの再来が予感される。

 

キャスト陣も、「キングスマン:ファースト・エージェント」のハリス・ディキンソンや、2022年に惜しくも急逝したチャールビ・ディーン、「スリー・ビルボード」のウディ・ハレルソンなどが出演し話題を呼んだ。

 

現代階級社会を痛烈に皮肉るとともに、ファッション業界やルッキズムなどにも言及し、私たちが自然と植え付けられていた価値観を見事にひっくり返す、大逆転エンタメの誕生です。

 

 

あらすじ

 

場所は高級レストラン。

「ありがとう。ごちそうさま」と、恋人のヤヤ(チャールビ・ディーン) に言われ、憮然とするカール(ハリス・ディキンソン)。

 

2人ともファッションモデルだが、ヤヤは超売れっ子でカールの何倍も稼いでいる。

毎度男が払うのが当然という態度のヤヤにカールが疑問を呈すると、激しい言い争いになってしまう。

「男女の役割にとらわれるべきじゃない」とカールは必死で彼女に気持ちを伝えようとするが、難しい。

 

インフルエンサーとしても人気者のヤヤは、豪華客船クルーズの旅に招待され、カールがお供することに。

乗客は桁外れの金持ちばかりで、最初に2人に話しかけてきたのは、ロシアの新興財閥“オリガルヒ”の男とその妻だ。

有機肥料でひと財産築いたと語る男は、「私はクソの帝王」と笑う。

 

船には、ヤヤに写真を撮ってもらっただけで、「お礼にロレックスを買ってやる」という「会社を売却して腐るほど金がある」男もいる。

上品で優しそうな英国人老夫婦は、武器製造会社を家族経営していた。

国連に地雷を禁止されて売り上げが落ちた時も、「夫婦愛で乗り切った」と胸を張る。

 

そんな現代の超絶セレブをもてなすのは、客室乗務員の白人スタッフたち。

旅の終わりに振舞われる高額チップを夢見ながら、乗客のどんな希望でも必ず叶えるプロフェッショナルだ。

 

そして、船の下層階では、料理や清掃を担当する有色人種の裏方スタッフたちが働いている。

 

ある夜、船長がお客様をおもてなしするキャプテンズ・ディナーが開催される。

アルコール依存症の船長(ウディ・ハレルソン) が、朝から晩まで船長室で飲んだくれていたために、延び延びになっていたイベントだ。

 

キャビアにウニにトリュフと、高級食材をこれでもかとぶち込んだ料理がサーブされる中、船は嵐へと突入。

船酔いに苦しむ客が続出し、船内は地獄絵図へ。

泥酔した船長は指揮を放棄し、通りかかった海賊に手榴弾を投げられ、遂に船は難破してしまう。

 

数時間後、ヤヤとカール、客室乗務員のポーラ、そして数人の大富豪たちは無人島に流れ着く。

海岸には救命ボートも漂着、中には清掃係のアビゲイル(ドリー・デ・レオン) が乗っていた。

 

彼らはボート内の水とスナック菓子で空腹をしのぐが、すぐになくなってしまうのは目に見えている。

すると、アビゲイルが海に潜りタコを捕獲!

サバイバルのスキルなど一切ない大富豪とインフルエンサーが見守る中、アビゲイルは火をおこし、タコをさばいて調理する。

 

革命が起きたのは、アビゲイルが料理を分配する時だった。

「ここでは私がキャプテン」という彼女の宣言を、認めなければお代わりはもらえない。

 

全員を支配下に置いたアビゲイルは、“ 女王”として君臨していくが―。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

 

感想

男女どちらが会計を払うか論争から、豪華客船でのヒエラルキー、そして無人島での逆転劇。

世界の縮図をしっかり皮肉ったり、阿鼻叫喚なゲロ描写を惜しみなく映す可笑しみ。

ただ、どうもオストルンドは尺が長く感じて困る。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして本当に男は女に奢らなくてはいけないのか。

ヒエラルキーが逆転する物語だと思ったら、いきなり売れないモデルのカールとインフルエンサーのヤヤとの「なぜデート代を男が払うべきなのか」という論争で幕を明ける第1部。

 

ファッションモデル業界の内幕がどんなものかという、いきなり皮肉った話から一転、そんな物語の始まりだとは思わなかった。

もちろんここでのバレンシアガとH&Mというハイブランドとファストファッションブランドでの比較は非常に面白く、確かにハイブランドは見下した表情をしているなぁというあるあるネタには感心した。

 

ただそこから急にデート代論争に発展するとは。

 

要はこの件、彼女よりも収入の低いカールが口火を切るから意味がある。

もちろんカールは飯代を払える余裕はあるし、そこに意見を述べたいわけではなく、男が払って当たり前のような態度を取るヤヤに疑問を感じたわけですよ。

 

お前伝票が視界に入ってるのに、こっちがアクション起こす前に「ごちそうさま」って何さ、と。

ここではカールは世間一般の男性としての意見を述べ、ヤヤはあくまで個人としての見解を言ってしまうので衝突する。

ジェンダーの役割としての意見交換をしたいのに、ヤヤはカールがケチのように思えてしまい、ただの器の小さい男であったことに苛立つ。

 

そんなこと言うなら私が払えばいいんでしょ、とヤヤは言うが、そもそもそういう話ではないとカール。

なぜ君はそういう態度を取ってしまうのかと。

 

結局ヤヤのカードは使えず、現金も足りない。

現金を出したにもかかわらず、カールに払おうともしない。

そもそもこの時点でヤヤはお金を払う行為すらしたくないのが目に見えている。

 

色々な口論をした結果、頑張って戦ったカールは、ヤヤの本音を聞きだす。

ヤヤ曰く「もし妊娠した場合、収入が減るわけで、そんな時にデート代払えないような男と結婚したくない」と。

あ~なるほど、それは理に適ってる・・・。

 

正直カールには俺の気持ちを代弁してほしくて応援していたが、この発言によっていかにヤヤがしたたかながらもしっかり現実的な将来を見据えていたことに驚いた。

 

ぶっちゃけジェンダー間の役割ってのは、もうデート代男が払うべきかってこと以前の話までしないと何も変わらないんだなぁと。

オシャレするのに金がかかってるからとか、男のプライドを傷つけたくないとか、そういう話じゃねえんだと。

 

確かに個人的にはどっちかが出したら次のデートは私が払うねっていう対等な関係が理想ではあるが、結局男女間の貧富の差は縮まっておらず、どうしたって対等にはならない。

まぁカールもヤヤより金稼いでりゃこんなこと言わないんだろうし、ヤヤも自分が払いたいなんてことにはならないんだろうな。

結果、カールとヤヤはビジネスにおいての対等な関係になろうということで話は着地する。

 

正にヒエラルキーの縮図な豪華客船

そして舞台は豪華客船へと変わる。

 

インフルエンサーであることから無料でこのクルージングツアーに参加したヤヤとカールは、そこで様々な富裕層と出会う。

有機肥料で財を成した富豪や、アプリを発明してそれを企業に売りつけることで財を成した者、重病の妻を看護しながら豪華客船に参加した富裕層夫婦や、武器を製造して金持ちになった夫婦など、浮世離れした奴らがうようよ。

 

そんな彼らにチップをたくさんもらうために献身的にサービスをすスタッフがおり、さらには船を清掃する者たちや整備士などが連なる。

 

もちろん富裕層はみな白人であり、中間層となるスタッフは彼らに取り繕い、清掃員たちはアジア系や黒人で構成されていて、正に世界のヒエラルキーの縮図と化した配置になっている。

 

片や船の船長は社会主義的アメリカ人と自身で言うからか、全くもって職務を全うせず、船長室でひたすら飲んだくれている。

スタッフのトップである女性が、何度も彼の部屋を訪れてもまともに応対しない。

 

そんな中、ある富裕層がスタッフに対して「人類みな平等なんだから、あなたも仕事なんかせず今すぐ泳ぎなさい」と命令する。

いや平等だと思うならお前が働けよ。

結果、クルー全員が泳ぐこととなり、これがきっかけで船は転覆していくわけです。

 

そう、まるで世界が滅びる原因は富裕層だと言っているかのように、労働者が働かずに皆遊べなんて命令を出せば、社会は機能しなくなると。

雇用される側として生きている自分には全く想像つかない皮肉だったなぁ。

如何に何も考えずに働いてるか、働かされてるか身に沁みたよw

 

ここから物語は、阿鼻叫喚のオンパレードと化す。

キャプテンディナーと称した船長とのディナータイムは、先ほど皆が遊んだせいで安全な航路を見失い、嵐の中での食事会となってしまう。

グワングワンと揺れる中、生ガキのキャビア添えをシャンパンで流し込んでのフルコースを堪能できるかと思いきや、大きく左右に揺れる船によって、飯が喉を通らなくなっていく。

一人ずつ嘔吐していく客が出てくる中、スタッフは「食べたほうが船酔いにならないから」と食事を勧める。

いやいや気持ち悪いのに無理して食えってか。

誰も酔い止めとか持ってこねえのかよ。

 

そして我慢をしていたマダムが隣のテーブル客にまで飛散するほど豪快なゲロを吐いてしまう。

海外版のポスターはこのマダムが嘔吐しているカットをポスター化したもので、日本版も是非これで!なんて声をあげる者もいたが、さすがにゲロを金色に加工した所でいい宣伝にはならなかったろう。

 

そもそも彼らが食べた料理は、クルー全員で泳ぎに出た際、調理場のスタッフまでもが調理を中断して泳ぎに向かっている。

だから決して船酔いだけで嘔吐したわけではなく、単純に料理が腐っていたからと推測。

皆が部屋に戻った際も何人かは嘔吐と腹痛による下痢をしているので、恐らくそういうことだろうと。

それもこれもあなたがた富裕層のせいなんですけどねw

 

無人島での逆転劇は意外な結末に。

いずれにしろこの後海賊が襲ってくるので、彼らの顛末は目に見えてるんですけど、カールとヤヤを含めた複数名は無人島に漂着。

 

富裕層数名とカールとヤヤカップル、そして船のスタッフのリーダーの女性と、遅れて救命ボートに乗ったトイレの清掃員アビゲイルが漂着。

 

救助を待ちながらもサバイブしなくてはならない一行は、アビゲイルのサバイバル術によって食事にありつくわけだが、ここで身分も階級も超越した逆転劇が起きる。

 

魚を獲るのも火を起こせるのも、出来るのはアビゲイルだけ。

他のモノはサポートすらままならない。

そんな奴らに出来上がった食事を平等に分ける意味があるのか、労力に対する分配がおかしくないか、そんな疑問と思惑によりアビゲイルは自らがヒエラルキーの頂点であることを宣言する。

 

助かったらご褒美を上げるという富裕層の意見も、アビゲイルにとっては何の意味もない。

今この状況だけでいえば、金の価値も全くなく、生きにくための術を持つ者が上に立つ構図になっている。

 

この第3部で非常に面白いのは、貧困層であったアビゲイルではなく、2部でも取り繕ってきた船のスタッフのリーダー、そしてカールだと思う。

カールは1部で金払い論争をしたものの、ヤヤとはビジネスの関係によって服従するという立場になり、この3部でも上に取り繕っていくわけです。

 

そして当初は遭難しても船のスタッフであることから、こんな状況でもお客様であることには変わりないと、ヒエラルキーの現状維持を主張するリーダーの女性だったが、翌日以降は態度を変え、アビゲイルに取り繕うんですよね。

 

そう、結局この物語で一番強く描かれてるのは、富裕層でも貧困層でもなく、この中間層なんじゃないかと。

タイトルの「逆転のトライアングル」から想像するに、富裕層と貧困層の立場は変わっても中間層は立場が変わらない、どちらが頂点に立とうが雇用してくれるのであれば取り繕うまでという立場を明確にした映画だったんじゃないかと。

 

実際カールは、勝手にアビゲイルのバッグからお菓子を盗み食いしたことで食事を与えられなかったが、アビゲイルに物乞いアピールした結果、何と体で払うという絶好のチャンスを手に入れる。

毎晩救命ボートに呼ばれるカールを見たヤヤは相当なご立腹だったが、食料をもらえることで何とか正気を保ってた様子。

 

そして物語は、意外な展開によって、とんでもないことになっていくわけです。

 

 

最後に

ラストの急展開は、アビゲイルがヤヤに対しどんな行動をとったのか気になるところで、茂みの中を走るカールで幕を閉じます。

せっかく頂点にたったアビゲイルでしたが、まさかこの場所がリゾート地であることを知ってしまったことで、元のヒエラルキーに戻ってしまう恐れから行動しようとしたもの。

 

またヤヤの発言も面白く、この発言から全ての富裕層が嫌な奴ってわけではないってことを象徴したセリフにも感じます。

アビゲイルは果たしてヤヤに対してどんな行動をとろうとしたのか、色々議論できそうな幕切れでした。

 

そして肝心のカールですが、正直僕はよくわからなかったです。

きっとヤヤとアビゲイルの元に向かったのだと思うんですが、何をそんなに急いでるのか。

 

このラストの少し前に、体が麻痺してるマダムが現地の人間と接触したシーンが挿入されてたんですよね。

多分カールは彼女から何とかその情報を聞き入れたと思うんです。

上層に取り繕うのが巧いカールは、ここで色々察したと思うんです。

それこそアビゲイルが抱いた不安と同じような。

 

で、本作はそのシーンを敢えてカットしてカールのダッシュで終わらせたんじゃないかと。

そうすることで、男なのに女性に取り繕うだけでしかなかった地位の低い男が、何かを取り戻そうと必死にもがく様がより強く描かれたのではないかと。

 

要はこれ第1部での話に繋がってくるというか、結局性別どうこうに加えて貧富や地位がついてしまってるが故のヒエラルキーになっていて、富裕層が謳う平等って一体何なのかね、いつになったらやってくるのかねという皮肉な物語だったんじゃないかと。

 

また、現代は「サッドネスオブトライアングル」というそうで、冒頭カールがウォーキングする際の表情として眉間にしわを寄せてと注文を受けるんですが、この時にこのタイトルを言ってるんですよね。

正に最後のカールとアビゲイルには眉間にしわが寄っていて、そこを指したタイトルだったんじゃないかと。

 

富裕層にはそれがねえってことか?

 

ただ個人的にはこれ2時間半かけて描く物語か?ってのが付きまとう作品でした。

前作「ザ・スクエア」でも感じたんですが、多分ヨーロッパ的な作風なんだと思うんですけど、もっと簡潔に描けるはずなんですよ。

 

それこそウディハレルソンとロシアの富豪とのやり取りで、長い尺使って偉人たちの言葉を引用してあれこれ語るシーンがあるんですけど、あそことかもっと簡潔に済ませられるはずなんですよ。

正直何を話してるのかよくわかってない、彼らが語ることを理解できない勉強不足な自分のせいでもあるんですけど、別にかみ砕いて論争できるよね~と。

 

どうしてもそういうところで相性が悪いなぁと今回改めて感じてしまいましたね。

ただ、前作同様男女間やヒエラルキー格差を、ファッション業界のルッキズムなんかと共にまるで遊んでるかのように組み立てた物語は、非常に優れていたと思います。

とにかく視点とかアイディアとかは素晴らしいんですよね。

 

次回作はどんな題材で皮肉ってくれるのか楽しみです。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10